パイプ型スピーカーあれこれ

発行者:相馬 孝志
Aug.7,2009:初 版


はじめに

 塩ビ管QWT(Quarter Wave Tube)や木製Tapered QWT自作エンクロージャーに8cmや10cmのフルレンジを入れて楽しんでいる方が増えていますが私も少し前に紙パイプのQWTを作って見ました。再生音量は小さいのですがとても良い音がするのでパソコン用オーディオとして机の両脇で鳴らしています。また、この他に木製TQWTや100mm径のボイド管QWT、タイムドメインスピーカーもどきの実験をおこないました。とても良い音となった木製TQWTについてはこちらに紹介しています。
 パイプ型スピーカーは簡単に作れそうなので塩ビパイプなどで試作している方が多いようです。しかしながら、使用ユニットとのバランスや吸音材の入れ方が難しく納得できる音を出すのは難しいようです。私も塩ビパイプで色々試作してみましたが今イチでした。その中では52mm径紙パイプQWTは使用したユニットとのバランスが良かったようでかなりいい音となりました。この時に色々実験した中から100mm径のボイド管QWTとタイムドメインスピーカー「Yoshii9」もどきの実験結果を掲載します。

そのー1:ボイド管QWT

 VU 75の塩ビ管QWTと8cmユニットで実験してみましたがどうしても風呂場効果(パイプの共鳴が風呂場の残響のようになること)が取れなくて挫折していました。VU 75は8cmユニット用としては少し細くて物理的な大きさの相性にも問題がありました。そこで一回り太い100mm径のボイド管(2m長で600円)なら10cmクラスのユニットまで使えることと、紙製なので塩ビ管とは異なる響きになるだろうとの期待で実験してみることとしました。
 2mのボイド管を667mmと1,333mmに切り分けて100mm径用塩ビチーズでつなぎ、もう一つの穴にスピーカーユニット用のバッフルを付けます。これで全長が2,150mmのQWTとなり1/4波長共振周波数frは(1)式からL=2.15mで40Hzとなり8cmユニットの最低共振周波数f0の1/2ぐらいになります。

  fr=344(m/sec)/4*L(m) ・・・・・・(1) 344m/secは25℃の音速です

 これに8cmユニットのDIYのSA/F80AMGを取り付けて試聴して見た結果低域は驚くほど出ています。がしかし、風呂場効果は男性の胴間声付近でとても気になりますが塩ビパイプより早く収束する感じです(塩ビは「コーン」で紙は「コツン」)。吸音材としてニードルフェルトをスピーカー裏付近に50cm程の長さで入れてみたらかなり改善できました。外形は良く見受けられる塩ビQWTと同じなので省略します。
 このエンクロージャーは長いので低域は良く出ますが、取り回しは最悪です。さらに、開口部とユニットとの距離が145cmもあり低音と中高音が別の位置から出て来るので不自然です。パイプを曲げると良いように思いますが塩ビの曲げジョイントは結構高価なのでこの一組でパイプQWTいじりは棚上げとしました。


そのー2:タイムドメインもどきの実験

 パイプスピーカーで遊んでいるとタイムドメイン方式を手がけてみたくなります。タイムドメインの理屈はタイムドメイン社に技術解説がありますのでそれをご覧下さい。

   http://www.timedomain.co.jp/
   http://www.timedomain.co.jp/tech/tech.html

 自己流の解釈では周波数領域で考えずに時間領域で音を考えよう!??。スピーカーはユニットのフレームを絶対動かない大地に固定しエンクロージャーはユニットと絶縁しよう。アンプの理屈は良く解らなかったので、差動アンプなら許してもらえるだろうと言うことで触れないこととしました。スピーカーに関しては何となくイメージできたので同社の「Yoshii9」もどきに挑戦してみることとしました。

タイムドメインスピーカー作りのための共通要素

 以下は技術解説を基にYoshii9もどき製作の参考のために勝手に記述するものです。


  • 仮想グランド
     スピーカーユニットは仮想グランドと呼ぶ大質量の物体にマグネット部を取り付けます。私の場合、実験中は強力な薄い円盤形の磁石をユニットのマグネット部にくっつけ、その反対側に鉄の棒(鉄筋や長ネジ、水道管)を適当な長さに切った物をくっつけています。本作では接着剤でマグネットにナットを貼り付け、それに長ネジをねじ込んでダブルナットで固定しています。
  • ゲルパッキン
     ユニットとエンクロージャーは密着し、かつ、機械的振動は絶縁されていることが必要とのことです。Yoshii9ではここにゲル状パッキンを使っているとのことですが重い仮想グランドで「ぺしゃんこ」にならず、振動を遮断し、かつ、気密が保てる材質と構造は難題です。
  • エンクロージャーパイプ
     エンクロージャーはパイプでなくても構わないようですがYoshii9は軽金属のパイプを使っているとのことです。エンクロージャーパイプは鉛直で使用し、天には仮想グランドの重りがついたユニットがゲルパッキンの上にちょこんと乗っているだけです。パイプは床との支えにもなり、通常は倒れないように足がつけられます。パイプの下部は開口していて床との間はパイプ径より大きなクリアランスを設けます。パイプ以外のエンクロージャーでは卵形が有名です。
  • 吸音材の働き
     仮想グランド(とパイプにも?)には吸音材を着けます。ユニット背面からの中高音は吸音材で抑制され開口部からは放射されてはいけないようです。ユニットからは音が天に向かって球状に放射され、リスナーは横方向から音を聴くこととなります。低域はパイプの下部からも放出されますがバスレフか共振パイプのような働きをするようにも思われます。とにかく内圧が少ないのでコーンに対するストレスは少ないと思われます。吸音材は風呂場効果の抑制にもなります。
  • 52mm径紙パイプと2インチユニットによる実験
     以前に紙パイプQWTを作ったパイプが余っていたのと、写真に示したPowerMac G4用の俗に「目玉親父/アメリカンクラッカー」と呼ばれる球形スケルトンスピーカーの2インチユニットが余っていたのでこれを使い小形Yoshii9もどきを作ってみました。「目玉親父」は1995年頃のハーマンカードンのチューニング製品で、そのサウンドはPC用スピーカーのデザインを変革したことでも有名です。
     パイプ長は600mmで先端に60mm径の雨樋の接続部材を細工してスピーカーユニットの受け皿とし、これにゲルパッキンを載せ、その上から2インチユニットに8mm径で長さ500mmの長ネジを接着剤で付けた仮想グランド(仮想グランドにユニットが着いているといった方が正しいかも)にグラスウールを巻き付けたスピーカーユニットを差し込む構造としました。外形写真ではユニットに保護用の茶こし網が付いてます。
     ゲルパッキンはエクシールコーポレーションの5mm厚のハイパーゲルシートを「ところてん」状に切り取って輪にしました。
  • 紙パイプと2インチユニットでの試聴
     使用した2インチユニットは紙パイプQWTで使用したユニットの系統でアルミコーンのウレタンエッジで指向性も広くかなり良い音がしていましたので期待一杯で音を出してみました。実験を始めた頃はゲルパッキンが入手できなくて隙間テープやフェルトなどをパッキンに使っていましたが振動のアイソレーションは不完全でした。このためパイプ鳴りがしてクリアな感じが無く一寸がっかり。
     さらに低域は目玉親父と良い勝負で物足りない状況でした。これは、先に作った紙パイプQWTがとても良かったためで600mm長のパイプではこの程度ではないかと思います。後にゲルパッキンが入手できたので機密性が上がりさらに振動がパイプに伝わらなくなったため音質がクリアになり中高域は良い感じになりました。Appleのオーディオがハイグレードだったことを確認できる音です。
     また、音量を上げることが出来るようになったため低域も少しレベルが上がりましたが物足りない感じは解消できませんでした。やはりパイプを太く長くしてf0の低いユニットを使わないとダメなようです。以上で小型パイプスピーカーいじりは終了としました。
  • ボイド管Yoshii9もどきの実験
     QWTで使用したボイド管がもったいないし邪魔なので下側(1,333mm)を使ってYoshii9もどきを作ってみることとしました。100mm口径のゲルパッキンが手元にないので厚手のウレタンを使うこととしました。ユニットは8cmから12cm程度まで乗せることが出来そうですが10cmがちょうど良いようです。
     手元に東芝のバズーカサウンドと命名されたラジカセの10cmユニットがあったのでこれなら低音がドーンと出るだろうと思い20mm径で長さ700mmぐらいの水道管を仮想グランドとしてユニットに磁石止めしてエンクロージャーに乗せてみました。結果はまずまずの低域ですがQWTに比べると物足りない感じです。水道管に木綿の端切れを巻いて吸音材にしましたが風呂場効果が少し残っています。
     チューニングを続けようと思っている矢先に、小屋の中からパイオニアのカーステレオ用12cm同軸2ウエイユニット(80W入力)をペアで発見しました。これなら低音も十分に出るし思いっきり入力をかけることが出来るだろうと思い立ち早速交換しました。
     音を出してびっくり!すこし品の無い低音がドーンと出てきました。高音は正面だと「きつい」音のツイーターの上向きの音を横から聞くこととなったので「きつさ」が薄れて良い感じです。このユニットはリヤウインドウ用なのでツイーターは少し斜めに付いています。ユニットのパワーが大きいので吸音材を多めに入れても低域が減衰することを気にすることなく風呂場効果を目立たなくすることができました。
  • 評価など
     カーステレオのユニットなので繊細さは期待していなかったのですが意外に好感が持てる音です。低域はスーパーウーファー並にズドーンという感じで出ます。このエンクロージャーはユニットのf0が低い方が良いようです。素材は紙ですが相当大きな音を出してもパイプの振動は感じません。多分仮想グランドとユニットとエンクロージャーのアイソレーションが機能していて吸音材が効いているためだと思います。
     ところで、タイムドメイン理論では2ウエイユニットは邪道のようですが、何はともあれ低域十分で中高域もそれなりなので結果オーライとし、ガムテープ止めなどの急ごしらえを本作りに変更することを計画してます。

まとめ

 ボイド管は紙製なので細工が楽で安くてとても良い材料です。もう少し厚みがあれば言うこと無しです。QWTは1200mmから1,500mmぐらいまでが曲げなくても良い長さで、パイプ径が太いと風呂場効果の周波数が低くなるようです。
 また、私の作ったボイド管Yoshii9もどきにはf0の高いユニットは適していないようです。最後に取り上げたカーステレオ用ユニットは大出力のアンプで鳴らすと良いようです。タイムドメインスピーカーはまだまだ研究してみたいところが多いスピーカーだと思っています。


紙パイプYoshii9もどき


使用ユニット(目玉親父)


ボイド管Yoshii9もどき


12cmカーステレオユニット


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