真面目に書こうとして停滞しちゃった2004年5月の日々


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■ 2004/05/12 (水)
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[Misc]無礼な国の不思議な間違い

以前より某隣国で秀吉の朝鮮出兵のことを「倭乱」などという二重に無礼な呼び方をしていると言う話は聞いていたが、本当に新聞レベルでそのような呼び名をしていることを知った。

まずなぜ「二重」に「無礼」と言えるのか。

一つは「倭」。古代において自称としていた時期もあったが、西暦700年頃には「日本」と改めている。漢字の字義からも明白な蔑称である。この遥か昔に正式な国名であることをやめた蔑称を他国の呼称に用いる無礼さ。控えめに言っても、とても無神経である。

でもまあこれは実はたいした問題ではない(相対的にね)。問題はもう一文字の方「乱」である。

漢字圏において、戦争の呼称にはその種類に応じて区別がある(参考)。戦闘行為を表す表記として、「戦争」「征伐(征討)」「役」「出兵」「合戦」「戦(戦い)」「乱」「事件」といったものがある。

日本での呼称「文禄・慶長の役」、同じ戦争の中国での呼称「万暦朝鮮の役」は「役」と表している。この「」とは、「他国との戦争(明治前期よりも以前に限定)や辺境(周縁地域)での戦争に対して使われ」る、中立的な用語である。

この「遠征・対外戦争」と言ったような意味において、攻められた側の「侵略された」ということを強調する政治的意図を込めると、「元寇」などの「」を用いたりする。

さて、某隣国(複数)での呼称は「壬辰倭乱、丁酉再乱」である。用いているのは「」。これは「政府・現政権に対する“反乱”や“武力による抵抗”という意味合いで用いられ」る語である。すなわち、秀吉当時の日本が朝鮮政府の支配下にあったと主張しているのと同じなのだ。目一杯よく言っても腐った認識である。侵略だと言い立てるなら「冦」と言えばすむところをよりによって「乱」である。無知ならば救いはあるが、無知ではあり得ないのだから、無礼である。それで良く東方礼儀国などと自称できるものだと。

以上、前振り。

今日の話題は、「壬辰倭乱(豊臣秀吉が1952年に開始した朝鮮侵略戦争)を前後して日本に搬出された朝鮮時代の茶器50点余が500年ぶりに帰郷する」という記事について。

驚くべきことに引用は間違っていないのだった。1952年って朝鮮戦争かよ!

あまりに不思議だったので、同じミスを検索してみた。するとでてくるでてくる。

元老作家、金声翰(キム・ソンハン/芸術院会員/85)氏が壬辰倭乱(イムジンウェラン、豊臣秀吉が1952年に開始した朝鮮侵略戦争)を扱った長編小説『詩人と侍』(全3巻、ヘンリム出版)を発刊した。

2.文禄の役(壬辰倭乱)
 1952年(壬辰・文禄元年)4月、小西行長を主将とする第一軍、加藤清正の第二軍が相次いで海を渡った。宗義智が先陣に立てられたのは秀吉の命令だった。秀吉の意図は明国を征することで、朝鮮に対し「貴国先駆して嚮導(きょうどう)せよ」をいうのだから、これはもう誇大妄想に陥った権力者の病気である。 

朝鮮王朝時代 (1392〜1910年)
14世紀末に、儒教に基づく国家体制を築いたのが朝鮮王朝です。世宗大王によるハングル文字創案を始め、あらゆる分野で飛躍が見られた時代ですが、1952年豊臣秀吉の朝鮮侵略を始め、外国の侵攻と列強諸国の利権争いで、次第に衰えていきます。

壬辰倭乱(イムジンウェラン、豊臣秀吉が1952年に開始した朝鮮侵略戦争)当時、

ぞろぞろと。まあ見事である。

なんでか考えてみたのだが、

1952 - 1592 = 360
ってことは1952年と1592年は干支が同じ「壬辰」だと思われる。干支が同じだから間違えやすいなにかがあるのだろうか?それにしても一目みたら間違いがわかりそうな物なのに。不思議だ。

おまけ1
朝鮮半島では、文禄の役は「壬辰倭乱(イムジンウェラン)、慶長の役は「丁酉再乱(チョンユチェラン)」と呼ばれ(両方を総称して「壬辰倭乱」と呼ぶこともある)、それを引き起こした豊臣秀吉(プンシンスギル)の名は、のちに朝鮮の植民地化に決定的な役割を演じた伊藤博文(イドゥンパンムン)とともに、にくむべき日本人の代表とされている
人の国には自国読みを強制するくせに他国の人名は平気で自国読みするんかい。ジャイアニズムだねえ。

「豊臣秀吉」はプンなんたらというみょうちきりんな呼び名ではない。「とよとみひでよし」と読むのだ。
「伊藤博文」はイドなんとかと濁ったりしない。「いとうひろふみ」と読むのだ。
「金大中」を「きむでじゅん」と呼ばせたいのならこっちも覚えておいてくださいね。試験に出るぞ。
おまけ2
上記「壬辰倭乱(豊臣秀吉が1952年に開始した朝鮮侵略戦争)を前後して日本に搬出された朝鮮時代の茶器50点余が500年ぶりに帰郷する」という記述からは、多くの人が朝鮮出兵によって朝鮮から日本に「略奪」されたものが、ようやく里帰りを果たせたのだな、という印象を受けるのではないだろうか。しかし記事中には、武田信玄が使ってた茶器という記述もある。武田信玄は当然1592年以前になくなっているため、朝鮮出兵の「戦利品」を使用できたはずがない。良く記述を読めば「を前後して」「搬出」となっている。すなわち少なくともその50点の中には通常の輸出品として日本に入ってきたものが含まれているのだ。ちょっとあざとい表現じゃないかい?

■ 2004/05/17 (月)
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[Sci]劣化ウラン-1:ホットパーティクル説

先月下旬から更新が止まっていた理由は、この話をまとめようとして四苦八苦していたのだった。これについては、ここを覗いてくれている友人にも論文を取り寄せてもらっていることもあって、なんとか一通りのレビューくらいは、と思っていたのだがとりあえずNo.2までについて、この程度の完成度ではあるが、いったんまとめておく。


まずあらかじめ申し上げておくと、劣化ウランが完全に無害だなどとは思っていない。でもそれにリソースを集中するのが正しいか?と思うのだ。戦争行為による環境汚染は劣化ウランだけではない。そこに、重篤度などの比較もなしに、放射能だ核だのレッテルで煽って劣化ウランにリソースを集中することが公衆の健康を改善させるための戦略として適切なのか?

さらに、劣化ウランの持つ毒性の性格としては「重金属」と「放射能」の2面があるにも関わらず、後者(だけ)を前面に出して攻めることは、その中のトンデモ部分を指摘するだけで、全体に対する信頼を失うだけではないのか。これは劣化ウランに反対するための戦略として適切なのか?

なによりも「放射能」「放射線」というだけで拒絶するという態度は、特定のキーワードに対しての思考停止であり、全体的なリスクを考えることを要求されるようになった現代においては、社会的に見ても問題を解決するのではなく阻害する方向に作用しかねないと思うのだ。

私のこの問題に対するスタンスは以上。

私は医者ではないが、一応生物学を修め、ある程度資料を読み解くこともできるつもりだ。そこで自分の目で、なるべく資料を遡った上で、この問題について自分なりに考えてみようというのがこの企画だ。

ということで、まず劣化ウランについて書かれたサイトをいくつか読んでみると、劣化ウランに反対するサイトではほぼすべて、「病気・障害」≒「劣化ウラン」≒「放射能」という議論をしている。このそれぞれの等号がどの程度なりたつものなのかという議論については、既にいろいろなサイトでなされているから特に踏み込まない。

ここではそれらの劣化ウランに害があると主張している文書の中で、放射線による影響の機構面に限定して、科学的な根拠として示されている物について、その妥当性の検討を試みることにする。


放射線の作用によって劣化ウランが生体に影響を与える機構の説明や、その科学的根拠として挙げられているものの主なものとしては以下の3つがとりあえず挙げられるように見受けられる。

  1. タンプリンやコクランのホットパーティクル説
  2. ハーンらの劣化ウランをラットに埋め込んで発ガン影響を見た実験
  3. 米軍放射線研究所のミラーらの一連の研究

このうち、3は研究の量および結果において、とても重要な報告を多く出しているようなのだが、現在取り寄せ中の資料とかもあり、今しばらくは触れない。今日はまず1について見てみよう。

1は、劣化ウラン微粒子は放射活性を持つ粒子(ホットパーティクル)であり、これが体内に付着した場合、局所的に密集した被曝が生じることにより、全身に平均化されて受ける被曝よりもリスクが高まるという説。Googleで検索すれば、「故に危険性がある」としたページがぞろぞろ出てくるが、それらのページを見る前に筆頭にあるページ(2004/04/22時点)を良く見ていただきたい。

この問題を提起したのは米国のタンプリン(A.R.Tamplin)及びコクラン(T.B.Cochran)である(1974年)。
(中略)
この説はその後世界的に行われた調査研究により否定された。
(中略)
  ICRPの1977年勧告で記しているその理由は次のようである。(1)大線量は細胞の再生能力の喪失あるいは細胞の死をもたらし、確率的影響では一定量の放射線エネルギーの吸収は均等分布によるものよりホットスポットによるものの方が効果が小さい。非確率的影響(確定的影響)でも中程度の線量で起こるかもしれない細胞喪失の量ではそれらの細胞が作る器官の機能喪失に恐らく至らない。(2)疫学的調査で実際に限度(最大許容肺負荷量)以上に被ばくした複数の人について放射線誘発性の肺ガンが報告されていない。

そう、発表されて数年のうちに否定されている説なのである。科学的な根拠として挙げておきながら、科学的に否定されていることを伝えないのはアンフェアである。もちろん、それに与しない自由はある。ただしその場合も、その説を採る根拠を挙げた上でそう主張すべきであろう。繰り返すが、そもそも否定されていることすら伝えずに自説の補強材料として使うのは科学的な態度とは言えない。


ただこのホットパーティクル説がとなえられた背景には、放射線の影響を理解するための重要なヒントが含まれていると思われる。少々冗長になるが、述べてみたい。

大前提として知っておかねばならぬのは、放射線がどのように身体に影響を与えているかという部分。放射線は身体に悪いことならなんでもやってくれる魔法ではないということである。

放射線の基本的な作用は、身体を作る分子に傷をつけたり壊したりすることである。それが病気に至るメカニズムとして最初に引き起こすのは、極めて大雑把に言うと

  1. 細胞が死ぬこと
  2. 細胞が遺伝子に傷がついたまま生き残ること
のいずれかである。

まず1.の「細胞が死ぬこと」による「病気」とはどういうものかであるが、一つの細胞に十分たくさんの傷がついた場合、その細胞は死ぬ。ある臓器の中で重要な細胞がたくさん死んだ場合、その臓器の機能が低下したことによって、身体のレベルでの異常=「病気」が生じることになる。このとき、放射線が病気を引き起こすためには、その対象となった臓器を構成する細胞を多数殺すに十分な放射線があたる必要がある。言い換えれば、この経路ではターゲットとなるのは細胞の集団である。

しかし、劣化ウランの場合は、各々の微粒子のごく近傍にしか十分な量の放射線が届かない。α線の飛程が40μmだということだが、それに対して細胞の大きさは10〜100μm程度。すなわち一個のα線ではせいぜい数個の細胞しか殺せない。で、α線が劣化ウランからどの程度出るかというと、体内に入ってどこかに留まる劣化ウラン微粒子の最大のサイズは、肺に付着する5μm程度ということだから、最大でも1日に1、2個のα線しか出さない計算になるとのこと。すなわち一ヶ所について1日に数個の細胞しか殺すことはできない。粒子が小さくなったり溶液として全身に希釈された場合には、これよりもさらに放射線を出す頻度が下がるのだから、ウランの蓄積が見られるとされている臓器(呼吸器系、骨(体内蓄積の約60%、骨での半減期:300 〜5000 日)、肝臓、リンパ節。動物実験では精巣、脳など)においても、とても臓器に不全を起こすほど細胞を殺すことは無理だと考えられる。蓄積が見られない臓器では当然障害が起こり得ないし、さらに全身症状についてはいわずもがな。従って、劣化ウランに起因する害として挙げられているもののうち、腎障害、肝障害、倦怠感、腸の障害や神経系の障害などは、放射線では起こし得ないと考えられる。これらが劣化ウランのせいであるとしたら、重金属としての毒性の結果であろう。

問題は2.の方である。遺伝子の傷と言うと、最終的な障害として普通連想されるのはガンであろう(*1)。そしてガンは、基本的に1個の細胞から始まる病気とされているため、局所的な被曝しかもたらさない今回のケースにおいても確かに意味を持ったレベルの影響を与えうる可能性は残っている。それゆえ、ホットパーティクル説にも留意しておくべき点はあると私自身は考えている。(*2)(*3)

(*1) 継世代的影響(遺伝的影響)をあげる方もいるかもしれないが、放射線の継世代影響については、原爆の事例においても有意な増加は報告されておらず、放射線特有の症状といったものも報告されていない。受けた放射線の量が圧倒的に多い原爆の事例でそうなのならば、少なくとも現時点での科学的根拠に基づけば、劣化ウランの放射能/放射線では継世代影響については考慮に入れる必要はないと考えられる。よって、もし劣化ウランによって何らかの先天性異常が見られるような影響があるとしても、胎児期における重金属の毒性による傷害によるもの、すなわち1.の作用によるものであろう。

(*2) ただし、故に≒ガンとするのは飛躍であると考える。放射線の害を殊更に強調する人の中には、放射線が何か特別なものだと思っている方が多いように感じることがあるが、遺伝子に傷を付けるのは何も放射線ばかりではない。ある推定では、我々が生きている中で、すべての細胞で10秒に1回はDNAに傷がついているという。そしてその原因の多くは、呼吸などの細胞活動自体に起因するものだという。こういった傷は、その多くは細胞自身が修復する。ここにまず第一の関門がある。

次に、間違って修復されたり、不完全な修復しかおこなわれない細胞の中から、ある割合で遺伝子が書き換えられたまま増える細胞が出現し、その中からある割合で細胞のガン化が起こる。言い換えれば、すべての傷がガンに結びつく訳ではないし、各段階で細胞集団である体から異常な細胞をのぞくための圧力がかかる。これもまた関門となる。

そうやって無事?細胞のガン化が成功しても、病気のガンになるためには、免疫などの、さらに身体の防御作用をすり抜けていかねばならぬのだ。

(*3) なおさらに念のために申し添えておくと、これらの生体防御機構が完璧だからガンを心配するななどと主張するものではない。実際にガンは生じているのだし、放射線によってガンのリスクは上昇している。ただ放射線だけがガンを起こすかのような考えや、傷がつくのだから=ガンだというような短絡に対して、影響を全体的に定量的に見なければ、リスクは評価できないだろうと言う主張である。

したがって、ICRPの1977年勧告では一応否定されているとはいえ、ガンについてはやはり注目して、検証を継続していく必要があるとは考える。特にホットパーティクル説的に言うなら肺ガンは要注意であると思う。また、骨への蓄積があるとされていることからすると、血球系についても注目しておく必要があるだろう。ただ肝臓については、蓄積があるにしても、基本的に解毒器官であるだけに変異原にさらされる率がもともと高く、劣化ウランの放射能の影響程度で有意に上昇しないんじゃないかなと思う。もちろん重金属としての害をあわせればどうなるかはわからないが。

以上ホットパーティクルによるリスクの上昇という考え方は、一応科学的根拠を持って否定されている説であり、留意すべき点が残っているにしても過大評価をするのはどうかと考える。


■ 2004/05/18 (火)
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[Sci]劣化ウラン-2:ハーンらの劣化ウランをラットに埋め込んで発がん影響を見た実験

本日は昨日の2.「ハーンらの劣化ウランをラットに埋め込んで発ガン影響を見た実験」について検討しよう。一応私のスタンスを復習しておくと、劣化ウランに重金属としての害よりも強調しなければならぬほどの放射能としての害があるのかという所への疑問である。

これについて言及しているサイトに、「劣化ウランの毒性を告発する」と題した記名の連載がある。例えばその第9回放射線障害もたらす劣化ウランでは、アメリカ自身が証明した科学的証拠であるとして、次のように触れられている。

 問題は、それ(引用者注:重金属としての毒性)に加えて放射線障害をも併せ持つかどうかです。(中略)また、Hahn FFらは、腫瘍を作る放射線物質であるトロトラストと劣化ウラン、それに劣化ウランと同じくらい硬く重い重金属のタングステンをネズミに埋め込んだところ、放射線を出す劣化ウランとトロトラストに肉腫形成が多く、重金属の毒性に加え放射線の障害性があることを示しています。

すなわち、劣化ウランの害が主に重金属によるものだと主張に対して、重金属に比べてもさらにそれを上回る害が出たと言う報告があるではないかと言う根拠として使っているものの一つであるようだ。

その著者については「医療問題研究会 林 敬次」と書かれており、上記ページのタイトルが「産婦人科のいま」とあることからすると産婦人科のお医者さんなのだろう。従ってMedLineなどによる要旨の検索についてはご存じだろうし、論文本文の入手も可能であり、読みこなしに関してはプロであるはずである。

ということで、まずはHahn uraniumでPubMed検索をかけてみると、出てくる論文は8件。ちょっと絞ってHahn depleted uraniumとすると1件だけが残る。Hahn uranium Thorotrastでもそれと同じ1件だけになる。よってその論文、Environmental Health Perspectives誌110巻(2002年)1月号の51ページから59ページにかけて掲載されているImplanted Depleted Uranium Fragments Cause Soft Tissue Sarcomas in the Muscles of Ratsが該当するものであろう(著者はFletcher F. Hahn, Raymond A. Guilmette, and Mark D. Hoover)。その要旨を見ると、まず実験の組み方として

が書かれている。

さて、上に引用した林氏の文章中では劣化ウランと同じくらい硬く重い重金属のタングステンを重金属の毒性に加え放射線の障害性があることを示すために用いたと書かれていなかったであろうか。しかし御覧の通り、タングステン(tungsten; W)については言及がない

とはいえ、論文中で用いられているタリウム(誤記:タリウム(Tl)は下記元素一覧によると600mg/dayヒト致死量とのことで、タンタルとは桁違いに有毒である。)タンタルがタングステンと同様の毒性があるならば趣旨としては間違っていない。ではタリウムタンタルの毒性はどのくらいのものであろうか。ということで元素一覧でいくつか重金属の毒性をピックアップしてみると、以下のようになる。

タリウムタンタルは、タングステンや他の害があるとされている重金属の10倍程度毒性が低いらしい。Googleで出てきたサイトの中には、生体毒性のない金属として紹介しているところもあった。すなわち、原論文では単純に異物が埋め込まれたこと自体の刺激による影響を除外するために、一桁安全と思われる物質を使用しているのであり、重金属の毒性のコントロールとして用いている訳ではなさそうだ。従って、この論文を

劣化ウランと同じくらい硬く重い重金属のタングステンをネズミに埋め込んだところ、放射線を出す劣化ウランとトロトラストに肉腫形成が多く、重金属の毒性に加え放射線の障害性があることを示しています。
と紹介するのは間違っている。良く言っても「誤読」であると考える。

ただし、劣化ウランを埋め込んだラットでガンができたのもまた確かである。少なくとも同じ表面積の断片で比較したとき、タンタルでは50例中2例しか発ガンがなかったのに対し、劣化ウランでは49例中9例で発ガンがみられている。少なくともインプラント自体の影響よりも高い影響を示すことは明らかである。

また、考察の中に他の文献を引用していろいろな重金属との比較を試みた部分がある(Table 7)。有害であることでは有名な鉛については、粉末で埋め込んだ結果であり若干比較が難しいところもあるが、95mg投与で発ガンが37例中1例。劣化ウランは上述の通り、一番多かった条件で最大49例中9例(埋め込んだ質量としては700mgだが、全部溶けた訳じゃない)だから、指標次第では劣化ウランの方が鉛よりも悪いことだってありそうに思うがいかがだろうか。まあ単純に鉛は有害だけど発ガン性は低いってことだね。

なぜわざわざ鉛に言及したかと言うと、一部のサイトで、劣化ウランは鉛より安全とする主張をみかけたことがあったから。以上の理由でこれもまた、どうかとおもう。

その表を見る限り、劣化ウランよりずっと悪そうなのは、CoCrMo合金(コバルト・クロム・モリブデン合金;28mg powderで72例中27例。ただし142例中0例という報告もある)、Co(コバルト;28mg powderで30例中17例)、Ni(ニッケル;total 25mgのpowderで50例中38例および28mg powderで10例中10例)。まあニッケルは元々発ガン性があるとして知られている重金属なんだけどね。ちなみにタングステンについてはこの表でも記述はないのだった(笑)。

ついでに考察の最後の方で、ラットは人よりずっとインプラントや放射線発ガンに対して感受性が高いから、この結果が直に人の場合に当てはめられないとも書いている。「有害作用に関しての研究ならば、それなりの注意を払う(『健康情報を評価するフローチャート』ステップ2)」という観点からみれば注意を払う価値のある情報であるのは確かだが、大々的に問題視して取り上げるほどのものでもない。

以上まとめると、劣化ウランが体内に埋め込まれた場合、単純に何か金属を埋め込んだ場合と比べてその場所での発ガンが高まることを示した論文であった。比較対象は重金属ではない。また、環境中に微粉末として拡散したようなケースに対してはものを言える実験系でない。お間違えのないよう。ってゆーかそれに該当しそうなちゃんとした論文あるのか?

考察をきちんと読み込んでない部分もあるので暫定的にアップするが、後に修正・加筆するかも。それ以前に何か突っ込まれたら、明示的に残して修正しますので突っ込みは歓迎。というより未完成でアップするな、って所だが(^^;。

2005/07/31訂正:愛・蔵太氏のサイトにこのページを紹介した際に、コメント欄でkocteau 氏よりタンタルとタリウムの誤用をご指摘受ける。文中の訂正を入れた部分に書いた通り、タリウムは600mg/dayヒト致死量とのことで、本文中の300mg/dayラット致死量は確かにタンタルの事であった。なので、とりあえず単純な誤記だと思うのだけれども……。どうしてこういう間違いするかなあ>自分orz。ご迷惑おかけしました>愛・蔵太様。


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[Page Design] Written(Ver.3): 2003/09/19; Modified(Ver.3.1): 2003/09/25; Minor-modified(Ver.3.1.2): 2003/11/09