■二日目の朝、函館のホテルで目覚めたのは4時過ぎだった。北国の夜明けは早い。大きな窓からは既に目覚めた海原が見えていた。この絶景を見逃す手はない。手早く着替えて海岸線を歩いた。どんよりと立ちこめた雲が、彼方の函館山の上半身をすっぽり覆っていた。突堤の先で釣り人たちが早朝の釣りを愉しんでいる。沖合ではボートのような漁船の回りを鴎が舞っている。旅先の非日常の世界が広がっていた。まだたっぷり時間がある。スマホのマップを頼りに路面電車の湯の川停留所まで足を延ばした。朱塗りの橋の架かった温泉街の風情ある町並みを愉しんだ。路面電車の線路道沿いの案内看板に「五稜郭」の文字を見つけて驚いた。わずか5kmほどのところに五稜郭があったとは。1時間もの散策を終えてホテルに着いた。考えてみればこの時間帯こそが列車旅の合間の唯一の観光時間だったと思い至った。
■部屋に帰ってすぐに展望露天風呂に浸かり散策後の汗を流した。6時半からの朝食は昨晩の夕食と同じ会場でのバイキングだった。お皿に盛った山盛りの海の幸・山の幸をたらふく味わった。
■7時20分に送迎バスでホテルを後にし、10数分で函館駅前の函館朝市に到着した。旅行会社契約の「新鮮喰味(しんせんぐみ)」なるお店に案内された。車内で配られたお店の商品チラシがいやでも買い気を煽っていた。20分ばかりの買物時間で家内はしまホッケ、ワカメ、松前漬、塩辛などのお土産をどっさり買い込んでいた。全部まとめて帰宅日夜指定の宅急便で送った。
■再び列車旅が始まった。8時30分発「スーパー北斗3号」札幌行に乗車した。函館を北上した北斗は内浦湾に沿って半周し、室蘭からは、太平洋の海岸線を西に向かう。苫小牧辺りで内陸を北上して札幌に至る。大海原の続く旅情豊かな3時間17分の列車旅だった。
■札幌駅で40分余りの乗り継ぎ時間を過ごし、12時30分発の「特急サロベツ」稚内行に乗車した。乗車してすぐに昼食の「札幌駅・三大蟹味くらべ弁当」が配られた。三つの枠内に盛られた毛がに、ずわい蟹、たらば蟹の蟹飯の上にそれぞれの蟹の脚肉が載せられている。それぞれに微妙に異なる味わいを愉しんだ。旭川駅を出た頃に右手に白い残雪を戴いた山岳が見え始めた。スマホマップでチェックすると十勝岳と思われた。その平坦で美しい山容に夢中でデジカメシャッターを押し続けた。名寄駅を過ぎる頃からはいかにも北海道の大地といった風景が続く。広大な水田や畑地、シーツのような芝桜、牧場と乳牛の群れ、白樺林などが現れては消える。
■18時11分、稚内駅に着いた。札幌を出て5時間41分もの長旅だった。到着ホームの出口付近には最北端のJR駅らしい様々な標識が建っていた。「JR日本最北端の駅 北緯45度25分03秒 稚内駅」「東京駅より1574.5km」「西大山駅より3095km」といった具合だ。改札口を出た所でツアー仲間の一人に「改札で最北端到着証明書を売ってますよ」とアナウンスしてもらった。さすが鉄っちゃんと感謝しながら即座に注文した。稚内駅の入場券2枚付で日付と駅長印の押された証明書を320円で購入した。
■二日目の宿泊施設「稚内全日空ホテル」は駅から徒歩数分のひと際目につく真新しい高層ビルだった。案内された6階の部屋からは稚内駅をはじめ小さな町並みが一望できる。廊下突き当たりの北側の窓の向うには宗谷海峡の海が広がり、その向こうにうっすら見える陸はサハリン(樺太)にちがいない。7時からの夕食は豪華で美味だった。ツアーパンフでは「稚内名物・たこしゃぶ」と紹介されていたがレストランのお品書きでは「宗谷会席」とあり、先付からお造り、焼き物、鍋、揚げ物、ご飯、香の物、汁物の8品の会席料理だった。毛蟹、牡丹海老、ホッケ、蛸、帆立貝、いくらなどの新鮮な地元食材がふんだんに使われている。とりわけ初めの蛸シャブは何ともいえない歯ごたえと素材の独特の味で堪能させられた。大浴場のないシティーホテルの部屋の内風呂に浸かって眠りに着いた。  
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