'08年4月例会 武庫川渓流・廃線跡ハイキング
■プロローグ
 私が担当して開催する大阪さくら会の4月例会「武庫川渓流の廃線跡・お花見ハイキング」の日である。 
 昨年の晩秋に妻と二人でJR福知山線の西宮名塩駅と武田尾駅間の廃線跡を歩いた。武庫川の渓谷美を満喫できる関西でも有数のハイキングコースだ。渓谷美とともに、6つのトンネルをくぐり、鉄橋を渡り、川沿いの桜並木を愛で、水上勉の小説「櫻守」の舞台「桜の園・亦楽山荘」を巡るこのコースの素晴らしさに魅了された。ぜひ桜の季節にもう一度訪れたいと思った。 
 大阪さくら会の今年のテーマは「今、あらためて”大阪・さくら会”」である。「大阪」という地域性やローカリズムへのこだわりとともに、もう一つのキーワードである「さくら」に象徴される「文化」「自然」「花見の衆としての共感」という趣旨である。昨年12月の幹事会でこのテーマを検討している時、「廃線跡・お花見ハイキング」を思いついた。これほど今年のテーマにぴったりの企画はないのではないかと思った。幹事会での4月例会の企画が決まった。
■集合
 9時40分頃、集合場所であるJR西宮名塩駅改札出口に着いた。年配の男女が改札前のコンコースを埋めていた。全員が「櫻守の会」の大きな文字が見える印刷物を手にしている。ネットで見かけた「亦楽山荘」をはじめとした里山整備のボランティアグループの活動の集合風景のようだ。
 乗車案内しておいた9時53分着の快速電車が到着した。ほどなく参加予定の全員の顔ぶれが揃った。奥さんとお二人の娘さんも一緒の岡さんご一家、奥さん連れの吉井さん、森さん、盛田さん、福井さんと私の総勢10名である。
■出発
 廃線跡ハイキングコースのスタートポイントは名塩駅と宝塚よりの手前の駅である生瀬駅の中間にある。交通量の多い国道沿いの生瀬駅からのルートに比べ、名塩駅からのルートは旧丹波街道の一部である旧街道を行く風情あるルートである。茅葺屋根や宿場風民家の面影を残す木之元集落を抜けてスタートポイントに着いた。武庫川を挟んで対岸には古い住宅街の家並みが見える。女優・藤原紀香さんの実家がある住宅団地だ。スタート前の記念写真を撮った。
■ハイキング
 雨模様だったここ数日の天候が、武庫川の水量を嵩上げしていた。渓谷の激しい流れを右に見ながら踏み固められた土道を進むと、ほどなく枕木が埋まった温もりのある廃線跡ルートに変貌する。
 最初のトンネルが見えてきた。何故かトンネルの屋根の上に青ジャンパーを着たおじさんが座り込んで廃線跡を見張っている。まもなく後方から青ジャンパーの集団が追いついてきた。道脇に避けてやり過ごす。聞けば育英高校の生徒たちの課外授業とのこと。トンネル上の怪人は育英高校の教師と判明した。
 暗闇のトンネルに入る。各自持参の懐中電灯を点灯。山のベテランでもある森さんは発光ダイオードが照らすヘッドランプを装備しさすがに本格派。トンエル内の砂利道はぬかるみ、ときおり雨水がしたたっている。岡さんの小学生の子供たちにとっては格好の冒険体験なのかもしれない。
 三つ目のトンネルに入ってまもなく突然、赤い鉄橋の武骨で迫力のある鉄枠が目に飛び込んでくる。武庫川を跨ぐこのコースで唯一の鉄橋である。廃線跡ならではの景色を背景に再び記念写真のシャッターを切る。鉄橋横の保線用通路を進む。足元を武庫川の急流が渦巻いている。
 武庫川を渡ると左手に渓谷を眺めながら桜並木の続く遊歩道の趣きのコースとなる。咲き誇る桜並木を楽しみにしていたスポットだったが、桜のピンクは先日来の風雨で完全に葉桜の新緑に染まっていた。
■亦楽山荘
 桜並木の終点近く、5つ目のトンネルの手前に「亦楽山荘」を巡るコースの入口がある。「少し厳しい山道が続きますが、どうしますか」。ガイド役の私から一同に一応打診する。このコースの目玉である小説の舞台を見過ごす筈もない。異存があろう筈もなく一同、出発。
 山の中腹のつづら折れの斜面を進む。登るにつれ口数は少なくなる。コース頂上付近の東屋がようやく見えてきた。休憩をとるハイカーたちが鈴なりである。我々もここで一息入れて下り坂に向う。すぐ下の斜面に山荘がある。小説・櫻守の主人公の庭師・北弥吉が新婚生活をおくった場面のモデルとなった小屋である。ここで予定時間がかなり遅れていることに気がついた。昼食を予約した店に連絡しようとしたが山中のこととて携帯電話は圏外表示が出るばかりだ。辛うじて圏外表示がない盛田さんのauで遅れる旨の連絡を入れた。ここでは「au」は「英雄」となっていた。出た〜ッ!オヤジギャグ!(´д`;)
 小屋の前の坂を下り、もみじの道の案内看板にそって小道を辿り、ようやく廃線跡に合流した。5つ目のトンエルを抜けると武田尾の集落が見えてくる。廃線跡コースのゴールを象徴するかのように鉄橋跡を利用した道路を跨ぐ架線橋がある。このすぐ先に昼食先の「休憩茶屋・さくらや」があった。
■バーベキューランチ
 さくらやの山小屋風の建物に入る。「お待ちしていました」と声をかけられ、小屋を通り抜けた先の川沿いのテラスに案内される。武庫川に向ってせり出した木のテラスには4つのテーブルが並び、真中に立つもみじの老木が趣きのある空間をつくっている。絶好のロケーションである。
 二つのテーブルにそれぞれ昔ながらの七輪コンロが置かれ、肉、魚、野菜のバーベキュー材料やおにぎりが盛られた大皿が並んでいる。コンロの炭は赤く染まり、具材が並べられるのを今か今かと待っている。飲み物が揃い、乾杯を終えるといよいよバーベキューランチのスタートだ。二時間半のウォーキングで空きっ腹を抱えたハイカーたちの目前で次々に具材が網に並べられる。焼き上がりを待つバーベキュー料理の時間差が恨めしい。焼き上がった具材を口にし、生ビールのお代わりが進む。
 呑むほどに、胃袋が満たされるほどに各自の舌の回転は滑らかになる。ファミリーな例会参加者構成の故か話題はいつか岡さん、吉井さんご夫婦の馴れ初めの告白話になったりする。続いて森さんの「結婚秘話」でクライマックスを迎える。もちろん高度に個人情報に属するわけでありとっておきの話がコメントできないのが残念というほかはない。
■解散
 2時間余りのランチタイムで盛り上がった後、さくらやを後にした。武田尾温泉の看板アーチのかかった橋を渡り武田尾温泉方面に向う。吉井さんご夫婦、盛田さん、福井さんの温泉愛好家グループは、ぜひ秘湯の日帰り入浴を愉しみたいと話しがまとまっていたようだ。
 武田尾のシンボルでもある赤い吊り橋のたもとで温泉街に向う入湯グループと武田尾駅に向う帰宅グループが別れの挨拶を交わす。帰宅グループは2時47分発の普通電車に無事乗車し、約5時間の廃線跡ハイキングのさくら会4月例会のゴールを迎えた。
■エピローグ
 「やなぎ」でのスピーチ中心の文化的例会の狭間の屋外ハイキングの行動派例会だった。参加者も家族連れのファミリー歓迎の達例会だった。月の半分以上を出張で過すという岡さんの家族サービスぶりと明るくて元気な二人の小学生の娘さんたちに癒された。ともに北海道出身で西宮在住の吉井さんご夫婦からは、大学生の娘たちに参加を誘ったが断られたというほほえましい話を聞かされた。盛田さんや福井さんたちと歩きながらシラフで個別に会話ができたのもハイキング例会ならではの効用だった。葉桜見物となって例会報告はそのタイトルから「お花見」の文字を急遽カットする羽目になったのが悔やまれる。来年も開催可能なら、日程には十分留意しよう。
 とはいえ「時には屋外例会もいいもんだ」の感慨をしみじみ味わったのも事実である。