#0 数字を左右逆さまにして足す

(年末特番 (2005/12/27))

放送で紹介された内容

3桁の数字、例えば125の各桁の数字を左右逆にすると、521。
これをもとの数125を足すと、646。左から読んでも、右から読んでも同じ。回文になっている。
他の数で試しても、やはり、いつかは回文になる。

しかし、196だけは例外。この数はいくら足し合わせても回文的にならない。

数学的なバックグラウンド

実は、これはかなり有名な未解決問題です。
『数学者の密室』6章 自然数の加法回文性に、この問題の解説があります。

要点を述べると、

  1. どのような数でも最終的には必ず回文的になるのか? その証明

  2. あるいは、回文的にならない数があるのか?
    その実例、及びその数が回文的にならないことの証明

  3. 番組で紹介されていた 196 は回文的になるのか、ならないのか? その証明

は、現時点(2006/5/21)では知られていません(現時点でも計算が続行中)。
最近の結果は、

とのことです。いまだに、回文的になるのか、ならないのか、の結論が出ていません。

196の他にもこのような数はあり、例えば 879 も、やはりいつまでたっても回文的になりません。

  1. 879 は回文的になるのか、ならないのか? その証明

  2. 計算を進めていくと、196 と 879 はどこかで同じ値になるのか?
    なるなら、何回目、何桁で一致するのか?
    それとも、まったく別の系列なのか? その証明

についても不明です。

また、89 のように、回文的になるまでに多くの回数の足し算を必要とする数もあります
(24回の足し算が必要)。このような、

  1. 有限回の足し算で回文的となるが、回数がひじょうに多い数

についてもやはり計算が行われており、現時点で最高は、

10442000392399960(17桁の数)

で、236 回目に回文的になるそうです。
とにかくこの問題に関しては、まったく、何もわかっていません。


アマチュアでこの問題を追っている人が何人かいます。
例えば、196が回文的になるかならないかについては、

[1] John Walker, "Three Years Of Computing -
Final Report On The Palindrome Quest", May 25th, 1990
http://www.fourmilab.ch/documents/threeyears/threeyears.html

「3年間の計算 - 回文性探査に関するファイナルレポート」
という感動的なタイトルの論文があり、この計算結果を引き継いだ、

[2] Tim Irvin, "About Two Months of Computing
OR An Addendum to Mr. Walker's Three years of Computing", August 22, 1995
http://www.fourmilab.ch/documents/threeyears/two_months_more.html

という論文がインターネット上で公開されています。
また、

[3] Wade VanLandingham
http://home.cfl.rr.com/p196/

は、196がどうなるかのみを追っているページで、最近では、

とのことです。

[4] Jason Doucette, "196 PALINDROME QUEST"
http://www.jasondoucette.com/worldrecords.html#196

が、たぶん、現在最もシステマチックにこの問題に取り組んでいるページです。


日本語のホームページで最も詳しく書かれているのは、おそらく、

[5] 『数学者の密室』  6章  自然数の加法回文性

です。出版物で紹介された例としては、

[6] 藤村幸三郎、田村三郎、『パズル数学入門』(書名確認できず。現在は絶版)、講談社ブルーバックス、

で、「196の不思議」というようなタイトルで紹介されており、その中で、
「ほとんどの数が回文的になることに関する考察」が紹介されています。

この考察の骨子は、

  1. ひっくり返して足し算をするとき、結局1桁と1桁の足し算の繰り返しとなる。
    1桁と1桁の足し算は、パターンとしては、0+0 から 9+9 までの 100通り。

  2. このうち、桁上がりの可能性がある(和が10以上となる)パターンは、
    45通りで、全体の半分以下。

  3. 桁上がりがなければ、次の桁に影響を与えないので収束しやすくなる。
    桁上がりしないパターンは55通りで、全体の半分以上。

  4. よって、確率的に見ると、任意の1桁の数を2つを選んで足し算を行った時、
    桁上がりをしないケースの方が多いので、
    足し算を何回も繰り返すと、結局回文的になるのであろう。

というロジックです。

ただしこれは、とりあえず全体的な傾向を見るための話であり、
実際に収束する/しない、の証明にはなっていません。

長々と書きましたが、現時点で未解決であることは間違いありません。
もし、解決されれば、インターネットでニュースが流れ、
数学関係者の間では、口コミでも伝わります。
そのぐらい有名な未解決問題です。

インターネットで検索すると、中学等の数学の研究授業で、
生徒に興味を持ってもらうための教材として使われることもあるようです。


最後になりますが、この問題の呼び方について。
回文、英語だと palindromic というのが一般的ですが、 最近では、Lychrel Numbers と呼ばれることもあるようです。

"Math world"
http://mathworld.wolfram.com/LychrelNumber.html

"Wikipedia"
http://en.wikipedia.org/wiki/Lychrel_number

に解説あり。しかし、命名されたのが2002年で、しかも「自分の彼女の名前にちなんで付けた」、
ということなので、さすがに、この名称(Lychrel Numbers)を定着させるのには 無理があるのではないかと思います。


『数学者の密室』 「ゆるナビ」サポート #1 永遠に回り続ける数

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三島 久典