タイトル |
著者名 |
投票得点 |
『川の深さは』 |
福井晴敏著 |
+5点 |
甘さの残るのは『亡国のイージス』と同じだが、やや緩和されたかと思える。
文体は相変わらずのくどさだが、ストーリーがストレートで簡潔な分読みやすい。
[ネタバレあり]
この作者はどうしても高村薫と比べてしまう。
意味の無い比較をする私がアホなのだが、高村ほどのものを持ちえない代わりに、高村が無くした物をもってはいないだろうか。
興奮と、哀感を与えてくれた、エンターティメントはかくあるべし。
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『雪月夜』 |
馳星周著 |
+3点 |
この作者ももがいているのではなかろうか。
『虚の王』や本作を読んで強く思った。
相変わらず、フリーフォールに乗ったように絶望と喪失が襲いかかってくる。
特に今回は寒さまでもが容赦なく身を切り裂くようだ。
しかし、やはりストーリーが立ち上がってこない。
『虚の王』ほどにはひどくなかったけれど、やはり物足りなさを感じる。
馳 星周はこれからどう進むのだろう。
『不夜城』や『夜光虫』ほどの傑作を書けるだろうか。
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『虹の谷の五月』 |
船戸与一著 |
+2点 |
船戸は最も好きな作家の一人である。
本作の直木賞受賞は複雑な気持ちを持った。
私がずれているのか。
この作品は、船戸の作品のなかで特に面白くなかっと思うから。
この作家はストーリーを最初に組み立てて書いていくのじゃないと思う。
書かれながら、作品は自らの意志を持ち、進んでいく。あくまで私がそう思うだけなのだが。
それが時に『蝦夷地別件』のようなアクロバティックな展開をとげ、傑作となるような気がする。
しかし、時には今回のような中途半端の結末を迎えて終わらざるを得なくなる。
どうしても、読後に消化不良になったような気持ちが抜けない。
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『風転』 |
花村萬月著 |
+4点 |
かなりの衝撃を受けた気がする。
父を殺してさすらう姿になぜか『罪と罰』を重ねてしまった。
鉄雄の語る哲学は、崇高ですらある。
まさに、エンターティメントと純文学の境界を取っ払ってしまったこの作者の偉業を改めて感じさせられた。
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『季刊・島田荘司』 |
島田荘司著 |
+1点 |
島田荘司は、書いてくれるだけでいい。
御手洗の活躍を楽しめるだけでいい。
何を読んでも心にしみわたる気がする。
まったくもって、もしこの作家が世の中に現れなかったらと思うと恐ろしい。
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『禿鷹の夜』 |
逢坂剛著 |
+3点 |
相変わらずの職人芸である。
なんとも懐の深い逢坂の技に感心してしまう。
これほどまでに文体を変化させてもこれほどまでにうまくストーリーを紡ぐことができるのか。
悪党なのに実に魅力的な禿鷹にはまったく恋をしてしまいそうである。
まったく内面を描かれていない禿鷹はとにかく他を超越した存在感で圧倒してくる。
スタークの「悪党パーカー」ぐらいにかっこいいなあ。
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『黒塚』 |
夢枕獏著 |
+3点 |
昔から使い古されたテーマのような気がするが、好きなのだからしょうがない。
そして、数ある類似品のなかでもかなりレベルは高い気がする。
異形のものの悲しみは十分に伝わってくる。
最後までテンションを落とすことなく、ラストは謎を解き、悲劇と救いを用意した。
やはり、SFが一番面白い気がする、この作家は。
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