甲府市自治基本条例行政案について意見を述べます

 

森本 優

2007/04/26


 

一、 第5条(情報共有の原則)について

 

 市政へ参画する「市民」の責務として、協働する上で必要となる情報は公開すべきと考えます。これは、特に企業・団体等としての「市民」に言えます。

 

 その点、「自治基本条例案文修正比較表」の「修正箇所についての説明」(3)では、「情報を公開するのは、市議会及び市長その他の執行機関であるが、情報を共有するのは市民、市議会及び市長その他の執行機関である」として、「市民」からの情報公開には否定的なようです。

 しかし、このような認識は、市民による参画・協働が想定されていない旧来のしくみが前提となっていると思われます。

 考えますに、この自治基本条例が想定している基本的なしくみについては、「市民と市議会と市長その他の執行機関の協働により、公正で平等な地域社会をつくり、市民の福祉増進を図」(前文)るため、「役割と責務など自治を推進する基本的なしくみを定めます。」(第1条)とありますように、主体的な市民による参画・協働が中心的な課題となっているはずです。

 ですから、本基本条例が想定するこの新しい「基本的なしくみ」においては、参画して協働関係の土俵に上った以上、市政(公的領域)に関することなのですから、たとえ「市民」であっても、協働する上で必要となる情報は公開すべきであり、更には、一般市民、市議会及び市長等に対して、必要最小限度の説明責任も負うべきだと考えます。

 したがって、参画し協働している「市民」が表に出て来ないで、行政機関が単独で主体となって行っているような外観を有する協働事業は問題です。

 因みに、第3章第6条(市民の市政に参画する権利と責務)の第2項では、「市民は市政への参画に当たっては、自らの発言と行動に責任を持たなければなりません。」とありますが、これが言えるためには、協働する上で必要な情報が公開され共有されていることが前提となっているはずです。

 

 

二、 第11条(コミュニティー団体等の役割)について

 

 第11条において「コミュニティ団体等の役割」のみに止め、「責務」(つくる会案の本条第2項)を削除したのは理解できません。

 

 本条の「修正箇所についての説明」、並びに第3条の(6)「コミュニティ団体等」の定義に関する「修正箇所についての説明」では、「コミュニティ団体等の運営は当該組織の自主性にまかせるもので、自治基本条例で言及することはできない。」として、本条のタイトルから責務を、そして、つくる会案本条第2項全体をも、それぞれ削除しています。(※つくる会案本条第2項 「コミュニティ団体は、会員の自主性及び自立性を尊重し、民主的な組織運営と団体活動の充実と拡充に努めなければなりません。」)

 

 確かに、市政に参画していない一般のコミュニティ団体等にあっては、私的自治に委ねられる度合いは高く、各団体の「自主性」は、公序良俗に反しない限り、最大限尊重されなければなりません。

 しかし、参画し協働関係に入った「市民」(団体等を含む)には、協働する上で「独立性」「対等性」(第4条)が尊重され当然「自主性」も認められることになるとしても、参画して協働関係の土俵に上った以上、市政(公的領域)に関することなのですから、それに伴って、市議会や市長等、そして一般市民に対する責務も当然発生してくるはずです。

 このことは、自然人であるか、法人であるか、それともその他のものであるかを問わず、参画している「市民」であれば、皆等しく言えることなのだと考えます。

 というより、団体等だからこそ、その責務は重くなるとも言えるのです。

 その点、つくる会案では、公的領域での協働ということに配慮して、団体等にも責務が生じるものとして規定していますが、道理というものです。

 とすれば、つくる会案の本条のタイトル、すなわち「コミュニティ団体の役割と責務」から、「責務」を軽率に削除したのは失当だと考えます。

 

 ところで、本条では「住民自治を推進する担い手として」コミュニティ団体等を位置づけています。

 では、どのようにして住民自治を推進してゆくというのでしょうか。

 団体等内の会員の尊厳・主体性・自主性等を極力抑え込み、不正な行為であっても団体執行部の思惑通りに運営できれば、自治は推進するというつもりなのでしょうか。(一厘の仕組/「自治会への提案」参照)

 また、団体等によって個々の会員(市民)を管理・統制し、団体等との協働の下で、国や地方自治体の意図通り市政が運営されれば、自治は推進するというつもりなのでしょうか。(「地域内分権に対するある一つの視点」参照)

 私たちは、ここで住民自治の推進を問題とする場合、団体等による自治ではなく、自然人としての市民による自治を重視したいものです。前文にある「福祉の増進」は、個々の自然人としての市民に宛てられているはずだからです。

 とすれば、団体内での根回し・多数派工作等により、個々の会員(市民)の尊厳や自主性・自立性を抑え込み、団体(執行部やその裏にいる権力者)の意志を各会員に強要する閉塞した場にあっては、市民の福祉(幸福)の増進などとても達成できるものではないでしょう。

 本基本条例が、市民との協働により住民自治を推進し、公正で平等な地域社会をつくり、市民の福祉(幸福)の増進を図ることを掲げる以上、参画し協働関係の土俵に上がっているコミュニティ団体等は、役割のみだけでなく、その責務として、自然人としての市民である当該団体等の会員の福祉(幸福)の増進を図り、個々の会員が主体的、自主的、自立的に活動できるよう、開かれた(立憲)民主的な組織運営に努めなければならないと私は考えます。

 したがって、以上から、つくる会案本条第2項の責務の部分、すなわち、「コミュニティ団体は、会員の自主性及び自立性を尊重し、民主的な組織運営と団体活動の充実と拡充に努めなければなりません。」の部分を、軽率にも全部削除したことは失当だと考えます。

 

 

三、「第7章 市政への参画と協働」について

 

 市民との協働により自治を推進する基本的なしくみが、第7章に規定されたものに限定されるとするなら、あまり目新しいものはないのですから、わざわざ本基本条例の目的として「基本的なしくみ」(第1条)を謳う必要はないような気がします。

 参画と協働を基本原則として掲げる本自治基本条例には、日常的に一般市民を啓発し、市民の参画・協働を進め、その協働を市民と検証してゆく何らかの基本的かつ具体的なしくみが必要だと考えます。

 

 以上の三点について意見を申し上げます。

 ご検討のほどよろしくお願いいたします。

 


 

「つくる会案の素案」

「つくる会案」

行政案

甲府市自治基本条例をつくる会会議録


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