石綿セメント管 Asbestos Cement Pipe
作成者  BON
更新日  2006/03/05

 050629,クボタが石綿管の使用工場付近の住民に石綿症が発生している可能性があると報じてから,石綿症に関する社会的な認知が一気に広がりました。特に,そのきっかけが石綿管の製造工程であったこともからんで,石綿セメント管に関する社会的な興味が一気に高まっているようです。

 ここでは,石綿セメント管(ACP)に関する情報を取りまとめます。また,石綿そのものを水道管に使用することに関する情報を少々用意しました。

石綿セメント管とは
 石綿セメント管に関する一般情報。
石綿セメント管の更新制度
 石綿セメント管の更新に関する通達と補助制度について。
アスベストと毒性
 水道におけるアスベストの可能性とそのリスクレベルについて。

【参考】
2/5 予算措置が補正のみであることを追記。


石綿セメント管とは

1)石綿セメント管の概要

石綿セメント管いろいろ

 右の写真は,昔の自分の仕事の資料を調べてたらでてきました。老朽度試験を受けるために集められた石綿セメント管の供試体です。名古屋時代ですから1996〜8年頃に撮影したものでしょう。

 石綿管とは,石綿(アスベスト)繊維とセメントを原料とし,整形,養生して管状にした材料です。略称はACP,俗称として「エタパイ」,「エタニットパイプ」(イタリアエーテルニット社が開発したため)と呼ぶこともあります。石綿繊維は他の物質と非常に混じりやすいことから整形剤に使用されたようで,安価な水道管材として,特に財政基盤の弱い地方都市などで大量に使用されましたが,耐用年数が短く,他の管材料と比べて老朽化したときの強度が著しく低いために,漏水の大きな原因となっています。

 ちなみに,管以外にも,浄水処理用の阻流版やブロックなどに石綿製品が使用された例があるそうです。

 なお,アスベストは発ガン性(イニシエーター)としての問題が指摘されていますが,WHOの水質ガイドラインなどで指摘されている点を根拠に,水道用管としての使用においては健康被害はない,というのが公式見解です。(これについては詳しく後述します

 ただし,廃棄などに伴い管体が破壊される場合は他の石綿資材と同じく注意が必要です。実際,石綿管の工事をやっていた人が老年になって中皮腫という石綿が原因と疑われる症状を呈する例が近年になって報告されるようになってきました。発症のピークは今後10年程度の間に記録されると見られ,しばらくは注視しておく必要があるでしょう。また,事業者によっては,数十年前に残置処分した石綿セメント管について,地下水への汚染リスクを考えて,再度掘り出して処分するような例もあるようです。

2)石綿セメント管の製法

 原料である石綿繊維とセメント(重量比1:5〜1:6)に適量の水を加え十分攪拌混合し,その混合液を製管機の回転フェルト(エンドレスの布)の上に0.1〜0.2mm前後の薄層で,付着させます。次にこれを回転芯金に,圧力を加えながら移し,所定厚さまで巻付けます。その後,製管機から取出し,芯金を抜きます。芯金を抜いた後は水中養生またはオートクレーブ養生を行い硬化させます。(オートクレーブ養生の場合は原料として硅砂も用います。)

3)日本における石綿セメント管の製造の歴史

4)石綿セメント管の規格

 規格は1988年に廃止され,現在は石綿セメント管に関するJIS規格はありません。平成元年度の国庫補助事業工事歩掛表において,従来の第2編・第8章・第8節の石綿セメント管布設工の部分は削除されました。

5)石綿セメント管の撤去

 老朽化した石綿管は非常に脆くなっており,ひどい時には指でめくってもぼろぼろとハガレるような状態になってます。撤去のときは,バックホウなどで容易に破壊できるのですが,石綿管を破壊,あるは切断すると,石綿を含む粉塵を発生するおそれがあり,この粉塵を吸い込むと発ガン性というリスクを負うことになります。このため,石綿管を撤去する場合は,カラー継ぎ手を取り外す方法で行うことが補助要綱などで規定されています。

 また,平成17年7月1日に労働安全衛生法に基づく「石綿障害予防規則」が施行され水道用石綿セメント管の撤去作業等についても同規則の遵守が義務づけられることとなりました。このため、今後のこれらの作業における石綿対策の周知徹底を図るため「水道用石綿セメント管の撤去作業等における石綿対策の手引き」が作成されました。詳細は厚生労働省健康局水道課ホームページにて公開されています。

「水道用石綿セメント管の撤去作業等における石綿対策の手引き」について【厚労省健康局水道課】 石綿セメント管の撤去に関する手法の解説。

【備考】
 2)−4)は(財)水道技術研究センターの水道用石綿セメント管診断マニュアルより引用。内容欄の名称は正確な通達名称でない場合があります。


石綿セメント管の更新制度

 石綿セメント管は漏水防止や耐震性の観点から問題があると認識されており,相当早期からその更新事業に対する補助制度が設けられています。財政基盤の弱い事業者であれば補助の活用を視野に,積極的に更新を進めていただきたいところ。この補助制度は恒久措置ではありませんので。

1)これまでの経緯

 石綿セメント管をめぐる通達等について,厚生労働省の法令データベースを調べると,石綿セメント管の更新に関する補助制度の変遷が多数ヒットします。

2)補助要件

 国庫補助の石綿セメント管更新事業の採択基準の要件(水道事業実務必携 (H13)より)は以下のとおりです。(提供いただきました)

  1. 給水人口5万人未満であること。
  2. 資本単価70円/m3であること。
  3. 管路延長に占める石綿セメント管の割合が1割以上であること。
  4. 厚生大臣が認める老朽度の高い(注:水道用石綿セメント管診断マニュアルの老朽度ランクTまたはUに該当)石綿セメント管の更新事業であること。

 補助率1/4。起債充当です。ただし,平成13年度の2次補正予算関連で動きがありました。以下に詳細を示します。

3)最近の動き

 2001年3月15日付けの水道産業新聞によると,老朽管(石綿管)更新事業(総務省)を促進する目的で,平成12年度までの時限措置とされていた老朽管更新に対する財政措置を,5年間延長し平成17年度までに延長したとのことです。石綿セメント管の更新はいずれ必要になるわけですから,制度のあるうちに抜本的な見直しをしておかれることを推奨します。もっとも,また延長されるかもしれません。

 また,平成13年度の第2次補正予算で,石綿セメント管更新事業の採択基準が緩和され,給水人口,資本単価などの要件を撤廃することになった模様です。これについては,日本水道新聞の12月17日号の1面に小さい記事で掲載されていました。なお,平成14年度以降,つまり本予算ではこれは適用されないとのことです。

 平成18年度以降については今(平成17年8月)のところわかりませんが,平成17年6月の発表などもあり,石綿に対する社会的認知が急速に高まっている状況を考えれば,むしろ補助制度が強化されるなどの影響も考えられます。特に,平成18年2月の全国水道担当者会議の席上,石綿セメント管の更新計画が適切に策定されていない場合には計画を策定し更新を推進することを重点的に指導していく旨の強い方針が提示された(水060227)ことは注目に値します。

【参考】


アスベストと毒性

 アスベストについては,発ガン性の問題からその使用について問題視されています。水道管の材料に石綿を使用することに問題はないのかどうかについて気になるところです。

1)水道水中の存在量

 まず,石綿管の腐食などによる水道水への進入については定かではありませんが,カナダや米国の例では,著しく腐食の進んだ石綿管からの侵入は,ほとんど認められないケースと,認められたケースがあったとのことです。水での定量限界は0.1MFL/L(単位=水1L中に百万本の繊維)とのことですが,米国人の多くは1MFL以下のアスベストを含む水を摂取していることや,カナダ,オランダ,英国などで同様のレベルが検出されているようです。

 水道水中のアスベスト量については,わが国で大規模に調査した例が乏しいとの指摘がありましたが,これを受けて厚労省が緊急に実施した調査結果が水060227に掲載されました。これによると,石綿セメント管の延長が長い,あるいは比率の高い30箇所の事業体の石綿管の末端地点での調査の結果,検出されたのが3箇所で,いずれもUSEPAの基準値(後述)を大きく下回るものであったと報告されています。

2)基準値

 2003年6月,USEPA(アメリカ環境保護局)は,水道水中のアスベストの管理基準を提示したとのことで,以下のようになっているそうです。(環境新聞記事より一部加筆)ただし,この基準レベルの設定の根拠は動物実験としても不十分であるのではないか,との指摘があるとのことで,特に10μm以下の短かいアスベスト繊維の毒性についてそのような意見が強いとのことです。

繊維長 MCL最大許容量 可能性のある健康被害 汚染源
10μm以上(これ以下は問題なしとの見解) 700MFL/L 良性の腸ポリープの増加 アスベスト管の腐食,侵食

※注意:米国の水質基準は日本の水質基準と異なり,遵守しなければ法令違反,というものではなく,目指すべき目標を提示するもの。

 ちなみに,参考文献によると,水中のアスベストの検査方法としては,透過型電子顕微鏡法と工学顕微鏡法を紹介されておりますが,要はろ紙で捕集したアスベスト繊維を検鏡にて計数するというものです。ただ,実は測定方法そのものも十分に評価されておらず,計測方法や実態調査まで含めてその開発が必要との指摘もあります。先の厚労省による調査のような公的なもの以外では,データの信頼性に関する情報もあわせて収集しておくべきでしょう。

3)毒性に関する知見

 WHOの飲料水質ガイドラインによりますと,アスベストは,概ね,マウスによる生殖毒性,胎児毒性,催奇形性はみとめられず,また変異原性もほぼ観察されなかったと報告されています(つまり子孫に影響するような毒性はないということ)。成分は珪素(岩石の主成分)を中心に,鉄,マグネシウム,カルシウムなどを含む無機鉱物ですのでこれは不自然ではないと思われます。このため,ヒ素など他のリスク要因と比較して脅威として小さいと判断され,ドラフトレベルでの扱いになっているそうです。

 アスベストの発ガン性は吸入によるものは広く知られておりますが,これはある大きさのアスベスト繊維が肺胞に突き刺さるなどし,これを排除しようとする免疫システム(肺胞マクロファージ)が長くて硬い石綿繊維と悪戦苦闘するうちに,マクロファージの排出する因子が肺胞を傷める現象が発生,これが恒常化することによってガンの原因になるとされているものとされています。(高畝氏報告を参考に修正)

 経口接触の場合,消化器系は表面細胞が常に内組織から入れ替わるシステムになっていますので,同様の現象が発生するとは考えにくいと思われます。事実,高濃度の飲料摂取における発ガン性については説得力のある証拠はほとんどなく,また生態学的な住民調査でも関連はなかったとの研究成果が採用されています。05年9月に飲料水中のアスベストリスクについての研究成果等を整理した報告(水051006,畝山氏寄稿)によると,化学物質の毒性評価に関して最も権威ある研究期間の一つである米国NTPの評価では,経口接触による発ガン性はないとの結論が出ているとのこと。その他の研究論文10編を評価した範囲では,経口接触のリスクは少なくとも「非常に低い」と評価されるべきであろうとのことでした。

4)総合評価と留意事項

 以上,整理すると,アスベストが水中に含まれる量はないか概ね微小であり,さらに経口接触による発がん性も認められないことから,現時点までの科学的知見では,アスベストが飲料水に含まれることのリスクについてはない,もしくは無視して差し支えないものと考えられています。ただし,以下のような特殊な事情については留意が必要でしょう。

 なお,吸入によるアスベストの発ガン性については広く認知されています。特に,2005年6月,クボタがその被害の可能性について率先して公表したことを契機に,様々な産業で使用された石綿による石綿症について,幅広く調査されるようになりました。粉塵による石綿症については米国など外国でも深刻な問題として認識されており,この問題を扱うホームページなどは多数ありますので,調べてみられるとよいかと思います。

【参考】
WHO飲料水水質ガイドライン (日本語版 社団法人 日本水道協会)
水道とアスベスト (平成元年2月 社団法人 日本水道協会)
環境新聞050727,国連テクニカルアドバイザー吉村氏寄稿
日本水道新聞051006,国立医薬品食品研究所−畝山氏寄稿


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