The Days of Multi第五部第11章 投稿者: DOM
The Days of Multi
第5部 Days with Serika
☆第11章 睡眠不足 (マルチ25才)



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<おもな登場人物>

 柏木耕一  鶴来屋の副会長。
 柏木芹香  耕一の妻。来栖川グループの会長。
       仕事の関係で、耕一と別居を余儀なくされている。
 柏木香織  耕一と芹香の娘。高校一年生。
       容姿は芹香そっくりだが、明るく活動的、やや脳天気。
 マルチ   耕一の妻(のひとり)だったが、自発的に身を引き、芹香の第二秘書をしている。
 セリオ   芹香の第一秘書。耕一の影響で、ときどき妙なジョークを言う。
 ミリー   量産型セリオ。来栖川邸のメイドロボ。
 長瀬源五郎 マルチ・セリオの生みの親。今はメイドロボのカスタマイズを生業としている。
 長瀬綾香  芹香の妹で、源五郎の妻。元エクストリームの女王。
 松原葵   東風高校エクストリーム部の創始者。現在は自分で道場を経営している。
 田口翔子  東風高校エクストリーム部の部長。
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「パ…パ…」

 また夢だ。

「いやだよ…」

 夢だから、どうしようもない。

「お願いだから…」

 夢だから、安心していられる。

「お願いだから、縛らないで!」

 そう、安心して… え? 縛る!?

「駄目だ。」

 パパは手に…ロープを持って!?

「おとなしくしなさい。」

 ちょ、ちょっと待って!! いくら夢だからって、SMは反則よ、反則!!

「香織…」

 あう… エルクゥ化するなんてずるいよ。香織、逆らえないじゃない?

「さあ、縛ってあげようね。」 

 …こくん

「…これでよし、と。」

 うう… 苦しいよぉ。

「とっても魅力的だよ。」

 そ、そうかな? …って、照れてる場合じゃない!!

「さて、それでは…」

 い、いやだよ、いくら何でもこんな格好で…

「鞭と蝋燭とどっちがいい?」

 …は?

「やっぱり最初は鞭だろうな。」

 ま、まさか本気で?

 …ピシッ!!



「きゃあああああああああっ!?」

 私は絶叫した。…そして、やっと目が覚めた。
 ほっ… 助かった…
 しかし、夢の内容がだんだんエスカレートしてくるような…?

 コンコン

 ビクッ

「…………」
 香織、どうかしたの?

「マ、ママ!? …な、何でもないよ。」

「…………」
 叫び声が聞こえましたが?

「ご、ごめん…
 変な夢見て…大声出しちゃったみたい。」

「…………」
 夢? …夢判断なら少し勉強したことがあります、よかったらどんな夢か話してください。

(あんな夢、話せるわけないじゃないよぉぉぉ!?)

「い、いいってば、ママもまた明日仕事があるし…」

「…………」
 いいえ、かわいい娘のためならば、少しぐらい夜更かしするのは何でもないことです。

(し、しまった。ママってオカルト系の話になると、急にリキが入るんだった…)

「…………」
 さあ、遠慮なく話しなさい。

(ううっ、そんなことより、早く寝させてよぉぉぉ…)



「…………」
 ぼぉーっ

「…………」
 ぼぉーっ

「…何か…無気味ね?」

 綾香が呟く。

「うむ… 芹香がふたりになったようだ。」

 綾香の父も呟く。

「今日は休ませた方がいいのでは?」

 綾香の母も呟く。

「香織さん、大丈夫ですかぁ?」(手を伸ばすマルチ)

 なでなで

 …反応はない。

「香織ちゃん、大丈夫…?」(手を伸ばす源五郎)

 ぺしっ

「…あなた。
 身内に『手を出すな』って、前に言ったでしょう?」

「ご、誤解だ! 私はただ頭を撫でてやろうと…」

 痛む手をさすりながら、長瀬は懸命に弁解する。

「…ったく、男ってほんとにすけべなんだから…
 ねえ、セリオ、あんた香織のこと、どう思う?」

「−−……………(ぼぉーっ)」

「…って、セリオ!?
 何、姉さんの真似してんのよ!?」

「−−いえ、香織さんの真似ですが。」

「どっちだっていいぃぃぃ!!」



 執拗に夢のことを聞き出そうとする芹香と、ただただ眠りたい一心の香織は、長時間に渡る確執を
くり広げた挙げ句…見事に睡眠不足になった。
 おかげでふたりとも、今朝はぼぉーっとしている。
 もっとも、芹香の場合、少なくとも外見はふだん通りなのだが。



 ぼんやりとうつろな目で食事を取る香織を見ながら、家族はひそひそと、「今日は学校を休ませる
べきか否か」相談していたのだ。
 「腕白でもいい、たくましく…」派の綾香は、この程度のぼんやりで休ませていたら、高校時代の
芹香は出席日数ゼロとなっていたであろう、と主張して、登校させたがる。
 一方香織の祖父母は、来栖川家の跡取りに万一があれば大変と、休ませたがっている。
 後のメンバーは、特にどちらとも決めかねているようだ。



「芹香。おまえはどうなんだ?
 ここは、母親のおまえが決めるのが妥当だろう?」

「…………」
 ぼぉーっ

「芹香も休ませたらどうですか?
 母親の私がそう決めれば妥当かと…?」

「頼むから、まぜ返さないでくれ…」



 何度も語りかけるうちに、ようやく父親の言葉が認識されたらしく、芹香は口を開いた。

「…………」
 香織、具合が悪いのなら、休みなさい。

「…………」
 ぼぉーっ

 香織は何の反応も示さない。
 芹香はメイドロボのミリーを呼び寄せた。

「…………」
 ミリーさん、香織を部屋に連れて行って休ませて下さい。

「−−かしこまりました。
 …さあ、香織さん、参りましょう。」

「…………」
 ぼぉーっ

 香織はミリーに手を引かれて立ち上がる。

「…………」
 あ、そうそう、ミリーさん。ついでに香織が昨日どんな夢を見たか、聞き出しておいてください。

 ひくっ

 香織の体がかすかに動いた。

「−−かしこまりました。
 …聞き出す手段については、何かご指定がありますか?」

「…………」
 特にありません、あなたにお任せします。もし『薬物』が必要でしたら、私の部屋の…

 びくっ

 香織はゆっくりと口を開いた。

「…学校…行く…」



 ふわぁ… ゆうべはひどい目にあった。
 ママったら、あんなにむきにならなくても…もしかして、ヤバい夢だと気がついている?…わけな
いよねぇ?
 ふわ… あーあっ、学校来てからあくびばっか。
 こりゃ、今日も居眠りは必至ね…
 …あれ、もう? 目の前に…青々とした草原が…
 まだ…朝のホームルーム…終わって…ないのに…

 …………

 …ZZZ…



「では、出席を取る。…青木。」

「はい。」

「上田。」

「はい。」

「小笠原。」

「はい。」

「柿崎。」

「はい。」

「柏木。」

「…………」

「ん? 柏木は休みか?」



(ちょ、ちょっと、柏木さん。起きてよ。)

(…ZZZ…)

「柏木?」(見つけた)

(柏木さん、柏木さんったら!?)

(むにゃむにゃ… パパ…反則だよ…)

「柏木は、いないのかぁ?」(不機嫌)

(寝惚けている場合じゃないよ!)

(うーん… ママ…薬は堪忍して…)

「かぁしぃわぁぎぃ!?」(怒)

 つかつかつか…

(た、大変!! 先生が来るよ!!)

(ふわぁ… え? 何が来るって…?)

「柏木!!」

 むずっ!!(香織の肩を掴む)

「!?」(寝起き)

 むずっ!!(教師の袖を掴む)

「!?」(へっ? という顔)

「たあああああああっ!!」(思いきり投げ飛ばす)

 ぐしゃっ

 …沈黙。

「…あれ? 私…?」(目をさます)

 クラスの沈黙。

「どうしたの?」(床を見る)

 教師の沈黙。

「先生!? 一体どうして?
 …え? 私が? 投げ飛ばした!?
 …そ、そんなあああああ!?」



 焦った香織は、目を回している教師をおんぶすると、一目散に保健室めざして駆け出した。
 その動作が余りにも素早く、またスムースだったため、誰ひとり、『小柄な香織が自分よりずっと
体格の立派な教師を背負って、なおかつ廊下を走ることができる』ということの不自然さには、気が
つかなかったようである。

 無人の保健室につくと、一生懸命教師の頭のこぶを冷やしたりさすったり、思いつく限りの手当て
を施す香織であった。
 間もなく、教師は息を吹き返した。

「う、うーん… ん? ここは…?」

「せ、先生!!」

「うわ!?」

 いきなり胸元に涙目の美少女が現れたので、焦りまくる教師。

「ご、ごめんなさい!! 悪気はなかったんです!!
 ゆうべ寝不足で、つい… ゆ、赦してください!!」

「…柏木? …そうか…
 確かお前を起こそうとして…投げ飛ばされた…?
 …何でお前にそんなことが?」

「わ、わかりません!!
 寝惚けてたもので、自分が何をしたか、よく覚えていないんです!!」

「…ほんとか? (確かに寝込んではいたようだが…)」

「ほんとです!! ごめんなさい!!
 赦してください!! この通りです!!」

「あう…」

 涙を浮かべた美少女が、心底申し訳なさそうに詫びている。
 耕一でなくても、男なら多少のことは赦してやりたくなるような状況だ。
 …現にこの教師も男だった。

「そ、そうか…?
 よし、今回はお前の言うことを信じよう。
 …その代わり、二度とするなよ?」

「はい!! 二度と先生を投げたりしません!!」

(いや、それよりも居眠りをだな…)

「…ああ、よかった。
 先生に叱られたら、どうしようかと思いました。」

 ほっと一息つくと、笑顔を見せる。
 かつて耕一や浩が指摘したように、現金な娘だ。
 しかし、それが彼女の魅力でもある。

「せっかく先生とお近づきになれたのにぃ…」

 微笑みながら、ちょっと体をくねらせる。
 職業女の媚びと違い、無意識かつ無邪気な仕草なので、いやらしさはない。
 それでいて、強烈な破壊力があったりする。

「でも、先生ってお心が広いんですね? 安心しました。」(にっこり)

 こう言われて、さらに寛大さを示したくならない男はあまりいないだろう。

「ほんとにすみませんでした。
 せめて、お怪我の手当てをさせていただきます。」

「あ、いや… 大したことないから、もういいよ。」

「いえ、せめて形だけでも…」

「そ、そうか…」

 美少女の甲斐甲斐しい看護というのは、実は嬉しいものであったりする…



 香織は、真剣そのものの表情で、まず頭のこぶの手当てを終えると、今度は体のあちこちにある打
ち身などを調べ始めた。
 彼女は、いまのところ耕一以外の男性を異性としてはっきり認識していない(というか歯牙にかけ
ていない)ので、教師の体をあちこち探ったりも平気でする。
 シャツを脱がせて湿布をしたりもする。
 治療に必要な場合は、体をうんと近づけたりもする。
 教師としては、あまり心臓によくないが、結構幸せな状況でもある。



「これで大丈夫だと思いますが…
 念のため、少し休んで行かれた方がよろしいかと思います。」

「い、いや、しかし…」

「先生、今日の一時限目は授業がありますか?」

「え? えーと、いや、あいてる…」

「それじゃ、やっぱり休んで行ってください。」

「しかし…」

「あ、本当にお眠りになっても結構ですよ。
 私、ここで番をしていますから…」

「いや…」

(それじゃ、かえって落ち着かない…とはっきり言うのも気の毒だし…)

 香織は部屋の隅にあった椅子をベッドの端に引き寄せると、微笑みながら腰かけた。

(えーと…どうしよう… 教室へ帰れと言ってやるべきか…?)

 教師が迷っているうちに、香織はこくこくし始めた。
 極端な睡眠不足のため、気が緩むと、すぐに眠くなるのである。
 教師が呆れて見ていると、大きく右へ左へと揺らいでいた香織の体は、やがてゆっくりと前のめり
になった。

「!!」

 …そして、香織の半身は、教師の体に対してやや斜めに預けられる格好となった。
 香織の額が、教師の下顎のあたりに来るかたちだ。
 その髪から、清潔そうなシャンプーの香がする。
 さらに、香織の形のよい胸の膨らみを、お腹のあたりで感じることになる。

 教師は、煩悩に悩まされながらも、必死に耐えた。
 ここで香織の胸に直接触ったりしたら、クビは覚悟しなければならない。
 しかし、その背中にそっと手を置くぐらいは許されるであろう。
 さらに、その手にちょっと力を加えるくらいのことも…

 というわけで、教師は香織の背中に手を回して、ゆっくりゆっくり力を加えた。
 当然、ふたつのふくらみがより強く押しつけられる。
 心臓の鼓動が激しくなる。

「うう…ん…」

 香織が声をもらした。

 教師ははっとして押さえつけるのをやめたが、香織が目をさました様子はない。

「…パパ… やっぱり…会いたいよ…」

 見ると、閉じられた両目から、かすかに涙がにじんでいる。

(そう言えば…事情があって、父親だけが遠方にいるとか聞いたな…
 まだ、お父さんが恋しい年頃なんだな…)

 不憫に思う。可愛くも思う。
 うっすらと涙を浮かべた美少女は、教師の胸にすがった格好のまま、眠り続けた。
 一時限目終了のチャイムが鳴る頃には、この教師は確実に「香織ファン」に改造されていた。



 うーい。気分悪いよぉ。
 結局一時限目は自主休講となり、保健室で寝込んでしまった。
 目をさましたら先生に寄りかかっていて、恥ずかしかったけど… 笑って赦してくれた。
 担任が優しい先生でよかったな…

 二時限目以降、全滅だった。
 どの授業も居眠り…というか爆睡状態。
 しかし、なぜか先生方は、至近距離には近づかず…
 やや離れた所から呼びかけたり、隣の生徒に私を揺り起こさせようとしたり、そんなのばかりだっ
た。
 …多分、私が寝惚けて担任を投げ飛ばしたことが知れ渡ったのだろう。



 そしてようやく放課後。
 今日はエクストリームの日だ。
 結局、陸上部もエクストリーム部も断わり切れず、大体一日交替で両方に顔を出すことで了承して
もらった。

 神社に着くと、先に来ていた部員たちが私を見て、駆け寄って来た。

「柏木さん、寝惚けて先生を投げ飛ばしたんだって?
 すごいことするわねーっ。」

「柏木ぃ、こってり絞られたんだろう?
 え? 何とか赦してもらった? ほんとかよ?
 かーっ、美人は得だねえ。」

「でも、どこでそんな投げ技覚えたの?」



 今日は松原さんは来ていないようだ。
 部長が皆の後から、ゆっくり私に近づいて来る。
 田口翔子さんといって、松原さんと同じくショートカットの似合う女性だ。

「柏木さん、うちの部員は、ほとんど空手出身なので、
 投げ技が余り得意ではないの。
 今朝の投げとやらを、是非見せてほしいんだけど?」

「え、えーと…
 寝惚けてたんで、どう投げたのか、今一つ…」

「確か、片手で先生の腕を掴んで、
 無造作に投げたとか聞いたけど?」

(それって…)

 心当たりがある。
 いつか千鶴お姉ちゃんに殴りかかったとき、何度も投げ飛ばされた、あの投げの一つ…
 いやというほど食らったせいか、体が覚えてしまったのだろう。

「そう…ですか。
 それなら、多分お見せできると思いますが…」

「ありがとう。」

 部長は嬉しそうだ。

「で… その… だれが、投げられてくれます?」

 あまりいい役ではない。多分下級生の…

「私ではだめかしら?」

「え? そんな!?
 まさか部長を投げるわけには…!!」

「いえ、自分で投げられて、
 どれくらいの威力があるか試してみたいのよ。」

(さすが部長…)

「わかりました。それでは…」

「そのかわり、私もある程度抵抗しますからね?」

「え? …部長!!
 私、部長と対戦なんて無理ですよぉ!!」

「大丈夫、私はあなたに投げられないよう防戦に努めるだけで、
 こちらからは攻撃をしかけたりしませんから。」

「そ、そうですか?
 …では、お手柔らかに。」

「こちらこそ。」



 私たちは、他の部員の見守る中で、対戦を開始した。

 最初のうち、私も部長もじりじりと動くだけで、相手の様子を探ることに集中した。

(うーん… 隙がない。)

 格闘技には素人同然の私にも、それは明白だった。
 部長は、三回ほどエクストリームの大会に出場経験があり、三回ともいい線まで行ったと聞いてい
る。
 そのことがあっさり頷けるような構えだ。
 ただ待っているだけでは、いつまで経っても隙が生まれそうにない。

(とすれば…隙を作らせるようにしなくちゃ。)

 エルクゥの力を解放しないで、部長に対抗できるものがあるとすれば何だろう?
 私は、走り高跳びで、自分でも驚くほど高く跳べたことを思い出した。
 足腰のバネ…跳躍力なら、結構いけるかも?
 何とかそれを使って…隙を作らせよう。



 香織は思い切って跳んだ。

(え!?)

 部長は驚いた。
 ふつうこれくらいの高さを跳ぶためには、かなり大きな動作が前振りにあるはずだが…
 香織は自分が立っていた場所から、「ただ」ジャンプして…
 信じられないくらい高く跳び上がったのである。
 はっとした時には、香織は部長の右側に着地していた。

(投げられる!!)

 部長はとっさに右腕を取られまいとかばいながら、香織がつかみかかって来る手を払い除けようと
構えた。
 …が、その手はいつまで経っても来なかった。
 香織はもうそこにいなかったのである。

(な…!?)

 相手を見失った部長は一瞬うろたえた。
 そのときには、部長の頭上を跳び越えて斜め後ろに回り込んだ香織が、部長の左腕を捕らえていた。

(しまった!!)

 そう思った時には体が宙を舞っており、とっさに受け身の姿勢を取るのがやっとだった。
 彼女の体は、激しく地面に叩きつけられた。

「つう…」

 受け身を取ったとはいえ、かなりの衝撃に、部長は呻いた。

「あ!? だ、大丈夫ですか?」

 香織が我に帰る。
 隙を掴もうと必死だったので、はずみで思いきり投げつけてしまったらしい。

「ご、ごめんなさい…」

 慌てて部長の傍に駆け寄った。すると…

 むずっ

 部長は地面に腰を下ろしたまま、近づいて来た香織の胸ぐらを掴んだ。

「ぐっ!? 部…長?
 …く、くる…しい…」

「柏木さん!! あんた一体何者!?」

 激した部長は、思わず腕を交差させて、香織をぐいぐい絞め上げていた。

「格闘技は素人だと言ってたけど…ごまかされないわよ!!
 ずぶの素人に、どうしてあんな凄いジャンプができるのよ!?
 あの目にも止まらぬ身のこなしと言い…
 それにあの投げ!!」

 部長は容赦なく追及する。
 香織は目を白黒させている。

「あんな鋭い切れ味の投げなんて、
 大会でも滅多にお目にかかれないわ!!
 それを…格闘技は初めてですって!?
 嘘も大概にしなさい!!
 あんた、一体何のために…!?」

「ぶ、部長… 柏木さん、落ちかけてますよ?」

「え?」

 気がつくと、香織は、部長に絞められて白目を剥いていた。

「あ、あれ? …柏木さん?」

 はっとして手を放すと、香織の体はぐったりと地面にくずおれた。
 失神しているらしい。

「ちょ、ちょっと、しっかりして!!」

 慌てて介抱しながら、部長は思った。
 こんなに呆気無く絞め落とされてしまうなんて、やっぱり素人なのかしら、と…


−−−−−−−−−−−−

前にも書きましたが、格闘技の知識がほとんどないので、
細かいところは突っ込まないようお願いします。



<改訂版への追加>
 最初にUPしたテキストでは、香織が絞め落とされる描写に誤りがありました。
 胸ぐらを強くつかまれた程度で簡単に失神してしまうように書いてあったのですが、
 投稿後ある方から指摘があり、
 その程度で「落ちる」ことはほとんどなく、稀にそういう人がいたら、
 それはむしろ、その人が格闘技の「経験者」である証拠だ、ということでした。
 というわけで、改訂に際し、もう少し本式に絞められたように書き直しました。
 前よりはましになったのではないかと思いますが…


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