最高裁判所 御中
妨害排除・原状回復並びに損害賠償請求上告受理申立事件
訴訟物の価格 金3028322円
貼用印紙額 金42000円
予納郵券 金5690円
上記当事者間の、東京高等裁判所平成16年(ネ)第5654号妨害排除・原状回復並びに損害賠償請求控訴事件について、同裁判所が平成17年2月16日に言い渡した判決には、民事訴訟法318条1項の事由が含まれるので、上告受理の申し立てをする。
第1 第二審判決の表示(主文)
1 本件控訴を棄却する。
2 訴訟費用は控訴人の負担とする。
第2 申立ての趣旨
本件を上告審として受理する。
第3 上告の趣旨
原判決を破棄し、更に相当の裁判を求める。
第4 上告受理申立ての理由
追って、理由書を提出する。
平成17年(ネ受)第138号
最高裁判所 御中
上記当事者間の、東京高等裁判所平成17年(ネ受)第138号妨害排除・原状回復並びに損害賠償請求上告受理申立事件について、申立人は次のとおり上告受理申立ての理由を提出する。
第一 上告受理申立ての理由
1 釈明義務違反
原審(第二審)には、申立人(控訴人)が主張している権利の内容に関して釈明権行使の義務を尽くさないまま不適切に判断し、そのまま原判決をなした法令(民事訴訟法第149条1項)違反がある。
すなわち、原判決はその3頁(3)の後半部分で、「公共物として一般公衆の共同使用に供されいる本件水路の流水の一般利用ないしその流域の共同社会において事実上利用が認められている範囲を超え、原告所有地のために本件水路の流水を引く等の控訴人主張の権利が特別に設定されたものと認めるに足りる証拠は存在しない」として、流水の利用権についての有無を判断している。
そのような流水の利用権が問題とされるようになったのは、平成16年12月3日付控訴理由書中における不正確な表現(控訴理由書6頁4(一)最終段落「田へ水を引く権利は、要役地としての田が田として活かされるためには絶対必要な権利」、同7頁4(二)の「流水権」・「水路(本件水路と本件私設用水路を含む、以下同)及び水路付近地に立ち入り、掃除・泥揚げ・修理等をしたりする権利」)を文字通り受け取ったためであると推測される。
しかし、申立人が控訴理由書7頁4(二)で主張している引水地役権の内容を厳密に述べるなら、主たる権利としての「流水権」とは、引水のために他人の土地を私設用水路として利用する権利であり、従たる権利としての「水路及び水路付近地に立ち入り掃除・泥揚げ・修理等をしたりする権利」とは、本件水路と本件私設用水路及びそれらの水路付近地としてある他人の土地を、掃除・泥揚げ・修理等をするために利用する権利である。
このことは、控訴理由書7頁4(二)の終わりに括弧書きで指摘しておいたとおり、第一審での平成15年3月24日付原告準備書面2頁17行目から27行目の部分において、更には同年4月17日付原告準備書面2頁7行目から17行目の部分においても、「ところで、引水地役権の内容は、要役地である田に水を引くために他人の土地を承役地として利用する権利であるから、云々」と、はっきりとその内容が述べられており、同時に、3月24日付準備書面の添付書類として「承役地詳細図」も提出され、そこには色分け部分や赤斜線部分によって、承役地として他人の土地上に及ぶべき引水地役権の範囲が、申立人(原告)によってはっきりと示されていたのである。(別紙訂正図面参照)
また、裁判官は法律に精通しているはずであり、第一審においては引水地役権の設定時期・内容等が問題となって(第一審判決10頁14行目「明治時代に上記引水等地役権が設定されたことについての的確な証拠はない」、同16行目「同地役権の設定時期・内容についての供述があいまい」等々参照)、そのことが一年半以上もかけて審理されてきたのであるから、少なくとも第一審では、原審が問題としたような流水の利用権の有無ではなく、承役地としての他人の土地の利用権の有無が問題になっていたことぐらいは第一審判決からでも容易に察知することができたはずである。
ところで、第一審判決によれば、「被告伊藤は、本件土地を含む被告伊藤地を、昭和54年3月16日鷹野から買い受けた」(平成16年10月14日付判決9頁第3争点に対する判断1(2))と認め、この認定事実は原判決でも何らの変更もなく受け継がれている。(原判決2頁第3当裁判所の判断1参照)
とすれば、その両判決が認定したとおりの事実を前提とした場合の引水地役権の設定時期並びにその内容に関しても、控訴理由書の8頁から10頁にかけて8(一)〜(三)で指摘しておいたとおり、その部分において、誤解の余地のない程充分明確に主張されていたはずである。
念の為、以下その部分をそのまま引用し、必要に応じて、平成15年3月24日付原告準備書面に添付した「承役地詳細図」を下敷きに、部分的に訂正した図面(本上告受理申立理由書別紙訂正図面)を使って、より詳細な説明を今回{ }内に加えることにする。
『
8 原判決11頁上から3行目、「上記認定事実及び上記証拠に照らすと、甲22と原告の供述のうち上記主張に沿う部分を採用することはできず、原告の上記主張は理由がない」について
(一) 仮に、甲29の2(和紙の公図)上の田840・841に接してある畦畔部分{別紙訂正図面中、840−2の上部「泥揚げ部分」}が、当初から私有地であったとしても、昭和25年の農地改革の時期に、田840・841の所有者となった鷹野雄一氏(甲35)と、田825の所有者石原保太郎氏(甲36)並びに田815の所有者となった森本信次(甲37)との、水田管理上共同作業が求められる者同士の間で、田840・841の一部を通る本件私設用水路{別紙訂正図面中、1.・2.の部分}及びその付近地{別紙訂正図面中、1.・2.左側の黄色部分}並びに取水口付近の畦畔部分{別紙訂正図面中、赤斜線部分}を承役地として、引水地役権が明示若しくは黙示の意思表示によって設定されていたものと解されるのである。(平成15年12月4日森本調書11・12番、平成15年3月24日付原告準備書面の添付書類「承役地詳細図」参照)
その後、昭和36年に田825を森本信次が石原氏より買い取ったため、引水地役権は一本化され、それを昭和55年に控訴人森本優が相続した。(甲38)
一方、田840・841を相続した鷹野茂氏からも森本信次は、その田840・841の一部に本件私設用水路を設置していることにつき、了承を得ている。(12月4日森本調書13番)
ところで、被控訴人(被告)伊藤は、昭和54年の初め頃、鷹野茂氏から土地840−2を、当時畦畔として利用されていた部分も含み、流水部分ぎりぎりまで購入したと主張している。(乙1の1・2)
しかし、被控訴人伊藤は、当地近くで生まれ育ち、本件水路並びに当地を熟知していたものであり(伊藤調書34ないし43番)、また購入時期にも、本件水路の状態(甲29の1、伊藤調書5番)や、本件水路(畦畔部分と流水部分)が要役地所有者である森本を初めとした村民によって利用されていることを確認しているのである。(伊藤調書14・40番)
また、毎年当自治会の担当組によって多量の泥が揚げられていたことも確認していたはずなのであり(甲21の 1ないし12)、更に、本件水路から本件私設用水路を通して森本が取水していたことも、その位置・形状・構造等の物理的状況から客観的に明らかなのだから、840−2の購入当時においても、被控訴人伊藤は、それらのことを当然確認していたものと言えるのである。
そしてそのような場合には、引水地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情のない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に被控訴人伊藤は当たらないと言うべきである。(12月4日森本調書14・15番、最高裁平成10年2月13日第二小法廷判決)
従って、被控訴人伊藤は、引水地役権の制限を受けた所有権を主張し得るに過ぎず、本地役権を侵害している本件土地上の工作物は撤去されるべきである。
この点、「原告の上記主張には理由がない」とする原判決は失当である。
因に、被控訴人伊藤が土地840−2を買い受けて間もなく、河川の改修工事で流水部分が埋め立てられ畦畔部分がその分広くなったが{別紙訂正図面中、青斜線部分}、その場合、承役地の範囲も流水部分沿いに移動したと解するのが相当である。{別紙訂正図面中、1.・2.・4.の私設用水路部分及びそれらの左側黄色部分と青斜線部分の大部分とが、承役地の範囲となったと解される。因に平成17年2月16日付第二審判決別紙図面である「原判決の別紙図面1を訂正した図面」も参照されたい。}
この時初めて、本件土地の大半が姿を現したのである。
(二) また、昭和25年以降、昭和54年の土地840−2の譲渡までに、何らかの形で鷹野氏が、国有地としてあった畦畔部分を適法に私有地とした場合についても、その畦畔部分をその後においても、通路として、洗い場として、泥揚げ部分として、森本を初めとした村民並びに自治会が利用していることを、鷹野茂氏自身が黙認していたのであるから、本件私設用水路{別紙訂正図面中、1.・2.の部分}及びその付近地{別紙訂正図面中、1.・2.の左側の黄色部分}だけでなく、その畦畔として利用されていた部分{別紙訂正図面中、赤斜線部分}に対しても鷹野氏は、引水地役権の承役地として森本が利用することを、暗黙の意思表示によって契約上認めたものと解するのが相当である。
であるならば、前述通り、購入以前から引水・泥揚げ等の事実を確認していたはずの被控訴人伊藤は、控訴人森本が有する引水地役権の制限を受けざるを得ないはずなのである。
従って、たとえ「被告伊藤は、本件土地を含む被告伊藤地を、昭和54年3月16日鷹野から買い受けた」としても、被控訴人伊藤は控訴人森本の引水地役権の制限を受けた土地の所有権を取得したと解すべきであり、その点について何ら触れることなく「原告の上記主張は理由がない」とした原判決は失当である。
(三) 因に、河川改修時に流水部分がかなり埋め立てられ、その時、森本が使用している本件私設用水路の取水口部分が、橋の袂まで移動することになったのであるが{別紙訂正図面中、4.の上の部分}、その場合、承役地の範囲も、本件私設用水路の延長に伴い拡長し、新しい取水口部分から引水地役権が発生しているものと解されるのである。{別紙訂正図面中、4.の部分及び4.の左側黄色部分も新しく承役地の範囲となる。}
であるならば、本件水路に沿った畦畔部分{別紙訂正図面中、赤斜線部分}には地役権が設定されていなかったとされる場合においても、本件私設用水路及びその付近地を承役地とした引水地役権が、既に昭和25年の時点で設定され、また後に鷹野茂氏の代においてもその承諾を得ているのであるから、その承役地を侵害する行為は、当然地役権侵害と言わねばならないのである。
ところで、甲4の1(写真)で明らかな通り、被控訴人伊藤が管理する本件自動販売機が本件私設用水路に接して設置されているのであるが(伊藤調書29ないし31番){別紙訂正図面中、4.の左側黄色部分にかかる形で自動販売機が設置}、このような行為は、控訴人森本が有する引水地役権の侵害行為以外の何物でもないのである。(12月4日森本調書11番参照)
この点からも、原判決の判断は、失当である。
』
以上、平成16年12月3日付控訴理由書を8頁から10頁にかけて引用したが、この部分においても、問題となっているのは、承役地としての他人の土地の利用権であり、流水の利用権ではないのである。
以上のように原判決は、第一審での準備書面及び第一審判決書更には控訴理由書の各書面から、控訴人が主張している権利の内容を充分正確に把握し得たにもかかわらず、第1回口頭弁論期日において民事訴訟法第149条1項に規定されている釈明権の行使を怠り、控訴理由書中の不適切と思われる表現のみを取り上げて、そのまま直ちに控訴を棄却したものであり、明らかに審理不尽の違法があると言わねばならないのである。
2 採証法則・経験則・論理法則を著しく逸脱した事実認定
第一審判決によってなされ原判決でも受け継がれた、上記「被告伊藤は、本件土地を含む被告伊藤地を、昭和54年3月16日鷹野から買い受けた」との事実認定に関して、原判決は、同時に原判決3頁3行目で、「本件水路は、いわゆる法定外公共物に該当」するとし、更に同頁7・8行目で「その後昭和58年3月ころ自宅を建築した。このころには河川改修工事により本件水路はコンクリートで整備されていた」としている。
ところで、土地840−2の購入当時における本件水路中畦畔部分を除く流水部分の状態が、乙1の2図のとおりではなく甲29の1図のとおりであったことは、明治時代の和紙の公図(甲29の2)と比較しても、また橋の位置を基準に考えるならば流水部分が橋の真下を通っていることからも、明らかである。
とすれば、「本件土地を含む被告伊藤地」の購入時点では、まだ河川の改修工事はなかったので、河川改修工事の時に埋め立てられ現れた本件土地(別紙訂正図面中、青色斜線部分の大部分)は、その時点では未だ流水部分として水面下にあったはずである。
そして、河川改修工事の際に、橋の袂ぎりぎり迄埋め立てられたため、原審(第二審)の原判決別紙図面にあるとおりの本件土地が現れてきたのであり、その埋立の事実は、伊藤自身の「隣接河川は、昭和53年当時、水が流れているという感じで、流れが2か所くらい曲がっていました。現在は1か所だけ曲がっているところがあります。」(伊藤調書5番)との供述からも、窺い知ることができるのである。
したがって、購入当時のそのような河川の状態にありながらも、当時鷹野茂氏が後に本件土地となる部分を含むものとして被告伊藤地(840−2)を売り渡したとは常識では考えられず、まして通常そのような部分は、売買の対象となった土地を熟知している買い主であるならば(伊藤調書38番等)、騙されても買うことはなかったはずなのである。
また、当時公共物(流水部分)としてあり私人が売買の対象とすることができないはずの、したがって未だ水面上に現れてはいなかった本件土地部分について、当時私人間において適法に売買が成立したと事実認定すること自体、法論理的にも破綻しているのである。
以上から、第一審判決及び原判決によるこのような事実認定は、適法に提出された証拠資料と適法に得られた証拠調べの結果とを全く無視し、よって経験則並びに論理法則に反した違法なものであり、ひいては審理不尽の違法を来したものであると言わねばならないのである。
3 まとめ
以上、1・2で述べたとおり原判決は、民事訴訟法第318条1項が規定する「法令の解釈に関する重要な事項を含む」ものと言えるから、速やかに本件を上告審として受理し、原判決を破棄されんことを望む次第である。
以上