2008年7月29日(火)
現代中国税制の研究/曹瑞林/御茶ノ水書房

最近、中国の税制と財政に関心が出てきました。
たぶん、今日本で売られているなかで唯一の中国税制に関する学術書です。
実務本は数種類出てますが、専門書というか研究者向けの本はこの本の外にはないはずです。

この本でわかることは
・経済の仕組みが変わるにつれて税制も変わってきた
・特に1994年に大きい改革が行われより先進国に近い税制ができつつあること。
・税制、会計制度、記帳の慣行などに不備がありまだまだ先進国とおなじような制度は持ち込めない現状にあるが、今後急速にそれに近づいていくとみられること。
・税務行政はその執行が平等といえる状態にないこと。その改善は大きく期待されていること
・消費税の比重が意外にも大きく基幹税となっていること。
といろいろです。

もちろん、これ以外にも中国税制の概要がわかります。いずれにしても、中国税制の研究という分野でこの本を通過することなくはいっていけないといってもいいくらいパイオニア的な本だと思います。

2007年10月12日(金)
『大地の子』と私・山崎豊子・文春文庫
城戸久枝さんの「あの戦争から遠く離れて 」というノンフィクションを読んでから、次は「大地の子」だ!とずっと思っています。

しかし、かなり厚い。それで手にしたのは、その著者が作品を産むまでの苦労話を披露したこの本(「大地の子」と私)でした。

大地の子を書くには、中国の現地取材が絶対必要になったとき、それを許可したのは胡耀邦書記であったことなどが出てきます。この本ではその胡耀邦との交流の話がたくさんでてきます。何度も会っています。しかし、書き上げる前に彼はなくなって、それを墓前に供えに行く話も出てきます。

日本人、いや中国人でも難しい刑務所の囚人へのインタビューを実現させたことなども出てきます。

この本を読むと、山崎豊子という人の徹底した取材と熱い気持ちがよくわかります
2007年9月26日(水)
現代中国ビジネス論/佐々木信彰編/世界思想社
内容としては

中国ビジネスをみる眼
第1部 ビジネス環境(中国ビジネスのビジネス形態
中国ビジネスの紛争処理 ほか)

第2部 市場化と産業分析(中国アグリビジネス―農業の生産調整と農産物貿易
中国アパレル工業の展望―繊維貿易自由化に向けて ほか)

第3部 新市場化領域(中国の小売業
WTO加盟後の中国金融市場 ほか)


この第1部のなかに、中国進出企業の税務(三戸俊英著)という章があります。58-77頁の間で量としては不十分かもしれないが、要領よく中国の税制についてまとめられています。

中国の税制に関する本のほとんどはかなり分厚くまた高価でもあります。
この本くらいの分量でまず入門して、次に本格的な中国税制の中身へと進んで行くのが理想かと思われます。

その意味で中国税制入門の書でもあり、ビジネス全般について要領のいいまとめられた記述がそろっています。
ジャーナリスティックというよりもアカデミックな本ですが有益です。

2007年9月22日(土)
Word2003⇔2007 乗り換え技/AYURA著/技術評論社
毎日必ず使うWORD2007に変えたものの今ひとつ使い方が分かっていませんでした。余白をどう設定するか、アウトライン表示はどうなってるの? といった感じですね。
類書を3冊くらい買ったなかでいちばんわかりやすかったのがこれ。最初に読み通せた本です。
必要だと思われる項目に限って書かれてるようで分量もちょうどいいです。
SMARTARTで図形を作成するといった新しい機能についても触れられています。


2007年9月20日(木)
日本の税金/三木義一/岩波新書
目次の詳しい中身はここに(岩波書店HP)あります。
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn0308/sin_k131.html
目次をみるとわかると思いますが、この著者の本は一般的な読者の視点がよくわかっていると思います。税金のことですから、専門的な用語や概念説明が続くのですが、身近なことを例にとり今その読み手がもっている知識とどうつなげて行けばいいのかを念頭に置いて書かれている気がします。

その例が収入と所得のことです。
国語辞典的にはほぼおなじ意味で使われますが、税法では違う概念です。給与で収入金額が支給される額(社会保険料や税金を引かれる前)で、それから「給与所得控除」というものを引いた後が、給与所得の金額となります。

この本の11頁でこのことがちゃんと解説されています。
amazonのレビューにも三木氏の本はわかりやすい、読みやすいと書かれていますが、全く賛成です。しかもその視点が国民の生活重視、権利の尊重といったところに定まっているのも安心です。
(注)この本は2003年8月にも紹介しています
2007年9月18日(火)
財政のしくみがわかる本/神野直彦/岩波ジュニア新書

タイトルからすると、普通に財政のしくみを解説しているように見えますが、実際はそうではなくて、今の制度のなりたちや、外国との比較をして、問題点をわかりやすく指摘して、その理由を述べています。

たとえば、予算の審議のことですが、何十兆円にもなる予算の審議が国会では1ヶ月しか審議されないこと、しかも予算委員会ではなんでもありで、予算そのものについての審議は意外と少ないと指摘しています。
明治憲法の時代には国会で4ヶ月も審議していたことも紹介されています。明治憲法がいいと言いたいのではなくて、今の国会での予算審議の時間ないし、中身もない、財務省(大蔵省)で実質的に予算が決まってしまうと書いています。ここでわかるように、歴史的に振り返えり、現状のどこが問題かをちんと書いています。

税金のうち、所得税についても、原則累進課税となっていると思われているが、分離課税が広がってしまって、実質的に累進制の効果はなくなっているとも指摘しています。さらに法人税が(価格に)過剰に転嫁されていることもちゃんと書いています。法人が負担しているかにみえるが、実質的には取引(販売)のなかで値段に含まれている。これは実証されているというのです。63頁

財政はこのままでいいのかーそういう問題意識がある人、あるいは、どこが問題であるのかを知りたい人、そういう人が読めば本当に求めるものがここにある!!といった感じで読めます。

かって同じ著者が書いた「人間回復の経済学」や「福祉政府への提言」、「二兎を得る経済学」も面白かったです。

2007年9月6日(木)
あの戦争から遠く離れて/城戸久枝/情報センター出版局 

泣ける本です。今日も帰りに梅田の喫茶店で読んでいて何度も涙がぽろりと出てしまいました。
第二次世界大戦が終わる頃やむをえない事情で中国に残された日本人の子ども(中国残留孤児)の子どもさんにあたる方が書いた本です。お父さんの4才頃から話ははじまり、著者自身が中国に留学し、帰国。出版関係の会社勤務などを経験して、お父さんの過去を辿って行きます。

取材は緻密をきわめてます。60年位前のことなのに、書かれたシーンのすべてがリアルに文字になって訴えてきます。


2007年8月28日(火)
巨大政府機関の変貌/大蔵財務協会

IRS(アメリカ国税庁)の長官だったチャールズ・O・ロッソッティが書いたもの。数年前までIRSの改革は新聞の賑わすことも多かったし、日本の国税庁はIRSを手本にしていると思われることも多いので日米の税務行政研究素材としては最適だろうとなということで手にしました。
まだ、150ページしか読んでないけど、予想よりは遙かに面白くて参考になることがたくさん出ています。
例えば、税法の研修のあり方については、専門的な知識を特定の人対象にしたほうが効果的であると書かれています。深い知識を一般的に幅広く教えてもマスターすることは不可能に近いということです。これは我々の実感とも近い指摘で税務が専門的に深化していく現状において専門化はいいことだと思います。
それから、トップが現場によくでかけています。日本では視察は多いようですが、実際の現場に立ち会うことは皆無に近いと思われます。なぜそうした違いがでてくるのかはこれから読み終えてから考えたいと思います。

2006年2月19日(日)
「入門これならできる中国語の勉強法」紹文周・中経出版 

去年の五月末から中国語の勉強をはじめました。基本は毎日単語または例文をとにかく30語(文)をメモしていくことです。そうです!私の中国語学習の基本は単語帳の作成です。
そういうときに、役だったのはこの本です。
読みやすくて入門者にとって参考になることがいっぱい出ています。

目次は以下のとおりです

序章 中国語ってどんな言語?
第1章 中国語は、発音と文法の両方を徹底的に学ぶ!
第2章 実力がつくテキストの使い方、会話学校での学び方を知る
第3章 中国語の発音のコツを知る
第4章 中国語の文法は、語順に注意する
第5章 中国語の上達を妨げる、日本人の間違いやすいポイントを知る!

日本語と中国語、似てるようで違うことがありますよね。そうした点を重点に書かれています。そのほか、発音が重要であることなどです。類書とどう違うかは他の本をそう読んでないのでわかりませんが、文章は明快です。とにかくとっつきやすく最後まで読ませる本です。

2006年1月1日(日)
「活憲」五十嵐仁/山吹書店&績文堂05年12月発行

このhpでも度々引用し、紹介させてもらってます、法政大学の五十嵐先生が去年の12月に出されたのがこの本です。
タイトルは聞き慣れない言葉で「活憲」です。その意味は「憲法を暮らしに活かすことこそ必要だ」との認識でこのタイトル(カッケン)にされたそうです。中身は『五十嵐仁の転成仁語』というブログで書かれたことをある方がまとめられてできたということです。

五十嵐先生のブログの特徴(結果的に私の感想です)は

○殆どの人が知っている、あるいは確かめられる事実をもとに議論が展開されているので分かりわかりやすく説得力がある
○政治的信条が異なる人が読んでも違和感をもちにくい丁寧な議論の展開がされている。私はこの点で新井直之さん(マスコミ研究者)が出していたマスコミ日記みたいな本を思い出しました
○憲法の議論に即していえば改憲派の言い分への批判も事実に基づいていています
。この本も当然わかりやすく興味深く説得力があるものになっています。

 要約することは無理なんで目次を紹介します。

序章 この日本を、「特上の国」にしたい―そのための戦略が「活憲」
  「特上の国」とは
  「郵政」をエサに「改憲」という大魚を釣り上げた総選挙
  この政府は、どこの国の政府なのか
  二人三脚で進む改憲準備と米軍基地の再編
  改憲草案の狙いは9条だけではない
第一部 「戦争できる国」になってもいいのか
 第1章 「戸締まり」防衛論の虚妄
  首相こそ誰よりも憲法を尊重し擁護しなければならない
  「戸締まり」防衛論の誤り
  日本の軍事力を過小評価してはならない
  「九条改憲」は現状の追認ではない
  集団的自衛権についての総理大臣の”無知”
  アメリカの戦争に引きずり込むための「集団的自衛権」
  「非武装論」と「墨守・非攻論」の間
  「加治的改憲派」が示す常識的改憲論の危うさ
  「どうだ。すごいだろう」と世界に誇れるような国にする
第2章 何から、どのようにして国民を守るのか
  北朝鮮は「脅威」なのか
  「押しつけられた」のは憲法ではなく日米安保
  安保は日本を戦争に巻き込んだ
  「安保はビンの蓋」論の誤り
  「押しつけ改憲論」の登場
  「戦争国家」アメリカの危険性
  アメリカの盾としてのミサイル防衛(MD)構想
  周辺諸国とどうつきあうのか
第3章 「属国」から「自立した国」へ
  アメリカによる内政干渉のメカニズムと二度の「敗戦」
  日米同盟の強化と日本の「属国」化
  金融・経済面での「属国」化
  日本を「ポチ」に変えてしまう手品の種は?
  経済・貿易面での対米依存
  「自立した国」になるための基準とは
第二部 「もう一つの日本」をめざして
 第1章 この国の何が問題なのか
  現代社会の「カナリア」か? 自殺者、七年連続3万人超
  「百円ショップ」と「百万円ショップ」
  成果主義とコスト削減の問題点
  マンガ『山口六平太』にみる「コスト・イデオロギー」批判
  サラリーマン上層の困難と不安感
  「コスト・イデオロギー」の克服を
  「格差社会」化を是正を
  真の「グローバル・スタンダード」の実現に向けて
  もっと風通しの良い社会に
  少しの不便を我慢することで  
  警察や検察の劣化と恣意的な権力行使に警戒を
第2章 活憲による人づくり、国づくり
  普通の若者が元気を出せるような社会を
  「人間力」に満ちた民主的な人格を育てる教育とは
  現代の「踏み絵」日の丸・君が代
  日の丸・君が代に関する「三重の罪」
  思想信条の強制を正当化する「新聞人」の堕落
  複雑な感情は理解できるはずだ
  ところで、君は何で常任理事国を目指すの?
  常任理事国入りに必要な第一の条件:周辺諸国との友好と協力
  常任理事国入りに必要な第二の条件:日本の自立
  常任理事国入りに必要な第三の条件:憲法九条の堅持と平和戦略  の具体化
第3章 「今、そこにある危機」への対応
  平和理念をどう政策化するか
  憲法違反のコスト
  「良心的兵役拒否国家」としての非軍事的人的国際貢献
  これ以上「戦場のピアニスト」を生まないために
  「軍隊のない社会」は夢なのか?
  非軍事的国際貢献としての「ダショー西岡」さん
  ライフルをシャベルに、戦車をブルドーザーに
  「サンダーバード」こそ「特上国家」日本の”青い鳥”
  中国での化学(毒ガス)兵器処理に自衛隊員の活用を
  自衛隊員は地雷処理でも活躍できる
  「非核・平和・民主国家」に向けての軍縮構想
  許されるのは平和・民主主義原理を徹底させる改定だけ
  平和原理を発展させた攻勢的改憲案
終章 この日本を、「特上の国」にするために
  「持続可能な社会」を実現するには
  「団塊の世代」よ、目覚めよ
  「老いらくのアカ」になるべき
  明日の政治は変えられる


2005年12月5日(月)
「法文化としての租税」森征一編/国際書院 05年3月発行  

内容は・・以下のとおりです。

 法文化としての租税
     ―福沢諭吉の酒税論につなげて
第1章 ビザンツ帝国の徴税実務と修道院
     ―修道院文書に見られる税の査定と特権構造
第2章 「戦争が戦争を養う」―軍税と近世ヨーロッパ
第3章 戦後税務行政の形成とGHQ―ハロルド・モス氏の貢献
第4章 勝てない税金裁判とその変化
第5章 現代中国における租税文化と租税犯罪
第6章 消費課税と租税文化
    ―売上税法起草者ポーピッツの理論とその展開−

税金を法社会学に考察した本は数少ないです。
この本はそうした一冊です
私が興味をもったのは 第4章 勝てない税金裁判とその変化です。三木義一氏が勝てない税金裁判が少し変わってきて、勝てることもある状態になった背景をさぐっています。

以下引用***
日本の税務訴訟は勝てない、という前提に変化が生じてきたのは、平
成13(2001)年からである。特に、この変化は東京地裁民事3部の判決
によってもたらされた。民事3部に藤山裁判長が着任してから平成16
(2004)年4月に移動するまでの税務訴訟の変化をみておくと、次のよ
 うになる。
引用終わり***

このような視点で考察をしています。
税法とその解釈、適用、運用が不変でないことは自明のことですが、こうして、まとまった形で提示があると勉強になります。
05/12/05

2005年11月20日(日)
「世界の公務員の成果主義給与/OECD編・著、平井文三監訳/明石書店 05年8月発行
発行元のHPからの引用では以下のように紹介されています。
−以下引用−
OECD諸国の公務員、業績給政策を包括的に検討し、各国の業績給のメリット・デメリットを詳細に評価。有能で活力に満ちた職員の獲得と保持を目的に、民間との相異など、さまざまな問題点を各国の具体的な事例をもとに検討。付録に各国の業績給政策の全体像を把握できるよう、国ごとのデータ集を付す。
−引用終わり−

一読して感じることは。。。
ここ10数年の間に各国において導入されてはいるが、それは殆ど効果がみられない。しかし導入が進む傾向はとどまらないということです。なぜでしょうか?たぶん、どこの国においても民間企業の動向を無視できないし、成果主義導入圧力が存在する上に、公務員の上層部においても「成果主義」の信奉者が多いからではないでしょうか?
税務の職場で成果主義が本格的に持ち込まれれば主たる業務の税務調査と徴収の現場に限定して考えてみても、混乱が起きることは必至です。大きな脱税をただ1人の力で摘発することは不可能で事前の準備、情報の整備といろんな部門と個人の連携によらざるをえない仕事の流れがあります。その現場における個人やグループの役割を否定はしませんが、その「成果」を給与に反映させるとなると、その事案いろんな形で関与した者のすべてをなっとくさせるような評価と配分は限りなく難しい、その正当性を裏付ける「証拠」をそろえることは不可能に近いと思います。そういうことに時間を費やすことよりも、本務に励むべきです。
また、税務の場合は、権限行使の相手方の問題があります。いろんな権利との摩擦がそれです。保護されるべき権利との摩擦なしに調査や滞納整理をすすめることは出来ない訳ですが、勤務実績が「成果」ではかられることになれば、どうしても権限行使の方法がより大きな摩擦を引き起こすことなることは目に見えています。

2005年10月22日(土)
市民社会論 その理論と歴史 吉田傑俊 大月書店 05/7月発行
◇この本は手にとって、ざーっと目を通しただけです。これを全部読んで理解できるほどの知識はありません。分かる部分を拾い読みしました。しかし、紹介にあたいすると思い、載せました◇日本の社会を論じるときに「市民社会」が成立していないから個人個人の自立が弱い。結果的に集団(企業、村、各種の組織)の支配が貫徹してしまうなどと言う人が多かったと思います。私もそうして論じて来ています。しかし、いざその定義尾はどうなのかと問われたら原理的にも、実践的にも言葉で明確に説明できる人は少ないと思われます。説明できたとしても、それぞれの思いこみであることが多いのかと・・・◇この本はその「市民社会」をどう定義するかを述べているのです。著者はこの本をまとめた理由を次のようにまとめておられます◇あとがきから引用。。「今日のさまざまな市民社会論やNPOやNGOなど市民運動の活性化の状況にある。これは、現代世界を席捲する市場至上主義的グローバリズムやその対をなす国家主義的ナショナリズムに対して、〈市民的自立〉を企図する試みである。こうした動向は、市民的伝統の脆弱であった日本において大いに歓迎すべきことである。本書で、私はこうした運動に関わる市民社会論を批判的にも考察したが、それはこうした状況への私なりの〈参加〉形態として理解されたい。また、本書は市民社会論の〈原理的〉考察であって、運動に〈連戦的〉に寄与できるかどうか判らないが、私自身は一般に原理的であることは実践的でもあると信じている。◇この視点と重なる問題意識を持たれている方にはご一読をお奨めです。
2005年10月15日(土)
スウェーデンの税金は本当に高いのか 竹崎孜 あけび書房 05年8月

●読みやすい!のが第一の特徴です。内容よりもそれを先に言いたくなるくらい読みやすいです。●それに問題意識がこの本のタイトルにそのまま表現されています。スウエーデンについては、税金は高いが福祉と社会保障によって税金が国民に還元されているから負担感が重くないと説明されますが、そこを単純に言い切るのでなくて、それがなぜなのか、家計の収入構造、支出構造に分析を元にして明らかにしています。●もっと具体的に言うと、日本では教育費、医療費、貯蓄、民間保険料などの固定家計費が高くつくが、スウェーデンではそうした項目の支出がほとんどいらないという違い大きいとの指摘があります。教育費に質問すると、「意味が分からない」との言葉が返ってくる(65頁)とのことです。●税金が高いということの意味は、どういう生活がなされているか、その生活が公的な制度によってどの程度支えられているか、その結果生活を楽しむための支出にどれだけ回せるのか、そのなかでどれだけの負担が当然なのかなどを考えた上でしか結論が出ないはずです●日本のサラリーマンの税金負担は軽いと国税庁、財務省は言うのですが、生活ぶりからみると決して軽くないはずです。その一つの反証がこの本で示されているように、スウェーデンなどの家計の構造比較をしてみると可能になります●日本では住宅費、教育費の出費が多くなるように制度が作られ経済運営もその線上でなされています。生活というと自分の工夫と努力でなんとかしのいでいくものと思いがちですが、その国の制度で根本的に変わってくることがこの本を読むと分かります

2005年10月10日(月)
使途選択納税制(タックス・チェックオフ) 「財政法の基本課題」所収

財政法の基本課題 は勁草書房から今年の5月に発行されています。その中身は下のようにどの論文も読んでみたくなる魅力的な内容となっています。
私が特に関心をもったのは石村氏の上記タイトルの論文でした。
「使途選択納税制」とは千葉県の市川市が16年度から導入して話題となった
納税者(市民)がある意味で直接税金の使い道を指定できる制度のことです。
似たような制度はアメリカやハンガリーなどで実現しているようです。税金の使途は国や地方自治体では議会を通してコントロールするというのが常識でしたがそれが機能しない面があるのでこうした制度が提案され部分的にですが提案されてきているのです。我が国でももっとこうした制度の試みが行われるなら納税者(市民)からの税金の使い道がよりましなものとなっていくようにも思われます。
市川市の件はここを観てください。
市民(納税者)が選ぶ「市民活動団体支援制度」のことがでています
 

財政法の基本課題の内容

第1章 財政法学の可能性……小沢隆一
第2章 財政民主主義……石森久広
第3章 予算の概念……甲斐素直
第4章 決算制度……木村琢磨
第5章 予備費制度の運用と国会審議……鴫谷潤
第6章 新財政投融資制度と財政民主主義……奥谷健
第7章 租税立法過程……石村耕治
第8章 租税法律主義……小山廣和
      ──通達課税・税務調査を素材に「租税」概念の再検討の問題関心から──
第9章 本来的租税条例主義……北野弘久
第10章 租税法律主義と租税(地方税)条例主義……小山廣和
第11章 使途選択納税制(タックス・チェックオフ)……石村耕治
第12章 憲法第89条の立法者意思……石澤淳好
第13章 政教分離と憲法89条の公金の支出禁止……鴫野幸雄
第14章 憲法第89条と私学助成……前田徹生
第15章 国際社会と国家財政……清水雅彦
第16章 ILO・EU・OECDの社会的保護政策とその国際的な財政規制
      ……佐藤進


2005年10月8日(土)
「中国全省を読む地図」莫邦富 新潮文庫

●著者は朝日新聞(土曜日)に連載コラムを持つ、莫邦富氏です。大連に旅行する前から中国には興味があったのですが、旅行に行ってからは、一段と関心が出て来ました。
この本はまずは地理的な背景、ある地方のことに関する特色、あるいは常識的なことを一通り知りたいと思い手にした本です。●内容は、一言でいうと、手にした問題意識に正面から応えてくれるものでした。思った通りのことが中国人とは思えないくらい上手い日本語で書かれています。私なんかよりはずっと上手い文章です。したがって読みやすさについてまず保障します。記述の内容としては普通の日本人が知り得ないその地域の特徴を日本人がもっているであろう予備知識とつながるように書かれているので、すっと頭にはいると思います。
例えば、浙江省のところでは、紹興酒のことが書かれ、魯迅や蒋介石がここの出身であると説明されています。湖南省では毛沢東の出身であること、湖南テレビが中国各地に高視聴率番組を送ったことなどが書かれています。中国の人に言わせると、日本の中国報道は偏っているとのことですが、この本にあるようなことを常識として知っておくことは、自分の頭で中国を考えるときに必要なことだと思いました。

2005年10月6日(木)
週刊エコノミスト臨時増刊10/17号 大増税に勝つ

財政問題と増税問題を本格的にとりあげています。派手な表紙からみると節税術の本かなとみえますが、そうではありません。iいろんな立場の著者が書いてます。
北野弘久氏が「サラリーマン増税 給与所得控除は大きすぎない」を書いていたりします。北野氏は政府が給与所得控除を「サラリーマンの必要経費」であると敢えて矮小化させてその縮減を唱えることに対して異議を唱えています。
一方、井堀東大大学院教授は「大企業に課税しても転稼されるし、資産家に課税すると我が国から逃げるから支出への課税に重点を移すべき」と書いています。
財政赤字の解消、大増税の意味を知り、どういう方向性がありうるのか、考える材料になる本です。

2005年10月4日(火)
働きすぎの時代 森岡孝二 岩波新書 05年8月

今日(10月3日)の朝日新聞夕刊一面の連載記事で、97年にオックスフォード英語辞典にトヨタ自動車の「kaizen」「kanban」が載ったことが紹介されています。この本にも02年に同辞典のオンライン版に「karoshi」が加えられたことが紹介されています(27頁)。記憶では、過労死(karoshi)が英語の世界でもそのまま通用するようになったのはもっと前だったような気がしますが・・・この本は帯にもあるうように、死にいたるまで働いてはいけない!という著者の思いが込められた力作だと思います。単に、働きすぎの実態を集めて記述するだけでなく、その背景をきちんと説明してるのが特徴です。著者は「グロバール資本主義」「情報資本主義」「消費資本主義」「フリーター資本主義」を指摘しています。働き方は、結局は生き方でもあると思うのですが、自分と仕事、社会と労働を考えるために欠かせない本だと思います。
働きすぎを本人が選んだ道だから自由であると言わないため、あるいは、今の社会にとってはやむを得ないことと諦める道も選ばないためにご一読をお勧めします。 

2005年10月3日(月)
小説 ザ・税務署 大阪 清風堂書店 (2005-04-25出版)

全国税の先輩でもある西田さんが書かれました。
出版直後に手にして一気に読み終えました。レポートや告発文的なものは自分も書いたことがあるのですが、小説として書き上げた西田さんを尊敬します。私には真似ができないことです。
税務署の実態について内部経験者が書いたとなるとそのリアリティが命でもあるのですが、この点では少し疑問ありでした。しかし、ストーリー性もあって面白く読める本です。ちなみにgoogleで検索すると148件が出てきます。図書館の購入リストしてあがってるところもあります。注目されているんですね。

2005年5月6日(金)
雑誌「経済」5月号 新日本出版社

まもなく6月号が発売されるというのに、五月号のことです。この号の特集は「国民大増税 税の基本を問う」というものです。執筆陣も豪華で次のとおりです。

○グローバル時代の法人税改革ー国際的な租税競争へ  の対応− 鶴田廣巳
○日本の税金の常識・非常識 谷山治雄 
○対談:シャウプ勧告と戦後日本税制 塩崎潤、北野弘  久 
○シャウプ勧告と公平理念の今 安藤実 
○財政法から逸脱した戦後日本財政 岩波一寛 


現在の税制について関心がある方ならおもしろく読めるはずです。新日本出版社のHPはここです

2004年11月10日(水)
内側から見た富士通 「成果主義」の崩壊 城繁幸 光文社 04年9月発行

著者は東大を出て富士通の人事部門にも在籍したしたことがある人です。
朝日新聞が富士通の成果主義賃金がうまくいってなくて、手直しをするということを報道して注目されたことがありましたがそのニュースの内実をえぐって書いていると言えます。
成果主義は「目標」と切ってもきれない関係にありますがその目標設定の難しさ、それをどの程度達成したかをどこで見るのかの問題。成果主義導入以降の富士通の多面的に描いていて、たぶん日本の大企業に共通するであろういい加減な舞台裏がみえて興味深いです。
成果主義賃金に興味のある方全部にお奨めです。

2004年2月19日(木)
年収300万円時代を生き抜く経済学・森永卓郎・光文社・03年3月発行

サブタイトルが「給料半減が現実化する社会で『豊かな』ライフ・スタイルを確立する!」となっています。
300万というと、まさかーと言いたくなりますが、仕事で申告相談をしているとそれがすでに現実化しつつあることが実感できます。
自分の給料も5年連続減収で、すでに右下がりが進行しており、その根元がどこにあるかを教えられた気がしました。アメリカやヨーロッパの平均的な収入はそのレベルでもあると著者は言います。それがいいか悪いかは別ですが、現実はそうなっているのだと思いました。
また、そうなったとしてもちゃんと幸せに生きていける方法を提示しています。その部分は自分の幸福感を変えるくらい新しい、今まで気づかなかった視点が示されていてかなり教えられました

次の4つの章からなっています。
○日本経済に起きた「最大の悲劇」
○日本に新たな階級社会が作られる
○1%の金持ちが牛耳る社会
○年収300万円時代の「豊かな」生き方

2004年1月22日(木)
家計からみる日本経済・橘木俊詔・岩波新書・04年1月発行

●日本の経済格差という本を98年に岩波新書でだしている著者の最近作です。20日発売のはずで昨日求めました。
●私もこれから読むのですが、気になる方はここに岩波書店のHP上の紹介がありますので読んでください。●著者の問題意識は「はしがき」に書いてあります。国民はなぜ不安を感じるのか?。家計は本当に豊かになったのか?。現在の家計が抱える問題は何なのか?。。こうした疑問へ答えながら経済を観ていくといいます。●個人的な問題意識とダブル部分が大きいのでどんな内容なのか興味津々です。

2004年1月21日(水)
沖縄入門・比嘉康文/岩垂弘編・同時代社・93年5月発行

●かなり前に読みました。それまでは漠然と知っていた沖縄の様々なことを知りました。●沖縄を通じて、地域、安保、平和、アメリカ、軍隊、歴史などをいろいろ考えるヒントになる本でした。日本国民で沖縄に興味がある人なら手にしてみると様々ことを教えられると思います。

2004年1月3日(土)
不可触民と現代インド・山際素男・光文社新書・03.11発行
●最近のインドについては、進んだ数学の教育の成果でIT技術を担う若い人が出ており世界的にも注目されているくらいの知識しか持ち合わせていませんでした。●もっとも、海外旅行に慣れた人にとって旅行地として人気があることも知ってはいましたが。●この本は、現代のインドがカースト支配にもとにあり、多くの庶民が苦しい現実におかれていることをいろんな現実の描写で教えてくれるものです。著者は自分の目で観ると同時に、反カーストの運動体のリーダーと接触し聞き取りを行っています。●カースト制度は高校のときに勉強しただけで、4つの階層に分かれている・・くらいの知識しかありませんでした。ところが、この本を読んでみると地域によって異なるものの職業などでもっと細かく分かれていることをしりました。●そうした低位カーストの人々の間に仏教が広まっていること、州によっては政権も担当していることなどが出ています。●最近、映画「女盗賊プーラン」を観たこともこの本に関心をもった理由の一つでした。映画では女性差別、幼なくても父親の命令で結婚させられてしまう現実などが描かれていました。
2004年1月2日(金)
よく行く本屋

写真はジュンク大阪本店がはいっている堂島アバンザというビルです。ここは一時日本一の売り場面積を誇っていたと思いますが、本棚も非常に選びやすく、地下鉄西梅田駅からも近いのでよく行きます。


本あれこれ3

2004年の最初ということで 「本あれこれ3」をスタートさせます

お願い:本あれこれ1本あれこれ2もお読みください。