2010.10.17-18 大学サークル同窓会
■2010年の秋、二年ぶりに大学サークルの同窓会があった。JR岡山駅近くのホテルが会場だった。1時半に自宅を出てJR三宮駅から在来線で岡山駅に向った。大学生活の最初の半年間、実家のあった姫路から岡山までを2時間かけて通学した。以来40数年を経てリタイヤした身となった。たっぷり時間はある。思い出の通学風景をあらためて車窓から眺めたいと思った。山陽本線が岡山県に入った最初の駅「三石」に着いた。思い出深い駅を眺めながら18歳のひと夏の青春が蘇った。
■会場のメルパルクOKAYAMAには開催時間の1時間前に到着。出席者は私を最年少に3年先輩までの7名の皆さんだ。リタイヤ世代の同窓会は誰もが早目に到着する。予定より30分早く5時半に開宴した。乾杯後ひとしきり雑談した後、参加者それぞれの近況報告となる。

■私の報告を皮切りに席順に報告があった。自治体幹部職員退職後、農業に従事しながら農業専門学校で本格的に学習を始めたTTさん。民生委員、交通補導員などのボランティア活動の傍ら犬の育成に新たな生きがいを見出しているTHさん。市会、県会議員歴任後、NPO事業を立上げ忙しい毎日を送っているNOさん。学生時代、朝日訴訟や国際共通語エスペラントの活動に取組み、今は童話「葉っぱのフレディー」の翻訳の間違いを糺すという誰もが見過ごしてしまいそうだが、かけがいのないテーマにこだわり続けるTOさん。最後に今回の幹事役のお二人の報告である。今も現役の弁護士でハンセン病国家賠償訴訟に力を尽くすAHさんからは大病の体験なども報告された。2年前に深刻な胃がんを発病しその後の闘病で見事に社会復帰を果たしたHOさん。今回の同窓会はHOさんを励ます会でもあった。
■参加者の近況報告は、学生時代のサークル活動で理解し合った各々の個性を見事に蘇らせるものだった。それぞれの人格を認め合いながらせめぎ合ったサークル活動での論争が更に新たな人格を磨きあげていた。サークルのそうした風土と活動の蓄積がその後の人生にはかりしれない影響を及ぼしていたことをあらためて思い知らされた。
■予定時間をはるかにオーバーして9時半にお開きとなった。会場を後にし、一旦JR岡山駅で解散した。私を含め遠方から来訪の三名は幹事手配の駅前のビジネスホテルにチェックインした。チェックイン後、物足りなさを感じていた三人は、駅前の飲み屋を求めて再び散策した。赤提灯を見つけて生ビールのほろ酔いセットをオーダーし、論争再開となる。私以外のお二人は農業従事者である。自ずとテーマは日本の農業再生の在り方という大層なものになる。口角泡を飛ばした後、10時半閉店の店を後にホテルに戻った。40数年ぶりの「帰ってきた青春」をかみしめながらベッドに着いた。
■6時前に目が覚めた。大学サークル同窓会の懇親会後の岡山駅前のビジネスホテルの一室だった。朝食までの時間をこの町の随一の花街だった一角を訪ねた。学生時代の一時期を通ったバイト先のあったところにやってきた。四十年ほど前のバイト先だった「クラブ環の人間模様」を思い浮かべた。7時ちょうどにホテルに戻った。宿泊組三名は8時前に迎えに来てもらった幹事のAHさんと合流し、駅前通りで待つHOさんのマイカーに乗り込んだ。

■30分余りで吉備路最大の名所である備中国分寺に着いた。ピンクと白の一面のコスモス畑の向うに五重塔の美しい姿が見えた。国分寺参拝の後、裏手を抜けて畦道沿いにこうもり塚古墳に向った。吉備王国名残りの6世紀後半の前方後円墳である。全国最大規模と言われる横穴式石室に入り巨大な石棺を目の当たりに見る。
 次に向ったのは酒津配水池だった。高梁川の笠井堰から取水した溜池である。済興寺駐車場から西に向い高梁川東側の疎水を南に進む。大きな溜池の南には五つの排水門の不思議な構造物が目につく。疎水百選にも選ばれた美しい風景が広がっていた。
■ここから最後の目的地である倉敷美観地区は目前だ。地区内に入るとすぐに奇妙なお面をつけた着物股引姿の男たちがたむろしていた。昨晩テレビニュースで報道されていた倉敷秋祭りの素隠居(すいんきょ)だ。早速、赤い団扇で頭を叩かれた。その先には二台の布団神輿が練られている。よく見ると一台は太鼓打ちと担ぎ手が揃って女ばかりの珍しい神輿だ。男神輿と女神輿の組合せのお祭りのようだ。しばらく見物した後、古くからある有名なcafeエル・グレコに入り、コーヒーを味わいながら休憩した。
 大原美術館のパスポート・チケットを購入し美術館巡りを始める。最初に大原孫三郎の住まいだった有隣荘を見学し、続いて本館、工芸・東洋館、分館と見て回る。何といっても圧巻は著名な西洋画家たちの名作の数々だ。グレコの受胎告知やモネの睡蓮をはじめ、誰もが知っている有名絵画が次々に登場する。セザンヌ、ゴーギャン、マネ、ルノワール、マティスなどの巨匠たちの作品をよくぞこれだけ一堂に集められたものだと驚嘆する他はない。
■昼食は幹事お勧めの「讃州うどんの庄・かな泉」という店で冷やし天ぷらうどんを味わった。昼食を済ませて駐車場に向う。途中、倉敷川の川面を優雅な川舟が下ってくるのに出くわした。巫女姿の三人の美女が身じろぎもせず着座している。パンフレットで「三女神舟巡幸」という行事だと知った。車に乗り込みお祭りが尚続いている美観地区を後にし、岡山駅に向った。駅で幹事のお二人と西に向うTHさんとお別れし、姫路まで一緒のTTさんともども2時半の上り新幹線に乗車した。
【エピローグ】
同窓会終了後、THさんから画像添付のメールが送られてきた。今や生きがいにもなっているような育成中の余りにもかわいい子犬の写真だった。
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