ボイキド・シャッハ
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Illustration:武者 |
信託軍こと<真静>の宇宙戦用TU。ボイキド・カーレの派生機で、徹底的な装甲の省略と引き換えに桁外れの高機動性を得た機体である。頭部コンテナにはウニ型の機械宙雷が多数収納されており、敵陣の只中に飛び込みつつこれを敷設する戦法を得意とする。命知らずの咎人部隊などに配備された結果、ボイキド・シャッハの撃墜数・被撃墜数はどちらも他機種の追随を許さないものとなった。 パイロット:マノ・リレッケム、他 <マノ・リレッケム> 特筆すべきは彼らの意思疎通方法であろう。彼らは「言葉」ではなく、抽象的な「図形」を共通言語にしたコミュニケーションを行うのだ。発声器官が退化しているわけではないため、その気になれば喋ることも歌うことも可能であるが、彼らにとって声帯を使うのは低俗で下劣な行動に他ならない。上流階級の一部の者に至っては、遺伝子操作によって先天的に声帯が削除されているという。「視覚至上主義」とでも言うべき社会に彼らは生きているのである。 TUはじめとする機動兵器群に特異な色彩や形状が多く見られるのも、彼らのこうした文化ゆえであった。かような社会に生きる人々にとって、視覚を失うこと――失明は、死にも等しい恐怖の対象である。発達したバイオテクノロジーをもつ彼らは先天的・後天的問わず盲目をいとも簡単に治療できるが、唯一、その恩恵を被ることを許されない者たちがいる。罪人である。殺人などの重罪を犯した者には、刑罰として視覚の剥奪が行われるのだ。これを<視刑>という。 <視刑>に処された罪人らはその後、懲役として実戦部隊への参加を強制されるが、彼らのほとんどは喜んでこれを受け入れる。なぜならば、彼らはTUと繋がった時のみ、TUのセンサーを目として視覚を取り戻すことができるからだ。
なおこのとき彼は、捕虜としてトーマス・クリステンセン伍長を連れ帰っている。前線に現れた時代遅れの旧式に視覚的な驚きを覚えていた<真静>は、トーマスを捕虜離れした厚遇でもてなしたという。 |