The Days of Multi第四部第10章 投稿者: DOM
The Days of Multi
第4部 Days with the Kashiwagis
☆第10章 ふたり妻 (マルチ6才)



 別荘からの帰り際、綾香さんたちは二つのものをマルチに手渡した。
 一つは、マルチタイプ用のノートパソコン。
 マルチのパソコンは海水に漬かって駄目になってしまったので、別荘にも何体かいるメイドロボの
ものを一台分けてくれたのだ。
 もう一つは、マルチのバッグ。
 海に落ちたときも最後まで手放さなかったらしい。
 「濡れた服とかは、ちゃんとクリーニングして入れてあるからね。」と言う綾香さんに、マルチは
何度もお礼を言っていた。



 柏木家に帰りつくと、当然ながらマルチは大歓迎を受けた。
 俺は楓ちゃんの了解のもと、マルチが俺のもうひとりの妻であることを、皆に告げた。
 マルチは、俺の言葉に真っ赤になってうつむいていた。
 昨日からの様子で大体のところを察していた皆は、それほど驚きはしなかったものの、俺に向かっ
て、感心しない、という顔をして見せた(以前からマルチの気持を知っていた初音ちゃんは、むしろ
困ったような顔をしていた)。
 しかし、楓ちゃんもマルチもそれで納得していることを知ると、それ以上は無駄と思ったらしく、
皆何も言わなかった。
 積極的には賛成できないが、黙認するということだろう。



 その後、俺は、部屋で楓ちゃんとマルチと、今後のことを相談した。
 いろいろ案を出し合った挙げ句、マルチは一週間に一度、楓ちゃんの「代わり」をすることになっ
た。
 この「代わり」という点を俺もマルチも認めることが、楓ちゃんの精神を平静に保つのには是非必
要だったらしい。
 俺がマルチと会う夜は、楓ちゃんは元の自分の部屋で休むことになった。
 楓ちゃんは、ただし、と付け加えた。
 ただし、それ以外の時と所で…したら、浮気とみなし、ただではおかない、と。

「トイレの中でいちゃついてたりしたら、
 強制廃棄処分にしますからね?」

 と釘を刺され、俺とマルチは引きつった。

「はは、楓ちゃんったら…」

 俺が笑ってごまかそうとすると、

「もちろん、耕一さんも、廃棄処分です。」

 …楓ちゃんの目はマジだった。



 その夜、俺は楓ちゃんとマルチと一緒に寝た。
 今後の三人の新しい出発を記念する意味で、である。
 決して、あわよくば3Pを…などと考えたわけではない。念のため。
 左手に楓ちゃん、右手にマルチを抱いた俺は、やがて聞こえてきたふたりの幸せそうな寝息を聞き
ながら、

(でも、いつか3Pを提案したら…案外ふたりとも乗って来るかも…)

などと不埒なことを考えながら、眠りに落ちて行ったのであった。



 楓ちゃんは、俺とマルチの例の場面に遭遇して以来、自分がその方面でマルチに及ばないことを痛
感したらしい。
 そのせいか、いろいろ工夫して劣勢を補おうとするようになった。

 清楚な白い寝間着の下に、黒いレースの下着を着用していたり。
 高校時代の制服を着て来たり。
 どこからともなくロープを取り出して、真っ赤な顔をしながら、「あの… いいですよ。」と言っ
てみたり。
 猫耳と首輪(鈴付き)と尻尾をつけて「にゃあ」と俺に甘えかかったり。
 (それにしても、どこでそういうアイテムを手に入れたんだろう?)
 手を変え品を変え、俺を喜ばせようとしてくれるのだ。俺って幸せだなあ?



 マルチは、楓ちゃんのような意味での工夫はしないが、学習型の強みで、俺を喜ばせるコツを少し
ずつ習得していく。
 マルチって、ほんと凄いんだなあ。



 …こうして俺は、ふたりの妻と共に、充実した日々を送るようになったのであった。


−−−−−−−−−−−−

マルチが海に落ちたとき、(メイドロボの)生命維持に必要なパソコンは手放してしまったのに、
耕一との思い出の品が詰まったバッグはしっかりと持っていた…
自分でそこまで意図して書いたのかどうか、校正の時点ではすでにうろ覚えですが、
何となくマルチの気持ちがわかりますね(…作者の言葉とは思えない)。

この章は、マルチと楓ちゃんの構造の違いを強調するために、危ない表現が多かった場所なので、
かなり削除しました。短いのは、そのせいです。


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