いい写真伝導師の三脚ワンポイントアドバイス

その19

「プロミニ」余話

 北海道は帯広に、長いベンチがある。長さ400米、世界一長いのだそうだ。そのベンチに人が座ったら、 いったい何人か けられるのだろう?座れるだけ座ってもらおう。マクロズイコー50ミリ付OM4を100台並べて、 写真に撮ろう。100駒 を横につないで、世界一長い写真をつくろう。そしてギネスブックに登録しよう、という企画があった。 オリンパス 光学工業(株)が中心になって、実行に移した。100台カメラを並べるからといっても地面に置くわけ にもゆかないと相談を 受けた。そこで、三脚「スリック グッドマンエースII 」100本提供して、協力させていただいたことがあった。
 事前の打合せやテスト、現地調査、実施、そして世界一長いプリントの展示と、半年近く、それぞれの会社の 枠を越えた協力関係で、仕事を進めたものだ。ちょうど若き日の、大学のサークルの合宿みたいな雰囲気もあったりして、 私は要所要所の記録を写真に撮った。当然三脚を必要とする場面がある。かといって、行動を妨げるほど大きく、大げ さなものでは困る。三脚の商品化に踏み切るまえに、こんなのはどうだろうという試作品を使うことがよくあるが、この ときも500Gの脚を短くつめた三脚を試していた。

スリック500G 昭和51年発売、軽量三脚のパイオニア
現在、「500GII」 および「GIII」が発売中
 だから寄り合いのたびに、その三脚に一眼レフをつけて使った。伸ばしても、ヒザ丈くらいにしかならない。短かい。 低い。小さい。持つと軽い。参加者にとっては、はじめてみる異様な三脚。ちび助の三脚。気になる三脚。ちょっと 手にとってみたくなる三脚。フォトグラファーとして参加していた菅洋志氏からは「ミニ」って名前にしたら?など、 ネーミングまで助言していただくほど、人目をひいたし、いつも人前で使っていたのである。
 このプロトタイプは、おおげさにいえば、市場調査も兼ねて、ほんとうにどこへ行くときももって歩いた。皆の前で 使ってみせた。京セラコンタックスサロンの橋本さん(当時)も眼に 止めて下さり、特注でいいから、「3本つくってくれ」「5本、またつくって」と、ポツポツ、しかし何回も、ご注文 いただいたものである。
 そうこうしている間に当方は、これは売れると確信を抱きはじめる。自由雲台付の開脚角度の広い2段脚の、現在の 仕様にまとめて、世に出す、出さないを決める場に臨むことになる。販売担当部門からは、「そんなオモチャみたいな もの、売れない」と強い反対意見が最后まであった。しかし、「やってごらんなさい、袋をつけて」とトップの一言で 商品化が決まったのである。だからプロミニは、黒い布のケースがついている。
 プロフェッショナルフォトグラファーの使用にも耐える、プロフェッショナルのためのミニミニ三脚という意味を こめて、「プロミニ」と命名された。1985年6月発売である。

  スリック プロミニ

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