9月5日(月) ネットで見つけた現地ツアー
■7時起床。カナダでの3回目の朝を迎えた。今回のツアーの最大の楽しみであるカナディアン・ロッキー・ツアーの日である。
 現地のツアーガイドは、あらかじめインターネットで見つけたフレンドリーマウンテンツアーズに予約した。『ルイーズ湖とアイスフィールドパークウェイ』ツアーである。決して上手とはいえないが手づくり感溢れるホームページと豊富な現地情報、掲示板での温もりのある顧客たちとのコミュニケーションが選択の決め手だった。
■朝食は、ガソリンスタンド内のフードショップを利用することにした。現地ガイドの深田さんとの前日の連絡で仕入れた情報が参考になった。昨晩のレストラン「バンパーズ」のすぐ前にあるガソリンスタンドは早朝から営業していた。コンビニエンスストア程の品揃えの中に、サンドイッチやピザ等の軽食が豊富に並べられている。サンドイッチを調達し、ホテル備え付けのコーヒーメーカーでコーヒーを飲みながらつつましい朝食を終えた。
若い女性ガイドが選択したミッション
■9時5分。ホテル玄関前で待つ私たちの前に大型のワゴンが停車した。運転席から降り立ったのは若い女性だった。「深田のスタッフの繁吉です」との自己紹介。車内に入ると先客たちから朝の挨拶の声がかかる。いい雰囲気の出足だ。いくつかのホテルを回りツアー客をピックアップ。最終的に私たちを含めて12名のツアーとなった。新婚カップル二組、母親と男の子、独身女性二組、独身男性一人といった顔ぶれだ。
 9時30分、全員が揃ったところで、ダウンタウン内のスーパーマーケット「セイフウェー」に立ち寄り、昼食を調達する。いよいよロッキーツアーの出発だ。繁吉さん運転のワゴンは、両サイドをロッジ・ポール・パインの林が連なるボウ・バレー・パークウェーを北上する。しばらくすると車窓右手にキャッスル・マウンティンが現れ、延々と車を追ってくる。
■ドライバー兼任のツアーガイドの繁吉さんは、八面六臂の活躍である。ヘッドレストをつけ、ドライブ中も左右の風景ガイドやツアーの留意点のアナウンスに余念がない。ツアーの合間に繁吉さんと話す機会があった。私たちと同じ兵庫県出身で、いくつかの海外での仕事経験の後、カナディアン・ロッキーに魅せられ、フレンドリーマウンティンツアーズと契約し今年で2年目を迎えるとのこと。
 変わりやすい山岳地の天候と格闘しながら、ツアーの全責任を引き受ける緊張感のある仕事である。初対面同士のツアー客間の調整や全体行動への誘導には人知れぬ苦労もある筈。そうした困難を、持ち前の明るさと物怖じしない積極的なキャラクターで見事にクリアしている。
 カナディアン・ロッキーを愛し、守り、その素晴らしさを分ってもらいたいという熱意が、毎回の緊張感のあるガイドへと駆り立てるのだろうか。そうしたツアーを終える度にもたらされる達成感は、日本での平凡なOL生活では決して味わえない何物にも変えがたいものにちがいない。
 娘のそんな選択を受け止めざるを得ない同年代と思われるご両親には、同情を禁じえないが、故郷を遠く離れた地で大自然のガイドというリスクを帯びたミッションを選択した日本の若い女性のひたむきさには敬服する他はない。
■繁吉さんからのカナディアン・ロッキーを楽しむ3ヶ条が披露された。年間300万人もの観光客がこの地を訪れる。世界遺産でもあるカナディアン・ロッキーを守るための人類にとっての共通ルールでもある。
@、ゴミを捨てない。ゴミ箱に。A、公園内の落ち葉や石は持ち帰らない。B、動物にエサを与えない。野性を失うことは絶滅に繋がる。
エメラルドの湖「ピートー湖」の絶景
■最初の観光地であるルイーズ湖には10時45分に到着。駐車場から少し歩くと湖畔の高級リゾートホテル「フェアモント・シャトーレイク・ルイーズ」の豪華なたたずまいが目に入る。
 左右の山の稜線が湖上の両側から迫り、その奥の正面には巨大な氷河と3500mのビクトリア山が立ちふさがっている。鏡のような湖面には湖上の風景がそのまま写されている。大自然がおりなす左右と上下の見事なシンメトリーである。
■ルイーズ湖から40Kmほど北上したところに、クロウフットベイシア(氷河)の展望台がある。山の岩肌にせり出した巨大な崖が降り積もる雪を蓄積し、カラスの足のように見える氷河が形成されたという。
■クロウフットベイシア展望台の近くに標高1900mのボウ・レイクがある。パークウェイのすぐ傍の湖である。車を降りたすぐ前を、広々とした湖面の穏やかなブルーが広がっている。湖畔には赤い屋根のロッジも建っている。
 繁吉さんの湖のブルーの色がどうして作られるかの解説があった。「氷河がとける時、底の岩肌を強力なパワーでこすっていく。その際発生する岩の粉が湖に流れ込む。流れ込んだ岩の粉が太陽の光に反射して青い色を映し出す。」
■ボウ・レイクを5kmほど北上したところにピートー湖がある。「ガイドブック等ではペイトー湖と紹介されているが現地での正しい呼び名はピートー湖」とは繁吉さんの弁。ワゴンを降りると、繁吉さんは「とっておきの場所に案内する」と先に立つ。山道を5分ばかり歩くと、突然木々の間から真っ青な色が目に飛び込む。ピートー湖だ。
 木々に覆われた山道が途切れ、前面を岩肌に包まれた断崖の屋根に辿り着く。ここからはピートー湖の全貌が展望できる。まるでそこだけを青の原色の絵の具でペイントしたかのような信じがたい景色を前にして誰もが感嘆のため息を漏らしている。透明感を排除したエメラルド色の湖面は、何ともいえない凄みすら感じさせる。
■ここで繁吉さんから昼食の合図。グループ毎に持参の買出し済みの食材を広げ、大自然の絶景を眺めながら至福のランチが始まる。私たちの周りをリスが戯れている。崖下から鋭いホイッスルのような鳴き声がした。岩肌にマーモットが見え隠れしている。
氷河を歩く雪上車ツアー
■ピートー湖の感動を後に、更に60km余りを北上したところにアイスフィールドセンターがある。コロンビア大氷原の雪上車ツアーの基地だ。雪上車ツアーには、メンバー全員が参加する(一人32ドルの別料金が必要)。
 センター横の駐車場からまず接続バスに乗車する。接続バスは私たちのツアーの貸切状態だった。女性ドライバーと旧知の仲の繁吉さんのマイクを借りての車中ガイドが継続する。ドライバー情報では、「前日に今シーズンの初雪が降ったばかりの氷原は、初冠雪で美しく化粧された」とのこと。繁吉さんからも「雪上車の巨大なタイヤの横で写真を撮る」「氷河のせせらぎで水を飲む」というアドバイスがあった。
■氷原の間際まで接続バスで運ばれ、中継基地で雪上車に乗り換える。巨大なスパイクタイヤを装備した最新鋭の雪上車は、天井もガラス窓で覆われたカラフルで快適な乗り物だった。中継基地に展示されていた旧型車は、キャタピラーに車体を載せたもので快適さにほど遠いものだったとのこと。新型車の巨大なスパイクタイヤは、起伏に富んだ雪原を鷲づかみにしながら逞しく前進する。
 氷河の一角に辿り着いたところで雪上車を降り、氷河を踏みしめる。私たちの目の前に、氷で覆われた平原が広がっている。平原の左右を岩肌の稜線が迫っている地形が、ここが氷河であることの材料を提供している。
石焼フォンデュ?の夕食 
■16時30分、アイスフィールドセンターを出発したワゴンは、すぐ近くのビューポイントで小休止したあとは、一路バンフへひた走る。繁吉さんのガイドのない復路では、同乗者の多くは眠りについている。
 16時40分、バンフの街の入口であるボエジャー・インに到着。ツアーの代金(一人雪上車ツアー込み136ドル)を清算するとともに、私たちはホテルに預けていたスーツケース2個を受け取った。
 ツアー客たちは、夕食を求めてダウンタウンの中心で下車した。最後の同乗者となった私たちが今夜の宿であるフェアモント・バンフ・スプリングスに到着したのは19時過ぎだった。
■チェックインを済ませ、部屋に入り、少し寛いだ後、夕食を採るためダウンタウンまで歩く。予めスイス料理の店「グリズリー・ハウス」をガイドブックから選択していた。
フォンデュが食べたいという娘のリクエストをベースに「ロブスター・フォンデュ」「ブルゴーニュ(ビーフ&チキン)・フォンデュ」「バッファローステーキ」をオーダーした。出てきたフォンデュは、焼いた石の平板の上に具材を載せて焼きながら食べるというものだった。イメージしていたフォンデュとの落差の大きさに戸惑いを隠せない。思った以上に柔らかいバッファローステーキが慰めだった。チップ込140ドル余りの代金に昨夜のバンパーズのステーキのコストパフォーマンスを思い出しながら多少の悔いが残った。
■20時頃にホテルに帰り着く。本日の万歩計のカウントは17320歩だった。

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