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 ブナの森に微かに残るマタギ道をゆく

 2004年7月16日〜20日、パーティ6名で白神山地大川から赤石川源流へ・・・やけに気になっていたのは、新潟県中越地方と福島県会津地方を襲った局地的な集中豪雨(新潟・福島豪雨)。その梅雨前線が北上を続けていた。案の定、雨また雨に見舞われ、赤石川源流への山越えを断念。予定外の大川源流探索に切り替えた。
 大川最大の難所・タカヘグリ・・・切り立つ左右の黒壁。狭く深い流れ。ここを越すには、胸まで水に入らなければならない。さらに下流右岸の大規模な土砂崩れで、流れが堰き止められ、新しい湖が誕生。以来、ボートなしには通過不能になっていた。ところが・・・。
 大川〜マタギ道〜オリサキ沢
 白神山地は、空梅雨が続いたようでどこの沢も超渇水・・・大川は、これまで何度か訪れているが、こんな渇水は見たことがなかった。そろそろまとまった雨が降らないとやばいんじゃないか・・・これじゃ「大川」ではなく「小川」だ、と思うほど、流れに力がなかった。
 右手からジョウトクの沢が合流すると、その尾根沿いにマタギ道がある。標高差およそ500m、急な上り坂が続き、かつ薮と化している。決して楽なコースではない。大川最大の難所・タカヘグリを通過できるかどうか・・・「?」だった。安全を期し、迂回するマタギルートをとる。その道に入る直前、全員がピンソールを着ける。
 渓流シューズ2名、渓流足袋4名。うちピンソール初心者は4名。仲間に装着方法を教えながら着ける。全員、スパイクシューズ、スパイク足袋に変身してマタギ道に挑む。
 ほとんど藪と化した尾根沿いの道をゆく。まもなく雨が降り出した。それにしても、5日分の荷を背負い、こんな急な登りはたまりません。今年初参加の美和ちゃんは、心臓がパッコン、パッコン・・・破裂しそうだったらしい。何度も休みながら前進する。
 今から7年前の10月、このマタギ道を歩き、大川〜石の小屋場沢〜赤石川〜ヤナダキ沢〜暗門の滝へ・・・およそ22キロを歩いたことがあった。急斜面に大きな根を張り、今も踏ん張り続けるブナの巨木・・・それを見た瞬間、おぼろげな記憶が鮮明に蘇った。
 左の写真は今回撮影、右の写真は7年前の写真。四方八方に地を這う根は苔に被われ、白い幹には「へのへのもへじ」の懐かしいナタ目がはっきり残っていた。
 雨が強くなると、ブナの森は白い霧に包まれ、白神らしい幻想的な風景を創り出す。幹を伝う雨水は一本の沢のように音をたてて根元に流れ下る。いつもながら、雨水を貯める技には感服せざるを得ない。天に張り出す枝葉は、雨水全てを受け止め、幹へと集める漏斗(ろうと)のような機能を持っている。
 7年前と明らかに異なる点は、地元の人たちがほとんど歩かなくなり、猛烈な藪と化しつつある点だ。山道は、人が歩かなくなると、あっという間に消え去ってしまう。それにしても頭上から雨、内から汗、前は背丈以上の濡れた藪、藪・・・苦しいこと、この上ない。
 尾根のピークを過ぎ、急な斜面を下ると、唯一穏やかなブナ林の中にマタギ小屋があるはずだった。ところが、とうに朽ち果てていた。写真右上は、7年前のマタギ小屋。写真右下は、朽ち果てた小屋の右手斜面にあった仮小屋。小さく、今にも倒れそうな粗末な小屋・・・とても生業と呼べるような小屋ではなかった。隔世の感を抱かざるを得ない。
 大雨・濁流・・・大川ヨドメの滝へ
 朝5時、テントをうつ雨音で眼が覚める。昨夜から休みなく降り続き、大川本流もオリサキ沢も濁流と化していた。5時半頃、バケツをひっくり返したような大雨となる。濁流はぐんぐん力を増し踊り出した。これでは大川に停滞せざるを得ない。7時を過ぎると、嘘のように雨は小降りとなる。濁りが消え、水位が下がったのは午前10時。山越えを断念せざるを得なかった。
 広い河原をゆったり流れる笹濁りの瀬尻から、黒い陰が何度も走る。岩魚だ。ほどなく、ヨドメの滝に達する。対照的な二本の滝が連なる光景は、お見事!・・・手前の滝は「魚止めの脇の沢」に懸かる滝で、女性的な滝だ。右奥に見える滝が大川本流に懸かる「ヨドメの滝」で、大量の飛沫を吹き飛ばしながら豪快に落下する男性的な滝だ。
 いつになく水量が多いだけに、ヨドメの滝の迫力は満点だった。落差は20mと言われているが、25〜30mはありそうだ。滝の流れは、左岸の岩壁にぶつかり、直角に曲がって流れ下っている。「ヨドメ」とは「魚止め」を意味する言葉だ。
 魚止めの脇の沢に懸かる滝上部・・・ヨドメの滝の瀑風はもの凄く、近づくことすら拒否されているような滝だった。ところが、この滝は、思いっきり近付いて、聖なる飛沫を頭から浴びて「滝の洗礼」を受けたくなる不思議な魅力を秘めていた。
 天気が良ければ、滝のシャワーを浴びながら右手の小段を直登してみたかったが・・・小雨が降っていたので断念。ヨドメの滝は、右岸に明瞭な巻き道があった。
 ヨドメの滝の上部・・・滝上から激甚の落差をもってほとばしる瀑布を眺める。ヨドメの滝は、大川流域の中で、マイナスイオン値が最も高いに違いない。
 小雨と雪渓に煙るヨドメの滝上流部。
 渓全体に白い雪煙が漂い、周りの空気が冷蔵庫に入ったような涼しさを誘う。ここは別世界・・・と言わんばかり、何とも見事な雪渓だ。
 左:冷んやりした雪渓を前に記念撮影
 右:右手からヒトハネ沢が合流する二股。大川源流は、不思議と穏やかな渓相が続く。どこか粕毛川源流に似ているように思う。
ヒトハネの岩門
 ヒトハネ沢が出合った、すぐ上流に流れが狭くなった岩門がある。スケールは小さいが、何となく、神秘の扉を潜り抜けていくようなロマンを感じる。地元では、この岩門をマタギが一飛びした伝説は有名らしい。以来「ヒトハネの岩門」と呼ばれている。
 岩門に生えていたホソバイワベンケイ
 源流部では、あちこちに雪渓が残っていた。
 流れが右に直角に曲がった左から小カチズミ沢の滝が懸かる。この滝上の小カチズミ沢は、青鹿岳に登る指定ルートになっているが、恐らく藪で歩けないだろう。青鹿岳に登るなら、大滝又沢から青鹿沢〜鬼の坪〜青鹿岳が地元の一般的なルートだからだ。なのに、関連ルート、指定ルートとも尾根筋の藪だらけルートばかりが目立つ・・・世界遺産地域の指定ルート、関連ルートの線引きには疑問を持たざるを得ない。
 右岸の斜面が崩落してできたガラガラゴーロ帯。大川は、雨が降ると濁りやすい理由がやっと分かったような気がする。タカヘグリ下流の大規模な崩落、そして源流部の崩落・・・これじゃ濁るのも当たり前か。この崩壊地帯を上りきると、また流れは穏やかとなる。最後のカチズミ沢の大滝を目指す。
 谷がだんだん狭くなり、両岸の壁も次第に切り立ってくる。まもなく、滝が現れる・・・といった雰囲気が渓谷全体に漂っている感じだ。ほどなく、カチズミの滝に達する。
 左:カチズミ沢の滝・・・落差10mほどの滝。これを大滝と勘違いし、ここで引き返したが、後で調べると、このすぐ上流に落差40mほどの滝があり、それがカチズミ沢の大滝だった。残念!
 右:この滝下の岩盤に咲いていたノビネチドリ。
 今回も大川は、赤石川源流への通過点として計画していたに過ぎなかった。けれども、雨と濁流のお陰で、予定外の大川源流をのんびり探索できた。なかなか足が向かなかった未知のルートだっただけに、思わぬ収穫だった。明日は、いよいよ大川最大の難所・タカヘグリ探検だ。
参考:世界遺産・白神山地核心地域内指定ルート及び入山届出について
 保存地域の入山は、津軽森林管理署(FAX0172-27-0733)に入山届出が必要。
 その際「一日ボランティア巡視員」を引き受け、遡行後、
 巡視の結果及び保存地区の管理のあり方等について意見を述べるようにしてください。
 世界遺産指定地域内の河川は全て釣り禁止につき注意。

白神山地核心地域内指定ルート図&現地状況一覧表
核心地域入山手続き要領

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