The Days of Multi第四部第23章 投稿者: DOM
The Days of Multi
第4部 Days with the Kashiwagis
☆第23章 長瀬の開店 (マルチ12〜13才)



 来栖川会長の部屋。
 調査員のリーダーの報告を聞きながら、会長は苦渋に満ちた表情を浮かべていた。

「そうか… ご苦労だった。」

 リーダーは黙って一礼すると、退っていった。

 …綾香の失踪からほぼ一ヶ月。
 「病気療養」を理由に、その不在をごまかし続けていたのだが…

「…嗅ぎつけられた、か。」



 調査員の報告によると、来栖川エレクトロニクス社長の長期不在に疑問を抱いて調べ回っている連
中(ジャーナリズム関係)がいるという。
 彼らは、いまだ確証は掴んでいないものの、何か裏があるものと見当をつけ始めているのだそうだ。
 もし綾香の駆け落ちが公表されれば、マスコミを騒がす格好の題材を提供することになるだろう。
 そしてそれは、来栖川グループに決して良い影響をもたらすことはないはずだ。

 今までも折々にささやかれてきた、来栖川の「古い体質」。
 そこへ綾香(社長)が「父親(会長)に結婚を反対されたため」駆け落ちしたということが知れれ
ば、グループ全体のイメージにかかわる。
 ただでさえ長引く不況で振るわない中、そうしたマイナスイメージは、大きな痛手となるだろう。

「やむを得ん…」

 会長は、机の引き出しの奥から、二通の封筒を取り出した。
 あの日、綾香の部屋に残されていた、二人分の退職願であった…



 来栖川エレクトロニクス社長、来栖川綾香は、病気のため職務に耐えず、辞表を提出した−−表向
きはそういうことになっていた。
 退職の日付は、「本人」の希望で、療養開始日(すなわち失踪の翌日)に遡ることも公表された。
 当面、会長が同社社長を兼任することになったが、会長は前社長でもあったので、あまり大きな動
揺をもたらすこともなく、引き継ぎが行われた。

 それから半月後、今度は来栖川エレクトロニクス付属研究所、開発部主任長瀬源五郎の退職が明ら
かにされた。
 理由は「一身上の都合」。
 曖昧だが、こういう時には便利な言葉ではある。
 退職の日付は、発表の二日前とされた。
 綾香の退職日から一ヶ月半ほどずらしたのは、もちろん両人の退職を結びつけて考えてほしくない
という、会長の意向である。
 長瀬に近い木原と内田が、それぞれ主任と副主任に任ぜられた。
 この人事異動は、社長である綾香の場合と異なり、あまりマスコミの注目を集めることはなかった
が、長瀬がメイドロボの生みの親であることを知っている業界の一部では、彼を自社に迎えようとい
う動きがなかったわけでもない。
 しかし、長瀬の所在がつかめないため、各社とも結局諦めたようだ。



 自分たちの退職の「事実」を柏木家で把握した綾香と長瀬は、これを機会に隆山を離れて、どこか
別の町で職と住まいを探そうと思った。
 いつまでも柏木家に生活費を丸抱えしてもらうのも気が引けるし、何かのきっかけで自分たちの居
場所が柏木家と知れたら、耕一夫妻の来栖川家との関係が難しくなるだろうという危惧の念もあった
からだ。

 ある日の夕食後、ふたりがそのことを持ち出すと、当然のごとく全員が反対した。

「…………」

 珍しくまっ先に反対したのが芹香。
 相変わらずの小声ではあるが、綾香たちを翻意させようという真剣さが伺える−−少なくとも耕一
には。

「ふたりの気持ちはよくわかるよ。
 でもさ、もうちょっと腰を落ち着けて、
 よく考えてからの方がいいんじゃない?」

 妻の言葉を受けるように、耕一もやんわりと説得する。

「今はこの通りの不況ですし。
 知らない土地でお仕事を探そうとしても、
 うまく見つかるかどうか…」

 千鶴も、現実的な見地からふたりを引き止める。

「綾香さん、長瀬さんも。
 前にも言っただろ?
 遠慮しなくていいってば。
 耕一だって、最初は居候だったんだし…
 …あ、もしかして、このスケベ野郎が、
 綾香さんに手を出そうとしたとか?」

 梓の中では、相変わらず「耕一=グウタラ&スケベ」の構図が定着したままらしい。

「せっかく仲良くなれたのに…
 寂しいな。」

 童顔の初音が上目遣いに言う。
 言葉少なではあるが、かなりの威力がある…と耕一は思った。
 綾香はともかく、男性である長瀬には無視できないはずだ。

「あやかおねーたん、どっかいっちゃうの?」

 これまた悲し気な香織の顔。
 今度は綾香が無視できなくなる番だ。

 そして極めつけは、

「お、お父さん! 綾香さんも…
 ここを出て行かれるんですかぁ?
 う、ううっ…」

 目をうるうるさせているマルチ。
 長瀬も綾香も、強烈なパンチをくらったのは言うまでもない。

「…よろしければ、このままずっと、
 ここにいていただきたいんですが…」

 ふたりが十分「打撃」を受けたと見極めた楓が、最後に皆の意見をまとめる。
 楓としては、自分を改造してもとの姿を復元してくれた長瀬にはこれ以上ないほど感謝しているし、
マルチの機体管理の必要からも、ここにとどまってほしいと願っている。

「そ、それは…
 私たちだって、ここにいたくないわけじゃないのよ。
 でも、いつまでも仕事もせずに、
 ぶらぶらしているわけにはいかないし、
 そうかと言って、この町で仕事を見つけようとすれば、
 いずれ来栖川の家にも知れて、
 姉さんや耕一さん、この家の皆さんにもご迷惑がかかると思うから…」

 綾香が困惑した顔で言う。

「…それでは、おふたりがこの家にいることが知れても、
 来栖川と柏木との間で波風が立たないようにすれば、
 このままいてくださるわけですね?」

「ええ。
 …そういうことができれば、ですが。」

 と長瀬。

 長瀬にも綾香にも、それぞれの「身内」がいるこの柏木家にとどまること自体は、むしろ嬉しいこ
となのだ。

 楓はしばらく考え込んでいたが、

「それでは…
 こうしたらいかがでしょう?」



「−−奥様。
 お取込み中のところ、申し訳ありませんが…」

 セリオが、綾香の母に向かって腰をかがめる。

「あら、何かしら?
 …別に取り込んでなんかいませんよ。
 用事なら言ってちょうだい。」

 そう。大して取り込んでいるわけではないのだ。
 …仕事から帰って来た夫をつかまえて、例のごとく、綾香失踪についての愚痴を並べ立てていただ
けなのだから。
 夫が追い詰められた獣のような表情を浮かべているのは、この際無視である。

「−−先日ご注文の陶器について、
 先方から問い合わせの書状が届いております。
 何でも、ご注文の内容に一致する品物が何種類かございまして、
 同封のカタログをご覧の上、
 どれにするかお知らせいただきたい、とのことですが。」

 そう言えば、そんな注文をした覚えがある。
 外国からの直接取り寄せで、細かい手続き等はすべてセリオに任せてあったのだ。

「そう? わかりました。
 こちらの用事はもうすみましたから…」

 そう言って、夫の顔に一瞥をくれる。
 夫がぎくっとするのがわかる。
 今日はこれくらいでいいでしょう。
 少しは気がすんだわ。

 セリオを伴い部屋を出て行く妻を見送った会長は、ほーっと安堵のため息をつくのであった…



 綾香の母は、セリオと共に別室に入った。

「それでは、そのカタログとやらを見せていただきましょうか?」

「−−奥様。」

 セリオが声を落とす。

「−−申し訳ございません。
 あれは、口実でございます。」

「口実?」

「−−はい。
 旦那様との『お話』がはずんでいらっしゃったようですので…
 奥様をお呼びするのに、口実として用いさせていただきました。」

「? どういうこと?
 口実を使って連れ出すなんて…
 …は!?
 まさか、あなた、メイドロボの一線を越えて、
 ついでに女性としての一線も越えて、私に愛の告白を…?
 いけません! 私は夫のある身。
 それに、いくら何でも女同志でそんなこと…」

「−−奥様。」

 会長夫人の妄想癖は、綾香の失踪以来一段とひどくなっている。
 それをよく知っているセリオは全く動じた様子もなく、言葉を続けた。

「−−綾香お嬢様が見つかりました。」

「…何ですって!? 本当!?
 どこにいるの!? あの娘は無事!?」

 さすがは母親だ。
 一気に妄想の世界から立ち返って、矢継ぎ早に質問を浴びせかける。

「−−とりあえず、こちらの電話に出てください。」

 セリオが受話器を取り上げる。
 母親がそれに飛びつく。

「もしもし、綾香なの!?
 …え? あ、芹香…?
 え? よく聞こえないわ。
 もっと大きな声で話してちょうだい。」

 綾香が見つかったという知らせに興奮している母親は、つい、実の娘にできそうもないことを注文
してしまう。

「…もしもし、お電話代わりました。
 耕一です。ご無沙汰しています。」

「あ、耕一さん。
 こちらこそご無沙汰しております。
 …あの、娘のことで何か?」

 いつもなら、香織の成長の様子などのんびり聞くところだが、今日は気がせいている。
 柏木家で、綾香の居場所について情報をつかんだものと推測して、早速そのことを尋ねた。

「ええ。実は綾香さんのことですが…
 『つい先ほど』長瀬さんとふたりで、
 ひょっこりお見えになりまして。」

「何ですって!?
 では、今綾香は…?」

「はい。とりあえず、上がって休んでいただいています。
 今おおまかなお話を伺ったところなんですが。
 …おふたりとも、今まで、あちこち転々とされていたようで…
 見つかるといけないので、仕事らしい仕事もできなかったのですが、
 今度、自分たちの退職願が受理されたと知って、
 もう居場所が知れても無理に引き離される心配はないだろうと、
 姿を現わされたそうです。
 それで、できれば芹香のいる隆山市内で就職したいというご希望で…
 ただ、自分たちのせいで、
 来栖川と柏木との間にひびが入るようなことは避けたいので、
 迷惑ならすぐに出て行くと、そう言われるんです。」

「まあ…」

 母親は絶句した。

「それで、芹香と相談の上、お電話することにしたのですが…
 もしお義父さんとお義母さんのご了解さえいただければ、
 しばらく綾香さんたちには、
 柏木の家に住んでいただくのが良いのでは、と思いまして。」

「で、ですが… ご迷惑では…?」

「いえ。芹香にとっては、実の妹ですし。
 迷惑なんてことは、これっぽっちもありませんから。
 …それに、ここでお引き止めしなければ、
 おふたりはまた『消息不明』になってしまうでしょう。」

 耕一はちょっと声を落とした。

「実を申しますとね、
 おふたりとも、かなり思いつめておられるご様子で…」

「そ、そうなんですか?」

「はい。
 それに、拝見したところ、
 おそらくお金もほとんどお持ちでないようです。」

「…………」

 母親の脳裏に、ぼろぼろの服、垢だらけの顔をした綾香のイメージが浮かんだ。
 思わず身震いする。

「それで、芹香も家の者も、皆心配しているんです。
 もしここにいられないとなった場合、
 おふたりは一体『どこへ』行くおつもりなんだろう、と。」

「…………」

 母親の顔が青ざめる。

「このあたりの海岸には、断崖絶壁も多いことですし…」

 母親の想像の中に、隆山の海岸風景が浮かぶ。



 …ひときわ高い崖の上に、綾香が立っている。
 かたわらには長瀬の姿も。

「やっぱり… 駄目だったか。」

 綾香が疲れ切った声で呟く。

「お金も使い果たしちゃったし…」

 長瀬の方を向く。

「私たち… もう行くところないね?」

 長瀬の胸に頭をもたれさせる。

「ごめんなさい。
 私のせいで、あなたにまでこんな辛い思いをさせて…
 後悔してる? 私と結婚したこと…」

「お嬢さん。」

 長瀬が綾香を抱き締める。

「後悔なんてとんでもない。
 私は、お嬢さんと巡り会えて幸せでした。
 お詫びするのは私の方です。
 お嬢さんのお役に立てなくて…」

「ううん。
 私も、こうしてあなたといるだけで幸せよ。」

 綾香が微笑む。

「…でも、ちょっと…疲れちゃった。」

 そう言って、眼下の海を見る。

「そうですね… 疲れましたね。」

 長瀬も憔悴した顔で同意する。
 ふたりは口づけし、思いきり抱き合う。

 沈黙。
 波の音だけが響く。

「それじゃ…」

 綾香はおもむろにスカーフを取り出して、自分の左手首と長瀬の右手首とを縛った。

「…いいのね?」

「ええ。」

 ふたりは靴を脱いだ。

「もし、今度生まれ変われたら…」

「今度生まれ変わっても、また一緒になりましょう。
 …でも、そのときは、皆に祝福されて結婚できるといいですね。」

 長瀬が微笑む。
 綾香も微笑み返す。
 そしてふたりは、ゆっくりと歩き出した。
 真っ暗な海に向かって…



「綾香ーーーーっ!!」

 母親の口から、おそらくその生涯でこれ限りというほどかん高い悲鳴が上がった。



「…良かったですね?」

 楓が静かに微笑む。
 長瀬と綾香が柏木家に住むことを、綾香の両親に認めてもらうことができたからだ。

「うう… よ、良かった…」

 電話越しとはいえ、綾香の母の悲鳴をまともに聞いてしまった耕一は、まだ痛む耳に顔をしかめな
がらも、喜びを表明する。

 …あの悲鳴は、セバスチャン、来栖川邸内のすべてのメイドロボと警備員、そして会長を駆けつけ
させる結果となった。
 これまで見たこともないほど取り乱した夫人は、夫の胸にすがりつきながら、「綾香たちが『自殺
寸前のところを』柏木家に保護された」と訴えた。
 驚く会長に畳みかけて、「これ以上追い詰めないために、ふたりが柏木家に滞在することを許して
やってほしい」と。
 妻の切羽詰まった様子と、娘の窮状(妻によってかなり誇張されていた)に慌てた会長は、受話器
の向こうで耕一が待っているのを知ると、とりあえず綾香たちの世話を頼むと言うことしかできな
かった。

「それにしても、ずいぶんすんなりとOKが出たわね?
 信じられないくらい。」

 綾香の言葉に耕一が苦笑する。
 電話でそれとなく自殺の可能性をほのめかしたことは、耕一と楓、芹香しか知らない。
 楓に、

「万一先方のお許しが出そうにない場合は、
 こう言ってみたらどうでしょう?」

 と言われた耕一が、試してみたのだが… 思いのほか効果的だった。
 電話の際、耕一の傍で聞いていた芹香は、きょとんとしていたが。

 …綾香たちには聞かせない方がいいだろう。



 間もなく、長瀬は柏木家の援助で、隆山市内に小さな店鋪を構えることができた。
 「アドベンチャ−・ナガセ」という名のその店では、一応コンピューター関係の修理とカスタマイ
ズを表看板にし、CPUやアクセサリ、パーツ類の販売も若干手がけていたが、実は一番の売りはメ
イドロボのカスタマイズにあった。

 メイドロボが普及するにつれて、手持ちの機体がよそのそれと全く同じ容姿をしていることに飽き
足らぬ人が増えて来ると、次第にカスタマイズの需要も高まってきた。
 もちろん、最初のうちは誰もが、衣服で個性を現わすことを考えたが、それも限界がある。
 そこで次に、髪の色や目の色、声を変えることが考えられ、更には、長瀬がひかり(楓)にやった
ように、顔かたちまで変えてしまうケースも出て来た。
 巷には、そうしたカスタマイズを専門にする業者も、ぼつぼつ姿を見せるようになっていたのであ
る。
 メイドロボの外見上のカスタマイズなら、従って、長瀬の店以外でも対応できた。

 しかし、長瀬は、もっと内面的なカスタマイズを手がけることにしたのである。
 たとえば、例のバージョンアップ以来可能になったメイドロボの「微笑み」の頻度を上げたり、
「うっすらとした微笑み・はにかんだ微笑み・満面の笑み」といくつか使い分けられるようにしたり。
 メイドロボの失敗確率を上下したり(メイドロボに人間味をもたせるため、一定の割り合いで失敗
をするように設定してある。それを用途やマスターの希望に応じて変更するのである)。
 場合によっては、メイドロボにある程度腕力が要求されたり、ごく細かい作業を行うための特別の
指の動きや視力のアップが必要とされる、それに応じたり、等々。

 これらのカスタマイズは、よほどうまくやらないとメイドロボの自我のバランスを崩して取り返し
のつかないことになるため、まず不可能とされていた。
 しかし、メイドロボの生みの親である長瀬には、さほど難しいことではなかったのだ。

 というわけで、長瀬の店のことは瞬く間にその筋に知れ渡り、全国からカスタマイズの申し込みが
来るようになった。
 おかげで商売は順調である。

 従業員は、綾香の他に11人で、全員メイドロボである。
 そのうち10人は量産型のメイドロボ。
 マルチタイプとセリオタイプが5人ずつだ。
 長瀬は、基本的に自分の娘たちの容姿が気に入っているので、外見のカスタマイズはしていないが、
何種類かの笑顔の他に、困った顔や、心配そうな顔、驚いた顔などもできるようにした。
 表情のパターンは限られているが、いずれもごく自然な、人間らしい表情である。

 そしてもうひとりの従業員は…

「−−主任。綾香さん。
 お茶が入りました。
 どうぞ休憩なさってください。」

 試作型セリオである。
 彼女は、会社の仕事の整理が一段落すると、本来のマスターである綾香のもとへやって来たのだ。
 当然、柏木家の住人がもうひとり増えることになった。

「ありがとう、セリオ。
 …ところで、その『主任』ってのは、
 いい加減やめてくれないかな?」

「−−ですが、主任は、やはり以前から主任ですし、
 これからも、私にとっての主任は主任ですし、
 できればこのまま、ずっと主任のままがいいな、と……」

「…………」

「…………」

「−−…………」

「…セリオ。
 あんたには、そのセリフ似合わないわよ。」

 フリーズ状態から先に回復した綾香が指摘する。

「−−そうですか?」

「それはね、もっと犬チックな女の子が口にして、
 初めて効力を発するものなの。」

「−−犬チック…ということは、
 やはり首輪などするのでしょうか?」

 長瀬がお茶を吹き出す。
 思わず、首輪をつけたセリオの姿を想像してしまったらしい。

「−−となると、犬の耳も必要ですね…」

 長瀬の中の首輪付きセリオ像に、ぴょこんと生えた耳が一対追加される。

「−−ところで、そういう場合、
 衣服は普通に着用しているものなのでしょうか?」

 長瀬のセリオ像から衣服が取り去られ…

「セリオ!!」

 綾香がたしなめる。

「−−冗談です。」

 お盆を持って静かに立ち去る。



「…どうもあの娘、
 この頃妙な冗談が多いみたいだけど?」

 綾香がそっとささやく。

「マルチの話だと、
 耕一君がいろいろ吹き込んでいるせいじゃないかと…」

 「娘」のあられもない姿を想像しかけて危うく踏み止まった長瀬は、愛妻に赤い顔を気づかれまい
と、努めて平静を装いながら言う。

「義兄さんが?」

「学習型のマルチほどではないにせよ、
 セリオもある程度、学習機能があるからね。
 開発部のスタッフにミステリー好きがいたせいで、
 探偵オタクになったのが、そのよい例だが…
 マルチによると、耕一君は、
 セリオの固いイメージを解きほぐそうと、
 ゲームを教えたり、ジョークを試みたりしているらしい。」

「…ゲームとジョークって…
 義兄さんの持っているゲームって、
 確かほとんど18禁もののはずだし…
 ジョークはほとんど親父ギャグ…」

「だから、セリオにその影響が出ているんじゃないかねえ…」

「…………」

 綾香は、セリオを耕一の毒牙から守ろうと決心するのであった。


−−−−−−−−−−−−

全くの余談ですが、
私は18禁ゲームはリーフ・ビジュアル・ノベル・シリーズの三作しか知りません。
従って、実際に他のゲームのネタを使うことはできませんので、ご了承ください。


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