トップ 都市景観形成建築物 「西宮の民家」の古民家




 中央図書館山口分室で昭和56年(1971)発行の「西宮の民家」という資料を借り受けた。西宮市教育委員会が神戸大学建築学教室に委嘱して行なった西宮市全域の地域別の古民家の実態調査をまとめたものである。その巻頭言に以下の記述がある。このサイトに転載したいと考えた趣旨にも通じるものである。
 『古い民家は、その地域の気候風土の中で生活に適合するように構造や意匠に改良が加えられ使用されてきたもので、什器や調度品などの生活用具とともに地域の特性や日常生活の変遷を知る上で貴重な資料を提供してくれるものである』
過日、朝のウォーキングを兼ねて山口の古民家の探訪に出かけた。図書館分室で借り受けた「西宮の民家」には、山口の9軒の古民家の昭和53年の調査資料が掲載されている。その9軒が30年後の今どうなっているか興味深かったし、現存する建物はぜひ画像に収めたかったからである。
 山口の中心部は上山口、下山口、名来というかってそれぞれ村として独立していた地区で構成されている。この地区の真中を南北に旧街道が貫いている。有馬温泉と三田を結ぶ有馬街道であり、大坂と丹波を結ぶ大坂街道の一部でもあった。当然ながら古民家はこの街道沿いか、そのすぐ背後に集中している。街道の街であった山口は街道沿いに街並みが造られていったからである。
  「西宮の民家」によれば山口の民家は「妻入」「平入」の建築様式の内、摂津・丹波型の妻入民家圏にあるという。にもかかわらず山口では圧倒的に平入民家が多いという。実際現存の5軒も全て平入だった。この背景にはかって紙漉等の家内手工業が盛んであったことから土間の幅が狭くならざるをえない妻入様式は敬遠されたのではないかとの推測が記述されている。
【解説】 「平入(ひらいり)」、「妻入(つまいり)」とは、建物のいずれの面に正面出入口があるかによって分類した様式で、平入は屋根の棟と平行な面である平に出入口があるものを指し、屋根の棟と直角な面である妻から出入りするものを妻入という。
 「西宮の民家」に掲載の9軒は、上山口の梶三幸家、梶本るい家、井上武治家、天野基家、細木桂家と下山口の仲伊市家、吉田利平家、中南角治家、名来の前田正家である。探訪の結果、現存する古民家住宅は、井上、天野、細木、仲、吉田の各住宅の5軒にとどまった。いずれの建物も150年以上経た幕末から明治初期の建築と推定されている。 
 都市景観形成建築物として別掲の細木家を除き、現存の古民家の画像を下記に掲載した。
 さくらやまなみバスの「金仙寺口」停留所を降り、北に向ってすぐに上山口の集落に入る旧街道がある。この旧街道沿いに古民家のある風情ある風景が次々と登場する。旧街道を入ってすぐの左方向の小道からは楠の大木を配した古民家二棟の景色が見える@。旧街道のモータープール辺りから北方向の街並みはひと際美しいA。また上山口公会堂周辺には細木邸をはじめ古民家が散見できる。明徳寺周辺にも古民家の集中した地域や茅葺き家一棟Bが残っている。上山口の北の端にも古民家が集まっており、山口センター側から眺められるC。
 山口センター横から下山口の旧街道に入る。御旅所手前には大きな古民家がありD、その先には古民家二棟の美しい「妻」が並んでいるE。