The Days of Multi第一部第5章パート1 投稿者:DOM
The Days of Multi
第1部 Days with Hiroyuki
☆第5章 壊れたマルチ (マルチ生後9ヶ月〜11ヶ月) Part 1 of 2



 翌日は月曜だったが、俺は迎えに来たあかりに、具合が悪いから今日一日休むとドア越しに伝えた。
 あかりは心配している様子だったが、家の中には入って来なかった。
 マルチがいると思って遠慮しているのだろう。

 胸が痛んでどうしようもなかったので、医者に行った。
 調べてみると、やっぱり肋骨にひびが入っていた。
 顔は腫れ上がり、背中も壁にぶつかった時の傷やあざがあちこちにあった。
 医者は警察に届けなくていいのかと言ったが、俺は仲間うちのじゃれ合いのようなものだからとい
うことにしておいた。
 入院を勧められたが、断わって帰宅した。
 マルチを放っておけない気がしたのだ。

 俺は自分の部屋に上がった。
 ベッドにマルチが寝ている。というよりも電源を落とされて横たわっている。
 俺はまた、もしやと思ってマルチの電源を入れてみたが…結果は昨日と同じだった。

 ぷつん

 俺は再びメインスイッチを切った。



 翌日。
 朝、迎えに来たあかりは、俺の顔を見て驚いていた。
 口を開きかけたのを「何も聞くな」と先に釘をさしたら、ぐっと喉に何か詰まったような顔になっ
て、こくんと頷いた。
 学校に行く途中もお互い言葉少なだった。



 学校の近くで志保に会った。
 俺の顔を見ると一瞬ぎょっとしたが、すぐに、

「きゃはははははは!
 何よ、ヒロォ、その顔?
 今日はまた、ずいぶんハンサムじゃないのぉーっ!」

 大笑いしやがった。

 頭に来たので、ヤー公の一団に因縁つけられて、さんざん殴られた上、川に投げ込まれた、だから
昨日休んだんだ、と出まかせを言ってやった。
 すると、

「ヒ、ヒロォ、本当なの? 大丈夫?」

 と珍しく真顔で心配する。

 あかりも、

「浩之ちゃん、どうして言ってくれなかったのぉ?」

 と涙目になる。

 俺は少々良心がとがめたので、先に校門に入りながら「嘘だよ」と言ってやった。
 一瞬の沈黙の後、

「こぉら、ヒロォ!
 この志保ちゃんをおちょくろうなんて、十年早いわよぉ!
 待ちなさーい!」

「浩之ちゃん、ひどいよーっ。」

 という声が聞こえた。




 あれ以来俺は、自然な笑顔ができなくなってしまった。
 幸い、まだ顔の腫れが引いていないので、笑うと顔が痛いからだと周りには言ってあるが、そのう
ちごまかしきれなくなるだろう。
 原因は、マルチの秘密を知ったためだ。

 綾香の言葉を信じたくないという思いの反面、そうかも知れない、いやそうに違いないと思う心が
あった。
 そして結局のところ、頭のどこかですでに綾香の説明を受け入れてしまっている俺がいた。
 綾香の言う通り、マルチは特別すぎたのだ。

 なぜ、マルチは、人間そっくりの感触がする胸を持っているんだろう?
 なぜ、マルチは、俺だけに好意を示したんだろう?
 なぜ、マルチは、俺を見ると、近くに知人がいても、俺しか目に入らなくなるんだろう?
 なぜ、マルチは、学年が違うのに、毎日のように俺の行く先に現れたんだろう?
 なぜ、マルチは、俺にだけ耳を見せたんだろう?
 なぜ、マルチは、あの夜わざわざ俺の家に訪ねて来たんだろう?
 なぜ、マルチは、俺が来栖川先輩と親しくなろうとするたびに学校に現れたんだろう?
 なぜ、マルチだけが、他のメイドロボにはない性交機能を持っているんだろう?
 …………

 すべての疑問が、たった一つの事実を認めることで、説明がつくように思われた。
 俺を引きつけるため。
 俺を夢中にさせるため。
 俺を先輩から引き離すため。
 −−マルチがそのようにプログラムされていたから。

 俺には自然な笑顔ができなくなってしまった。



 俺は今、部屋のベッドに横たわるマルチを見ていた。そして考えていた。
 マルチは、心のない、ただの機械人形だったのか?
 俺を来栖川先輩から引き離すために、ただそれだけのために、俺に笑顔を向け、
 泣いて見せ、甘える仕草をし、うっとりとした表情を示し…
 そういう風に造られた、機械人形だったのか?
 すべてがプログラムだったのか?
 来栖川の会長に依頼され、長瀬主任が実行した、プログラム…
 マルチ自身も意識していなかったプログラム…

 否定したかった。
 しかし、できなかった。
 俺の心にどす黒い炎のようなものが渦巻いていた。
 その炎は、俺の精神を内側から焼き焦がし、苛みながら、
 いつまでもそこに留まり続けた。
 俺は苦しんでいた。己の否定的な考え方に。
 しかし、その苦しみから逃れることはできなかった。



 マルチはまだ運用試験中だったので−−それもおそらく、俺のために考え出された口実なのだろう
が−−定期的にデータを提出するために、来栖川の研究所に行かなければならなかった。
 その日が迫っていた。

 俺はマルチを連れて行きたくなかった。
 もちろんマルチが壊れたときに、まっ先に研究所で調べてもらうことが思い浮かんだのだが、すぐ
にその考えを捨ててしまった。
 もしそれでマルチが笑顔を取り戻したとしても、それに何の意味があるだろう?
 それが心からのものでない、ただのプログラムの結果だとしたら…
 その一方で、たとえ見せかけでもいいから、あの愛らしい笑顔をもう一度見たいという思いもあっ
た。

 俺の心は直前まで揺れ動いていた。



 その日が来た。
 結局俺は研究所に赴くことにした。
 どういう結果になるにせよ、長瀬主任に文句の一言も言ってやりたかったのだ。

 いざ出かけようとすると、どうやってマルチを連れて行くかということで頭を悩ませることになっ
た。
 普通はバスで連れて行くのだが、あの呟きを人に聞かれたくなかったし、さりとて意識のないまま
抱きかかえていたりしたら、それこそ奇異の目で見られそうだ。
 マルチを見せ物にしたくない…
 悩んだ挙げ句、少々痛いがタクシーを頼むことにした。

 意識のないマルチをタクシーまで運ぶ。
 運転手は初め驚いていたが、耳のセンサーを見てメイドロボと気がついたらしい。
 まだ売り出されていないものの、マルチタイプもセリオタイプも現在予約受付中で、盛んに宣伝も
していたからだ。
 聞く所によると、どちらのタイプもすでに予定の注文数をはるかに越えているそうで、頒布開始と
同時に深刻な品不足に悩まされるのではないかと言われるほどの人気らしい。
 運ちゃんがメイドロボに興味を持っていろいろ聞いて来るのを、俺は適当に受け答えしながら、研
究所につくのが待ち遠しような恐いような、矛盾した気持ちを抱えていた。



 マルチの体を抱きかかえて研究所の受付へ行き、長瀬主任を呼び出してもらった。
 主任は間もなく出て来ると、マルチの意識のないのを見て、さすがに驚いた顔をする。
 俺が短く「故障のようです。」と告げると、頷いて、奥へ連れて行くように促した。
 主任もマルチの体を支えるのを手伝おうとしてくれたが、俺はひとりで大丈夫だからと断わった。
 何となく、この人にはマルチの体に触れて欲しくなかったのだ。

 奥まった一室へマルチを運び込むと、俺は「見てください。」と言って、とりあえず起動させた。
 するとマルチは例によって、うつろな目で、下を向きながらぶつぶつ言い始めた。

「私には…心がない…
 すべてはプログラムのなせる業…」

 長瀬主任はマルチの異様な様子に、息を飲んだ。

「お父さんが…私を騙した…」

 普段はあまり感情を露に見せない主任も、これには驚愕の表情を浮かべていた。

「私は…コンピューター仕掛けの…ダッチワイフ…」

 主任の顔に痛ましそうな色が浮かんだ。

「私が…いなければ…芹香さんは…幸せになれた…
 私が…いたから…芹香さんが…不幸になった…」

 先輩の名前が出てきた時点で、主任には何があったのかある程度見当がついたらしい。
 その後しばらくマルチを見つめていたが、やがてため息をつくと電源を落とした。
 マルチはがっくりくずおれた。



 主任は一旦出て行くと、開発部のスタッフと思われる若い人をふたり連れて来て、指示を与えた。
 ふたりはマルチを抱えて出て行った。
 俺は主任と共に部屋に残った。
 マルチも心配だったが、突っ立ったまま俯いて考え込んでいる主任から、どうしても真相が聞きた
かったのだ。

「長瀬さん…
 来栖川の会長に頼まれて、
 マルチが俺のことを好きになるように、
 プログラムをいじったというのは、本当なんですか?」

 主任は黙っていた。

「マルチに性交機能をつけるように言われて、
 その通りにしたというのは、本当のことなんですか?」

 主任は黙っていた。
 俺は答えを待った。待ち続けた。

 長い沈黙の後、主任は口を開いた。

「来栖川会長から、
 君が言った二つの項目を実行するようにと要請があったのは、事実だよ。」

「!!」

 俺はたちまち、今まで俺の中にもやもやしていたものが、すべて怒りに変わっていくのを感じた。
 こいつ! マルチをひどい目に遭わせておきながら、なんて涼しい顔を…!

「あんた… それでもマルチの『父親』か!?
 結局、マルチを出世のために利用しただけなんだな?
 それとも金か!? …このっ!!」

 俺はおもわず手が出そうになった。
 すると主任は、片手を挙げて俺を制しながら、

「まあ、話は最後まで聞いてくれ。
 …私は確かにその二つを要求され、そして承知したのだが…
 実行はしなかったのだよ。」

「…へ?」

 俺は思わず、間抜けな声を出した。

「理由は簡単だ…
 私には、そんなことはできなかったからだ。」

「?」

 俺はひどく戸惑った顔をしていたようだ。
 長瀬主任はにやりと笑うと、

「浩之君、もしも私が、君の心を調べたいのでそのありかを教えてくれと言ったら、
 君は何と答えるね?」

「え? えーと…
 多分、頭ん中じゃないかと思いますが?」

「そうか。
 では私が、君の頭を切り開いて、
 君がある特定の女の子を好きになるようにいじりたいとすると、
 具体的にはどういう風にすると思うね?」

「そ、そんなこと、見当もつきません…」

「よろしい。正解だ。」

「え?」

「そんなこと、見当もつかない、ということだ。」

「?」

「君も会長も勘違いしているようだが、
 マルチのプログラムというのは、
 心を発生させる素地を与えることはできても、
 一旦発生した心を左右することはできないのだよ。」

「え?」

「我々スタッフが用意できたのは、
 こういうプログラムを組めば心が発生するだろう、と予想できるものではあるが、
 その心がどういう心になるか、内容はごくおおまかにしか規定できないんだ。
 まして、後からプログラムを変えて心を左右するなんて、到底無理なことだ。」

「???」

「うーん、わかりにくいかな?
 …要するにマルチの心は、
 それが本物の『心』となった時点で、
 外からプログラムをどういじっても変えられない、ということなんだ。
 下手にいじれば心そのものが崩壊してしまうし。
 人間だって、ある特定の人物を好きになるように、
 脳みそのどこかをいじる、なんて芸当はできないはずだ。
 マルチの心だって、それが心である以上、
 何をどういじれば藤田浩之を好きになってくれるか、なんて我々にわかる筈がない。
 だから、見当もつきません、というのが正解なのだ。」

「はあ…」

「もちろん、人間の場合、
 催眠術や薬物を使って、ある程度意識をコントロールできるが…
 それは100パーセント完全ではない。
 ロボットの心だって、心である以上、同じこと。
 第三者が自由にコントロールすることなど、原則として無理なのだ。」

「つ、つまり…」

 俺はようやく、主任の言わんとしていることがわかったような気がした。

「マルチには本物の心があって、
 その心は、第三者が…
 たとえ長瀬さんでも、変えることは不可能なものだ、というわけですね?」

「そういうことだ。」

 主任は頷く。

「だから、会長の要請があっても、私は何もしなかった。
 実際、何をどうすればマルチが君を好きになってくれるかなんて、
 『見当もつかなかった』わけだから。
 …もちろん、たとえできたとしても、大事な娘の心、
 それも、人を好きになるなんて大切な思いをいじることなど、するつもりもないがね。」

「そ、そうなんですか?
 あ? ということは、マルチが俺を好きになったのは…」

「そうだ。だれが命じたわけでもない。
 自分で、自分ひとりの意思で、君が好きになったのだよ。」

「…………」

 俺は嬉しかった。
 マルチが、プログラムではなく、本当に俺が好きなのだとわかったから。

「さて、第二の、性交機能の件だが…」

「そ、そう、それだ。
 会長にその機能をつけるように言われたんでしょう?
 現にマルチにはその機能があるし…
 それが『私にはできなかった』って、どういうことなんですか!?」

「まず技術的な面からいうと、
 もともとこの機能を持っていないメイドロボの匡体に、
 後から取りつけようってのはえらく面倒なんだ。
 不可能、ってわけじゃないが、とても一日二日でできるものではない。
 取りつけのために、メイドロボの体内の器官を配置換えしたり、
 後から微調整をしたりで、ひどく時間がかかるからね。
 いくら会長命令でも、
 運用期間の初日に言われて、期間中に機能の搭載を完了することなど、出来はしないのだ。
 それならいっそ、新しいメイドロボを一から組み立てた方が遥かに楽なんだが、
 それにしたって、8日で完成なんて無茶な話だ。
 まだ量産体勢もとれていないのにね。
 百歩譲って匡体を8日で…
 いや、極端な話、一日で完成できたとしても…
 マルチのような心を持つまでには、何十日もかかる。
 心が育つのには、時間がかかるのだから。
 つまり、運用期間の初日または途中でマルチにあの機能を取りつけろと言われて、
 それを運用期間が終わるまでの間に完遂することは、到底不可能なんだ。
 これが『私にはできなかった』ということなんだよ。」

「じゃあ、どうして、今のマルチには、あの機能があるんですか?」

「それは簡単なことだ。」

 長瀬主任はたばこを取り出すとおもむろに火をつけた。
 はあーっと呑気そうに煙を吐く。

 何でこんな所で焦らすんだ!?

「マルチにはね、最初からあったんだよ。」

「は?」

「マルチの体には、最初からあの機能がついていたんだよ。」

 俺は頭がくらくらしてきた。

「おや、そんなわかりにくいことを言ったつもりはないんだが…
 要するに、最初からついていたのだが、
 会長はそれをご存じでなかったので、後からつけろと言われたわけだ。」

「じゃ、何で、マルチに、そんなものが、ついていたんです、かーっ!」

 俺はとうとう叫び出した。

「高校でテストするのに、そんなもの必要ないでしょう!?」

「高校だろうが老人ホームだろうが、必要だと思うがね。」

「????????」

「なぜかと言うと、マルチは女の子だからだ。」

「はあ?」

「マルチは、限りなく人間に近いメイドロボだ。
 従って、人間の女の子が持っている機能で搭載できるものは、すべて搭載すべきである。
 …何か質問は?」

「そ、それだけの理由で、…そんな、大変な機能を?」

「開発スタッフの一致した意見でね。」

 はあ… 来栖川のスタッフって…奥が深い…

「あ、でも、最初からついているのに、
 会長が知らないってのは変なんじゃ…?」

「変じゃないよ。
 会長の所へ提出された試作機の仕様書には、
 この機能のことが省いてあったというだけだ。」

「へ?」

「やはり、ものがものだけにね。
 以前から女性型メイドロボにそういう機能をつけたらという案があって、
 研究が進められ、匡体に搭載可能なまでにはなっていたんだが。
 結局の所、社会問題になるということで、搭載は見送られていた。
 しかし、我々は先に話したようなわけで、
 どうしてもこれをマルチに加えたかった。
 というわけで、実際製作に携わった者が知るのみで、
 うるさいお偉いさんの所に回った仕様書には記載されていない。
 会長が知らないのは当然だ。」

「そんなことして、ばれたらどうするつもりだったんですか!?」

「マルチを素っ裸にでもしない限り、ばれるわけないさ。
 うちのお偉いさんには、ロリコンはいなかったはずだし…
 あっ、そう言えば、君はマルチを裸にしたんだっけ?」

「うっ…」

 何も言えない。

「しかしね、我々も機能搭載までは行なったが、
 よもやそれを実際に使用することになるとは、予想だにしなかったなあ…(ニヤリ)」

「ううっ…」

 俺、赤面。

「君は知らないだろうが、
 マルチがあの機能を使ったことを知った時の、男性スタッフの怒りは物凄かったんだよ。
 『娘を傷物にした藤田を殺せ』って、気勢を挙げて、
 金属バットを用意する者、
 セリオに格闘技データをダウンロードさせようとする者、
 鶴来屋の会長に料理を依頼する者(因みに大喜びで作ってくれたそうだ)、
 藁人形を用意して『ふじたひろゆき』と書き込む者…
 いやあ、大変な騒ぎだったなあ。」

「…メイドロボの研究所で、呪いの藁人形ですか?」

「お? 興味があるかい?
 この廊下の突き当たりの部屋に、確かまだ『飾って』あったと思うよ。
 …そう言えば、そろそろ五寸釘を打ち込む余地がなくなったので、
 新しいのに替えてほしいとか言ってたような…」

 俺の胸の痛みは、綾香の蹴りのせいじゃなかったのかも?

「…冗談はさておき、」

 冗談だったの?

「まあ、正直なところ、
 あの機能をメイドロボに搭載するようになるのは、かなり先のことだろうね。
 世の中にもっと君のような人が増えたら…
 あ、ロリコンという意味じゃないからね…
 メイドロボを人間と同じように扱ってくれる人が増えたら、
 搭載を考えてもいいかも知れない。
 …マルチの場合は試作機で、決して人手に渡らないはずのものだから、
 あの機能を搭載できたのだよ。」

「…………」

 主任の話を聞いた俺は考え込んだが、藁人形の話はともかく、後は本当のことらしい。
 俺はやっと自然な笑顔を取り戻せそうな気がしてきた。
 マルチはやっぱり、心を持っていて、本当に俺を好きになってくれたのだ。
 
 …そうだ! マルチは今…

「そ、それで、
 …今のマルチは…どうしたら治るんでしょう?」

「うむ。
 その前に、あの娘がどうしてああなったのか、
 詳しく話してくれないか?」

 俺は、綾香が殴り込んできた時のことを話した。

「うーん…」

 主任は唸ったが、ふと時計を見て、

「さっきスタッフに頼んで、
 君と話をしている間に、マルチの体をチェックさせておいたから、
 そろそろ結果が出ているかもしれん。
 見て来るから、ちょっと待っていてくれたまえ。」



 「ちょっと」と言われたが、実際には30分くらい待たされた。
 主任はようやく帰って来ると、俺の前に座って、ぽりぽりと頭を掻いた。
 一見呑気そうな仕草だが、その顔には深い憂慮の相がある。

「ある程度予想していたんだが…
 検査の結果、機体そのものには何の異常も見当たらない。
 ただし、人間で言うと、
 肉体は健全だが、精神が病んでいるというところだな。
 つまり、心の病…なのだよ。
 メイドロボの心の病を治す方法なんて、誰も知らないだろう。
 すまんが…
 正直言って、どう手をつけたらいいのかわからない…」

「…………」


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