アメリカン・ショート・ショート・フィルム
フェスティバル2000in札幌

ポスター画像です

密度の濃い構成で盛り上がった前夜祭

前夜祭画像です前夜祭画像です

 アメリカン・ショート・ショート・フィルム・フェスティバル2000・札幌の前夜祭が、2000年6月8日にイベント・スペース「EDIT」で行われ、映像製作を志す若者を中心に盛り上がりをみせた。わずか55秒の切れの鋭い一発コメディ「Devil Doll」(Jarl Olsen監督)でスタートした前夜祭は、ゼネラル・プロデューサーの別所哲也さん、映画監督の塚本晋也さんをはじめ、マイケル・アリアスさん、森本晃司さんら豪華ゲストのあいさつが続いた。そして、挨拶の合間に優れたショートフィルム映像の上映が詰まった密度の濃い構成で、9日からの連続上映に期待が高まった。

 別所哲也さんは「映画は長さではないと端的に教えてくれたのがショート・フイルム。直球型で、監督の思いやスタイル、テーマがまっすぐに伝わってくる。それが魅力。その感動を多くの皆さんと共有したい」と、映画祭への熱い思いを語りました。塚本晋也監督は「一番最初に10分間の8ミリ作品『原始さん』をつくった。トンチな映画。怪獣を作れなかったので原始人にした。ビルを壊し東京を自然に戻してアメリカの都市を壊しにいくという14歳の時のテーマは、今と同じ。処女作にはすべてが入っているというが、本当にすべてが入っている。短いものは大切だなと思う」と、ユーモアたっぷりに話し、会場は爆笑の連続だった。


REAL VIDEO(動画ストリーミング)

別所哲也さんの挨拶 塚本晋也監督の挨拶

REAL VOICE(音声ストリーミング)

別所哲也さんの挨拶 塚本晋也監督の挨拶1 塚本晋也監督の挨拶2

貴重なスペシャル・プログラム

 10日のスペシャル・プログラムでは、普段なかなか見ることのできない多彩な作品が公開された。札幌のインディーズからスタート。「Moment」(関原裕司監督)が叙情あふれる巧みな構成。才能を感じたが、ラストシーンは蛇足。紋切り型のまとめをしない抑制が、作品の深みにつながる。「Fight it out in front of the GOD」(古幡靖監督)は、相撲をデジタル処理したもの。安定した仕上がりだが、インパクトは乏しい。オリジナル・キャラクターによるTV・CMシリーズを再編集した「Little Terra」(Wilson Tang監督)は、あらためてフル3Dコマーシャルの先駆性を確かめることができた。  

 プロダクションIGの3DCGショートストーリー・シリーズ「DIGITALS」は、4作品を上映。「LOOP」(菅原正監督)と「FRIENDS」(菅原正監督)は、簡略化したキャラクターが、豊かな表情を見せる。「HEART EATER」(荒川真嗣監督)は、どきりとするホラー。「WING'S TREE」(竹内敦志監督)は、メルヘン的な、しかし斬新なアイデアの感動作。どの作品からも果敢に模索する息づかいが伝わってくる。「Michael Arias(マイケル・アリアス)作品集」には、驚かされた。タイトルバック「M・バタフライ」(1993年、クローネンバーグ監督)、アミューズメント用、パフォーマンス用のCG作品。時代を切り開いていった映像に深い感動を覚えた。

 「森本晃司作品集」も、TVアニメ、MTV、ミュージック・クリップ、GLAY「サバイバル」のビデオ・シングル・アニメーションと多分野にわたる。爽快なテンポと皮肉なアイデア。爆発的に膨らむ構想力には非凡なものがある。彼が所属するスタジオ4℃のオムニバスCG作品「デジタル・ジュース」も興味深い。「月夜の晩に」(柳沼和良監督)は、メルヘン的なかわいらしいが映像の隅々にまで浸透している。「チキン保険に加入ください」(安藤裕章監督)は、テンポの早いアメリカ・アニメのテイストを目指したもの。手法的にはなかなか凝っていた。そして「圭角」(小原秀一監督)。日本的な感覚と現代的な美意識が混合され、ユニークな味わいが楽しめた。名前などのタイトルを刀に見立てたアイデアは切れ味が良かった。「空中居酒屋」(森本晃司監督)は3Dバーチャル空間で、居酒屋の酔った人間が醸し出す猥雑感を表現しようとした時代を三歩も進んだ作品。場面の切り替えなどのカメラワークにぞくぞくした。

 「普通サイズの怪人The Phantom of Regular Size」(塚本晋也監督)は、「鉄男」のもとになったエポックメイキングな作品。本当に「鉄男」のミニ版だった。監督の「偏執性」と「編集性」が、しっかりと焼き付いた映像の力強さに圧倒された。


多彩な作品がそろった3プログラム

Aプログラム10作品

 「Cruel, Cruel Love (George Nichols監督、1914)」は、チャップリン主演作。まさに黎明期のパワー炸裂。足の裏がキャラクターの「Stubble Trouble」(Philip Holahan監督)は、あまり笑えないコメディ。伊比恵子監督のThe Personals「The Personals」は、人生の深さと広がりを描きながら軽やかさを保っている。長さだけでなく、質的にも群を抜いていた。「The Blue Shoe」(Peter Reynolds監督)は、放浪する一足の靴のアニメ。寓話風ほのぼの系の仕上がり。「Making Change」(Georgia Irwin監督)は、旅行中に少女に全財産をすられてしまった青年のてん末。青春映画の一場面のようだ。

 「Seventeen Seconds to Sophie」(Bill Cote監督)は、妻の懐妊から出産までを毎日撮影しつづけた労作。電子レンジ風の自らをちゃかした終わり方がいい。「A Brief Inquiry into the Origins of War」(Philip Farba監督)は、子供が浮かべるおもちゃの船を老人が沈めてしまうという意外性のドラマ。「Shattered」(Charles Weingarten監督)は、心に痛みを覚える佳品。子供の前に、ホームレス風の笛吹きが現れ、繊細なガラス細工を渡すが...。「Big City」(Ed Bell監督)は、ラップのリズムに乗せて描くアニメ。抜群に軽快。ホラー風の始まりの「Mass Transit」(Michael Goetz監督)は、カップルにしつこくつきまとう老人が意外な事実を明かす。ホラーと思わせて社会派作品のラスト。

 

Bプログラム10作品

 「The Great Train Robbery (Edwin S.Porter監督、1903)」。エジソン社の制作による初めて筋立てを持った映画「大列車強盗」。最初のストーリーものが血なまぐさい強盗ものとは。銃撃戦の迫力は本当みたいに見えた。「To Build A Better Mousetrap」(Christopher Leons監督)は、究極のネズミ取り機のコマーシャル。アメリカらしい、アクの強いブラックな味。「Red Ribbon」(Elisabeth Lochen監督)は、ナチス・ドイツの非情な人口増加策を描いたもの。書類の手違いによって繁殖を任務とする兵士に少女が犯され、少女は自殺する。兵士は母親に対して任務を果たそうとする。救いがない暗さ。More20ドルでつくった「 Elevator World」(Mitchell Rose監督)。密室の美しき秩序。エレベーターをめぐるクスクス笑いの世界。「Razor's Edge」(Lorenzo Benedick監督)は、ブラックすぎる死刑囚もの。後味はすこぶる悪い。

 「A Domestic Incident」(Chris Harwood監督)は、幸せなカップルが夫の嫉妬で思わぬ悲劇を生む。オチがない重苦しさ。「More」(Mark Osborne監督)は、手の込んだクレイアートを生かしたアニメーション。アイデアはそれほど斬新ではないが、映像に力がある。観客を少し騙して、ほんわりと終るドラマ「From the Top of the Key」(Jim Fleigner監督)。アメリカの現実というところか。「Avenue Amy」(Joan Raspo監督)は、実写フイルムに強いエフェクトをかけたような不思議なアニメ。ただそれだけ。マーティン・スコセッシ監督の実験フィルム「The Big Shave」(Martin Scorsese監督)。黙々とヒゲを剃るうちに血まみれになるというストーリーだが、監督の血なまぐさい作品を連想させた。短いながら盛り上げていく手さばきはさすが。

 

Xプログラム9作品+1作品

 「Rupture」 (Pierre Etaix監督、フランス)は、1961年の作品。失恋した男が手紙を書こうとするが、何もかもがうまくいかない。最後には、自分が窓の外へ。悲しきどたばた・コメディ。「ESN」 (Simon Edwards監督、イギリス)は重い。射殺事件の現場に駆けつけたTV局の報道チームは、CMの間、被害者の救急車への移動を遅らせろという指示を受ける。現場の警察も買収されている。シリアスな社会派作品だ。実験作「Artist's Dilemma 」(Roi Vaara監督、フィンランド)は、生活か芸術かの葛藤を単純に描いているように見せながら、実は世界の荒涼を見せつけているようにも思えてくる。Tulip「Rules of Engagement 」(Jamie Goold監督、イギリス)は、予期せぬ展開のほのぼのショート。男女の他愛のない喧嘩から生まれた教訓。大道芸人の悲劇「Excesos de Ciudad 」(Jorge Luquin監督、メキシコ)は、突然の結末への運び方がにくい。

 「The Fisherman and His Wife 」(Jochen Schliessler監督、カナダ)は、魚の視点が生かされた不思議なテイスト。どんでん返しに、かすかなユーモアがある。「 Petit Matin Sanglant」(Julien Corain監督、フランス)は、張り込み刑事の悪夢。「Desserts 」(Jeff Stark監督、イギリス)は、ユアン・マクレガー主演。エクレアを使った一発芸が見事に決まり、余韻も格別。「Tulip 」(Rachel Griffiths監督、オーストラリア)は、突然妻を失った夫の悲しさと牛の話。これぞハートウオーミングの見本だ。そして、札幌ではプログラムに組み込まれていなかったが、ことしのグランプリを獲得した「The Light of Darkness」(Chery Lawson監督)が急きょ追加上映された。本格サスペンスの風格。あっと驚くどんでん返し。そして自分の偏見に満ちた予断の怖さに気付かされる。


pin American Short Shorts Film Festival 2000 in Sapporo


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 Visitorssince2000.06.09