いい写真伝導師の三脚ワンポイントアドバイス

その22

三脚を使う。「スリック プロフェッショナルII」

 急に雲台の写真を撮ることになった。
 被写体は「BALL HAED 800」1ケだけ。あるところの提出 用である。白黒プリント、カラープリント、そして35ミリ判トランスペアレンシーの三種類を同一 ポーズで、枚数とサイズが指定されている。期限は一週間。
 私は、翌日から3日間の出張を控えている。幸い出張には、撮影機材を携えてゆく。しかし、出 先にスタジオのような、または代用にできる場所に遭遇できるかどうか、はなはだ心細い。帰って きてからの撮影では、もしも現像やプリントに時間がかかると、間に合わない恐れがある。
 写す雲台は、被写体としては小さいほうだ。35ミリと指定もあるから、全部をNikon F3で撮る ことにする。レンズは、55ミリと105ミリのマイクロを使おう。晴天ならば、室内、窓際で仕事ができる。 F3には、使い始めたばかりのASA64 リバーサルがすでに入っている。白黒とカラープリント用に、 ASA400のフィルムを入手する。文房具屋で、白のケント紙を一枚買った。ホリゾント用である。
 出先で撮影場所を探す。窓際で、測光してみると、あまり絞りこめない。特にリバーサルだと、 f11が限度だ。近接撮影だから、被写界深度を深くしたい。そのためには、室内が暗いのである。
 机を外へもちだし、出入口の大きく広いヒサシの下に置く。幸い、戸は鍵がかかっている。 撮影の途中で開いて、中断させられる心配はない。直射日光は、建物とヒサシにさえぎられて、当らない。 光はよくまわる。被写体の影はでない。明るさは充分だ。スタジオで、ライティングを考えるのと違い、 自然光だけで問題なく仕事できると判断する。
 机を扉に寄せて置く。ケント紙を貼りたいのだ。机の奥行45cmだから、2脚並べる。机の上面にたいし て90°で立つ壁に相当する扉にケント紙を、セロテープで貼ってたらす。ブカブカ浮いてこないよう、 要所要所を止める。紙の下の方がテーブルの上面を覆い、テーブル上で、このケント紙が動かないように、 端をセロテープでさらに止める。撮影セットの出来上がりだ。雲台を置いてみる。
 携えている三脚は、「プロフェッショナルII」。ケースから出す。パン棒を、 オツナガリ状態からはずして、雲台を起こして所定の位置にねじこむ。 「三脚取り扱いの基本のキの字、1.ゆるめる、 2.動かす、3.締めるの連続」の始まりである。
 机の上の、雲台の、カメラ取付面が見える高さにカメラをセットできるように、三脚をひろげ、立てる。 「プロフェッショナルII」は、2番目パイプに等間隔目盛が刻まれている。下から ひとつめのしるしに親ユビの爪を当てがって、脚3本の長さをそろえる。三脚を据える場所が、コンクリートで 平らになっているから、条件はいい。つまりまっすぐたてやすい。開脚角度はローでも、ミドルでもなく、 ふつうであることを確認して、脚がひらききるところまで、めいっぱいひろげて、据える。
 エレベーターは、10cmばかりあげる。これで、雲台にカメラを据えれば、雲台のカメラ取付面が、 見える高さになるはずである。確認と微調整は、ファインダーを通して、行えばよい。三脚への、雲台の締付は 大丈夫か、エレベーターのロックはかけたか、これらもチェックする。
 F3に、55mmF2.8レンズをマウントする。カメラのストラップに手を通して、F3を左手でもつ。右手は、雲台を 緩める。カメラ台を傾けて、カメラネジを見やすく、扱いやすくする。パン棒をロックする。カメラネジを F3にねじこみ、ロックする。パン棒を緩め、雲台を操作する。画面のどのくらいの大きさに被写体の雲台を 捕らえたらいいか考えながら、操作する。目をファインダーにつけたまま、パン棒のロックを解除、傾きを修正、 修正しきったと思うところで、ロック。パン締付のロックを解除、レンズを少々振る。また、ロック。
 すでに印刷になっているカタログの、BALL HAED 800のポーズと見較べる。 狙う角度、カメラ台の傾き、上下左右の、画面余白など、ファインダーに目をつけたり、離したり、被写体 たる雲台の位置を少し動かしたり、微調節を入念に行う。なにしろ、助手なしの独り作業、根気がいる。 これでよし、と、位置を決める。ピントを合わせる。カチッと、画面が安定しているので、微妙なピントの 山を確かめやすい。大型三脚の有難さ。
 露出を測定する。白バックに、真っ黒な雲台。入射光式が力量を発揮する。テストで、ポラをひくわけには ゆかない。デタメと、前后少々加えてシャッターを切ることにする。

と、記録用紙にメモる。  シャッターを切るまえに、もういちど、ピントの確認をする。ラベルの文字は、はっきり読めるか、後の輪郭は ボヤけていないか、それぞれ気になる箇所を、プレビューボタンを押して確認する。
 プレビューボタンを押し続けても、ファインダー像は、ビクともしない。しっかりした三脚の有難いこと。 やわな三脚ではこうはゆかない。
 レリーズをたわまして、ヤッ!とシャッターを切る。
 巻き上げレバーで巻き上げる。三脚が巻き上げ操作によって、動いてしまう心配はない。余裕ある三脚を 使う心地よさ。 のくり返し。55ミリでの撮影終了。
 三脚の脚3本の位置を、チョークでコンクリート上にマークする。脚の長さ、エレベーターの上げ具合も、記 録して、レンズを105ミリに交換する。三脚と被写体との距離をとる。画面内で、 BALL HAED 800が55ミリのときと同じ向き、角度、周囲の余白になるよう、三脚、 雲台を調整する。
 変化はないと思うが、露出を測りなおす。なにしろ自然光だけの撮影だから、ちょっと薄雲がかかっただけで、 露出は変化する。撮影データをレンズ105として、改めて記録する。F3が2台手元にあれば、三脚を 寄せたり離したりせずに、撮り分けられるのにと重いながら、ないものねだりはよそうと、根気の要る努力を続ける。 リバーサルフィルムで、105mmマクロレンズの撮影を終了。フィルムをB/Wに詰め替える。 105mmで、55mmで、撮る。ネガカラーに替えて、55mm、105mmでまた撮る。
 重いからといって、敬遠される三脚であるだが、こういう撮影、重いからこそ撮影が楽である。 安心して心地よく進められる。一旦セットしたカメラ位置は、ピント合わせ、絞りやシャッタースピードの変更 、レバーによる巻き上げなど、カメラ操作で変化する心配がないのである。
 ファインダーを通して見る被写体像のカチッと安定したフィーリング。軽くゆとりのない三脚使用時に痛感する、 ブヨブヨした頼りなさ、撮影結果を見るまで安心できなずにつきまとう心配がないのである。
 55mmや105mmを使うなら、もう少し軽く小さい三脚でも、使って使えないことはない。けれども、 この信頼感・安心感の高さを知ってしまったら、より信頼度の高い三脚を使うことになること請合いである。 三脚が重い、大きいといっているうちは、重い大きい三脚の本当の良さが、全然わかっていないし、力不足 の三脚のこわさ、不便さを全然知らない幸福に酔いしれているといったら、いいすぎだろうか。
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