EL34(6CA7)三結差動プッシュプル・8WX2ステレオ・アンプ

初版 Dec.11,2008


はじめに

 EL34(6CA7)の三結差動プッシュプルは出力が大きく高音質と噂されているのが漏れ聞こえます。私もこれまでに2A3などの三極管で差動プッシュプルのアンプを手がけてきましたが、出力が大きな差動ステレオアンプは作製していなかったので、噂を信じて取り組んでみることとしました。


 アンプの構成は、初段が6DJ8(ECC-88)、ドライバーが7119(E-182CC)、出力がEL34(6CA7)三結の三段構成で、7119とEL34の間は直結の全段差動アンプとしました。シャシーはリードのS-2大型弁当箱、サイドウッドは白木の桐です。飾りとして自照式の出力レベルメータをつけました。EL34の動作点を曲がりの少ないA級シングルに近いところにしたため出力を8Wに抑えています(と言うのは負け惜しみで実際は電源トランスのパワー不足)。音の方は期待通りの差動アンプサウンドで大満足しています。


EL34(6CA7)とはどんな球?

 使用したEL34は中国VA製の1ペア2,800円の格安品ですが、私のところには使い込んだNECの6CA7が一組あり、これと同じ音が出ていますのでこの買い物は当たりのようです。
 EL34はヨーロッパ生まれの5極管で、プレートとスクリーンの合算損失が30Wでスクリーン耐圧が500V以上あり、シングルで10W、プッシュプルで50W以上出すことが可能ですので古くから高級オーディオ、構内放送用PAなどに使われてきました。スクリーンの耐圧が高いので三結は得意と言えます。
 EL34はフィリップスと提携した松下が日本で発売し、各社が追従した球で、東芝は6GB8を開発して対抗したと言う経緯があります。右の写真は左から松下(ナショナル)が発売した当時の6CA7ーHiFi、その隣がNECの6CA7(1970年前半)、右端がつい最近購入したVAのEL34の外形です。松下の6CA7はプレミア物ですが残念ながらカソードの結線の溶接がはがれていて動きません。1970年以前のナショナルの球は溶接不良や組み付け不良でカソードとグリッドがタッチするなどしてテレビやラジオをたたけば動くと言う不良が多かったと記憶してます。

回路構成と設計の概要

 終段はEL34三結でプレート電圧300V、プレート電流62.5mA、負荷抵抗P-P間5KΩ、バイアス-21.5Vとしました。7119のプレート電圧は共通電位との電位差を0Vとして、EL34のグリッドと直結しました。この構成で最大12Wの出力が得られますが美味しいところでノンクリップ8Wを仕上がり出力としました(差動アンプなので出力を抑えても電気代は変わりません)。以上から、EL34をフルスイングするためにはグリッドに15V RMS以上を必要とすることが解ります。
 電圧増幅はμが30の6DJ8を用いゲインが27倍、ドライバー段はμが24の7119でゲインは17倍となるので計算上の合成ゲインは122倍(42db)ぐらい得られます。アンプの仕上がり出力を8Ω負荷で8W RMS、入力を300mV RMSとすると必要なゲインは28.5dbとなりますので13.5dbの負帰還が可能なことが解ります。
 本ドライバーの構成は、6080のようなバイアスの深い低μ管のドライバーとしては最適な組み合わせですがEL34には少し大げさなので12AU7二本でも必要なゲインを保ってEL34をドライブできます。ドライバー部分の詳細な設計については全段直結差動方式6080プッシュプル・モノラルアンプに掲載してありますのでそちらをご参照ねがいます。
 電源回路は、測定機のジャンクから取り出したトランスをベースにして、定電圧放電管とバイポーラトランジスタなどを用いて5種類の電圧を作り出しています。主電源の平滑チョークはノグチのPMC1030Hを使用していますが損失が5Wになるのでかなり発熱します。-C1のバイアス電源トランスも容量をけちったのでチョット唸っているようです。
 以上を基に、各部の実際の定数を決めたEL34三結差動ステレオ・アンプの回路図EL34三結差動アンプの電源回路図を右に示します。


6CA7/EL34の外形


EL34三結差動ステレオ・アンプの回路図


EL34三結差動アンプの電源回路図


製作と音色などについて

 本アンプは、とにかくローコストに仕上げることを目標に手持ちの部品を総動員して組み立てました。唯一の贅沢は、フロービスさんが販売している自照式の34Φ丸形VUメータを使って出力レベルメータを付けたことでしょうか。メータには概ね0dbを1W,4W,8W,16Wに切り替えるスイッチを設けています。このメータを見ていると通常は出力1W程度で聴いていることが判ります。
 本アンプの回路構成では、ビーム管ではありますが6GB8とKT-88はそのまま差し替え可能です。音的には私の好みではありませんが、差し替えてみるのも一興かと思います。
 音質は、以前作製した2A3差動プッシュプルモノラルアンプと同じ系統の差動アンプサウンドで、ソースを選ばない「良い音」がするので、私のメインシステムとして使い始めています。


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