小川芋銭の絵を見に行った。小川芋銭は「カッパの芋銭」と呼ばれたほど、カッパの絵をよく描いた。カッパ以外にも妖怪や魑魅魍魎の類いも多く描いている。牛久沼のほとりに住み、夕暮れなどには沼に妖怪がよく現れた。少なくとも芋銭の目にはそのように見えたようだ。芋銭の描く妖怪たちに怖い感じは受けない。むしろ優しく、親しみやすい表情をしている。
その芋銭の絵が茨城県立近代美術館で公開されていたので、行ってみたのだ。水戸市の千波湖のほとりに整備された公園内のきもちのいい場所にある。偕楽園はその対岸にある。良く晴れた天気の良い日で、秋の日差しが心地好い。
美術館に行って見ると大きく「ドイツ表現主義の芸術展」と書かれた看板がかかげられていた。「あれ?芋銭展じゃなかったのかな?」と思って探してみると、常設展示室でひっそりとやっていたのだった。
そんなわけで、常設展の料金で入ることができた。
出てから気がついたのだが、企画展の「ドイツ表現主義の芸術展」ではカンディンスキーの絵が出ていたらしい。「ドイツ表現主義」と言われてもピンと来なかったのだが、カンディンスキーがあるなら、見てもよかった。
常設展示室に入る。最初に目に入ったのは、老婆を描いた油絵だった。意外に思ったが、芋銭が最初に学んだ絵は油絵だったのだ。そして、後に日本画を独学で学んだ。
芋銭の絵は日本画というよりは文人画と言った方がふさわしく、絵のうまさというよりは、親しみやすい柔らかな感じを楽しむものだ。
水辺のほとりなどの妖怪たちの楽しげな世界にしばし現実を忘れて楽しんでいた時のことだった。近くで絵を見ていたおじさんがいきなり放屁した。隠れるように「ぷ」という音を出したのではなく、体に溜ったすべての気体を最後まで音を出しながら放出したのだ。
静かな美術館のこと、その音は室内に大きく響いた。まったくの確信犯である。当人は何事もなかったかのように、どこかに去っていった。
その出来事にびっくりしたものだが、その先にあった芋銭の絵を見て納得した。それは巻物なのだが、始めに多くの男達が芋やご飯を食べている絵が描かれている。男達は食べ終わったところで、おもむろに尻をめくり、放屁している。二人が放った屁が空中でぶつかっていたりして、ものすごい。しまいには、近くにいた動物達も鼻をつまんで退出する始末だ。
さっきのおじさんもこの絵の登場人物だったのか。
それに、ここ水戸は黄門様のゆかりの地ではないか。妙に納得した。
(2002/10/13)
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