頑固な文庫読者
この本を読んだぞ 1999年前半
本を買って読めればいいけど、時間がなかったり、読むタイミングを逸してしまったり、という難関を克服した完読本の感想をつらつらと書き込んでおります。
この中で「これはこれは」な本になるものが出てくればいいのですが。
完読本(1999/01〜06)
- 『パラサイト日本人論』 竹内久美子著 文春文庫 た−33−4 429円+税
副題として「ウイルスがつくった日本人のこころ」
今じゃ、パラサイトといっても通じることが多いです。勿論『パラサイト・イブ』のヒットによるものです。ミトコンドリアもメジャーな言葉になったのかな。高校の生物の時間で習った記憶がありますね。
内容としては『小さな悪魔の背中の窪み』に通じる、というかその延長上にあるものです。したがって、詳しくは言えませんが、そちらを先に読んでおいた方がいいです。
ところで、僕は気がつきました。
この本をハナから信じてはいけない。
見かけはデータを各所から引っ張ってきて、それらしい理論的な組立をしているように思われる。著者の言葉は途中で力強くなってくるのだが、その章の終わりになってくるとトーンが落ちてくる(というか、断定的な言葉がなくなってくる)のだ。
全体の印象としては、この途中の力強さに引っ張られてしまうのだが、読み終わってみるとなんだか物足りないのは、こういう部分にあるのかもしれないね。
とはいえ、またまた目からウロコの本には違いない。
19990619
- 『玉人』 宮城谷昌光著 新潮文庫 み−25−5 438円+税
帯には「6つのミステリー、6つの恋物語。」と書かれているが、どう考えてもミステリーが6つとは思えんぞ(笑)。きっと、浅い読み方をしていたからだと思う。
それはさておき、圧縮され濃縮された、という感じは十分します。別に、激した言葉が頻出するとかいうことはないのに、知らない間に外堀を埋められていた、ようなと言ったらいいのかな。
個々の物語で気になった点。これは実生活とはかけ離れた小説独特の点なのですが、時間の省略のことです。
たとえば大切な人と一時離れなければならなくなったら。
実際の生活ならば、一日とおかず考えないわけにはいかないのです。しかし、小説ならば大胆にその部分を省略できてしまう。しかも、再会の時、まるでその時間のことがなかったかのように(とは限らないが)、実現の運びとなるのです。
既に、文字になってしまった瞬間から、全てのことはフィクションになってしまうのかな、と思いました。
ともかく、宮城谷ファンならば、あるいはそうでなくとも、読めば何となくしっとりと、それでいて力強い男と女の話を楽しむことができます。
19990619
- 『ご立派すぎて』 鈴木輝一郎著 講談社文庫 す−18−1 467円+税
Eさんからいただきました。ありがとうございました。
一言でいってしまえば「お見合いの話」ということになります。ところが、一言では済まないのが主人公のお見合いの数々。
無条件で面白いです。
お見合いをこなしていく主人公の「成長度」というか「慣れ度」というか。
それとともに、小説家を目指している主人公自体の目的意識もハッキリしてくる。
なにしろ、面白い。
巻末にある「お見合い対談」も、著者と同じように多数のお見合いを経験している人との対談で、これまた面白い。(なんか、繰り返してますけど、面白いですよ〜)
19990605
- 『ジュンとひみつの友だち』 佐藤さとる著 岩波少年文庫 1054 631円+税
Tさんからこの本を教えてもらいました。ありがとうございました。
小学3年生のジュンと、鉄塔のおばけかもしれない友だちジュウゴ。向こう側の丘の上に見えるダイスケ鉄塔。手作りの小屋。
鉄塔を題材に、こんな夢のある物語ができるなんて。僕は電車に揺られながら、瞬く間に後方に飛んでゆく鉄塔と、本のページを交互に追っていたような気がします。
ラストで明らかになる友だちの秘密。それは遠い過去の物語ともつながっています。
そう。つながっているのです。
そして、そのつながりが切れてしまう瞬間。ちょっとページをめくるのが辛くなります。
子供向けの本なので、僕にとっては逆に読みにくく、鉄塔の描写についても変なところがありますけど、そんなことは小さく思えます。物語の流れが気持ちいいです。
ジュンの周りにいる大人達の行動も、ジュンの行動に深く介入せず、かといって、無責任でもない。大人が読んでも何かしら得るところがあるのでは無かろうか。
19990530
- 『イエスタデイ』 清水義範著 講談社文庫 し−31−18 467円+税
題名の通り、昨日のことのように感じるものごとについて。
僕は著者より一回り近くは若いので、これを読んで直接「懐かしい」とか「そうそう、そんなこともあった」と思えるのはそう多くない。でも「そうだった筈だ」と思えてしまうことは数え切れないほどある。
多分、僕よりも一回り若い人たちには、なんだかつかみ所のない話であったり、書かれている内容(著者の学生時代を思わせる)が将にその人達のまっただ中についてであったりするから、
僕の持つ感想とは違うものになるはずだ。
少なくとも、僕にはほとんど記憶のないことであるが、落ちが気に入って、鼻の奥がつ〜んときてしまった作品は「時間線下り列車」であった。
19990528
- 『ナースキャップは「ききみみずきん」』 宮内美沙子著 角川文庫 み−20−3 480円+税
このところ、看護婦さんの書いた本を立て続けに読んでます。
この本は、少し前に読んだ宮子あずささんや小林光恵さんの本とは、ちょっと傾向が違います。というのも、看護婦のおかれている状況、医療現場の問題について、より突っ込んだ話が出てくるからです。
ただ、この本(の単行本)が出版されたのが11年前ですから、現在の状況とは違っている部分もあるかもしれません。あるいは、より悪い状況になっているのかもしれません。
印象的なのは、III章の「看護は、いま」という部分です。
憤りというか、叫びというか、ひしひしと伝わってきます。本当にこのままで大丈夫なのだろうか。あるいは、この方向で大丈夫なのだろうか。そういう疑問が頭の中から離れません。
もし、入院することになったら、患者の僕にとって最も近い存在は看護婦さんなのです。その看護婦さんの世界、あるいは医療の世界に、こんなにも解決しなければならない問題があるなんて。
しわ寄せは弱い部分にくるんですよ、きっと。そして、最も弱い部分にも。
19990514
- 『内科病棟24時』 宮子あずさ著 講談社文庫 み−43−3 512円+税
副題『生命を愛する看護婦たちの物語』
一寸前に読んだ『看護婦だからできること』のノンフィクション風といった味付けの本です。
看護婦になって6年目になる主人公の目から見る看護婦の周りの世界。
6年ともなると、中堅と呼べるのかどうかは知りませんけど、患者やその家族、医師との関わりについて、自分なりのスタンスが固まってきているのでしょう。いろいろな場面に遭遇するのですが、ゆれることはあっても不安定ではない、という感じを受けます。
逆に、そうでなくては看護婦という職業をやっていけないのかもしれない。
この本を読むとき、自分がどちらの立場で字を追っているのか、ふと考えてみた。
実は、主人公の目を通して、患者の立場で読んでいたような感じがする。いつか、そういう状況になるかもしれないということに備えていたんだと思う(前にも書いたけど)。
健康診断の時以外に看護婦さんを目にすることがないもんで、僕はこういう本を読んで事前に情報を仕入れているという気もするなぁ。だけど、病気とか、生き死にの話って、人の本質を考えさせられて、それはそれで引き寄せられる分野なのです。
19990514
- 『犯人のいない殺人の夜』 東野圭吾著 光文社文庫 ひ−6−5 552円+税
最近、ミステリを読んでないので、一寸心配していたんですが、短編集だけあってすんなり読めました。というより、多少の物足りなさを感じたくらい。
短編の構成上、犯人というか、キーポイントとなる人物がすぐに分かってしまうので、そこら辺からくる印象が、物足りなさにつながるのだと思う。ただ、これが中長編だと、きっと僕は読んでいる途中で疲れてしまうに違いない。
物足りなさとは逆に、物語のシンプルさからくるストレートさというのが現れてくる気がします。
19990512
- 『人生の達人』 夏目房之介著 小学館文庫 な−1−2 600円+税
副題として、『凡人観察法』
書店に並んだときすぐに買ってはいたのだが、半ばお蔵入り状態だったのをEさんが復活させてくれた。ありがとう。
内容はというと、よく眼にする、笑ってしまう一こまや、うなってしまう場面、冷や汗をかきそうな瞬間、をおもしろおかしくまとめたもの。とでも言えばいいのかな。
たとえば、
「変幻お見送り忍者」「哀惜の銭湯的達人」「食品売場の大岡裁き」「律儀なる駅弁」
などなど。
きっと、一度は眼にしたことがある場面に違いない。少なくとも、僕にはある(という記憶がある)。
どこが「達人」だ?と言えなくもない。だけど、そう言われればそういう気もする、という微妙なところを突いてくるので、読んでいても安心できません。また、知らず知らずのうちに、「達人」の域に達している部分もあるかもね。僕のような凡人にでも。
19990429
- 『新解さんの謎』 赤瀬川原平著 文春文庫 あ−36−1 448円+税
実は、単行本発売当時に立ち読みしていたので、買わなくてもよかったんですが、やはり買ってしまいました(笑)。
この本に影響されて、当時国語辞典を持っていなかった僕は、お札を握りしめて本屋に向かったのです。それほど衝撃的な内容だったと言えます。
しかし、あらためて読み直してみると、「新解さんの謎」という部分は確かに面白いのですが、その後にある「紙がみの消息」というところがそれ以上に面白い。
特に、余白に関する考察、紙の消費に関する考察が秀逸。
僕も本読みの端くれとして、そういう考えを素通りしてきてしまったのが悔やまれる(というかなんというか(笑))
19990425
- 『看護婦だからできること』 宮子あずさ著 集英社文庫 み−23−2 533円+税
前回書き込んだ本が看護婦さんのお話で、今回も看護婦さんの本です。たまたま今月は、この本の他に他社からも宮子あずささんの本が出てます。(既に買ってあり、近いうちに読む予定です(笑))
この人、看護婦という職業が好きで好きでたまらない。本からこぼれるくらいの思いであふれそうです。
「看護婦だからできること」
「看護婦だけどできること」
「看護婦だけどできないこと」
こういうことが沢山書かれています。看護婦自身のこと。看護のこと。患者のこと。病院のこと。そして、自分のこと。
何しろ「前向き」。自信と反省。
もしお世話になるとしたら、こういう人に看護してもらいたい、と誰もが思うことでしょう。もちろん僕もです。
さて、これだけ前向きな本を読んでしまうと、自分の仕事や生活を振り返りたくないと思ってしまう。この点については罪な本です(笑)
19990424
- 『ナースをねらえ!』 小林光恵著 幻冬舎文庫 こ−5−3 743円+税
看護学校に入学してからナースとして仕事をし始めるあたりにあった出来事を纏めたもののようです。笑ってしまう話や、じーんとくる話など、このての話が好きな僕にとっては、あっという間に読めてしまいました。
とはいえ、看護学校の内部状況(笑)が、普通の学校と変わらない(もちろん専門分野を学ぶのですから、それなりの苦労はあると思いますけど)のにはちょっと驚きました。
本人にとっては、何となく選んだ道かもしれないのですが、看護の道をぐいぐいと進んでいくところを読んでいくうちに、まるで看護婦になるためにえらばれたようにも思えます。やっぱり適性というようなものがあったのでしょう。
幸い(というか何というか)、看護婦さんにお世話になることは今までないのですが、いざというときのための心構えにもいいかも。
19990418
- 『江戸前の男 春風亭柳朝一代記』 吉川潮著 新潮文庫 よ−21−1 743円+税
この人の弟子の一人が、春風亭小朝である。
残念なことに、師匠であるこの人、春風亭柳朝については記憶がありません。読んでいる途中で、顔写真さえ見ることが出来ればどんな人か思い出せるかも、と落語辞典のようなもので確認しましたが、やはり記憶がない。
本当に残念。
とはいうものの、この本を読み進めていくうちに、僕の柳朝というものができあがってきます。タイトルである「江戸前の男」。見栄っ張りで、甘えん坊で、しゃれていて、おかしい。落語の世界で生きていくことの楽しさと、その裏側。
各章は落語の出し物となっていて、いろいろな噺の断片があちらこちらにちりばめられている。(少なくとも落ちを知っていた噺は「火焔太鼓」しかなかったが(笑)) そして、柳朝が入門し、活躍、そして夢を見るまでが、落語界の歴史と共にわかるのも楽しい。思いがけない人々との関係も。
なにしろ、最初のページからして泣けてくる。そして、最期のページに達すると、これまた泣けます。一人の落語家の、粋を通した春風亭柳朝としての噺。まさに噺です。落ちを楽しむためには、そこまでの544ページを読まなきゃなりませんが、そんなの、あっという間です。もちろん、落語に詳しくなくたって大丈夫。僕だってそうだから。漢字が読めれば、ね。
19990413
- 『ハリボテの町<通勤篇>』 木下直之著 朝日文庫 き−14−1 680円+税
帯には『奇妙な風景が奇妙になったわけ』と書かれている。
僕のようなWebPageをこしらえている人たちには、ちょっと気になる本でしょう。
街中にある、何気ない風景の、何でもないモノ。だけど、何か引っかかる。ちょっと待ってよ、と言いたげにこちらを向いている、そのモノたち。
そんなモノの写真と、そんなモノに対する言葉たち。
いやぁ、いいなぁ、いいなぁ。
僕も、この人の目の領域に、少しでも近づきたいもんです。
もっと身の周りの風景を見ようよ。そう言いたくなる本です。
19990412
- 『アマニタ・パンセリナ』 中島らも著 集英社文庫 な−23−14 457円+税
ガマ、睡眠薬、阿片、せき止めシロップ、・・・、そしてアルコール。
人間にとって、ドラッグとはなんなんだろう。
実体験(?)も混ぜて、そこら辺のところを鋭くえぐる、というかのめり込んでゆくドラッグのお話。なんと言っても、中島らも本人を含め、ドラッグを使う人々を突き放して眺めているという感じが変である。変というのは内容ではなく、視点がである。自分のことは棚に上げて、それでもドラッグについて客観的立場の視点。
自分の命をあやうく失うことになっても。
それを「淘汰」だと言う。
そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。でも、そうなのかもしれない。
僕にはわからない。
19990405
- 『女文士』 林真理子著 新潮文庫 は−18−7 514円+税
眞杉静枝。
僕は全く彼女の名を知らなかった。書名の『女文士』とは、勿論彼女のことを指す。そして、当時の女性作家達をも。
前回読んだ『思いのままに生きて』の宇野千代と同じ時期に活動していたのであるが、作家としての活躍は、今ひとつ。しかし、武者小路実篤、中村地平、中山義秀など、男と共にあるとき、脚光を浴びる。
またしても、僕には理解できない生き方。
読んでいる途中で、なぜか尾崎豊の唄にあった『僕が僕であるために、勝ち続けなきゃならない』という歌詞を思い出した。眞杉静枝は、自分の生き方で勝ち続けていたのだろうか? それとも、勝とうとしていたのだろうか?
男を手に入れることは、勝っている自分を見つけるためだったのだろうか?
僕には、勝ったという幻想の上で生きていたようにしか思えない。それ以前に、勝ということは何なんだ。疑問の上に疑問を重ねつつ、読み終えた。
(これまた、Eさんからいただいた本。(宇野千代の本も) 続けて読んで、面白さが倍増しました。対照的な生き方をした二人の本でした)
19990402
- 『思いのままに生きて』 宇野千代著 集英社文庫 う−1−18 400円+税
副題として、「私の文学的回想記」。
人の記憶のあやふやさ、危うさ、を感じます。決して、この本に書かれている内容が信用に足らない、ということではありません。自分自身に当てはめてみて、はたして、これほどあからさまに書き残せるほどの記憶を保っていられるか、ということに。
45の回想それぞれには、いろいろな題が付けられている。そのどれもが印象的。
しかし、まさに「思いのままに生きて」きた内容については、そもそも性別が違うこともあり、理解とか納得とかから程遠いところにあります。同性であってもそうかもしれません。そこが宇野千代の宇野千代たる部分なのかもしれませんが。
19990326
- 『ばかのたば』 わかぎえふ著 集英社文庫 わ−8−2 476円+税
人ごとじゃないんだから、やになっちまう。
この本を読んで、自分に全く関係ない話だと思ったら、大間違いですぜ。多かれ少なかれ、あるいは、引き合いに出されている人々の行動に、かすってるかもしれない。
ひょっとすると、自分に当てはまることにも気付かず、ケラケラと笑っているのかもしれないのだ。
かくいう僕も、読んでいる最中に付箋を7枚貼っちまいました。
でも、読み終わったらスカッとしますよ。世の中四角四面の人ばかりじゃつまらないもんね。ばかのたばの一本にでも入れりゃ、きっとみんなも自分も楽しいに違いない。
(『OL放浪記』とともに、この本もEさんからの頂き物です。ありがとうございました)
19990321
- 『永遠のタージ』 清水義範著 角川文庫 し−11−14 476円+税
残念ながら、インドについては詳しくないので、タージ・マハルという建造物が、どれほどのモノだかわからない。もちろん、なんのためのモノかもわからない。
清水義範といえばパスティーシュ、とすぐに結びついてしまうのですが、この本は違います。インドの歴史、ムガール帝国時代の話です。
で、タージ・マハルとは何か?
五代皇帝シャー・ジャハーンの妻アルジュマンド・バーヌー(後のムムターズ・マハル)の廟なのである。タージ・マハルとは、この名前からきているのです。なぜ、この廟を造ることになったのか。ムガール帝国とはどんな国だったのか。歴代皇帝の生き方とは?
権力争いといえば、まして国家をめぐるものであれば熾烈を極めるのは、この本を読まずともいくらでもあります。ただ、共通することは、その裏にある苦悩。そして、男たちを支える女でもあるのです。
清水義範作品として、こういうモノが読めるのかと、ちょっとビックリしました。
19990319
- 『OL放浪記』 わかぎえふ著 集英社文庫 わ−8−1 476円+税
やっぱり、色んな所に出入りする機会があると、面白い話はころがっているもんだな。
なかでも、「選挙・芝居酷似論」はすごい。選挙カーのウグイス嬢をやった経験から出てきたそうなのだが、そういわれればそういう気がしてくる。
『 国会議員=スター 』
という図式は、いまではちょっと違ってくるのだろう。是非、次の国政選挙あたりで解説してもらいたいモノだ。
また、中島らも氏と劇団をやっているという情報はどこからか仕入れて知っていたのだけれど、この本に出てくる情景を思い浮かべると、とんでもない所みたいだ(笑)。それに、この人がいなければ、さらにとんでもない状態になってしまうに違いないほど、すごい統率力と能力をもっているのでしょう。
そんなひとが、あれこれ笑ってしまうネタを披露してくれるんだから、面白くないはずがない。
19990314
- 『バガージマヌパナス わが島のはなし』 池上永一著 文春文庫 い−39−1 562円+税
読み始めてしばらくすると、自分がそこにいる二人の後ろから、掛け合いを聞いているような錯覚を覚えた。その二人とは、19歳の綾乃と86歳のオージャーガンマー。この本の二人の主人公である。
沖縄。巫女。神様。
奔放さと自分に忠実な生活、流れる時間。沖縄方言の独特の雰囲気に飲み込まれてしまう。
そんな中、神様からユタ(巫女)になるよう告げられた綾乃はどうするのか?
前半の緩やかな進行が、後半になると急激に登りつめるような感じになり、あれよあれよという間に二人の転機が訪れる。
きっとこれは『死』について語りたかったに違いない。僕はそう思う。死んでいった人たちと、まだ生きている人たちをつなげる物語。沖縄の舞台を借りて。後半に出てくる消えてゆく魂のイメージを感じて欲しい。
まぁ、なんとも言えない雰囲気の塊。言葉にならないです。
騙されたと思って、よんでみ?
なお、154ページにある「楽譜」を演奏できる人は、是非とも弾いてみるべし。
19990309
- 『それでも建てたい家』 宮脇檀著 新潮文庫 み−23−2 438円+税
「家」って一体何なんでしょう。
僕は今のところ全然興味はないのですが、「家」そのものについて、いかに知らないことが多いかということを嫌と言うほど教えてくれます。
本の中で何度も書かれているのですが、雑誌や広告に載っていることがどれだけ実生活に照らして重要なことか? 理想と現実はどれだけ乖離しているか。「家」を建てたい、欲しいと思っている人には必読中の必読本です。
この本を読んで、少しは冷静になって考えてみましょう。
ただ、書かれた時期が、まだ景気のいい頃だったからかなのでしょう。そして、職人の質についてはさらに悪い状況になっていることでしょう。(最近は不良住宅のニュースに事欠かないですもんね)
実は、この本を読んで一番驚いたことはこれ。
「戦艦大和の図面はすべて、一旦原寸図面にした」
ひぇ〜〜。
19990301
- 『色を奏でる』 志村ふくみ・文 井上隆雄・写真 ちくま文庫 し−14−1 1000円+税
これは、完全に表紙だけで買ってしまった本。だけど、大当たりでした。
自然からいただく色、蚕からいただく糸、そして機を織る。単純なようでどこまでも深い。
幸か不幸か、僕はこの分野のことが全然わからず、なおかつ植物の名前もよく知らないので、飛び込んでくる文字や、布の写真がとても新鮮に感じました。
自然の緑から、直接緑色の糸を染色することは出来ないのだそうです。植物の基本は緑色なのに、我々はそんなことさえ出来ない。不思議なことです。(緑は青と黄色から作る)
たぶん、こういう世界に身を置いている人って、そうはいないはず。是非、写真だけでもご覧になることをオススメします。奏でられる色、お楽しみいただけると思います。
19990221
- 『小さな悪魔の背中の窪み』 竹内久美子著 新潮文庫 た−49−3 400円+税
副題として「血液型・病気・恋愛の真実」
といっても、巷にころがっているお気楽系の読み物とは違いますので注意。
竹内久美子ときいて、ピーンと来た人。またまた吃驚仰天の時間がやってまいりました〜、というわけなんですよ。
ABO血液型と病気の関係から性格分析をするのだ。はじめて知りましたが、なるほどと思います。
ここまでは、前置きみたいなもんです。
おそらく、この本の中で重きを置いているのが寄生者(パラサイト)仮説であろう。生物は寄生虫や病原体などとの攻防が進化、あるいは恋愛までに影響する(らしい)というのだ。これまた、読んでいたらだれでも納得してしまうに違いない。
とにかく、竹内久美子の本を何か1冊読んだことのある人は、手にとって見よ。
なお、血液型性格論で前々から疑問に思っていた、「Rh+/-」とか「MN」とかは(もしあるとしたら)性格に影響しないのか、ということに一つの回答がありました。のどにつかえたご飯を飲み込めたような気分です。だって、ABOだけだったら性格は4種類だけじゃん。そんなの絶対おかしいもんね。
19990218
- 『阿川佐和子のこの人に会いたい』 阿川佐和子著 文春文庫 あ−23−2 505円+税
22人の人々との対談集。
時期的に「ジャイアント馬場」との対談には涙が出てくる。僕はほとんど記憶にはないのだけど、地元に興業に来た際、リングサイドに近いところで見ていたらしい。そのあと寿司屋で寿司を食ったことはハッキリと覚えているのだが。
はなしをもどして。
ちょうどTVで「最期の晩餐」という企画の再放送をやっていた。それによると馬場さんは大福を食べたい、と言われていた(ように記憶している)が、その希望は叶えられたのであろうか。
「怪我とか病気でレスリングを続けることが不可能になった」らやめる、というところで対談は締めくくられていた。奇しくもその通りになってしまった。
「若ノ花勝」「山崎豊子」「勝新太郎」「萩原健一」「石原まき子」・・・。
22人との対話の中で、それもそうだな、と思う部分が多分見つかるはずだ。ただ、それが自分に当てはまるかどうかは別。だって、別の生き方をしている人たちだもの。
(この本はEさんからいただきました。ありがとうございました)
19990217
- 『吟醸酒の来た道』 篠田次郎著 中公文庫 し−32−2 933円+税
この本は『吟醸酒誕生』の続編にあたります。
しかし、続編とはいえども、こちらの方が吟醸酒を醸す方法を探し出す人々の動きが見えてきます。
タンク、釜、精米、搾り、酵母、麹。それぞれの方法を経験から、観察から、理論からと、あらゆる角度から攻めていき、一段々々と高みに登っていく様子は、ゾクゾクとするほどの物語になっています。
実は『夏子の酒』という漫画を読んでおり、それと重なる部分もあって目頭があつくなる部分も何ヶ所かありました。
一つ驚いたこと。高圧線や引き込み線を絶縁するための碍子を作る日本碍子という会社が酒造りに一役かっていたということ。いやぁ、思いがけない繋がりってあるもんです。
19990207
- 『王女マメーリア』 ロアルド・ダール著 ハヤカワ文庫 HMタ−1−6 560円+税
期待していなかったんだけど、これはもうキレキレの凄い本でした。
9編の短編が収められていて、どれを読んでもスパッと切られてしまいます。
特におすすめは「ボティボル氏」。
おうちで指揮者、という本をご存じだろうか? このボティボル氏は成功したことがないと悩んでいるのだが、作曲者、指揮者を模して行動することに喜びを見いだす。途中の異様な盛り上がり方にゾッとするほどの汗をかき、そして最後のシーンでその倍もの汗をかくこと、うけあい。
「ヒッチハイカー」「アンブレラマン」「”復讐するは我にあり”会社」「古本屋」という商売。さて、どんな商売かはお楽しみ。
繰り返すが、キレキレに切れる、切れすぎて切られたことに気が付かないかも。
19990202
- 『公子曹植の恋』 藤水名子著 講談社文庫 ふ−43−3 476円+税
もちろん、三国志を読んだことがあるなら綺羅星のごとく輝いている英雄たちと同時代に曹植がいたことを知っているはずです。しかし、その印象はどうでしょう?
僕は、詩はうまいが不遇だった曹操の子、程度の認識しかありませんでした。
一目惚れ、それも兄の妻に。
自分の気持ちを抑え、隠し、欺き、その想いを振り払おうとする曹植は、悲しく、無力な姿をさらしてしまう。誰だってそうだと思うけど、そんな自分が滑稽なんだなぁ。覚えがあります。
「わかっていたのだ。はじめから」
そう。この心の言葉が、刺さるんです。わかっているのにわからない、わかりたい。そういう想いがたくさん詰まった物語です。こういう話には弱いんだよな(笑)。
19990130
- 『唐宋伝奇集(下)』 今村与志雄訳 岩波文庫 赤38−2 660円+税
引き続き、唐宋伝奇集です。
下巻には、かの「杜子春」が収録されています。そう、芥川龍之介の作品でも有名な、あの杜子春です。ただし、結末が違います。
元祖「杜子春」もやはり、声を上げるな、という戒めを守る。しかし、最後に声を出してしまう理由が芥川「杜子春」と逆になるのです。
ぼくは元祖「杜子春」と利己的遺伝子を併せて考えれば、元祖のほうが論理的な結末になるのではないか、と思ったりする。やはり、両方読み比べてみると面白いですよ。芥川「杜子春」を面白いと感じた人だったら、立ち読みをしてでも読んでみる価値あり、と思うなぁ。
それ以外では「つばめの国の冒険」「再会」など、いわゆる恋愛モノとでも言うべき作品がなかなかです。
19990127
- 『唐宋伝奇集(上)』 今村与志雄訳 岩波文庫 赤38−1 560円+税
ここでいう伝奇とは、今でいうホラーとかSFとかにあたるのだろうか。いわゆる不思議なストーリー。
たまたま岩波文庫の書棚の前をふらふらしていたら、背表紙が目に入ってきました。
これは当たりです。
12編の物語が収録されています。その中で、おぼろげながらも内容を知っていたのが、
「邯鄲夢の枕」
「長恨歌伝」
だけでした。でも、その他の話も、不思議で、それでいて納得できるような変な物語。人間と動物、人間と神仙の世界。教訓めいたようでそうではなく、単に面白いだけのようで考えさせられる。
世にある小説にも影響を与えただろう。それだけのことはある。巷の小説に飽きたら、この本を手に取ってみるといい。
19990118
- 『賢者の誘惑』 呉智英著 双葉文庫 く−06−8 514円+税
本気なのだろうか?
と思わず考えてしまう内容の数々。本気かどうかはともかくとして、ここに書かれている「話し言葉による哲学(?)」は非常に刺激的で面白い。
基本的に、対話形式で書かれているために読みやすくなっている。僕は最初の「佯狂賢人経綸問答」で騙されてしまったが、こういう形式で自分の考えることを文章化するのが一番受け入れやすい(というか分かりやすい)のではないだろうか。
巻末に「南のダラク」という一文が載っている。モモヒキをはかなくなったことがダラクだと言うのである。ダラクとは自分の信念を曲げてしまうことだったのだ。ここだけでも読むべし。
19990114
- 『日輪の遺産』 浅田次郎著 講談社文庫 あ−70−1 733円+税
マッカーサーの財宝、という話があるのかどうかは別として。
もと陸軍参謀から託された手帳を巡って、財宝の存在にかかわった人々の生き様が見えてきます。過去と現在が交互に語られていき、途中であかされるある人物の存在で、多くの人は「あっ」と思いホッとするに違いない。
財宝を守るために命を落としていった人々。なんといっても心に残るのはマッカーサーと渡り合った主計中尉。そして、最終章で語られる真実には、のほほんと生きている今の時代の人々にとって考えることが出来ないものがある。
19990110