タイトル |
著者名 |
投票得点 |
『SAKURA 六方面喪失課』 |
山田正紀著 |
+5点 |
世間がバブルで浮かれる一方、その流れに乗り切れずに屈託している人間もいた、10年前の東京の風景をスマートに切り取った一篇。講談社ノベルスや幻冬舎から出ている重厚長大路線の作品よりも、こういう軽いタッチのほうが、より山田正紀らしい。平凡な人間が平凡に活躍する話を書かせると、このひとは本当にうまい。でもこれ、続編があるんだよね、きっと。
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『大いなる聴衆』 |
永井するみ著 |
+5点 |
『このミス』をはじめとする各種のベスト企画では、あまり話題にならかった作品。クラシック音楽業界という馴染みの薄い世界が舞台なので、敬遠したひとが多いのだろうか。こんなに面白いのに、もったいない。複雑なストーリーを落ち着いてさばいていく、まさに「悠揚迫らざる」という形容がぴったりの筆致に感服。最近のエンターテインメント小説界は、こういう物書きとしてのベーシックな能力に敬意を払っていない気がする。クラシック音楽に関する基礎知識がなくても充分に楽しめるので、ぜひどうぞ。
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『大正天皇』 |
原武史著 |
+5点 |
去年読んだすべての本のなかで、もっとも昂奮させられた。皇太子時代に残された多くの同時代人の証言を丹念に拾い上げながら、「精神的にも肉体的にも虚弱な人物」という従来の大正天皇像を覆していく手つきは、良質なミステリのそれに相通じる。そしてこんなに天真爛漫な青年の魂を次第しだいに蝕んでいく、近代天皇制の残酷さと滑稽さにも思いを馳せないわけにはいかないのであった。
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『GO』 |
金城一紀著 |
+4点 |
冒頭の謎が結末で明らかになるんだから、これだってミステリだろうってことで。強引なのは承知の上だけど。「在日」というシリアスな問題を扱いながら、良質な青春小説に仕上がっている。わが国初の本格的なポストコロニアリズム文学、というのはいくら何でも大袈裟か。日本語で小説を書くのは日本国籍所有者だけではないし、日本語が母国語ではない日本国籍所有者もいるのである。当たり前の話だけどさ。
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『月の裏側』 |
恩田陸著 |
+3点 |
欧米の作家が書いたら、同じテーマでもぜんぜん違う展開になったんだろうな。
[ネタバレあり]
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『戦後「翻訳」風雲録』 |
宮田昇著 |
+2点 |
ミステリに興味を持ち始めたばかりのころ、創元やハヤカワの目録を見てびっくりしたことがある。なぜなら世間的には「詩人」もしくは「批評家」として高名なひとたちが、訳者として名を連ねていたからだ。なるほど、それにはこういうウラがあったのだな、とこの本を読んで納得。戦後、小説家はすっかりおとなしくなったけれども、翻訳の世界ではまだまだ無頼派が生き残っていたのである。
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『美濃牛』 |
殊能将之著 |
+1点 |
あくまでも部外者の立場から、本格ミステリの「お約束」と遊んでみました、という雰囲気が全体から漂っている。この作品に否定的なひとは、この冷ややかさが好きになれなかったんだろうな。今年(2001年)出た最新作の『黒い仏』は、もっと冷ややかなんだけど。
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