TQWTスピーカー(床材使用)

発行者:相馬 孝志
Aug.7,2009:初 版


はじめに

 少し前に紙パイプのQWTスピーカーを作って見ました。再生音量は小さいのですがとても良い音がするのでパソコン用オーディオとして机の両脇で鳴らしています。最近は私のメインのYAMAHA NS-600よりこちらを鳴らす方が多いような気がします。
 今回はこれに刺激されもう少し大きな音が出せる木製 Tapered Quarter Wave Tube(TQWT) 型のエンクロージャーを作りFOSTEXのFF85KやDIYのSA/F80AMG、パイオニアのPE-16もどき(30年以上前のパイオニアのコンポ付属のスピーカーでPE-16のマグネットをフェライトにしたもの、以下PE-16’と表記)を入れて聴いてみたいとの欲望であえて苦手な木工に挑戦してみました。

設計のつもり

 夏が近づいても懐が寒いままなので、エンクロージャーを安価に作るための材料をコンパネかOSB、MDFのいずれかの定尺ものを200mm幅ぐらいでカットすることを想定してDIYストア内をうろついていました。そこで板厚13mm、幅330mm、長さ1,830mmの床板一坪(6枚組)2,980円の値札が目にとまり、バッフル幅300mmなら10インチユニットまで取り付けることが出来るぞ!との邪念が芽生え二坪分(12枚)を衝動買いしてしまいました。
 と言うことで、エンクロージャーの高さは約1,800mmでTQWTの1/4波長共振周波数frは(1)式からL=1.8mで約47Hzとなり、8cmユニットでは最低共振周波数f0の1/2程度、16cmユニットではf0と同じか少し低い値となります。ユニットの取り付け位置はTQWTの場合閉じている側からから1/2とするのが一般的のようです。

  fr=344(m/sec)/4*L(m) ・・・・・・(1) 344m/secは25℃の音速です

試しに作って聴いてみます

 先ずは見取り図の箱を一台試作して試聴して見ることとします。一台分の材料は幅330mm、長さ1,830mm、厚さ13mmの床材4枚です。床材は組合せ嵌合出来るように板の端の片側が凸、反対側が凹型に細工されています。床になる面には薄くて丈夫な印刷塗膜が貼り付いています。長手方向にも嵌合用の細工があります。
 エンクロージャーの側板は前面に凸が来るようにしました。バッフルと裏板は嵌合部が邪魔なので両側を15mmカットして幅300mmとします。見取り図で解るように四角な箱の裏板を側板の対角線に沿って斜めにしただけの超簡単な構造です。長手方向の上側を凸にしましたがカットはしませんでした。バッフルと裏板を側板に木ネジで止めると出来上がります。しかしながら、床材の材質はコンパネのようなベニヤなので木ネジを板の厚みに対して中央に真っ直ぐ刺さないと割れるし煽りを加えても割れてしまいます。300mm×1,800mmの板はかなり大きく重いので組み立てには仮止めなどの工夫が要ります。
 組み上がったところでユニットをバッフルに取り付けるための穴を中央に開けます。私の場合フロントマウントの16cm用としました。作業中はベニヤ板のバリが細い棘になり刺さりますので切り口はヤスリなどでバリを落とさないとひどい目に遭います。裏板にケーブル端子を付けると試聴できる状態となります。開口部と床とのクリアランスを100mm以上設けた方が良いと思いますのであり合わせの木材とかを用意して箱を載せ空間を確保します。
 以上で準備完了なのでPE-16’を取り付けて音を出してみます。出てきた音の低域は十分で風呂場的共鳴が少なくとても良い感じでしたので真面目に二台目を作ることとしました。試作の段階で箱が重くて取り回しが悪いことが判りましたので少しでも軽くするため側板を三角形にカットすることと。テーパーの合わせ目とバッフルと裏板と片方の側板の取り付けは木ネジと木工用ボンドで固定してしまうこととしました。吸音材などのチューニングはネジ止めしている方の側板を外して行いますが最後はボンド併用で固定することとします。

本番製作

 側板を電気ノコで三角形に切断したら対角線が曲線になってしまい、私は大工に向いていないことをつくづく感じました。側板の端切れで開口部と床とのクリアランスを確保する足を作りました。16cmユニットの丸穴は写真に示した棒状で360度方向に歯のついた錐と曲線引きとヤスリ合体木工便利道具を見つけたので少し楽に開けることが出来ました。
 二台目は一台目の経験から少しマシな仕上がりとなりました。仕上がったエンクロージャーはごつくて威圧感があり、手の掛かりが無くて取り回しが悪いのでそのうちに側板に取っ手を付ける必要がありそうです。床材の色は本ページのバックカラーに近い光沢のある明るいピンクがかったグレイでどう見ても床の一部という感じでスピーカーボックス的な物体ではありませんがしばらくは我慢です。
 バッフルにはPE-16’のための穴が開いていますが、8cmや他のユニットも試したいのでそれぞれの口径に合わせた四角なサブバッフルを作って止めるようにします。取りあえず8cm用のサブバッフルを用意してFF85Kと交換出来るようにしました。ユニットの保護のためにアルミ製の細かいメッシュを貼りました。外観を写真に示します。

チューニング

 両方のエンクロージャーにPE-16’を付けて鳴らしてみました。試作品で試聴した通りびっくりするような低音が響きました。中高域はPE-16’の心地良い音です。が、しかし、しばらく聴いていたら耳の高さや向きで違和感があり良く聴くと定位が悪いことに気がつきました。
 エンクロージャーに耳を近づけるとバッフルや側板、裏板がかなり高い音域まで響いているのが判りました。特にバッフルと裏板が激しいようです。どうやらこれはバッフル幅が300mmと広いためユニットの裏から放射する音が裏板に伝わりそれから反射してバッフルも振動しているのではないかと推測いたしました。
 これを避けるためにはユニットの裏に吸音材を入れるしかない、それも、面積を広くする必要があると判断し、50cm幅1m長のニードルフェルトを凹形にして裏板に貼りました。この結果バッフル前面の中高域の振動は激減してとてもクリアな音になりました。

PE-16’の試聴結果

 出来上がって間もない時に遊びに来た義弟がこの箱を見て「なんだこりゃ?」と言い、音を評して「映画館の音みたい」と言いました。「映画館の音とはなんぞや?」と聞き返したら家庭では聞けない迫力とのことで納得。この時はドビッシーの交響曲「海」を大きめの音量にしていました。
 その後バスが効いているフィリッパジョルダーノのLOST BOYS CALLINGや伊藤君子のFollow MeなどをYAMAHAのNS-600他と聞き比べていますが、低域は負けない響きで中高域はPE-16’の心地良い音でとても気に入ってしまいました。
 PE-16’の元箱は300mm×450mm×230mmぐらいのルーズな内圧の少ない構造で低域は物足りないが中高音はとても良い感じで鳴ってました。しかし同ユニットをTQWTに入れたとたんに「こんなに低域も出るのか!」とびっくりでもっと聞き込みたいと思っています。

FF85KとSA/F80AMGの試聴結果

 PE-16’は「めでたし、めでたし」でしたので、ユニットを8cmのFOSTEXのFF85Kに交換してみました。FF85Kは高域ののびが抜群で中域も心地良い音がします。低域はf0が125Hzと高めですがエンクロージャーの共振に助けられて思いもよらない低域の響きが出ます。DIYのSA/F80AMGも中高域は評判通りの音で低域はFF85Kよりf0が低い分力強さがあります。どちらのユニットも100m径で長さが2mのパイプQWTで実験した時より上質な低域の響きで風呂場効果が無いのはうれしいです。12cm口径以下のユニットならバッフル幅200mm以下で十分だと思います。

ダイトーボイスDS-16Fの試聴結果

 PE-16と同じネジ位置で「無印」と呼ばれて人気のあるダイトーボイスのDS-16Fを試してみました。実験に先立ちDS-16FをPE-16’が入っていた箱に入れて見たら低域の出は数段上でしたので、期待を込めてTQWTに入れて音出ししてみましたが低域はほぼ同じでした。
 問題は高域で中央にサブコーンを備えてはいるがセンターキャップが無いタイプなので高域がきつく感じます。PE-16’と比べるとうるさい感じです。私の記憶では三菱ダイヤトーンP-610もこんなにきつい音は出ていなかったと思いましたので、試しにサブコーンの上にセンターキャップ様の紙の円錐を仮止めしたら少しマイルドになりました。DS-16Fの高域は私の好みではないのでPE-16’に戻してエージングを続けています。

まとめ

 ひ弱なユニットを使ったパイプ型QWTスピーカーの鳴りはリスニング環境に影響されましたが10W以上を入力できるユニットはパワーでカバー出来ます。やはり口径が大きいと排出量も大きく音圧も高く迫力がありますのでTQWTに16cm=ロクハン(6.5インチ)を入れたのは正解だったようです。しかしながら、最近の市販ユニットのf0はこのTQWTより低いものが多いのでこのエンクロージャーの共振効果の御利益は少ないように思います。このエンクロージャーの力が発揮されるのはf0が50Hzより高いユニットのように思います。
 試作したTQWTエンクロージャーとPE-16’の組合せはとてもすばらしく、さらに、EL34三結差動アンプとの組合せは最高です。この組合せはソースを選ばないようで、MacのiTunesに集めたマイ・コレクションを聴き直しながらシングルコーン・フルレンジの良さを再認識している今日この頃です。このエンクロージャーの低域は下に向けた開口部からズーン(ドーンではない)と響き昔のロクハンユニットが鳴っているとはとても思えません。
 現状の音には満足していますが若干箱鳴りしているので補強と吸音材のチューニングが必要と思っています。問題は図体がゴツイことと塗色が今イチであることです。木工細工が下手なので今の状態では綺麗に塗って仕上げることに踏み込めないでおります。


TQWTエンクロージャーの写真


TQWTエンクロージャー見取り図


スピーカーユニット部


曲線引き用木工便利道具

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