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和賀山塊・堀内沢〜マンダノ沢〜天狗の沢〜羽後朝日岳〜部名垂沢下降
 和賀山塊は、北が田沢湖町仙岩峠から南が太田町真木渓谷、西は角館町抱返り渓谷から東が沢内村和賀川上流部に広がる約3万haの総称である。うち樹齢100年以上の天然林面積は、秋田県側だけで1万5千haを超える。主峰和賀岳(1440m)や白岩岳(1177m)、薬師岳(1218m)には登山道があるものの、第二の高峰・羽後朝日岳(1376m)には登山道もなく、広大な和賀山塊の中でも最も原始性に富んでいる。それだけに堀内沢マンダノ沢源流を登り詰め、孤高の羽後朝日岳山頂に登る夢を何度見たことか・・・
 いつもマンダノ沢のスケールのでかいゴーロ連瀑帯と別天地のような蛇体淵、源流の美魚たちに邪魔され、天狗の沢入り口に懸かる魚止めの滝を眺めては、引き返すのが常だった。また朝日岳北面を流れる生保内川へも何度も足を運びながら、V字谷に懸かる魚止め滝でいつも引き返す始末・・・しかし、竿を担いだ沢歩きは、別に山頂を踏むことが目的ではなく、身震いするような渓谷美の真っ只中でのんびり竿を垂れていれば、それで満足だった。

 とは言うものの、何度も通い詰めているうちに、まだ見ぬ天狗の沢源流を登り詰めてみたい、羽後朝日岳山頂に立ってみたい、との思いが次第に強くなっていった。その夢がやっと実現した。(上の写真は羽後朝日岳・雲海の花園をゆく)
水の回廊・堀内沢遡行編
 堀内沢は、大雨でも降ろうものならたちまち遡行困難に陥る。梅雨時期だが、幸い初日は快晴、水量も平水よりやや多い程度だった。かつての盗伐林道は右岸にあるが、崩壊が激しく、とても快適とは言えない。夏の陽射しが射し込む天候に恵まれれば、やっぱり沢なりに歩くに限る。
天狗の団扇・トチノキ
 渓に張り出したトチノキ・・・深山の渓流沿いに生える代表的な樹木で、夏に果実ができる。秋に熟すると、種子をすりつぶして「とちもち」などの材料として利用されている。
 トチノキの葉と落下した果実。天狗の持っている団扇は、このトチノキの葉に違いない。マンダノ沢源流に「天狗の沢」という名前があるが、奥が深く、人間が容易に近づけない聖域に分け入った山人は、このトチノキの葉から連想して名付けたのではないだろうか。
 右岸にある盗伐林道は、角ばった落石が多く、非常に歩きづらい。この林道を歩くとすれば、朝日沢下流のこの付近に降りる。写真は、中村会長がその降り口を見上げているところ。
 巨樹の森だけに、沢沿いにはダケカンバ、杉、ヒバ、ブナなどの風倒木が目立つ。それだけに太古の森と渓の息吹を感じさせてくれる。
 清冽な流れを右に左に渡渉を繰り返す。夏の暑い陽射しに汗も滴り落ちるが、清冽な流れに身を浸せば、その暑さも吹き飛ぶ。夏はやっぱり清涼感溢れる沢歩きに限る。
苔蒸す水の小径とシダ植物
 日陰の湿った空間の岩は、一面分厚い苔に覆われている。聖域に分け入る雰囲気は満点だ。
 鬱蒼とした林内の斜面でよく見掛けるシダ植物「オオバショリマ」・・・葉の長さは0.2〜1.2mと大きく、葉柄に鋭い毛がある。ショリマは、アイヌ語でクサソテツを意味している。
お助けヒモ(スリンゲ)
 お助けヒモ・・・5m程度のお助けヒモがあれば、写真のように後続を安全に、スピーディにサポートできる。パーティのトップを行くリーダーあるいはサブリーダーは、常に全員の安全を考え行動することが求められる。後続を顧みず、自分だけサッサと歩くようでは失格。
鬱蒼とした混交林・朝日沢出合い
 左から朝日沢が流入する二又。大きな杉やヒバの針葉樹が目立つ。車止めからマンダノ沢までのほぼ中間地点だ。
 エゾアジサイ
 ヒバとブナの混交林。右手のブナの幹には、熊の爪跡がはっきり見える。
 右手から流れ込む沢はイワイ沢。
命綱はザイルではなく、布テープ
 ちょっとルートを間違えば、こんな場面も。10mの布テープを二重にして直立する壁を安全に降りる。無理して激流を渡渉するより遥かに安全だ。
 ヤマセミの羽根だろうか。娘に本のシオリとしてプレゼントするのも悪くはないかなと思い、二本だけいただく。
堀内沢名所の一つ・ワニ奇岩
 ワニ奇岩・・・誰が名付けたかは知らないけれど、通称「ワニ奇岩」と呼ばれている名所の一つ。しかし、数年ほど前に下顎部分が風化で落下してしまい、往時の面影がなくなったのは残念だ。一つ注意点は、増水すれば渡渉が不可能で、堀内沢最大の難所と化す場所でもある。瀬畑翁が流され足を骨折したのも、このすぐ下流だ。
 ワニ奇岩左手は、凹凸のはっきりした岩場で、簡単に通過できる。ただし増水すれば流れに埋没してしまうので、このルートは使えない。そんな時は、左手高台に巻き道ルートがある。
 苔生した岩穴?・・・実は狭い岩と岩の間に大岩が挟まってできたもの。かつては通過できないほど狭い穴だったが、風化で上の岩が落下し、楽々通過できるようになった。苔の洞門あるいは神秘の扉を開けて歩くようで、中に入ると身も引き締まる。
 岩穴を抜けると一転、渓は開け秋田杉の森となる。
堀内沢第二の名所・三角錐の岩峰
 和賀山塊は雨量が多いことでも有名だ。そんな激流に耐え未だに健在だが、根の部分がかなり洗われていたのが気になった。この三角錐の岩峰が見えれば、マンダノ沢出合いも近い。
ブナの森に包まれた穏やかな渓をスローに歩く
 マンダノ沢と八滝沢が出合う二又近くになると、渓も不思議なほど穏やかになる。堀内沢本流で最も心和む場所でもある。決して急がず、のんびり歩きたい。
 ブナの巨木が林立する原始の森を見上げる。この穏やかな空間は、誰しもテン場を構えたくなる場所でもある。右岸の高台には、三ヶ所のテン場がある。テントを担いでいたが、お助け小屋の健在を確認するためと山神様に今回の堀内沢完全遡行の安全を祈願するために、我々はオイノ沢に向かう。
 大岩が点在するゴーロをゆく。
 マンダノ沢・八滝沢二又下流右岸に広がるブナの森。明るく広い緑の空間に、旅人は、しばし安堵の心に浸る。
お助け小屋
 鬱蒼としたブナの森にひっそり佇むお助け小屋。この小屋の管理人・戸堀マタギと一夜を語り明かすべく電話をしてみたが、抜けられない用事があって残念ながら同行できなかった。小屋の中には、ネズミ、それを狙う蛇もいるかもしれないので、中を煙でいぶし、小屋周辺の掃除を行う。
八滝沢の岩魚釣り
 二又付近を釣る。今晩の夕食用に目標は一人2尾。しかし・・・
 毛鉤を丸呑みにした岩魚。側線より下に鮮やかな橙色の斑点をした典型的なニッコウイワナだ。しかし以降キープサイズの8寸には満たずリリースを繰り返す。釣れない釣り日和では、やはり良型を釣るのは難しい。
 八滝沢F1の滝6m。
 八滝沢は、F1の滝から落差の大きいゴーロ連瀑帯が続く。好ポイントが続くものの、7寸前後の小物が多かった。
 F2・15m滝・・・くの字型に流れる滝の小段に上がり、清冽な滝の上部を撮る。この滝の上には、さらに12mの直滝が連続している。熟練したルート選定、技術がなければ突破は困難だ。
 竿を出したのは、わずか2時間ほどだったが、8寸以上5尾を何とか確保。
 オイノ沢のせせらぎの音、満天の星の下、燃え盛る焚き火を囲み乾杯。岩魚の刺身、皮と頭と骨の空揚げ、フキの炒め物、ミズタタキ(味噌とニンニクで味付け)、ミズの塩昆布漬けをツマミに飲み語らう。明日は、標高差450m・天狗の沢出合いまでのハードな遡行が待っている。そのエネルギーを蓄えるには、酒だけでなく、飯もたらふく食らう。

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