紙パイプQWTスピーカー

発行者:相馬 孝志
Jun.16,2009:初 版


はじめに

 塩ビ管QWT(Quarter Wave Tube)や木製Tapered QWT自作エンクロージャーに8cmや10cmのフルレンジを入れて楽しんでいる方が増えていますが私も紙パイプQWTスピーカーを試作して見ましたので紹介します。
 元来へそ曲がりで大工仕事が苦手な私が製作意欲をそそられたのは塩ビQWTの製作例です。Webの記事によれば低音が良く出るが音がパイプ臭くてボーカルが風呂場で歌っている感じとなり、これを抑制する吸音材の入れ場所が難しいとのことでした。また、製作例の多い木製TQWTはあまり風呂場状態にはならないとのことでした。
 以上を参考にして私も木に近い紙筒を使ってQWTを作ってみることにしました。紙筒としては長さ約600mmで直径が約58mmのA1プリンター用ロールペーパーの芯が手近にあるのでこれを試してみることにしました。
 紙筒が58mm径なので開口部2インチ程度のスピーカーユニット(以下ユニット)を探したら、物置に壊れたApple eMacがあり、こいつのオーディオが生意気な音であったことを思い出し、早速ユニットを取り出してみるとAURA SOUNDの様なコーン形状の2インチのFOSTERのOEMユニットでこの紙筒と大きさがピッタリでした。

設計のつもり

 材料が集まったので共振周波数を決めることにしました。600mm長の紙筒(以下パイプ)3本継ぎでは1,800mmと長すぎるので、2本継ぎ1,200mmとするとパイプの1/4波長共振周波数frは(1)式からL=1.2mで約71Hzとなり使用するユニットの最低共振周波数f0の1/3ぐらいになります。通常はfrをユニットのf0から1/2程度の範囲としますのでこのパイプはかなり低めですが良しとしました。ユニットの取り付け位置はQWTの場合閉じている側からから1/3とするのが一般的のようです。
  fr=344/4*L(m) ・・・・・・(1) 344は25℃の音速です

作って聴いてみます

 先ずは一台(本)試作して試聴してみます。一本分の材料は600mmパイプ2本とユニット取り付け継手用70mm長パイプ1個、厚さ5mm以上で80mm×100mmぐらいのバッフル板1枚、共振パイプの蓋1個です。
 とりあえず聴いてみるためにパイプの端から400mmのところにユニットに合わせた52mm程度の穴を開け、ここにケーブルを付けたユニットを押し込みガムテープなどで隙間を塞いで仮止めします。が、次のパイプをつなごうとしている時に300mm(1/4)のところに穴があることに気がつきました(恥)。
 不精者は300mmで目をつぶり、パイプの長手方向の開口部をボール紙などでしっかりと塞ぎもう一本のパイプをガムテープでつなぎ音を出してみます。結果は「やや!おぬしやるな!」で、意外にパイプ臭さも少なく良い感じなので真面目に二本作ってみることにしました。


  • ユニット取り付側共振パイプの製作
     一本のパイプの端から400mmのところに継手用52mm径の穴を開けます。次に70mmパイプでバッフル取り付け用継手を作ります。70mmパイプを継手用穴に合わせてなるべく首が短く、直角にくっつくようにカッターで切り取り、ヤスリなどで調整して隙間が出来ないように細工します。このとき継手穴の大きさも調整して継手と共振パイプを木工用ボンドで隙間無く接着します。接着中の固定はガムテープを包帯にします。これで翌日にはユニット取り付側共振パイプが出来ます。
  • 共振パイプの接合
     ユニット取り付側共振パイプの接着剤が十分乾いたら。残りの共振パイプも蓋をする方向を間違えないように木工用ボンドで密着接合し翌日まで放っておきます。次にユニットに合わせた取り付け穴を開けたバッフル板を木工用ボンドで継手に接着して乾いたら音出しができるようになります。
  • 組み立てと試聴
     バッフルにユニットを取り付け共振パイプのユニット側に蓋をして音を聞いてみます。結果は最初の試聴とは違いしっかり低音が出て余計な共鳴もなく「とても良いぞ〜」になっていました。これはパイプの空気漏れが無くなりしっかり共振するようになったためです。
     この段階でビビリ音などの変な鳴きがある場合はパイプの接着不良が考えられます。2インチのユニットでも音量を上げるとパイプ内の音圧で全体がかなり振動しています。また蓋の強度が弱いとこれが振動板になっていることが判ります。私の場合、蓋の脇からケーブルを引き出していましたがその隙間から漏れる音がパンクした自転車のチューブから漏れる空気のように顔に当たるのが判りました。またバッフル板が薄いため振動していますので全ての部材を厚く丈夫にすることがベターです。
  • チューニング
     パイプ臭い音を抑制するためには吸音材を適度に入れます。私の場合はパイプの振動でケーブルがパイプに当たる音もしましたのでその防止も兼ねて4枚重ねから2枚はぎ取ったキムワイプ(紙ウエス)を蓋からユニットの裏側までふんわりとケーブルにまとわせることにより多少の改善が認められました。しかしながらパチパチとまばらな拍手ではこれにパイプが共鳴してパイプ臭い音が残っているのが判ります。
     聴感上いくつかの共振/共鳴点があるようですがユニットの取り付け位置やパイプの長さと口径や肉厚、吸音材の位置と密度でも変わると思います。また、リスニングルームの床材や壁、天井、広さなどの環境でスピーカーの鳴りが変わりますのでパイプの長さ等を調整すれば自分の部屋に合った音になると思われます。
  • 仕上げ
     PC用の2インチユニットでこの鳴りであれば良しとします。仕上げに入る前に接着した部分を良く観察して隙間とか薄いところが無いかチェックします。これらの部分は継手とパイプの段差をパテで隠す時に一緒に穴埋めや補強をおこないます。パテが乾いたらヤスリやペーパーで凸凹を修正した後でバッフル板も含めて全体にペーパーをかけ表面を滑らかにして塗装します。バッフルはニス仕上げとしパイプはアクリルスプレーで仕上げました。完成したスピーカーの外観とユニットの写真を示します。
     工作で一番面倒だったのはバッフル用継手作りでした。後で気がついたのですがこの継手として雨樋用のチーズ継手(T字形)が使えた可能性があります。塗装や木工関係の関連情報は日曜大工のページを検索して参考にしてください。
  • 評価など
     出来上がって間もないので何とも言えませんが、パイプの表面が塗装で硬くなりパイプ臭さがほんの少し強くなりました。このスピーカーはアボリジニのディジュリドゥの仲間なので共鳴するのは仕方のないことでそれが持ち味でもあります。
     パイプ径が細いことが幸いし、共鳴音は女性の高い声かそれより上の帯域となったようで男性の胴間声に共鳴してひどい状態となることは避けられたようです。共鳴は形状をTQWTとすると低減できるそうですのでコーン型にすれば良いのかもしれません。
     パイプ型QWTスピーカーの鳴りはリスニング環境でも変わり易いようで板張りの小さな部屋で調整して畳の大きな部屋に運んだら音量が減って低域の響きも減りましたがある程度パワーを入れると本来の音になります。しかしながら、このユニットは2W止まりなのであまり改善は期待できません。AURA SOUNDの2インチなどでパワーアップする手もありかなと思っています。

まとめ

 音質は、チェロとの相性がとても良くウッドベースはびっくりするほどの音が出ます。風呂場効果が少ないのでボーカルも何とかなってます。出力2Wまでならオーケストラもジャズバンドも大丈夫です。ロック系は苦手なようです。
 この試作でQWTの良さと匂いを体感できたので構造が単純な折り曲げない木製のTQWTエンクロージャーを作ってFE85KかDIYのSA/F80AMGで鳴らしてみたいと思っています。
 このスピーカーは大音量が苦手な104-D/12Aのシングルアンプとの相性がとても良いので同アンプの専属にしようかと思っています。コダーイの無伴奏チェロソナタはパイプの共鳴も手伝ってチェロが良く響きます。現代のスピーカーでは共鳴は悪者ですが昔の大型蓄音器の中には共鳴を利用して名器と呼ばれているものがありますのでこれも良いのではないかと自己満足しています。


QWTスピーカーの外観


スピーカーユニット部


eMacの外観

 eMacのスピーカーユニットで銀色のアルミコーンのものはエッジがウレタン製でボロボロになっているものがあるようです。

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