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 渓師たちのフィールド・原生的なブナの森と渓は、早春から晩秋にかけて、切れることなく様々な山の恵みを与えてくれる。釣りたての岩魚と採れたての山菜、きのこの野趣あふれる料理は、渓師だけが享受できる至福の楽しみと言えるだろう。
山菜採りを楽しむ早春の山釣り
早春の山釣りは、沢を下るときも、沢を登るときも、山菜をつみながら歩く
荷の重さを忘れるほど・・・楽しさは100倍
 年間の山釣り計画は、岩魚だけでなく、季節によって採取可能な山菜・きのこをメインに遡行先、ルートを選定することが肝要だ。山の幸にカメラを向ける。歩きながら山菜採りを楽しむ。喉が渇けば、冷たい清流で喉を潤す。テン場に着けば、あれこれメニューを考え仲間とともに野外料理を楽しむ。夜がふける頃、濡れた衣服を着替え、燃え盛る焚き火を囲む。現地調達の素朴な料理に舌鼓を打ち、友と飲み語らう瞬間は、この世の極楽。釣竿を担ぎ、山と渓谷を旅してよかったなぁ〜とつくづく思う。
山菜・きのこをメインにした山釣り計画
 早春の源流で採取した山菜。4月下旬は、まだ奥山の雪は深い。この時期は、雪解けの早い日本海側沿いの渓流を選定するに限る。ふきのとう、タラノメ、ギョウジャニンニク、アザミ、コゴミ、ミズ、シドケ、アイコ、ホンナ、ヤマワサビ・・・。5月下旬から6月にかけては、何と言ってもタケノコがメイン。ならば沢から沢へのバリエーションルートをとるのが一番だ。早春の山菜に加えて、タケノコ、ウド、ウルイ、ゼンマイ、フキ、シイタケ、ヒラタケ、サワモダシ・・・。夏は、ミズ、キクラゲ、タモギタケ、シャワークライミングと岩魚釣りがメイン。秋はもちろんキノコ狩り。マイタケ、サワモダシ、ブナカノカ、ムキタケ、ナメコ、ヤマブシタケ・・・。う〜ん、たまりませんな。
生命の息吹・早春の渓
 山には白い雪が残り、軟らかい春の陽射しが渓に差し込むと、流れは雪代で湧き返る。ブナの森は、まだ芽吹かず、林床には可憐な山野草、山菜が競い合うように土から一斉に顔を出す。まさに生命踊る季節の到来は、半年間に及ぶオフシーズンに耐え、ひたすら待ち続けた渓師たちにとっても冬眠から覚めた熊のように、心が舞い躍る季節である。雪国の山釣りは、4月下旬頃から本格的にスタートする。
春の使者・フキノトウ(バッケ)
 雪国に春の訪れを告げるフキノトウ。春の使者が土や残雪から顔を出すと、渓流釣りもスタートする。採取は、手でひねりながら採る。まだ開かない若葉は、天ぷら、刻んで味噌汁。フキノトウには味噌がよく合うらしく、フキ味噌、揚げ田楽が美味い。独特の苦味が山菜マニアに好まれる。

 最近、暖冬が続き、山菜の季節の到来が2週間も早いことが度々・・・今では、この異変が当たり前のようになってきた。雪が少ない年は、岩魚も山菜、きのこも不作と言われるだけに、地球温暖化は、やけに気になる現象だ。
荒行に耐える強壮薬・ギョウジャニンニク
 ギョウジャニンニクは、海岸沿いの雑木林に生える。深山で修行する山岳信仰の行者たちが、荒行に耐える強壮薬として好んで食べたことから名付けられた。北海道ではアイヌネギと呼ばれている。鼻をつくニンニクのような強い臭いがする。根こそぎ採らないようにハサミで根元を切り取る。注意は、採取したギョウジャニンニクを車の中に放置しないこと。臭いが何週間もとれず悩まされること間違いなし。車外のバックミラーなどに吊るして置くことが肝心だ。
 白い茎は、味噌や醤油をつけて生で食べるのが一番。胃を直接刺激するほど美味いから、ついつい食べ過ぎてしまう。食べ過ぎると胃をやられたり、体調に変調をきたすことがあるので注意。茹でて油炒め、おひたし、各種和え物にも最適。
早春の味・アザミ
 アザミ・・・渓流の岸辺に生える。アザミ類は種類がやたら多いが、ほとんど食べられるので安心。葉の先に刺があるので、軍手は必携。根を引き抜かないようにナイフで切り取る。刻んで味噌汁の具に。天ぷら、おひたし、炒め物も美味い。
山菜の王様・シドケ(モミジガサ)
 渓流沿いの斜面に生える。上の写真は、珍しく斜面ではなく、渓流脇の平坦な場所に群生していた。葉が開く前は傘のようにたれ、開くと葉の形がモミジに似ていることからモミジガサと名付けられた。秋田では、シドケと呼ばれ、山菜の王様として最も重宝されている山菜だ。
 左:斜面に生えたシドケ。まだ葉が開かない傘のような状態が旬。 右:里や林道のある近場は、何回も採取され茎がとりわけ細く、良品を採取することは難しい。深山の源流で採取したシドケが右の写真だが、茎の太さ、色艶が格段に違うのがお分かりだろうか。
 採取した良品のシドケ。塩を一つまみ入れて熱湯に根元から入れる。再度沸騰したらOK。茹ですぎると風味を損なうので注意。茹でたら、冷たい渓流にさらし、お浸しで食べると絶品。アイコと違って山菜特有のクセがあるので、嫌いという人もいる。しかし、そのクセこそ山の味なのだが・・・。そんな方は、天ぷらにして一塩ふりかけ食べるとクセがなく美味しく食べられる。他に煮びたし、ごま和え。
雪国を代表する山菜の一つ・ホンナ(ヨブスマソウ)
 渓流周辺の湿った斜面に生える。独特の香りと味があり、シドケ、アイコと並び雪国を代表する山菜の一つ。手で軽く折れる硬さのところから採取する。料理は、おひたし、天ぷら、ごま和え、酢味噌和え、油炒め、汁の実に。
山菜の女王・アイコ(ミヤマイラクサ)
 ・・・渓流沿いや斜面に群生、渓流釣りでは定番の山菜。クセもなく、万人に愛されている山菜の代表格。しかし、大きく伸びたアイコは、全草に鋭い刺があり、藪こぎではいつも悲鳴を上げるほど痛い目にあっている。雪国では、山菜の女王とも呼ばれ重宝されている。採取は軍手が必携だ。
 大量に採取した場合は、右の写真のように葉の部分をちぎり取り、新聞紙に包んでザックに背負う。家では、根を水に浸すと硬くなるので注意。新聞紙に包んだまま野菜室に保存するのが一番。茹でてから渓流水にさらし、皮をむいてから適当な長さに切る。マヨネーズや醤油をつけて食べると絶品。炒め物、汁物、和え物も美味い。保存用に味噌漬けにすると、これまた絶品。
山菜の横綱・ウド
 上の写真は、小沢の清流沿いに顔を出していたウド。ブナ林の腐葉土とマイナスイオンを一杯に浴びて育ったウド・・・これを食べたら栽培物なんて水っぽくて食べられなくなるだろう。葉が開かない写真のような若芽が旬。崖の斜面の下、雪崩で堆積した分厚い崩落土に極上のウドが生える。見つけ方のポイントは、昨年枯れたウドの残骸を見つけること。根元の枯れ葉をかき分けウドの新芽を探す。堆積土をていねいに堀り、根ぎわをナイフで切り取る。
 左のウドは、ちょっと葉が開きすぎ、旬を過ぎたもの。それでも軟らかい上の部分は美味しく食べられる。右のウドは、土から顔を出したばかりの旬のウド。独特の苦味と風味は山菜の横綱として珍重されている。
 厚い腐葉土から顔を出したばかりの若ウド。茎は、太く白と赤紫色。全身白い産毛に包まれ、食欲をそそる。芽の部分は天ぷら、根元の太い部分は、皮を剥ぎ、生で食べる。皮は、捨てずに「きんぴら」にすれば、酒のツマミにグーだ。つまり、若芽は捨てるところが一つもない。
 直径30センチのザルを出し、ナイフで切り取ったウドを入れる。あっと言う間にザル一杯になった。こんな極上のウド畑を見つけると、岩魚を釣るより感激は大きい。白い根元は生食が一番。皮をむき、酢水にさらしてから、酢味噌などをつけて食べる。天ぷらと言えばタラノメと言われているが、若い葉を天ぷらにすると、タラノメより味は数段上だ。皮をむいてから油で炒めるのも絶品。味噌汁の具、茹でてごま和え、味噌和えなど。
清冽な水のシンボル・ヤマワサビ
 底まで透き通るような渓流沿いに大きな株となって生えていたヤマワサビ。どこの渓流にも生えているというわけではない。渓流沿いの斜面が岩礫地で湧水が湧き出るような場所に群生する。それだけに美しき水のシンボル的な山菜とも言える。山釣りにとっては、岩魚の刺身料理に欠かせない薬味。
 私には、「ワサビ沢」と勝手に呼んでいる沢が幾つかある。その中の一つが上の写真だ。見渡す限り一面ワサビの白い花で埋め尽くされている。この沢は、どこまで行っても両岸ワサビが群生、まるで切れることのないワサビ畑を歩いているような感じだ。沢沿いの湿った場所を好むサワグルミの林と湧水が沁み出す場所が、ヤマワサビを見つけるポイントだ。
 雪解け水は、身を切るほどに冷たい。その冷たさが極上のワサビを育む・・・本場のワサビを楽しむなら雪国の源流に勝るものはない。天然物は、栽培のワサビと違って根が細いから、もっぱら根の上部からナイフで刈り取り、茎から上の全草を食用にする。根と同様、全草がワサビ特有の辛さを味わうことができ、「葉ワサビ」などと呼ばれている。茎の太いものを選び、間引くようにナイフで刈り取るのがコツ。
 花茎は意外に長く、その先端に白の小花をたくさん咲かせる。マクロで撮影すると、これがワサビの花かと疑うほど美しい。食用は、葉と茎だけでなく、花も美味い。つまりワサビの旬は、白花が咲く頃だ。ちなみに辛味が強いのは、白花が咲く春と初雪が降る初冬と言われている。
 ワサビの太い根の部分は、よく洗い、ナイフで皮を削り取ってから、すりおろし刺身の薬味に。この際、金属製のオロシ金を使うといいらしい。これを火にあぶってから、ワサビの根をすれば、良いワサビ味が出るという。その訳は、温めることによってワサビの成分が初めて出るかららしい。

 右の写真は、全草をよく洗い、ワサビを細かく刻んだもの。密閉した容器、山では酒の五合入り紙パックを使うと便利。その中に刻んだワサビを入れ、熱湯を注いだ後、冷たい渓流水で冷やす。こうすれば辛味もグ〜とアップする。醤油に酒を加えたタレに一晩漬けると、これまた美味いらしい。生のまま細かく刻んだものを味噌汁や麺類の薬味として食べても美味い。他に茹でてから、おひたし、和え物など。
伐採跡地に多いタラノメ
 誰もが知っている山菜の一つ。春の山菜の王者とも呼ばれているが、山釣りでは定番とは言えない山菜だ。というのも、林道沿いや伐採跡地に多く、暗い深山の渓谷ではほとんど見掛けることがないからだ。上の写真は、山道を歩いている途中の斜面で採取したもの。枝先の一番芽のみを採取する。二番芽、三番芽を採り続けると木は枯れてしまうので厳禁。ご存知天ぷらが定番。
クセもなく万人に好まれる山菜・コゴミ(クサソテツ)
 谷沿いの斜面や渓流沿いに生える。葉が開く前、丸く巻いた若芽の先の部分をつみとる。右の写真のように、あっという間に伸びるので、採取適期は意外に短い。茹でると鮮やかな緑色と特有の香り、クセもなく万人に好まれる山菜の一つ。茹でたものをマヨネーズで食べると美味い。生のまま、衣をつけて揚げ物、汁の実、煮物、炒め物にも最適。たくさん採取した時は、茹でてから冷凍にするのが最も簡単な保存法だ。
ウルイ(オオバキボウシ)
 写真は、明るい源流の湿った斜面一面に群生していたウルイだが、ちょっと葉が開き過ぎて旬を若干過ぎたもの。茎は1mにも伸び、夏には紫色の花を咲かせる。若芽は、毒草のコバイケイソウとよく似ているので注意。
 葉の開かない丸まっているものが旬、その茎の部分をナイフで切り取る。若い葉でも苦味が強いので、葉の部分は手でちぎり、茎の部分だけ採取する。刻んで味噌汁に入れると、ヌメリがあり美味い。茹でてから、冷水にさらし、マヨネーズ、ワサビ、ゴマなどで和える。また、一夜漬けも独特のヌメリと歯応えがよく美味。
▼毒草のコバイケイソウ
ウルイと同じような湿地に生え、若芽の頃はウルイと間違え易いので注意。
コバイケロイソウは、茎の上部まで幾重にも葉をつけるので、ウルイと区別できる。
至福の味わい・山釣り定食
 4月下旬・・・右は早春に生えるユキノシタ(エノキタケ)、左の皿は、ふきのとうとヤマワサビ
 5月上旬、ブナの源流で採取したばかりのシドケ、アイコ、コゴミ。山で美味しく料理するには、全ての調味料をコンパクトな容器に入れ替え持参するのがベスト。
 いつも食べたい早春の「山釣り定食」・・・コゴミ、シドケ、アイコのおひたし、塩昆布を使ったミズの即席漬け、岩魚の刺身、塩焼き、唐揚げ、骨酒、ウドの生食・若芽の天ぷら、山菜&きのこ&岩魚汁・・・ワイルドな山料理・・・いや〜何度食べても忘れられない山の味です。
 渓流の音を聞きながら、焚き火を囲み、乾杯!。定番の定食を食べると、疲れた体も心も芯まで癒される。雑踏にもまれながら暮らす日常の世界とは別天地、夢の世界へ誘うこと間違いなしだ。そして、天然の素材に勝るものはないな、としみじみ思う。こうした山の料理は、家ではなく、旬の食材を現場で食べてこそ一層美味しく食べられることは言うまでもない。下界では決して味わうことができない山釣り定食、これを満喫するには、山に泊まらない限り味わえない。

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