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関西書院 2,200円 春秋社 2,000円
■著者は、現役時代を大阪で商社マンとして過ごし、退職後に白浜に移り住んで執筆活動を始めた人のようだ。古代史をテーマにした作品が中心でこの作品も1994年に発行されたものだ。
■作者は、有間皇子の生い立ちから処刑されるまでの19年の短い生涯を史実に即して描いている。
■この作品では孝徳帝は新たな国づくりを目指した人物として描かれ、その流れで有間皇子も父の志を継承しようとしたとされる。当然ながら皇位を窺う中大兄皇子は傲慢で冷酷非情な人物として描かれる。ただ孝徳帝の妃・間人皇女は一部の実兄・中大兄皇子との情交説を排し、孝徳帝や有間皇子との親密な関わりを維持した皇后として描かれている。間人皇女と有間皇子は9歳違いの義理の母子であり、二人のロマンスさえ窺わせる描き方である。
■幼児を過ごした有間のいで湯の宮、長じて招かれた父皇造営の難波宮、気鬱の病を癒すための牟婁(白浜)の湯の旅路と兵庫、大阪、和歌山を跨ぐ舞台での古代史物語は、ミュージカルの題材としても興味をもたらす作品だった。
■有間皇子を主題としたもう一冊の小説である。物語の大筋は、先に読んだ前田文夫著「有間皇子物語」とほぼ同じと言ってよい。同じ主人公の事跡を追ったものだから当然と言えば当然である。
■ただ登場人物の違いはある。最も重要な違いは、山路作品には有間皇子の妃ともいうべき八釣姫が登場する点である。女性作家ならではの描き方で有間皇子とのロマンスが物語の底流に流れている。ミュージカル化する上ではこの八釣姫は欠かせない人物となるのではないだろうか。
■それにしても二作品ともに創作のレベル自体はあまり評価できない。登場人物が類型的で心理描写の奥行きがない。例えば有間皇子が蘇我赤兄の陰謀になぜいとも簡単に嵌まってしまったのかという点の背景説明や心の葛藤は十分には伝わらない。
 結局、二作品を通して有間皇子という歴史上の人物の全体像を理解できたということが収穫だったという感想にとどめざるをえない。