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 ブラックバスは、北米原産の淡水魚で、全長50センチ(最大70センチ)にも達し、、魚はもちろん、エビ、カニ、カエル、イモリ、ネズミ、鳥など、動くものなら何でも食べる肉食魚だ。バス釣りのマニュアル本には、「大きなバケツのような口は、小魚を追い、食いまくるフィッシュ・イーター」と書かれている。さらに、外敵からオスが卵を守るなど、極めて繁殖力も強い。

 大館市手代沼で捕獲された巨大なブラックバス。バケツのように大きな口、このバスを文字どおりオオクチバスと呼んでいる。  まるでタラコのようにデカイ卵が2つ。このクラスだと1万粒を越えるだろう。オスは、ほぼ1ヶ月間絶食状態で産卵床を見張り、卵や生まれた稚魚を保護し続け、徹底した繁殖行動を行う。

 1925年(大正14年)、実業家・赤星鉄馬氏がアメリカからブラックバスを輸入し、神奈川県芦ノ湖に87匹を放流したのが始まり。当時から、ブラックバスは典型的な肉食魚で、むやみに放流すると在来魚に影響を与える危険性があることが知られていた。それでは、なぜ芦ノ湖を選んだかと言えば、この湖が他の水系と隔絶されていて、繁殖しても他の水域まで広がる恐れがなかったからだ。

 1964年までは、バスの生息分布は、わずか5県にとどまっていた。ところが、1970年代に入ると、状況は一変する。第一次ルアーフィッシングブームが起こったのだ。ブームに歩調を合わせるかのように、ブラックバスは急激に生息地を拡大、1979年頃には、何と40府県、まさに爆発的な勢いで広がった。

 1985年、バス釣りのプロたちが大会に参加して賞金を稼ぐバスプロトーナメントが始まった。釣具メーカーなどの企業が賞金や協賛金を出資し、イベントを展開、派手な商業主義に乗って第二次ルアーフィッシングブームが巻き起こった。

 東北最大のバス釣り場となった八郎湖。5月の連休ともなれば、県外のバスファンで連日満員御礼の盛況ぶり。右は、夫婦、子供、家族そろってバス釣りを楽しむバス釣り風景。今やバス釣り人口は300万人に膨れ上がった。八郎湖には、ボートが飛び交い、バシャ、バシャとヨシの中で騒いでいるのは全てバスばかり。この変わり果てた八郎湖に、かつての生態系は確実に破壊されている現実があった。

 ブームが一気に加速した1991年、長野県野尻湖でコクチバスが始めて確認された。これには水産関係者も行政もあわてた。というのも、オオクチバスが生息できない寒冷地や渓流、山上湖などにも生息できる新種だったからである。

 1992年、事態を重く見た水産庁は内水面漁業調整規則を改正し、ブラックバスやブルーギルの移植放流を制限する通達を出した。当然、全国の自治体は、相次いで放流禁止の条例を出した。しかし、その後もバスの違法放流は止まるどころか、一層エスカレートしていった。ちなみに新種・コクチバスの分布は、1997年8県、1998年14府県、2000年には27府県と凄まじい勢いで広がった。

 これだけ爆発的な勢いでバスの分布拡大を果たした裏には、釣具業界がからんだ組織ぐるみの密放流があったと見られている。複数の関係者がその事実をほのめかしている。

 1999年、ついに、バス釣り愛好家らが最も恐れていたキャッチ&リリースの禁止という、バス釣り人にとって最悪の事態を迎えるに至った。それに慌てたバス擁護派は、ゾーニングという最後の切り札をかざして100万人著名運動を展開、巨大化したバス釣り産業界を挙げて猛反撃に出た。

 これを受けて、水産庁は「閉鎖水域に限って外来魚の利用を認める」ゾーニング案を提示したが、日本魚類学会、日本生態系学会、日本自然史学会連合(35団体)などから強い反対を受け、ゾーニング案は宙に浮くこととなった。

 日本の淡水生態系で最も悪食家で知られる魚は、渓流の王者と呼ばれるイワナである。蛇を食う話は有名だが、さらにアリや同類のイワナをも食ってしまうのだ。にもかかわらず、無用な争いを避けることができたのは、彼らが清らかな冷水にしか生息できず、川の源流部に陸風され、他の魚たちと生息場所を棲み分けながら進化した結果なのである。仮に人間が、水温の高い下流に放流したとしても生きてはいけない冷水魚なのである。同じ肉食魚でも、日本のイワナと大陸からやってきたブラックバスとは、この点が決定的に違う。ブラックバスは、2種。比較的水温が高く、流れのない水域・湖沼や下流の河川に侵入したオオクチバス、そしてイワナやヤマメ、アユなどが生息する冷水域や流れのある水域に侵入したコクチバス。日本の淡水生態系の上下流を問わず全てに侵入してきた。もちろん、渓流魚の宝庫・北海道にも侵入している。ここに、バスの恐ろしさがある。


 ゾーニング案は、無用な争いを避け進化してきた生き物たちの棲み分けをヒントに考えられた窮余の策なのである。しかし、ブラックバスが日本にやってきた当初は、もともとゾーニングされた閉鎖水域・芦ノ湖に閉じ込められた魚だった。にもかかわらず、今や日本全国バスのいない都道府県は一つもなくなったのだ。移入種・ブラックバスの問題は、その生態もさることながら、多くの人間が介在した結果生じた悲劇だということを忘れてはならないだろう。

 バスを擁護する人たち全てが、この事実を真摯に受け止め、深く反省しない限り、密放流が完全になくなるという保証がない限り、ブラックバスの汚染を防止することはできない。悲しいことではあるが、安易にゾーニング案に賛成できない理由は、バスを擁護する人たちが、一切反省する姿勢をみせず、今だ密放流が続いているという大きな壁が幾十にも立ちはだかっているからである。
 話は変わる。アライグマやマングース、野生化したヤギ、混血ザル、ナイルパーチ、ブラックバスの移入動物たちに共通する点は、もともとそこに生息していなかった移入種であること、人間が大きく関与していること、天敵が存在しないこと、食欲旺盛で繁殖力が極めて強いこと、島国日本に生息する在来生物は、残念ながらこれら侵入者に対して極めてもろいという弱点を持っている。

 なかでもマングースとナイルパーチ、そしてブラックバスは、生態系の頂点に君臨する食肉の生き物である点が際立っている。この分類から推察しただけでも、マングースとナイルパーチ、ブラックバスは、極めて危険な移入種であることが容易に推定できる。(この3種の移入動物は、世界自然保護連合の移入種ワースト100に選ばれている)

 バスを釣る人もバス釣り団体も釣り雑誌もバス釣り産業界も、口では「密放流は悪い」と言っている。だが、いったん密放流されてしまえば、新しい釣り場として大歓迎、遊ぶだけ遊んで、バスを減らそう、駆除しようとする人はほとんどいない。やむなく、地元の人たちがブラックバスの駆除に立ち上がれば、「罪のないブラックバスを殺すのはかわいそう。人間の身勝手だ。」などと批判する。

 こうした批判は、アライグマや混血ザルの駆除に対して動物愛護者たちが決まり文句で放つ言葉と全く同じだ。生き物をむやみに殺すことは、誰だって好まない。逆に言わせてもらえば、批判する人たちが、移入生物たちを殺すことなく排除してくれるのなら、甘んじて批判を受け入れるのだが・・・。

 バスを擁護する人たちは、「ライオンがほかの動物を食い尽くすことはないように、バスも在来魚を食い尽くすことはない」といったライオン生態論を主張している。ブラックバス問題は、原産国である北米の問題ではなく、ブラックバスの脅威から守る術をしらない島国日本の移入種問題である。もし、ライオンの生態論が正しいとするならば、アライグマやマングース、野生化したヤギ、ビクトリア湖のナイルパーチの問題も何ら大騒ぎする必要はないという結論になってしまう。これはどう考えてもおかしい。

 「たとえ密放流されたバスでも、やがて生態系は安定する」という楽観論は、ハブ退治のために放したマングースの事例と極めて似ている。マングースはハブを食べ、ハブはマングースを攻撃する。放っておけば、ハブもマングースも著しく減少して安定するといった愚かな楽観論・・・かつて「ブラックバスとブルーギルのワンセット放流」が失敗した事例は、マングースの失敗とピタリと重なる。

 ブラックバスは、ブルーギルを食べ、ブルーギルはブラックバスの卵を食べて生態系は安定する。・・・ところが、ブラックバスは、ブルーギルをほとんど食べず、バスから身を守る術を知らない在来魚ばかりを食べ続けた。一方、バスに食われることなく増え続けたブルーギルも在来魚を猛烈に食べまくり、今やブラックバスを脅かすまでに増え、最もやっかいな移入種になってしまった。これはバス愛好家たちにとっても大きな誤算だった。

 さらに、ビクトリア湖のナイルパーチに至っては、既に固有種400種のうち半分を絶滅させている。ヤギの野生化は、島をまるこど破壊し、「死の島」と化している。「安定」とは言うものの、多くの希少種を絶滅させたり、あるいは破壊し尽くされた後の安定に過ぎない、ということを如実に示している。

 バスを擁護する人たちは、こうしたライオン生態論や見えざる手による安定・楽観論を唱え、経済効果が大きいからバスは「害魚」ではなく「益魚」だと主張する。一方、人気アニメに登場する少年が最後にアライグマ・ラスカルを自然に帰したように「キャッチ&リリースは生き物の命に優しい」などと、在来種と移入種の区別をすることなく、純粋な子供たちまで教育している。それを頑なに信じ、何の疑いもなく移入生物のリリースを繰り返し、人里離れた沼にまでバスを放す子供たち・・・あぁ、何と呟いたらよいか・・・。

 理屈はどうあれ、2001年、秋田県の農業用ため池で実施されたバスの駆除作戦の実態で検証してみたい。一言で言えば、小さな水域ほど悲惨な結果だった。バスが確認されてから、わずか数年で爆発的に繁殖、あっさり生態系の頂点に君臨しているのだ。40〜50センチ近い大物バスがウヨウヨ、その胃袋からは、タナゴやモツゴ、フナ類の小魚たちが3〜4匹も出てくるではないか。

 バスが侵入した米代川では、大量に生息する写真のような川エビやハゼ、トミヨ、モツゴなど小魚たちを大量に捕食していた。  横手市の沼では、モツゴとアカヒレタビラ(タナゴの仲間)を大量に捕食していた。

 エビやタナゴ、モツゴ、フナ類の小魚たちが食べられ食害が進行した沼では、何と同類のブラックバスまでもが食べられていた。これには、地元の人たちも絶句!

 大館市の沼で捕獲されたブラックバスの腹部をハサミで切り裂き、内臓を調査。右の写真は、胃袋から何と同類のバスが出てきた衝撃的な写真だ。

 数百年、数千年、いや数百万年の歴史を経て進化してきた日本の在来魚たち。彼らにしてみれば、大陸から突然やってきたエイリアンのような肉食魚が、ある日突然現れたなら、パニックに陥ったとしても何ら不思議ではない。移入されてきたブラックバスでさえ、驚くほど簡単に獲物にありつける。在来の魚たちは、陸を歩いて逃げる術もなく、一方的に食われている実態が浮き彫りになった。

 ブラックバスにしてみれば、異国の地で生き延びるために、パニックに陥った魚たちを食いまくり、子孫を増やし続けたに過ぎないかも知れない。しかし、食べるものもなくなり、ブラックバスがブラックバスを食うという悲劇が現実に起こってしまった。これは、移入種・ブラックバスでさえ予想もしないことだったに違いない。

 人間が長い間、観察し築き上げてきた理論には、空を飛び自在に移動する移入種の出現など念頭にはなかった。だからこそ多くの過ちを繰り返してきた。その異常が現実になった時、これまでの理論は、根底から破壊されたといっていいだろう。もともとエイリアンのような移入種問題は、誰一人その悲劇の結末を理路整然と説明できる人はいなかったのだ。ならば、生物多様性を脅かす侵入種を少しでも減らす道しか、選択の余地は残されていないのではないだろうか。それは、私の独断と偏見から導き出された結論ではなく、多くの専門家たちの一致した結論でもある。

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