トップ 準備と宵宮 秋祭り本番

 昨日、公智神社秋祭り当日の模様を取材した。各地区の壇尻と並んで祭礼のもう一方の主役は神輿である。いつもは境内北側の神輿庫に納められている。朝10時、境内には各地区から派遣された担ぎ手たちが集合した。五地区の輪番で選ばれた責任者からの説明と指示の後、神輿の組立てが始まった。神輿を設置する土台の柱が組立てられ、神輿庫から担がれてきた神輿が据え付けられる。40分ほどで組立てが完了した。境内南側の社務所前では獅子舞奉納の舞台が土と茣蓙で準備されている。境内を出ようとした時、お年寄りご夫婦に尋ねられた。「お祭りはいつから始まるんですか。北六甲台に住んでるんですが、初めてこのお祭りを見るもので・・・」。山口町の旧五地区の住民の公智神社の氏子たちのお祭りである。町内の新興住宅街には、このお祭りを案内する手立ては何もない。山口全体のことを考えれば秋祭りの案内もせめて自治会の回覧板で廻せないかと思った。 公智神社を後にして下山口壇尻庫に寄ってみる。9時から行なわれていた大小二基の壇尻の最後の飾り付けが終っていた。
 12時、下山口壇尻庫前に大勢の押し手たちが集合した。白色で統一された股引、下着、地下足袋に青の法被を着用し、首に豆絞りをかけた揃いの衣装である。ほどなく小壇尻が少し間を置いて大壇尻が町内運行に出発する。各地区の壇尻も同じように一斉に町内を運行している。
 車両通行禁止となった公智神社前の道路では、既に多くの露店が軒を並べて開店している。境内には飾り付けを終えた神輿が鎮座し、静かに出番を待っている。
 午後1時には社務所から祭礼の参列者が姿を現わす。宮司や禰宜、和楽の奏者、礼服姿の主賓たちである。きらびやかな装束に身を固め天狗の面を首から下げた人物(天狗さん)がひと際目につく。拝殿前の石段での集合写真の後、境内のしめ縄で区切られた一角で祭礼が始まる。黄色い直垂(ひたたれ)に烏帽子姿の神輿の担ぎ手たちも参列する。玉串奉納などの一連の祭式を終え、参列者が拝殿に入場する。神輿が拝殿正面に据えられ、宮司の手で御神体が神輿に移される。この御神体移動に際しては左右は幕で覆われ、一般阪者が直接眺めることはできない。
 1時45分、天狗さんを先頭に祭式参列者が列をなし御神輿を先導する。御旅所への御神輿巡行を意味する「神幸祭」と呼ばれる祭礼である。宮前通りを15分ほどかけてゆっくりと巡行する。御旅所中央の石造りの神輿台に御神輿が載せられ祭式が始まる。祈祷の後、神社から運ばれた米、お神酒、野菜、魚などの供物が供えられ、祝詞奏上、参列者拝礼、玉串奉奠、参拝者お祓いなどの神事が続く。神事を終え、休憩になると参列者や担ぎ手たちに缶ビールなどの差し入れがあり、厳粛な祭礼は一気にくだけた雰囲気に変貌する。この頃には御旅所前の道には7基の壇尻が勢揃いし、周辺を大勢の観客が埋めている。2時35分、御神輿が神社に帰還する還幸祭となる。御神輿の帰還の後を受けて各地区壇尻の宮入が行なわれる。
 行列に先立って公智神社に戻った。既に境内正面のスペースは神輿や壇尻の入場を確保するため縄張りが行なわれている。その周囲を鈴なりの観客が待ち構えている。何とか拝殿正面の石段端に絶好の撮影ポイントを確保した。行列と御神輿が帰還しいよいよお祭りのクライマックスとも言うべき7基の壇尻の勇壮な宮入を迎える。各壇尻の宮入スタートの合図をする旗振り役が境内入口にスタンバイした。さしずめF1のフラッガーといったところか。宮前通りの神社前に立つ大鳥居にトップバッターの下山口大壇尻が姿を現わした。フラッガーの旗が降り下ろされた。道路から境内にかけての上り傾斜を一気に押し上げなければならない。鐘太鼓の囃子のテンポが上がり押し手たちの掛け声がひと際大きくなる。白い地下足袋が激しく地を蹴って舞っている。前棒を引く男たちの歯を喰いしばった形相が迫ってくる。ホイッスルの鋭い音がひと際長く響き、壇尻が石段に触れるほどの位置に停車した。間髪を置かず観客から一斉に盛大な拍手が巻き起こる。境内を埋める大勢の人たちの気持ちが一体となるジンとくる一瞬だった。押し手たちが拝殿に昇りお参りした後、壇尻は所定の位置に移動する。
 社務所前の境内で山口町古文化保存会による名来獅子舞が奉納されていた。単独の獅子舞だけでなく、獅子とお猿たち、獅子と天狗などの組合せの舞もある。司会者の解説を挟みながら笛太鼓のお囃子に合わせて展開される。豪快に時に軽妙に獅子頭が宙を舞う。この日のために重ねた練習の成果がうかがえる。周囲に陣取る観客たちのシャッター音が途切れない。
 午後4時に土着の伝統文化を満載した公智神社秋祭りを満喫して境内を後にした。