ボイキド・シャッハ

Illustration:武者

信託軍こと<真静>の宇宙戦用TU。ボイキド・カーレの派生機で、徹底的な装甲の省略と引き換えに桁外れの高機動性を得た機体である。頭部コンテナにはウニ型の機械宙雷が多数収納されており、敵陣の只中に飛び込みつつこれを敷設する戦法を得意とする。命知らずの咎人部隊などに配備された結果、ボイキド・シャッハの撃墜数・被撃墜数はどちらも他機種の追随を許さないものとなった。

パイロット:マノ・リレッケム、他

<マノ・リレッケム>
当初、ただ「第三勢力」と呼ばれていた未知の組織。プレオスやレジスタンスの蜂起の裏で糸を引いていたという恐るべき真実が明らかになった後も、彼らの文化についてはその多くが謎のままであった。やがて他の陣営との交渉が行われる段階に戦局が移行した折、ようやく明らかになった彼らの実態は、きわめて独特なものだった。神聖にして真に静かなる存在――<真静>と便宜的に自らを称する彼らは、最高意思決定機関<御柱>への信託のもと、原始宗教にも似た強固な精神的結束で繋がった軍民一体の組織である。

特筆すべきは彼らの意思疎通方法であろう。彼らは「言葉」ではなく、抽象的な「図形」を共通言語にしたコミュニケーションを行うのだ。発声器官が退化しているわけではないため、その気になれば喋ることも歌うことも可能であるが、彼らにとって声帯を使うのは低俗で下劣な行動に他ならない。上流階級の一部の者に至っては、遺伝子操作によって先天的に声帯が削除されているという。「視覚至上主義」とでも言うべき社会に彼らは生きているのである。

TUはじめとする機動兵器群に特異な色彩や形状が多く見られるのも、彼らのこうした文化ゆえであった。かような社会に生きる人々にとって、視覚を失うこと――失明は、死にも等しい恐怖の対象である。発達したバイオテクノロジーをもつ彼らは先天的・後天的問わず盲目をいとも簡単に治療できるが、唯一、その恩恵を被ることを許されない者たちがいる。罪人である。殺人などの重罪を犯した者には、刑罰として視覚の剥奪が行われるのだ。これを<視刑>という。

<視刑>に処された罪人らはその後、懲役として実戦部隊への参加を強制されるが、彼らのほとんどは喜んでこれを受け入れる。なぜならば、彼らはTUと繋がった時のみ、TUのセンサーを目として視覚を取り戻すことができるからだ。

(便宜名:マノ・リレッケム)は、こうして編成された<真静>の咎人部隊に所属するTUパイロットの一人である。元々無実の罪で<視刑>となった人物であり、自らを陥れ、のちに<御柱>の一柱となった元親友への復讐を生きる動機とする。ステガギガス攻略戦ではボイキド・シャッハを駆り終始最前線で敵を撹乱する奮闘を見せたものの、敵の「鉄壁将軍」ムッグ・アークの策にはまり、作戦は失敗。自機も中破し、マノは命からがらに撤退した。

なおこのとき彼は、捕虜としてトーマス・クリステンセン伍長を連れ帰っている。前線に現れた時代遅れの旧式に視覚的な驚きを覚えていた<真静>は、トーマスを捕虜離れした厚遇でもてなしたという。

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