はじめに
久々にピタッとくる読書をした。自分でマークした個所を書き移す作業をする本は希である。前回はトムピーターズの「経営破壊」だった。過酷なビジネス社会にあって、自立したサラリーマンになるための様々の見方・発想を学んだ。その成果は「危ないサラリーマン宣言」として整理してみた。
今回は、上司に薦められた柴田昌治著「なぜ会社は変われないのか」(日本経済新聞社刊)である。ピタッとくるということは、その時々の自分自身の問題意識に大いに関わっている。「なぜ会社は変われないのか」。これは「本のタイトル」という以上に自分も含めた多くのサラリーマンたちの心情ではあるまいか。
1998.04.30

柴田昌治著(日経新聞社刊)

ダイジェストなぜ会社は変われないのか

第1章 あきらめるのはまだ早い
・体質を変える改革のために
第一は、経営側が改革に対して本気であることを、口で言うだけでなく行動で示すこと。
第二は、社員が自分のこととして会社の改革を本気で考えること。
第三は、生きた情報がどんどん流れるようにすること。
・「なぜ、いつも社員にばかり変われ変われと押しつけるんだ。会社がおかしくなったのは経営陣の責任だろ。(中略)本気で改革を考えるなら、役員層の意識改革が 先じゃないのか。
・やらせの活動では風土は変わらない。
・自分のためにやる改革
会社が社員を変えるのでなく、社員が会社を変える
・改善へのエネルギーをつくるのは、現場が困るような状況をつくること、つまり「不安定化」することにあった。---『秩序のゆらぎ』---
・氷山の下の部分を「不安定にしていくこと」が活性化であり、風土・体質の改革である。
・意図的に注意深く不安定にする。
・「ものが言える自由な雰囲気」というのは、ただ「正しいこと」だけが自由に言える雰囲気のことではない。「もしかしたら間違っているかもしれないこと」も自由に言える雰囲気である。

第2章 突破口を開く
・互いに学び合いながら自分を変えていく、そういうエネルギーのある人たちが集まる場が増えていけば、企業の体質も少しずつ耕されていきます。
・風土・体質の改革というのは「牽制し合う人間関係」を「信頼し合い、相談し合える人間関係」に変えていくことだ。
・牽制的に安定している風土・体質を変えようと思うと、老化している組織体質に潤滑油を入れてやらなければならない。ひとつの方法として、意識的、組織的に、そし てより質を高めて「気楽にまじめな話をする場」をつくるのである。
・オフサイトミーティング=「気楽にまじめな話をする場」を組織的に行う。

第3章 改革はなぜ失敗するのか
人の言うことにまず耳を傾け、その中で「これは」と感じるところに自分の意見を重ねていく、駆け引きではない”積み重ねの議論”である。
・我々の判断基準そのものに、いわゆる国際的な基準とズレがあって、相変わらず日本的なローカルな基準をもとに企業経営をしているから根本的に状況が好転しないということも考えられます。
・競争の軸がズレてしまって、社員の貴重な努力が駆動力として発揮されていない。
・日本というのは、市場も政治も内向きに閉じた閉鎖社会ですから、上が『あ』と言えば下が『うん』と飲み込んでいく「暗黙の理解・了解システム」が幅をきかせてい ます。つまり、物事を論理的にクリアしない『曖昧さ』が許容される社会です。それは企業社会も同様であって、たとえば自分の頭で考えないで上の言うことを”何となく”理解して、言われたままに行動している。言葉一つにしても、厳密に共通理解することをしないままに、みんなで勝手な解釈をしたまま、曖昧性を引きずったままでも、具体的な指示さえあれば仕事ができたわけです。自分の頭で考えなくてもよかったから、その前提となる理解に曖昧さがあっても別段、問題は生じなかった。つまり責任を持って意思決定しなくても事が運ぶ社会だったわけです。
・競争の基軸が世界標準になり、開発も生産も情報化も世界との戦いになると、従来の商習慣は通用しない。
・上で誰かが意思決定してくれるのを待っていたのでは追いつかないし、間違いも犯しやすい。ひとりひとりが自分で考える頭脳となって意思決定し、自立的にプロセスを切り開いていく他はないのです。(中略)その方が、中央統制型のやり方よりも圧倒的に早く、生産性も高いのです。
・自分で考え、意思決定することを大切にする組織であるためには、多様な個性を大切にするといった価値観が共有され、お互いに相談できる人と人との信頼関係が必要です。互いに牽制し合う関係が主流を占めるのではなく、サポートし合う関係が主流を占めるような土壌を作る必要があります。そういう土壌をつくれるかどうかが、これからの企業の基礎体力、生産力を左右することになります。
・存分に発散したうえで、自然にまとまって結論らしきものが出てくるのは大いに歓迎すべき事なのだ。
・オフサイトミーティングを「聞き合う場」とも性格づけている。

第4章 動き出す自律のサイクル
・査定権を持つ直属の上司に向かって、あなたのここを直してほしいと言うこと自体、部下たちにすれば途方もない勇気が要るはずである。単に場を借りて不満を発散しているわけではない。犠牲を払って、至らない上司が脱皮するのを手伝ってくれているのだと理解した。
・上司は部下に課題を与えてやらせるだけが仕事ではない。最も重要な仕事の一つは、部下がもてる能力を十分に発揮できるような環境をつくることなんだ。
・あることでは自分が一番でも、他のことなら部下のAさんのほうが能力があるというようなことは山ほどある。
・改革のスピードを決定する一番大きな力を持っているのは、やはり経営トップなのである。

第5章 スピードの勝負
・ある段階から彼らは、自発的に自分たちを育て合う環境づくりにめざめたんです。
・自分たちの必要に応じていろんな場をつくって、多様にある知恵を活用しているわけです。そういう自発的な場を通してやりとりするなかで、今までよりも早く問題解決が進み、もっといい知恵が生まれたり高まったりすることが分かってからは、さらにミーティングの場が増殖しはじめました。
・今の現場は隅々まで血が通って、自分で新陳代謝しながら生きているという感じがします。
自律分散的なシステム
・自分の責任で判断をする経験ほど人を成長させるものはない。
・真剣に人を育てたいと思うなら、若いうちに質の高い失敗をさせておくことだ。
・失敗をすること自体は恥ではなくて、それを早く修正できないことのほうが問題なんだ。
・組織自体の判断機能を分散することで、全体のスピードが落ちるのを防ぐ。
・マネジメントの基本は『責任がまっとうされること』。
・意思決定は一人の人間がやり、その人間が最後まで事柄の面倒を見る。単位仕事ごとに、まず推進責任者をはっきりさせることが基本ルールだ。
・それが問題だ、あれが問題だ、ああしなければならない、こうしなければならないとみんなが口々に言いはするが、「では、こうする」という決定を誰も下さない。
・小さな単位で判断して動くことの良さは、間違ったら間違ったで速やかに修正がきくことです。今の時代は特に、状況が変わりやすい。だから間違ったり、失敗した時の修正・回復能力というのが大事なんだと思います。
・事にあたって責任を感じていない当事者が、ただ機械的にその案件を処理している組織ほど危ういものはない。
・多くの場合はトップに行くまでの途中で判断しても差し支えない、いや判断すべき事項なのだ。本来、下のレベルで判断すべき案件を、上にお伺いを立てるということがいつも行われていると、待ちの姿勢が蔓延し、意思決定の能力を持つ人間がいなくなってしまう。
・「自らの頭で考え、自らの責任で判断する」というのが責任をもって仕事をする時の前提である。
・話し合いはするけれど合議では決めない。衆知を集めて一人で決める
・役職で決めるのでなく”直接の当事者”が決める。
・誰が責任当事者(担当者)なのか不明確な場合、それを最終的に決めるのは上位の責任者である。
・責任の所在のはっきりしない失敗は単なるロスである。誰もそれからは前向きのことを学ばない。学ぶのは失敗した時のアリバイづくりの必要性と保険をかける技術だけである。

第6章 ビジョンを掲げる
・”それぞれの個は自律的に動いているが全体としては秩序がある”という状態は、組織の一つのあり方です。
・優先順位をはっきりさせる基準をもっていないと、あれも必要、これも必要という話の中で結局、いいとこ取りになって妥協の産物を生むことになる。何もかも中途半端になってしまって、経営資源の分散化をもたらすことになる。
・何を優先するか、何を切り捨てるか、そこのメリハリをつけて力点を明確にするための判断基準です。
・個々の人間が自分の裁量で自発的に仕事をするには、最低限のルールや判断基準がないと、かえって動けない。
・必要なのは「統一的な価値判断の基準」を組織全体で共有することである。
・私は戦略というものを「自分たちの『強み』、隠れていて目には見えないかもしれない『強み』を発見して、それが一番生かされやすい場を『勝負の場』に設定し、その土俵で勝負をすること」と定義している。

第7章 正念場の危機
・もともと職場の風景というものは、立場やポジションによって見え方が違うものである。特に上から見るそれと下から見るそれは違いがはなはだしい。
・人数の多い会議は「情報を共有する機能」に特化する。
・「まじめな雑談」の中から出てくるのは、形の上でも気持ちのうえでも未整理の生情報や問題意識である。それらを日常的にぶつけ合うことで情報に対する感度は自然に高まっていく。そして必要を感じた者同志が「もっと○○君とよく話し合ってみたら」「一度合ってみよう」と自発的に場をつくって話し合うようになると、今まで気がついてはいたけれど動かなかったことが動き始めたり、思いもよらぬ動きが出てきたりして、仕事のパターンも変えていった。
・ここではミーティングを会議と区別して「気楽にまじめな話をする場」という意味で使っている。
・正規の会議はどうしても「まとめなければならない」ノルマを持っているケースが多い。したがって、まとまりにくい情報を本能的に排除しようとする。ミーティングの一番の特性はノルマをもたないということである。
・「改革」や「開発」のように創造的な知恵を必要とする仕事には、ミーティングはより効果的である。

第8章 奇跡の再生
・何に対しても不信感が根にあると「ばかばかしくてやってられるか」と思ったり「言うだけムダ」だとか「言い出しっぺは損」だとかいう気持ちが先に立って、何かをやろうという気にならない。(中略)その不信を心の環境から取り除いて、みんなが本来持つ前向きな意欲を発揮できるような状態にしたら、会社はどう変わっていくのか---今回の危機はその答えを得る機会でもありました。
・誰と誰が会って話をすれば物事がより良い方向に進むか、人的な情報をマッチングしてタイミングよくセットする。
・同じ情報を受けても受信感度には個人差がある。
・改革は情報感度の強い1〜2割の人を中心に進めていくだけで十分に機能する。
・企業の体力というのはまさに風土・体質の問題そのものである。

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