配水管網 Pipeline Network
作成者  BON
更新日  2009/09/28

 ここでは,管網計算に関するノウハウについて取りまとめます。管網計算とは,「配水管のネットワークをシミュレートし,特定の条件における水の流れを再現することで,最適な管網の配置を決定するための計算」のことです。

配水管網
 配水管のネットワークの設計について。

【参考】
 時間係数について関連付けました。やれやれです。


配水管網

(1)管網計算の準備

1)計算に必要なデータ

 管網計算では,圧力管の流速と損失水頭に関する関係式(通常はへーゼンウィリアムスの式を使用)を使用して損失水頭を計算,水位差と流量の収支によって反復計算することによって収束解を得ます。計算するための条件として収集しなければならないデータ,及び設定のコツを以下に示します。

節点(せってん)

Node

節点名  節点を識別するための名称。節点は町丁別人口との互換を持たせると,人口の変化を表現しやすくなります。また,配管網の改良後の姿をイメージしながら配置することも,結果をうまく判断する際に重要なことです。とにかくわかりやすい名前を付けることです。
地盤高  地盤高さです。節点のカバーする範囲でもっとも高い地点を拾うのが基本。ただし,標高の低い地点では静水圧が問題になるので,低い点を拾うとよいでしょう。
 特に,樹枝状管路の計算の場合,末端点の水位を計算する場合など,地盤高の設定をどうするかがかなり重要になります。ただし精度的には0.1m単位で十分,1m単位でもいいくらいです。
 ちなみに,ここで与える地盤高はあくまでもシミュレーションの条件ですので,たとえば配水区が変更になれば,同じ点でも与える条件を変更すべき場合があります。
節点引出水量(時間最大総流出水量)  節点での使用水量です。一般需要者については時間最大,大口で受水槽を持つ場合や中継ポンプ井なら日最大需要を計上してください。負の値を設定して注入水量を表現することもできます。節点水量の計算過程を模式的に示します。
 なお,給水人口を町丁別人口と連動させることをお勧めします。将来再計算を行ったり,人口が増加した時をシミュレートしたり,新興住宅街など人口の増加傾向の著しい地域の影響を調べたりするのに役立ちます。
 ちなみに,一部のソフトでは管路から需要水量を引き出す機能を備えているようですが,プロユースではこれは推奨しません。あくまでも手計算でも行える計算方法を採用すべきです。
 町丁別人口×町丁内人口比 =給水人口
  給水人口×一人一日使用水量 =一般用有収水量
   一般用有収水量+大口需要者 =総有収水量
    総有収水量÷有収率 =給水量
     給水量÷負荷率 =一日最大給水量
      一日最大給水量×時間係数 =時間最大給水量
       時間最大給水量+運用水量 =時間最大総流出水量
管路

Element

始点  管の始点となる節点名称です。
終点  管の終点となる節点名称です。
区間長  管の区間長さ。m単位で十分です。
口径  あまり細かいことを考えても仕方ないので呼び径でよいと思います。
流速係数  慣習的に110を使用します。
配水池

RT

HWL(高水位)  静水頭の計算条件です。設計条件なので厳密な値が手に入るため,0.01m単位で設定するのが普通です。必要性はともかく。
LWL(低水位)  動水頭の計算条件です。複数の配水池から同時配水する場合も必ず1点は水位固定が必要です。0.01m単位で設定するのが普通です。

2)配水区の設定

 ある程度以上広い配水区を対象とする場合は,配水区の仮定を行うことが必要になります。配水区の設定では,地形や小学校の校区,地形などを考慮し,ブロック化をイメージしたものにするのが王道です。

 配水管網は地域にくまなく配水することを前提に,これにあわせて管を配置するのが一般的でした。このため,配水区が広ければ太い管を,狭ければ細い管を使用して,効果的な配水管網の設定を図っていました。

 これに対して,筆者は,逆に管種を絞り込み,その管種の能力に合わせた配水区の広さを一つの単位とすべきと考えています。具体的には,幹線以降のブロック管をφ150に,管網内の網状管をφ75もしくはφ50に,といった形で統一すべきです。

 経験的に,配水ブロックの広さは,都市中心部で5,000〜10,000人程度ですが,このレベルの配水区域をぐるりと回すために必要な管口径は概ねφ150程度になります。(φ100では少し心もとない)消火用水の確保の観点ともあわせ,配水管の設置時の口径はφ150程度を一つの目途とすることを推奨します。

 管材を絞込み,ある程度画一化することにはさまざまなメリットがあります。資材の備蓄や価格の引き下げ,施工対応の向上,設計の簡素化などです。

3)新設管網の配置

 新しく開発される団地などに管網を配置する場合,管の配置方法には伝統があり,実際事業体によってさまざまな形態があります。事業体の維持管理担当者が管理をしやすい形態にすることが大前提ですので,その考え方や既設管の配置について調査しましょう。

 なるべく広くループルートを作ってください。断水区間を設定しやすくなります。幹線は,先に示した理由から,効率が許す限りφ150としましょう。幹線の口径をそろえておけば,管の漏水の修繕などのときに対応が容易ですし,機材の備蓄でも有利です。

管径

最大流量

動水勾配 流速一定
mm パーミル m/秒
50 57 170
75 170 380
100 350 680
150 1,000 1,500
200 2,200 2,700
250 3,900 4,300
300 6,300 6,100
400 14,000 11,000
500 24,000 17,000
600 39,000 24,000
800 84,000 43,000
1000 150,000 68,000

4)管口径の仮定

 配水管網計算は,設定された管のモデルに対して水がどのような流速と損失を伴って流れるのかをシミュレートするものです。ですから,各地域の需要量をおおむね把握したうえで,ここに水を流すために必要な管の口径を仮定しておく必要があります。

 最適管口径は,現在,管内流速と損失水頭から決定するのが普通で,流速を1m/sec以下(やむをえない場合で3m/sec以下),損失水頭を5パーミル以下,といった条件を柔軟に活用しながら決定していきます。参考のため,これらの条件を満たすことのできる管内流量を表にしますので参考にしてください。

【備考】
流量の単位はm3/日,へーゼン・ウィリアムス式により計算。いずれ,ブロック化にあわせてもう少しわかりやすくします。図書くのめんどうだなぁ...


(2)計算式と計算ソフト

1)計算式

 管網計算は水流による損失をシミュレートするものです。よって,流量と管の条件から損失水頭を計算するための計算式が必要になります。一般にはへーゼン・ウィリアムスの公式を使用します。

 ところで,へーゼンウィリアムス式は,φ100程度よりも対象の管の口径が小さくなると,実際の損失水頭よりも計算結果の損失水頭が大きくなり,その誤差を無視できなくなるといわれています。設計指針では,φ75を境界として,これより小さい口径についてはウェストン公式によることとしています。給水管などの場合は,この規定の適用に従うべきでしょうが,配水管網の場合はへーゼン・ウィリアムス式で十分です。というのも,あまり小口径の管を見込むことは不適当だからです。

 水理公式については別途ページを作ってあります。

水理公式
 各種水理公式をおいておくためのページ。内容はこれからこれから

2)ソフトの選定

 管網計算は手計算で行うことも可能ですし,樹枝状の管路(ループがない管路)の場合ではこの方が説得力のある計算ができます。

 ただ,最近ではよい計算ソフトも多数出回っているので,これを利用しない手はありません。昔(といってもせいぜい5−6年前ですが)は,管網計算一巡一晩,コンピュータに計算させながら帰宅して,翌日に結果を得たりしたもんですけどね。(^o^)

 たとえばクボタのPIPE-miniシリーズは,その比類なき計算速度で高い市場シェアを誇っていますし,コンサルタント会社が独自の計算システムを開発している場合などでは,必要に応じたカスタマイズが可能です。ソフトの選定時には,

  1. ソフトの保守と欠陥等に対する責任が明確である
  2. 過負荷管路や水圧不足節点のマークアップ機能がある
  3. 十分な節点数があり,入力が容易である
  4. 管網計算速度が速く正確である

などの条件を勘案して選定されるとよいでしょう。

 なお,個人的には口径自動決定機能は推奨しません。これこそ設計者の腕の見せ所です。プロの技と機械自動の差を堪能してくださいませ。

【備考】


(3)管網計算のテクニック

1)モデル対象管の絞込み

 管網計算を行うとき,ついつい全ての管をシミュレーションに組み込みたくなります。最近のソフト,ハードは性能が上がってきたので,計算機はその欲求に応えてくれるでしょう。しかし,実際問題として,全体が小規模だったり行き止まりを表現する必要がある場合を除き,φ75未満の管路を組み入れるのは設計思想として適切ではありません。

 管網がその能力を如何なく発揮するためには,ある程度幹線の能力のみで十分な水の融通ができないといけません。特に,ブロック化など,高度な配水管理を行うためには,よく管理された幹線と,その能力の把握が必要不可欠です。幹線でない管の能力を見込まないと十分な配水圧が確保できない状態は,すでに機能不全と考えたほうが適切と考えます。

 また,火災時の考え方からも同様の判断ができます。消火栓から消火用水を確保するためには,本管の口径が十分なければなりません。必要な口径は,概ね,双口消火栓でφ300,単口消火栓でφ150,小型簡易消火栓でφ75です。

2)合成管

 合成管とは2条配管などを1本の管に模して計算するテクニックです。節点数を減らすほか,行って来いの反復計算による発散を防ぐ必要がある場合にこれを使用します。2本の管(D1,D2)が平行に布設されるとき,その能力は以下の式により1+2とみなすことができます。

 小口径における合成管の計算表を以下に示します。

075 100 150 200 250 300 350 400 450 500 600 700
075 098 116 159 206 254 303 352 402 452 501 601 701
100 130 168 212 258 306 355 404 453 503 602 702
150 195 232 273 318 364 411 459 508 606 705
200 260 296 336 379 423 470 517 612 710
250 325 360 399 441 484 529 622 717
300 390 425 463 504 546 635 728
350 456 490 527 567 652 741
400 521 555 592 671 757
450 586 620 695 776
500 651 721 798
600 781 850
700 911

3)時間係数の設定

 配水水量の時間最大と平均の比を時間係数(時間最大比)といいます。時間係数の算定と事例については,配水分析のページを参考にしてください。

需要水量の分析
 配水水量の時間変動としてとりまとめました。配水区の様子によってかなり異なります。

 ちなみに,時間係数は配水区が小さいほど大きくなる傾向があります。配水管網計算の結果によっては,水圧が不足するなどの影響で,配水区の区分を切り直しする必要が出てきます。よって,時間係数については柔軟に変更できるようなデータの与え方をすることが必要です。

4)境界条件

 水位の境界条件は配水池の自由水面で決めます。管網計算では1点は必ず水位を固定した点が必要となります。ただ,水位を固定した点は2箇所以上でもかまわないので,複数の配水池から同時に配水している場合には,1箇所について自由水面を設定し,他の点は節点条件として流入水量もしくは自由水面の両方を与えることができます。

 ただし,この場合は計算結果の読み解きが必要です。

【備考】


(4)計算結果の読み方

1)標高データと水圧

 設計水圧は,給水取り出し点において最低150[kPa](1.5[kgf/cm2])以上,最大740[kPa](7.5[kgf/cm2])以下とするべきことが法令で義務づけられています。つまり,標高の高い,もしくは末端に近い点では動水頭を,もっとも標高の低い点では静水頭をチェックします。これを意識し,高い点ではその節点が代表するもっとも高い地点を,低い点では逆に低い標高データを用いることが望ましいです。

 水圧の条件は絶対ですが,流速や損失水頭のデータをチェックし,管に過大な負荷がかかっていないかをチェックすることも必要です。

2)口径の再設定の方法

 水理計算の結果,十分な水圧が確保できなかった場合,管の能力が需要に対して不足していたということです。この場合,能力が不足している管路の口径を増径して再度水理計算をやりなおします。

 このとき気をつけるのは,ただ計算結果で不足として出た管の能力を,一律に増径すればいいというわけではないということです。管網計算は,もっとも条件が悪いであろうケースを対象に行った計算に過ぎず,管網が使用される様々なシチュエーションをすべて表現しているわけではないからです。

 このあたりの行間を埋められるのは経験を積んだ設計者だけです。最低でも,以下のようなシチュエーションを念頭においた検討をしておくべきでしょう。

 場合によっては,もう一つバイパスルートを設定する方がいい結果が得られる場合もあります。バイパスルートを水が流れることで,これまで過剰な負担がかかっていた管への負担がすべて解決する,なんてケースもあります。様々なテクニックがありますが,この辺は,設計者の腕の見せ所ですな。

3)管網計算のうそ

 「この条件では負圧になってしまう」なんて会話は,水理計算をやってるとかならず耳にするものです。だって,計算書を見たら,水圧がマイナスになってますもんね。でも,よっぽどへんな条件を与えたりしない限り,実際に負圧になることなどはあり得ません。実際には,節点で使用することになっている水量が出ないだけのことなのです。

 (注:これは,管網計算という「定常状態での計算をしている場合の話です。動的には負圧になることはあります。たとえば水撃圧はこの例です。)

 このように,水理計算では,条件の与え方によって実際に起こり得ないような結果が出ることがしばしばあります。もちろん,計算結果としては合理的です(たとえば設定条件では水が流せない証明としては,負圧となった水理計算書が有効です)が,その数字の裏の意味をちゃんと把握して話をしないといけません。

 これに該当する事例をいくつか挙げます。

 特に,配水池や配水ポンプ場などの境界条件は,水位もしくは流出量を固定して計算するのですが,計算結果が読めないと,現実には発生しないようなシチュエーションをそのまま与えてしまうことが多々ありますので,注意しましょう。

【備考】


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