表流水水源の保全 Surface Water Conservation
作成者  BON
更新日  2005/06/19

 水源の保護と汚染についてまとめるページです。表流水水源の保全について総括し,その個別手段についても併せて取り上げられるようにしてみました。

表流水水源の保全
 表流水水源の保全に関する総論。個別方策についてはこのページに別項を作成しました。
地下水水源の保全
 地下水水源の保全の必要性と傾向などについて。

【参考】
010429 いろいろ再整理。
050619 富栄養化関連を若干修正。


表流水水源の保全

(1)保全の必要性

1)表流水水源の特徴

 水源の保全が必要なのは議論の余地はないと思います。ただ,なぜ,どのような理由で,といわれると...ちょっと戸惑いますね。表流水水源の特徴を考慮して水源保全の必要性を整理すると,以下のようになります。

 なお水源汚染リスクは,その国の開発の状況によって概ね同じフローをたどるそうです(九大楠田先生の講演より)。順に以下のようになります。

  1. 重金属による汚染 (水銀,カドミなど,いわゆる公害)
  2. 有機物 (川が汚くなるなど。BOD,CODなど)
  3. 栄養塩 (窒素やリンなど。環境の富栄養化
  4. POPs (残留性有機汚染物質)
  5. ED (内分泌攪乱物質)

 なお,いわゆる先進国では数百年〜数十年かけてこのサイクルをたどってくるわけですが,開発途上国ではこのサイクルが急激に現れるため,その問題も深刻化する傾向にあるんだとか。

2)浄水享受権

 水質保全策に関連して「浄水享受権」という言葉を紹介しておきましょう。

 浄水享受権=汚染の心配のないきれいな水を飲む権利。1992年,宮城県丸森町の産廃処分場操業差し止め申請で、仙台地裁が認定されたのが初とされています。

 ここでは,「(住民には)人格権の一貫として、生存、健康を損なうことのない水を、質量ともに確保する権利がある」と規定されています。

 ここで示された浄水享受権を根拠とした訴訟は全国各地で行われております。また,もっと一般的な概念として「環境権」というものがありますが,こちらはこれを根拠とした差し止め請求が認められた事例はない,とされています。(技術士制度における総合技術管理部門の技術体系より)

3)フレッシュ度

 平成15年11月7日,国土交通省は全国の主要な水系における水利用度を示す指数として,(仮称)フレッシュ度の算出結果を公表しました。フレッシュ度の算出式は以下のとおりです。

 ここで,上流での既使用水量は生活排水,下水処理場等排水,工場排水,畜産排水の計とされており,量的に一番大きい農業排水はとりあえず含まれていません(河川に対する負荷の程度が現段階では不明なためとのこと)。また,それぞれの使用用途への水系への負荷量についても現時点では保留とのこと。

 このせいか,たとえば淀川のフレッシュ度58.7%に対し,水質負荷としての研究成果として言われる使用回数6〜7回(フレッシュ度で言えば十数%相当))と大きな乖離があるのも事実です。これらの理由から,プロユースとしては若干使いにくいところです。

 ただし,算出式がわかりやすく,説得力のある数字が得られること,なにより積極的な開示の姿勢は見習うべきところが大きいと思います。

4)関連情報

 水源の保全を後押しするための法的根拠として水源2法があります。関連情報はこちらにとりまとめました。

水源関連法規
 水道水の水質に責任を持つため,水源対策に水道が取り組むための法的根拠について。
良好で安全な水運用の確保21世紀グランドデザイン(案)【国土交通省】
 水源関係の政策案。
【水環境学会】
 水環境に関連する分野の学術的調査・研究及び知識の普及などを目的とした公益法人。活動案内が中心。

【備考】
 昔の勉強用資料を再編成しました。


(2)富栄養化

 水源の悪化の原因の一つに富栄養化があります。少しわかりにくい概念ですのでとりまとめてみました。

1)富栄養化とは

 植物の3大栄養素は窒素(N),リン(P),カリ(K)ですが,このうちのNとPは通常の状態では環境中には十分に存在しません。ところが,人間活動の結果,これらの物質濃度が水域中で高まることがあります。このような状態になると,その生態系内では,十分な栄養を得た植物プランクトン類の生成が増大し,有機物が爆発的に生産されるようになります。この限界はN= 0.2 mg/L,P=0.02 mg/Lといわれています。

 直接有機物が大量に流入した場合と同じく,有機物量の増大は酸素の消費を促し,やがて,水に溶けている酸素を消費しつくしてしまいます。特に,水の交換が起きにくい停滞水域(池や沼など)でこの傾向が顕著です。この状態になると,水に溶けた酸素を呼吸に使う動植物は生育しにくくなり,また酸素を使った高効率な代謝を行う高等生物が駆逐されてしまいます。

 この状態では,硝酸イオンや硫酸イオンなどの持つ酸素までを消費するため,水域が嫌気化し,臭いを発するようになります。また,このプロセスは,水域の嫌気化を引き起こすことによって,湖底に蓄積した栄養塩が溶出・回帰するサイクルを引き起こし,加速度的に進行します。

 また,なにかのきっかけで富栄養化した状態に陥ると,そのきっかけが無くなっても水域の水質は悪化したままになるケースが多いことも注意しなければなりません。実例を挙げるのは少し支障があるのでここでは割愛しますが,渇水や洪水をきっかけに水源湖沼の水質が悪化したままになってしまったケースを聞いたことがあります。

2)法制度

 富栄養化の防止に関する法制度は以下のような変遷をたどっております。(うろ覚え)

  1. 法令=環境基本法(S57/12)湖沼の全窒素,リンに関わる環境基準制定/水質汚濁防止法(S60/7)窒素,リンの排出基準制定
  2. 条例=滋賀県(琵琶湖),茨城県(霞ヶ浦)

3)原因と原理

 富栄養化現象を引き起こす栄養塩の流入は,特に増水時に引き起こされる場合があり,また生活排水,産業排水が原因となる場合もあります。また,農業用水には肥料がふくまれているので,この負荷が原因になるケースもあります。

 ただし,厄介なのは,なにも人為汚染がなくてもダムなど滞留するだけで富栄養化する場合もあることです。もともと自然界では窒素やリンが循環しているわけで,自然環境からもこれらの物質は常に供給されています。日本の豊かな自然は,窒素やリンが豊富に自然界に存在しているために支えられているわけなんですが,逆にいえば,水が滞留するだけで,富栄養化が始まる場合もある,ということになります。

 水源域が富栄養化すると,藻類の大量発生などによりろ過障害が異臭味原因物質の増加が観測されるとともに,酸素の消費量が増大して底層部が嫌気化(溶存酸素が消費されてしまいほぼなくなること),これによって鉄・マンガンやリンなどの溶出が引き起こされます。これらの障害の結果,水道水としての浄水処理の費用が増大し,また水質の悪化により水道の信頼性が低下してしまいます。さらに深刻なのは,リンが溶出することによってさらに富栄養化を促進してしまう場合があることです。この項の最初に書いたように,一端富栄養化してしまうと,その後のリカバリーは大変難しくなります。

【備考】


(3)水源保全策

 水源の保全策については大雑把に以下のようなメニューがあります。

1)流入汚濁負荷の低減

 下水道の普及や高度処理化,合併浄化槽の整備のほか,点在する事業所などには特別基準を適用するなどして,流入の負荷を低減します。欧米に比べて低いとされる下水道普及率を背景に,全国で盛んに進められています。ただし,この対策をとるには多大なコストがかかります。また,住民の取り組みなどによって無リン洗剤を普及したケースなどがあり,琵琶湖などでは大きな成果をあげました。

2)水源地域の保存

 水源地域での開発行為などの制限,指導を図ります。また,開発規模,開発場所,環境保全対策に参画します。防疫の観点からも有効です。日本では水源地に自由に立ち入れますが,これは世界的に見れば例外だそうです。

 関連して,水源池における渡り鳥などの排泄が問題になっているケースもあり,東北地方を中心に問題になっているケースが散見されます。アメリカでは,レーザー光線を発射する装置を使ってガチョウを追い払おうという構想(その名も laser goose-harasser!)もあるようで,賛否を含めた議論の対象になっているようです。

森林の機能【林野庁】
 林野庁の勉強会資料。水源税構想や森と水の基金などの情報を掲載している貴重なサイトです。
ヨーロッパの水と水源保護【WATER】
 ミネラルウォーターのサイト。欧州の水源保護に関する対談。

3)水源池や河川の直接的浄化策の活用

 湖沼,ダム,河川などに水質を向上させるためのさまざまな「仕掛け」を追加し,環境がおのずと備えている浄化機構の補助強化を図ります。富栄養化対策,底泥浚渫,藻類対策,曝気,河川浚渫,れき間接触酸化,生態環境の導入などのメニューがあります。

生態環境の導入
 生物環境による水源改善手法とその原理などについて。
藻類対策
 ダム湖の藻類対策。水質のページにあります。

4)水質異変に対する危機管理の充実

 事故,不法投棄,あおこの発生などに対応するため,取水水質の監視,予備取水口の設置,貯水池の確保などの対策が考えられます。モニタリングと併せて別ページに掲載しました。

水源監視
 水源事故の傾向とその監視について。

5)強制浄化

 ここまでに示した対策は,いずれも主として富栄養化を予防,抑制するための措置でした。これに対して,一旦富栄養化してしまった湖沼等をどうすれば清澄な状態に戻せるのか,これは模索状態です。実際に小規模な池等では,底層からのリンの補給を絶つためにコンクリートで固めたり,池を干したりしている例もありますし,そこまで行かなくとも浚渫などは比較的よく行われます。

【備考】
 水道公論2001年7号−水源保全特集が掲載。


(4)湖沼保全対策の現状

 平成16年8月3日,総務省が湖沼水質保全特別措置法で指定された湖沼などを対象とした政策評価を実施,水質汚染の進行を抑制するなど限定的な効果は認められるものの,大半の湖沼で水質目標が未達成であることが示されました。この対策として,総務省は以下のような検討を,農林省,国交省,環境省に要求しています。

湖沼の水環境の保全に関する政策評価【総務省】
 上記の詳細はこちらにあります。

【備考】
 日本水道新聞8月9日号をヒントにまとめました。


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