「ローマ人の物語」紀行
プロローグ  定年ツアー繰上げ計画
■今年の五月に定年を迎える。かねてから定年直後には、ヨーロッパ方面の夫婦旅行を予定していた。
 ところが、1年ほど前に娘の予期せぬ計画が発覚した。今の会社を退職してカナダに1年間ほど語学留学をするという。我が家を一時大混乱に陥れたこの計画は、結局、実行に移されることで決着をみた。とっくに親離れしている娘と、今尚子離れできないでいる親・・・勝敗は明らかだった。
 娘の出発が4月20日と決まった。「万が一娘が帰ってこなかったら・・・。この際、定年ツアーを繰り上げても娘も含めた家族旅行に行っておこう。(どこまでも子離れできない親である)」
■そんな訳で、4月初旬のイタリア家族旅行が決まった。娘が退職や留学手続きの合間を縫って計画の万端を整えてくれた。鰍`TBのネットセンターを通じて往復の航空チケットとホテルだけをパックした個人旅行に近いツアーだった。
 フィレンツェで3泊し、その間オプショナルツアー「サンジミニャーノ&シェナの旅」がある。イタリア鉄道でローマに移動し、ナポリ&ポンペイのオプショナルツアーを挟んでローマで3泊するというプランである。オプショナルツアーは独自に現地旅行社とネット予約をしていた。
■三年ほど前から塩野七生さんの「ローマ人の物語」が文庫版で刊行されたのを機会に読み始めた。紀元前8世紀から始まるローマ人たちの壮大なドラマである。既刊16巻でようやく紀元前後の初代ローマ皇帝アウグストゥスの治世に至るという大作である。私にとってのイタリア旅行は、「ローマ人の物語」の舞台を追体験できるという得がたい機会だった。
■今回もガイドブックはおなじみの「地球の歩き方(’05〜’06・イタリア編)」である。
4月2日 出発、アムステルダム経由フィレンツェ行き
■朝6時40分、マイカーで自宅を出発。8時10分に関西空港の旅客ターミナルビルに到着。事前に予約していた「KHKパーキングサービス」が待ち受けていて車を預ける。1万円の料金で8日後の帰国時に電話をすれば同じ場所に車を持ってきてくれるという便利なサービスだ。3年前の台湾旅行の時から利用している。
■添乗員なしのツアーである。娘が添乗員代わりに搭乗手続き、出国審査、手荷物検査を済ませてくれる。10時5分、KLM868便が離陸。日本海、シベリア、北欧を経てアムステルダムに至る12時間もの飛行時間である。
■長時間の機内生活をハイネケンビールとパーソナルモニターが救ってくれた。前席の背面のモニターには映画や観光地ガイドやニュース等の番組が常時配信されている。「トロイ」「ラストサムライ」「美女と野獣(アニメ)」「世界の中心で愛を叫ぶ」と4本もの映画を一気に観るというかってしたことのない経験をした。
■22時5分、アムステルダムのスキポール空港着。7時間の時差があり現地時間は15時5分である。ここでフィレンツェ行きのトランジットが待ち受ける。何はともあれクーポン指定の航空機の出発ゲートを確認しなければならない。何とかゲートまで辿り着く。一息ついて空港内でサンドイッチの軽食をとる。空港内の両替所で当座のユーロを調達した。1万円で手数料控除後、64.26ユーロを手にした。1ユーロ約156円のレートである。
■19時30分、スキポール空港発のローカル便は2時間足らずでフィレンツェのペレトラ空港に着いた。アムステルダムで入国審査を終えておりフィレンツェでの審査はパスされる。EUはひとつを実感する。
■空港の到着出口には、ローマ字で私の名前を書いた紙を掲げたおじいさんが待ち受けていた。ATB手配のプライベート送迎サービスだ。おじいさんの案内する空港駐車場のワゴン車に乗り込む。10数分でホテルに到着。英語が通じそうにないおじいさんとはこの間、身振り手振りのボデーランゲージで通す。
■ホテルは、イタリア鉄道のフィレンツェ中央駅西側の通りを隔てた向い側の「アンバシアトリ・ホテル」。フロント周辺の様子はどうみてもビジネスホテルの雰囲気だ。ポーターに案内されて部屋に着く。ツインルームに追加ベッドを加えた3人部屋。
 22:30、とりあえずの手荷物、スーツケースを片付けを済ませ、腹ごしらえに外出。周辺の店は殆ど閉店。向いの駅構内の売店でようやくホットドッグをゲット。
■部屋に戻りホットドッグをかじりながら、海外でのデジカメ充電に挑戦。サイドテーブル側のコンセントにACプラグ変換アダプター(GoCon¥2600)を差込む。ユニバーサルタイプの謳い文句通り問題なし。アダプター底面の挿入穴に変圧器(トランスフォーマー30¥5040)のプラグを差込む。変圧器の背中面のプラグ差込口にデジカメの充電器のプラグを差込み、充電器にデジカメを設置。充電器の充電ランプが点灯し海外での初めての充電は成功。時刻は午前0時を過ぎている。24時間+時差7時間のメチャクチャ長い1日を終え、ようやく眠りについた。
■朝6時15分起床。7時30分、ホテル2階の食堂で朝食。バイキングスタイルというものの内容はいたってお粗末。やはりこのホテルはビジネスホテルだった。3日間、この朝食が続くのかと出足からブルーになる。部屋に帰りベランダに出てみるといかにも由緒ありげな寺院風の建物が見える。ガイドブックで調べるとサン・ロレンツォ教会だった。歴史的建造物をホテルの部屋から間近に眺められるという感動が、ブルーだった気分を癒してくれる。

第2部に続く