The Days of Multi第四部第26章パート1 投稿者: DOM
The Days of Multi
第4部 Days with the Kashiwagis
☆第26章 冷たい戦争 (マルチ13才) Part 1 of 2



「ふう…」

 今日はやけに疲れた。
 会議を終えて会長室に戻る。

「会長。今日はもうご予定はありませんが…
 お帰りのお車の手配を致しましょうか?」

 秘書の問いに、

「ああ。そうしてくれ。」

 と答える。

 早く帰って休みたい。
 それが偽らざる心境だ。



 後継者問題でもめかけた来栖川グループも、耕一の抜擢が効を奏して、最近では落ち着いている。
 しかし、長引く不況の中、グループの会長と来栖川エレクトロニクスの社長を兼ねつつ、対策をあ
れこれ講じていくのは、やはり骨の折れる仕事だった。
 このところ疲れがたまる一方のような気がする。

(早く帰って休みたい…)

 まぶたが重くなる。
 どこからか心地よい音楽が聞こえて来るような気がする。
 そして「ぐっすりお休みなさい。」というささやきが…



「会長。お車の用意ができました… 会長?」

 ソファにもたれてぐったりとしている会長。
 その様子を不審に思った秘書が駆け寄る。
 会長の顔は紙のように白い。

「会長!? しっかりしてください、会長!!」



 トゥルルルルルル…

 カチャッ

「はい。柏木です。
 …あ、芹香さんのお母様ですね?
 初音です。ご無沙汰してます。
 …はい。少々お待ちください。」

 初音は、保留ボタンを押して、芹香を呼びに行った。

 …………

 カチャッ

 芹香は受話器を取り上げた。

「…………」

「あ、せ、芹香!? た、大変なの!
 慌てないで、落ち着いて聞いてちょうだい!!」

 話し手の方がよっぽど慌てているようだが…
 傍から見ていると、相手が一方的に話しているとしか思えない会話が終わり、芹香は受話器を戻した。

「…………」

 しばらくそのままじっと立っている。
 第三者の目には、ただぼんやりしているだけとしか映らないだろう。

 カチャッ

 やがて、芹香はもう一度受話器を取り上げた。

 ピッ、ピッ、ポッ…

 トゥルルルルルルル…

 呼び出し音がなる間、やはり芹香はぼーっとした様子で相手が出るのを待っていた。

 …が、実は芹香は、これら一連の動作を、彼女なりに大いに焦りながら行なっていたのである。



「もしもし、姉さん?
 珍しいわね、姉さんがお店に電話よこすなんて。
 何かあったの? …え? 何?
 ちょ、ちょっと、姉さん、何慌ててるの?」

 さすがは姉妹だ。
 芹香がひどく慌てているのに気がついたらしい。

「どうしたの!?
 まさか、香織の身に何か!? …えっ、違う?
 じゃあ、もしかしてマルチの追っ手がまた…?
 マルチのことでもないの?
 それじゃあ、初音さん? 違う?
 楓さん? でもない?
 …って、姉さん! あたしに当てさせてどうするの!?
 姉さんが一言言ってくれればすむことじゃない!?」

 綾香が思わずかみつく。

「え? 気が動転していて、そこに思い至りませんでした?
 しょうがないわねえ。で、一体どうしたのよ?
 え? 家から電話があった? それで?
 …え? 何ですって? お父様がかつがれた?
 かつがれたって、誰に? 誰だかよくわからない?
 で、具体的なダメージでも受けたの? 今調べているところです?
 …ふーん、お父様が詐欺に遭うなんて、珍しいわね。
 相手は相当のしたたか者に違いないわ。
 …え? 詐欺って何のことですか?
 だって、姉さん、今言ったじゃない?
 お父様が誰かにかつがれて、ダメージを受けたって…
 え? 違う?
 かつがれたんじゃなくて、かつぎ込まれた?
 それじゃずいぶん意味が違うわね…って、姉さん?
 か、かつぎ込まれた、っていうことは、まさか、病院?
 そうです?
 …姉さん!! 何でもっと早く言ってくれないのよ!?
 え? さっきから話しています?
 …もう、それでどんな具合なの?
 え? だから、それを今調べているところです?…」

 えらく手間取った電話の結果、綾香はようやく、「父親が職場で倒れ、病院にかつぎ込まれた。今
検査中だが、あまり容態が思わしくないので、念のため親族に連絡を入れた方がいいだろう、と医者
が言っている」ことを知ったのである。



 来栖川総合病院の玄関。
 受付にひとりの男が歩み寄る。

「恐れ入りますが、
 来栖川誉(たかし)さんの病室はどちらでしょう?」

「ご親戚の方ですか?」

「はい。」

「少々お待ちください。連絡を入れますので。
 …恐れ入りますが、
 お見舞いに見えた皆さんのお名前を教えていただけますか?」

「柏木耕一と芹香、香織。
 それに長瀬源五郎と綾香です。」

「かしこまりました。しばらくお待ち願います。」

 受付嬢は、内線で連絡を取っていたが、

「ただ今、係の者がご案内致しますので、
 おかけになってお待ちください。」

 ほどなく、いかつい体つきの男がふたりやって来た。

「柏木様、長瀬様ですね?
 お待たせ致しました。どうぞこちらへ。」

 耕一たちがついて行くと、エレベーターで上の階に上がり、長い廊下を歩かされた後、奥まった一
室に導かれた。
 部屋の前にも、案内人と同様がっしりした体格の男がふたり立っている。

(ずいぶん警戒が厳重だな…)

 耕一はそう思いながら、案内人の開けてくれたドアに向かった。



 部屋は、高級ホテルのロイヤルスイートを思わせるような、広さと調度の豪華さを見せていた。
 ベッドに横たわる会長の腕から点滴の管が伸びていなければ、ここが病院である事を忘れそうなく
らいだ。

「おお、芹香…
 耕一君も、遠いところをわざわざ、すまない。」

 やつれた顔の会長が、娘夫婦を見て微笑む。

「いいえ、お気遣いなく…
 どんな具合ですか?」

「…………」(芹香)

「おじーちゃん、どうしたですかぁ?」

 香織も口を挟む。

「おっ、香織か?
 …ちょっと見ない間に、ずいぶん大きくなったなあ。」

 ひさしぶりに見る孫娘の愛らしさに、思わず相好を崩す会長。

「いや、大したことはないんだよ。
 ちょっと働き過ぎで、心臓に負担がかかったとかで…
 うちのやつが大騒ぎして、あちこち電話をかけまくったようで、
 入れ代わり立ち代わりお見舞いに来てくれるんだが…
 正直、元気すぎて、皆さんに申し訳ないくらいだよ。」

「そうですか。それならいいんですが…
 昨日お電話をいただいた後、芹香が大慌てしましてね。
 職場にわけのわからない電話を入れて来て…
 内容を理解するまでに20分くらいかかりましたよ。」

 被害は綾香のところだけではなかったらしい。
 芹香は頬を染めている。
 …わかる人にしかわからないが。

「…しかし、それだけお父さんのことが心配だったんですね。」

 耕一は最後にちゃんとフォローする。
 会長も「困ったやつだ」と言いながら、嬉しそうである。



 さらに二言、三言かわしたところで、芹香が耕一の袖を引いた。
 耕一は頷いて、

「お義父さん…
 綾香さんがぜひお会いしたいと待っているんですが…」

「ん? 綾香…ですか。」

 会長の顔から笑みが消えた。

「…………」
 綾香はとても心配しています、会ってやってください。と芹香。

 会長は無言だ。

「では、お呼びしますので…」

 耕一の言葉にも、いいとも悪いとも言わないで黙っている。



 耕一は、ドアの外で待っていた長瀬夫婦のうち、綾香を呼び入れた。
 綾香はおずおずと父親の病床に近づく。

「お父様…」

「…………」

 会長はやはり無言だ。目をそらしている。

 耕一はさりげなく芹香を促すと、香織を連れて、ドアの外の長瀬に合流した。
 部屋の中には父娘ふたりだけが残された。

「お父様…
 良かった。思ったより元気そうで…」

「…………」

 父は何も言わない。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…う、うっ…」

「?」

 綾香が妙な声をもらしたので、父親は思わずその顔を見てしまった。
 娘の両眼には、大粒の涙が浮かんでいる。

「し、し…心配、したんだから… ううっ…」

 涙が両頬を伝う。

「あ、綾香?」

 父の声が震える。

「お、お父様… お父様!」

 綾香はベッドの上に倒れ込むと、半身を起こした父親の胸に顔を埋めて泣き出した。
 父親は呆然としていたが、やがて綾香の背中に手を回すと、優しく撫でながら、

「心配かけたな…」

 それだけを呟いた。



 間もなく、いったん来栖川邸に帰っていた母親が病室に戻って来る頃には、耕一一家も長瀬夫婦も
会長を囲んで談笑していた。
 そこへ母親が加わって、ますます賑やかになる。

「…………」

「え?
 お母様があんな電話をするから、私もうろたえて、
 耕一さんや綾香に迷惑をかけてしまいました?
 …だって、あの時は、
 今にも危なそうなことをお医者様がおっしゃるんですもの。」

 母親が口をとがらす。

「さっき医者に聞いたが、
 『ちょっと心臓が弱っていますが、ご親戚の方をお呼びするほどではありません。』
 と言ったそうだぞ?」

 会長が苦い顔をする。

「あ、あら、そうだったかしら?
 変ね、聞き間違えるなんて…」

 証拠を突きつけられて、母親が焦る。
 どうやら例の妄想癖が暴走したようだ。

「なーんだ、そうだったの?
 やだ、心配して損しちゃった。
 姉さんも私も、寿命が縮まる思いだったんだから。」

「いいじゃないの、
 おかげでお父様と仲直りできたんだから。」

「調子いいわね、もう…
 まあ、でも、確かにその通りね。」

 などと話しているところへ、看護婦がやって来て、検査の時間を告げる。

「やれやれ…
 ちょうどいい機会だから、他に悪いところがないか、
 あちこち検査させてくれって言われてね…
 おかげでこの先二週間ぐらい、検査、検査の連続だそうだ。」

 会長がぼやきつつ、ベッドから起き上がる。
 それをしおに、耕一たちは引き上げる。会長夫人も一緒だ。

 その日は来栖川邸に一泊することになった。
 翌日もう一度病院に顔を出して、隆山に帰る予定である。



 来栖川邸に到着した一行を出迎えたのは、セリオタイプのミリーである。

「あっ、せりおおねーたんがいますぅ。」

 香織が歓声をあげる。
 すると、ミリーは、

「−−いいえ、HMX−13セリオは、私の姉です。
 姿は似ていますが、私は妹のミリーと申します。」

「ふーん、せりおおねーたんの、いもうとですかぁ?」

 香織が何やら感心した様子で呟いている。

 一行が玄関に足を踏み入れた途端、

「お嬢様ーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 屋敷中を震わすような大声が、例によって耕一の耳を痛めつけた。
 声の主は…言うまでもなかろう。

 ほどなく、その声の主があたふたと姿を現した。

「芹香お嬢様!! お懐かしゅう存じます!!
 このセバスチャン、お嬢様のことを片時も忘れたことはございません。
 よくもまあ、ご無事でお帰りくださいました…」

 呆れたことに、男涙をぬぐったりしている。
 柏木家を「虎の穴」か何かと勘違いしているんじゃなかろうか?
 まあ、鬼の住みかと言えなくはないが…

「あら、セバス。
 姉さんばっかで、あたしのことは無視?
 ずいぶん冷たいじゃない?」

 綾香がからかう。

「ああ! これは綾香お嬢様!
 ご無礼致しました!
 もちろん、このセバスチャン、
 綾香お嬢様のことも忘れたことはございません。
 いつぞやの稽古の折の古傷が疼きますたびに、
 お嬢様の事を思い出しております…」

「何か引っかかる言い方ねえ…」



 廊下を歩いて行くと、今度はマルチタイプのリナに出くわした。

「あれ? かえでおねーたんが…
 また、まほうをかけられたんですかぁ?」

 香織は怪訝そうだ。

「初めまして。柏木香織さんですね?
 私、このお屋敷のメイドロボ、リナと申します。
 よろしくお願いします。」

 耕一も長瀬も、リナとは面識がある。

「かえでおねーたんじゃ、ないんですかぁ?」

「はい、私の名前はリナです。」

「やっぱり、まほうをかけられたんですかぁ?」

 この姿をしているのは、魔法をかけられた結果だと思っているのだ。

「魔法…とおっしゃいますと?」

 リナは怪訝そうだ。

「ああ、子どもの言うことだから、気にしないでくれ。」

 耕一がそう言って、リナを解放してやった。



 芹香たちの希望で、耕一一家はもとの芹香の部屋、長瀬夫婦は綾香の部屋を使うことになった。
 もともとひとりで使うには広すぎる部屋だから、夫婦や親子連れでもまだ余裕があるほどだ。

 広さを別とすれば、綾香の部屋は一応『まとも』だが、芹香の部屋には、輿入れのとき柏木家に運
び切れなかった魔法関係の品々が残っていて、独特の雰囲気があった。
 一般人なら思わず引いてしまうところだが、香織は、柏木家の母の部屋で似たようなものを見慣れ
ているので、得体の知れないものにも平気で手を触れてみたりしている。
 そのうち、退屈しのぎに、あちこち引き出しを開けたり閉めたりし始めた。
 たいていは空っぽだったが、そのうち、大事そうにしまわれた人形を見つけた。
 枯れ草のようなものでできた、ごく簡単なものだが、香織にとっては格好の遊び道具だ。

「おにんぎょうですー。」

 香織は嬉しそうに人形を取り出した。
 その声で、芹香は初めて、娘のしていることに気がついた。
 芹香はそれまで、耕一が少し寛いだ服装に着替えるのを手伝っていたのである。

「…………!」

 娘の手にした人形を見て、芹香は小さな叫び声を上げた。
 それは昔、オカルト研究会の部室で浩之と一緒に作った、魔法の人形の片割れだったのだ。
 初恋の思い出の品を、嫁ぎ先に持って行くべきかどうかさんざん迷った挙げ句、実家にとっておく
ことにしたものである。

 そんなこととは知らない香織は、人形を振り回し始めた。
 芹香は慌てて駆け寄りながら、

「…………!」
 香織、その人形を返して! と叫んだ。

「やですぅ。」

 ふといたずら心を起こした香織は、そう言うと、母親の手を逃れて駆け出した。
 芹香が懸命に後を追う。

「おいおい…」

 人形の意味を知らない耕一は、苦笑するばかりだ。

 そのうち、香織は、部屋の扉を開けて廊下に飛び出してしまった。
 芹香もその後に続く。

 長く広い廊下を、香織は歓声を上げながら、走り回った。
 香織にしてみれば、滅多に遊んでくれない母親と珍しく追いかけっこをしているようなつもりなの
で、キャッキャッと上機嫌であるが、追いかける芹香は真剣そのものだ。

「…………!」
 香織、待ちなさい!

「やーい、ここまでおいでー、ですぅ。」

 すばしこく逃げ回る香織。
 広い邸内は、小さな香織がちょこまか駆け巡るのに格好の場所で、運動不足の芹香には不利である。

 ハァ、ハァ…

 芹香は息切れがしてきた。
 頭がくらくらする。
 人形を取り戻すこと…ただそれだけしか考えられない。



 そうこうするうちに、香織は、自分が向かう廊下の先が行き止まりになっていることに気がついた。
 立ち止まって、どうしようかと考える。
 母親がここぞとばかり迫って来る。
 香織は体を翻すと、母親のわきをすり抜けようとした。
 芹香は夢中で、娘の体に自らぶつかるようにして、人形をひったくった。

「きゃっ!?」

 はずみで、香織の体が廊下に投げ出される。
 芹香は人形を抱き締めたまま、その場にぺたんと座り込む。

「あーーーーーーん!!」

 香織は火がついたように泣き出した。
 廊下には分厚いカーペットを敷き詰めてあるので、それほど痛かったわけではない。
 そうではなくて、自分を突き飛ばした母親の剣幕におびえたのだ。
 日頃、柏木家の皆に可愛がられて甘やかされ気味の香織にとって、こんな風に突き飛ばされること
など、思いもよらぬことだった。
 だから、芹香の仕打ちがひどく理不尽なものに思われたのである。

 一方の芹香は、心臓が早鐘のように打ち続け、ぜーぜーと呼吸も荒く、失神寸前だった。
 とても娘に対するフォローができる状態ではない。



 娘の泣き声を聞きつけて、まっ先に耕一が飛んで来た。
 廊下に座り込んで泣いている娘と、すぐ傍に同じくしゃがみ込んで、息も絶え絶えの妻。
 香織は、父親が来たことに気づくと、泣きながらしがみついた。

「香織!? どうしたんだ?
 転んだのか? どこか痛むのか?」

 耕一が何を聞いても、香織は泣くばかりだ。
 耕一としては芹香の事も心配なので、そちらに体を向けようとすると、香織がいよいよしがみつく。
 自分に理不尽なことをした母親に父を渡すまいとする、ほとんど本能的な行動だった。



 そうこうするうちに、綾香や長瀬、セバスチャンやメイドおよびメイドロボたちも駆けつけて来た。

「姉さん? どうしたの? 大丈夫?」

 今にも気を失いそうな姉に、心配そうな声をかける綾香。
 芹香には、まだ返事をするほどの余裕はない。
 大勢の人々の前で、いつまでも父親にすがって泣き続ける香織と、人形を抱き締めて真っ青な顔を
している芹香であった。



 部屋に戻り、少し落ち着いてきた香織に、耕一がなぜ泣いていたのかを聞くと、

「ママがつきとばしたですぅ…」

 と恨めし気に言うのであった。

「ママが? 香織を? …まさか。」

「ほんとですぅ!
 ママ、こわいかおして、かおりをつきとばして、
 おにんぎょうをとったんですぅ!
 ママはかおりのこと、きらいなんですぅ!」

「香織! そんなこと言うんじゃない!
 ママも、パパも、香織のことが大好きなんだぞ?」

「…パパは、かおりのことがすきですぅ。
 でも、ママは、かおりのことがきらいですぅ。」

 耕一がいくら言って聞かせても、香織はそう言い張るのだった。
 柏木家の日常で積み重ねられてきた母と娘のちょっとした齟齬が、ここへ来て一気に表面化したよ
うだ。



 一方、芹香は、少し呼吸が楽になったところで、手近な部屋に入ってソファに横たわっていた。
 芹香自身の部屋までは(今の芹香には)、とても歩いて行ける距離ではなかったからだ。
 付き添いには綾香が残っている。

「姉さん、屋敷中を駆け回ったそうだけど…
 その人形のせい?
 何だか、大事なものみたいね?」

 芹香は、ソファの上でぐったりと目を閉じている。
 相変わらず顔色は悪い。

(そんな大事なものを、どうして家に残しておいたんだろう?)

 綾香はふと、そんな疑問を抱いた。


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