読書記録

2000(平成12)年1月〜6月



<凡例>
冊数タイトル出版社
読了日著者初版
評価 コメント

<ジャンル分け>
理工系 人文系 文学 社会・実用書 未分類

No. 33
2000/06/30
日本探偵小説全集6 小栗虫太郎集 創元推理文庫
小栗虫太郎 1987/11/27

収録作品は、

完全犯罪、後光殺人事件、聖アレキセイ寺院の惨劇、黒死館殺人事件、オフェリア殺し
小栗虫太郎私記塔 晶夫
小伝・小栗虫太郎小栗 宣治
風変りな探偵作家松野 一夫
『黒死館』は、俗に云う「まちがった方向にエネルギーを向けている」の典型。
『哲学者の密室』の「密室についての現象学的考察」もかなり無茶だが、
『黒死館』の場合、もっと飛躍がある、というか、ほとんど無関係と云っても過言ではない。
しかし、はじめてあれをやろうとした意欲は評価したいし、最初に着想した時は、
これによって世界を変えることができるぐらいの興奮を覚えたのではないかと思う。
なんとなく、私生活で真似したいような気がする。

息子さんによる小伝が収穫。
他人が書いたものだと無味乾燥な年代記か、目立つエピソードのみを並べたゴシップ話
になってしまうが、身内ならではの、いろいろ微笑ましい話が詰まっている。

 
No. 32
2000/06/20
メイン・ディッシュ 集英社
北森 鴻 1999/03/31

この人が描写する料理は、本当にうまそうである

 
No. 31
2000/06/19
Notes on Fermat's Last Theorem
フェルマーの最終定理についてのノート
森北出版
Alf van der Poorten 2000/02/29

原著は、このジャンルを概観するためのひじょうによい入門書なのだが、訳がひど過ぎ。
ほとんど、自動翻訳システムの訳文をそのまま使ったのではないか、と思われるような文章。
誤訳を指摘するにも、多過ぎて空しくなってくるが、具体例を示さないで、単なる誹謗と思われては困るので、 一つだけ。
「講義VI」のところ、合同数は、直角三角形の面積を求める問題として生じたものである。
"right-angled triangle" は、正三角形ではない。

 
No. 30
2000/06/18
夢・出逢い・魔性 講談社ノベルス
森 博嗣 2000/05/05

今や作者の興味の対象は、どこまで従来の枠を外せるか、というところにかかっている。
この犯人設定はほとんど反則の領域かも知れないが、この小説において、犯人が誰かは重要ではない。 『封印再度』『今はもうない』と同じ趣向のミスリーディングが隠されている。
このミスリーディングも、序盤のところのある段落で、 意図的に主語を省略することによって導出しているが、 その文だけ単独で読めばそのように解釈できるものの、 その文脈においてそれを主語とするのは、文法的に無理がある。

 
No. 29
2000/06/16
人生テスト 人を動かす4つの力 ダイヤモンド社
岡田 斗司夫 2000/04/21

いつもながら、ひじょうに示唆に富んだ内容。
俗に云う「価値観の相違」というのが、いったい何に起因するのかが書かれている。
しかもそれが、お互いに永遠に認識不可能と云ってよい程の、内在的な行動基準によるものである、
ということが。これを知らなければ、自分の無知から来る不幸にさえ気づかないであろう。

 
No. 28
2000/06/11
海外作家の文章読本 海外作家の仕事場1999 新潮社
新潮クレスト・ブックス特別編集 1999/05/30

今回は科学関係の紹介が多い

 
No. 27
2000/06/09
メフィスト 小説現代5月増刊号 小説現代
  2000/05/15

長い時間をかけて読んだので最初の方は忘れてしまったが、全体に、前号に比べて、見どころが多かった。

上遠野 浩平『ドラゴンフライの空』なかなかよかった。単行本も出たようだ。
恩田 陸『黒と茶の幻想』著者最長の長編連載ということだが、第1回の今回だけでも既に 100頁近くあり、かなり読み応えがあった。今後が楽しみ。
法月 綸太郎『中国蝸牛の謎』は次回解決編だが、楽しみ。
倉阪 鬼一郎『十三の黒い椅子』も、今後の展開が楽しみ。

 
No. 26
2000/06/07
Jミステリ 文藝別冊 河出書房新社
  2000/03/25

全体に枚数が少なく、1つのトピックに見開き2頁しか使っていないので、ひじょうに物足りない。

恩田 陸 へのインタヴューで、

読んでいて貧乏くさい感じのする話だけは書きたくないんですよ。
不毛なトラベル・ミステリとか、ああいうの。
という発言は笑える。

笠井 潔 vs 奥泉 光 の対談は収穫。
最近、よく奥泉 光の名前にぶつかるが、今度一冊読んでみたい。

 
No. 25
2000/05/10
Serendipities: Language & Lunacy (原書) Orion
Umberto Eco 1998

"serendipity" 〜 あてにしなかったものを偶然見つけ出す才能。
第1章の The Force of Falsity を初めとして、誤解及び思い込みから、
意図せず何かを発見してしまった歴史上のいろいろな出来事について書かれている。

ダンテの言語学のところは、一部『完全言語の探求』と重複するところあり。
英語がやさしくて読みやすい。

 
No. 24
2000/05/06
月曜日の水玉模様 集英社
加納 朋子 1998/09/30

「水玉模様」とはネクタイの柄のこと。
毎朝、通勤電車で必ず自分の前に座っているサラリーマンのネクタイの柄が、
実は一週間のローテーションになっていて、月曜日は水玉模様をしている、
ということに気づいたことから、話は始まる。

日常の中の出来事を題材にしているが、当事者はそれを隠し通そうとしているので、
推理でそれを見つけ出す、という行為には意味がある(聞いても教えてもらえる訳ではないので)。
つまり、ちゃんとミステリとして成立している。

 
No. 23
2000/05/02
書斎の造りかた 知のための空間・時間・道具 カッパ・ブックス
林 望 2000/02/29

「書き下ろし」ということで、ところどころ文章が変だが、内容についてはいろいろ肯ける。
特に、

毎日決まった時間帯を自分の時間と決めておけば、土日の昼間がつぶれても、
それは土日を無駄にしたことにはならない、
という発想の転換には、これまでぜんぜん気づかなかった。
これがきっかけで、急に自分のための creative な時間が増えたような気がする。

 
No. 22
2000/05/01
Girl Goddess #9
「少女神」第9号
理論社
Francesca Lia Block
フランチェスカ・リア・ブロック
2000/01

現代版「ナイン・ストーリーズ」という謳い文句ときれいな装丁につられて買ったが、
1話目の『トゥイーティー・スイートピー』で、内容の軽さについて行けず、
そういえば「ライ麦」はぜんぜん面白いと思えなかった、ということを思い出し、挫折しかけたが
(別に読まなければならない、という義務がある訳でもないが)、2話目の『ブルー』から、
だんだん面白くなり出す。

3話目『マンハッタンのドラゴン』は傑作。これだけでも読む価値はある。

 
No. 21
2000/04/28
The burning court
火刑法廷
ハヤカワ文庫
John Dickson Carr
ジョン・ディクスン・カー
1976/05/31

いろいろな書評で「ラストのどんでんがえし」と書かれているが、別にどんでんがえしという程でもないと思う。
このような展開は前に読んだことがあるような気がする。

不可解な出来事と謎がどんどん積み重なっていって、最後に一気に合理的に解決する、
本格物の典型的なスタイル。
日本の最近のミステリが、これら先達のスタイルを模倣している、ということがよくわかる。

 
No. 20
2000/04/23
Orsinian Tales
オルシニア国物語
ハヤカワ文庫
Ursula K. Le Guin
アーシュラ・K・ル・グィン
1988/03/10

その昔原書で読んだが、考えてみるともう20年近くも前の話になる。
当時『ゲド戦記』を読んだ直後だったので、かつ、バンタム版の表紙が、城壁で囲まれた街が、
小高い丘の周りに位置している幻想的なイラストだったので、勝手にSFかファンタジーだろうと判断し、
読んでいて、いろいろ違和感があったことを覚えている。

今回、翻訳で読んでみてよく分かったが、これは、小説、純文学である。
最近の流れで云うなら、新潮クレストあたりで出るのが最もふさわしい。

一番始めの『噴水(The Fountains)』は好きな作品。
噴水の水が吹き上がっている状態を描写した文章を読んだ記憶がなかったので、
そういえば、日本語ではどのように表現するのだろう、と考えたことを思い出す。

 
No. 19
2000/04/17
象と耳鳴り 祥伝社
恩田 陸 1999/11/10

再び、海と母親。伊東沖に上がった人魚。
「魔術師」は、久しぶりに仙台に帰った時の書き下ろしか。

「海にゐるのは人魚ではない」

中原中也か。昔はよく詩を読んだものだったが。あの時代の詩人たちの、東洋と西洋の狭間 ――または近代と現代の狭間の、日本語がいちばんなまめかしかった時代の詩は もう二度と現われないだろう。

 
No. 18
2000/04/07
史上最強のオタク座談会 (2) 回収 音楽専科社
岡田 斗司夫/田中 公平/山本 弘 2000/04/07

田中公平の、3日半で79曲書く話がすごい

 
No. 17
2000/03/31
冥府神の産声 カッパ・ノベルス
北森 鴻 1997/04/20

「アヌビス」と読む。
新宿西口の描写、或いは、九条昭彦の達観は、『花の下にて春死なむ』の『終の棲み家』の雰囲気に似ている。

 
No. 16
2000/03/24
数理科学 1994/8 数論の不思議な世界 サイエンス社
  1994/08/01

1994 はフェルマー予想が解決された年で、その年に出された特集が、今読んでも古くない
(現在に至るまで、あまりめざましい進展がない)というところが面白い。

 
No. 15
2000/03/22
幻想文学 55 ミステリ vs 幻想文学 アトリエOCTA
  1999/05/31

石堂藍、BOOK GUIDE『幻想ミステリ 過剰と逸脱と越境の系譜』の、思い切りのよい解説がよい。
このように書かれると信頼できる。
尾之上浩司『奇妙な味の作品群』も、ジャック・フィニイ、ロバート・シェクリイ、シオドア・スタージョン、
ゼナ・ヘンダースン等、懐かしい名前がならんでいる。
服部正『ミステリーの刻印あるいは赤い本青い本』。これを読むまでボルヘスの『八岐の園』は忘れていた。ミステリーだとも思っていなかった。

 
No. 14
2000/03/08
ユリイカ 1999 12 ミステリ・ルネッサンス 青土社
  1999/12/01

光原百合はこの特集で見つけた

 
No. 13
2000/02/25
現代数学の土壌 ― 数学をささえる基本概念 日本評論社
上野 健爾、志賀 浩二、砂田 利一 編 2000/02/10

『数学のたのしみ』の同タイトルの総集編。掲載内容は、

集合、測度、群、2次形式、ホモロジー、特性類、 スペクトル、波動、接続、曲率、層、消滅定理
の12編。現在も継続中なので、続編も出る予定らしい。

一般向けとしては、かなりレベル高め。大学3〜4年ぐらいか。
こういうのを読むと、自分がちゃんと勉強していなかったことがよくわかる。

 
No. 12
2000/02/16
時計を忘れて森へいこう 東京創元社
光原 百合 1998/04/30

このような、殺人の起こらないミステリーというのがいくつかあるが、
この作品に限ってはミステリである必然性はないと思う。
それとも、ミステリだと思って読んでいる自分が間違っているのか。

他の作品も読みたいが、今のところ、出ていないようだ。

 
No. 11
2000/02/08
暗号と情報社会 文春新書
辻井 重男 1999/12/20

歴史の部分はおもしろい。
具体的な仕組み以外のところで十分わかりやすいので、 仕組みの説明を無理に文章でやる必要はないような気がする。

 
No. 10
2000/02/03
月は幽咽のデバイス 講談社ノベルス
森 博嗣 2000/01/05

こういう大技に関しては「島田荘司的」という形容詞を冠せられることが多いが、
実際はこの人も、このようなことを頻繁に行っている。

 
No. 9
2000/01/31
QED ベイカー街の問題 講談社ノベルス
高田 崇史 2000/01/05

この作風を貫くなら、1年に1冊のペースになってしまうであろう。
いつもながら、謎解きの部分はどうでもよい。

 
No. 8
2000/01/30
夕ばえ作戦 ハルキ文庫
光瀬 龍 1999/10/18

『夕ばえ作戦』『暁はただ銀色』の2作。
TV版(「少年ドラマシリーズ」)と比較すると、

  • 結末が微妙に違う(ような気がする)
  • 全体に素朴な感じ。特に『暁』は、TV版では(当時の社会問題だった)公害・環境汚染と絡めた ハードな展開で、何よりもテレサ野田の存在感が強烈だった。

光瀬 龍は去年(1999)7月死去。
『百億の昼と千億の夜』のあとがきで、自分は芝居が好きだが、ステージが終わった後のカーテンコールで
俳優が舞台に顔を出すのは、現実に引き戻されるようで興ざめだ、というような主旨のことを書いていた。
何も言わず、作品は作品として楽しむことにする。

 
No. 7
2000/01/21
小説新潮 2000 1 新潮社
  2000/01/01

『いかりや長介自伝』が目当て。なかなかよかった。
それ以外については全体に「物語をこのように大量生産して、消費していいのか」と思ってしまうようなものばかり。
その存在自体に何の新しさもない。読んで見て新しさを感じたのは以下の作品。

  • 戸梶圭太『ターゲット508』
    無意味な迫力と緊張感がよい。
  • 鯨統一郎『世界は水からできている』
    レギュラー(であろう)2名がいるにもかかわらず、通りすがりのものに問題を解かれてしまう、
    というのが面白い。歳下のエリート警部が、いろいろな出来事に対して、
    徹底して見下したような感想を披露するが、その的のずれ方も面白い。
  • 平岩弓枝『象太鼓』
    ストーリ自体が面白い。
これ以外は、ミステリーは謎解きという緊張を持続させる構造を持っているからまだしも、 純文系はつまらないテレビドラマのようで、 こんなものをわざわざ活字で読んでしまったという時間の無駄感がひしひしと湧いてくる。
連載マンガは、絵も下手で、話もつまらなくて、まさに、少年・青年週刊雑誌の出がらし。

やっと読み終わったと思ったら、2月号が出ていた。
これ程までに大量の物語を摂取したがる読者というのは、本当に存在するのか。

 
No. 6
2000/01/23
メフィスト 小説現代1月増刊号 講談社
  2000/01/16

今回は特にどうということはない。創刊の頃のスピリッツは興味がなくても一応全作品を読んでいたが、その頃のような感じ。

 
No. 5
2000/01/21
いちばん初めにあった海 角川書店
加納 朋子 1996/08/30
コメント
 
No. 4
2000/01/17
ガラスの麒麟 講談社
加納 朋子 1997/08/25

この世界では、毎回探偵役が平和的な解決策をもたらしてくれて、そのような人が現実にいてほしくなるような 幻想を抱いてしまうが、各人とも心の中に深刻な悩みを抱えていて、冷静になって考えてみると、きつい世界ではある。

 
No. 3
2000/01/11
熾天使の夏 講談社
笠井 潔 1997/07/07

『限りなく透明に近いブルー』と『死霊』を足して2で割ったような感じ

 
No. 2
2000/01/10
平安の春 講談社学術文庫
角田 文衛 1999/01/10

この本を読むまでは思ってもみなくて、かつ考えようとも思わない話がいろいろ解説されており、
それが、あらためて指摘されてみると、まさに目からうろこが落ちるような、そういう内容の本。
例えば、

  • 王朝貴族の婚姻圏
     〜 一見放埓に見える王朝貴族の婚姻圏が、実際には、ごく身内の範囲内に限定されていたこと。
  • 院宮の女房たち
     〜 何よりも、彼女たちが公務員であること。
       かつ、本庁採用(キャリア)とノンキャリ組がいること。
  • 義経と平泉
     〜 まずは義経の正史(31歳で自らの命を絶つ)を紹介。
       いろいろな伝説は、単なる虚構として一蹴。
  • 実朝の首
     〜 半丈六の木造阿弥陀如来坐像の胎内に実朝の鬢髪が収められている可能性を示唆。
      (しかし、平成2〜3年の解体修理で、何もなかったことが判明)
  • 恨めしい応仁の乱
     〜 政治的な位置付けは別にして、この争いで、大量の文献が失われてしまったこと。

 
No. 1
2000/01/05
論理学 東京大学出版会
野矢 茂樹 1994/02/20

命題論理、述語論理、ラッセルのパラドクス、直観主義論理、と続き、不完全性定理まで。
これを読んで、不完全性定理についてこれまで誤解していたことがよくわかった。
竹内薫が参考文献としてあげているのもよくわかる。まるで同じスタイルだから。
つまり、難解な概念も、変な比喩に頼らず、そのまま説明を試みる。
読む立場としては、十分理解できなくても、それは説明が悪いのではなく、自分の読み込みが足りないのだ、
と思えるぐらい平易で十分な解説。



読書記録 1999
(平成11年)7月〜12月
『枕草子*砂の本』 読書記録 2000
(平成12年)7月〜12月

E-mail : kc2h-msm@asahi-net.or.jp
三島 久典