スズメ     ある日 小屋の軒下に ヒノキの香りのする スズメたちの マンションを造り その直ぐ下には 餌場を造って スズメた ちの住み着く日を 静かに待った。新しくマンションと餌場が 出来て スズメたちは 至れり尽くせりであろう。  4月下旬頃になると お互いに結婚相手を探し始める。どれ が婿さんで どなたが嫁さんになるのか 私には一向に分から ない。  例年だと 道路向かいの 仕切のない軒下に巣を構えて タマゴからかえった雛がよく巣から落ちないものだと 感心 しながら見ていたが 今度は安住の住みかが提供されている。  スズメのマンションも 餌場も,居間からよく見える。  しばらくすると スズメたちはお互い相手が決まって 夫婦スズメは マンションはどれがいいのか しきりに  中に入ったり出たりして 住み心地を確かめている。  しかし 3住宅あるのに 一向に住み着こうとしない。 何故か 住み心地の悪そうな 向かいの いつもの軒下を 選んで 子供を育てる。  今年も 高級マンションに住まないスズメたちは 直ぐ 下のレストランに大勢押し寄せて ワイワイガヤガヤ  チュンチュンと騒いでいる。 ある日のこと 美味しい新米と麦を混ぜた餌をやると スズメたちは 群れを成して悦び勇んで食べているが 麦は餌場の外へ投げ捨てて 食べようとしない。 それを見た妻は「もう あげない」と言って それからは 餌をやらない。餌がないと 区切りをつけたように スズ メたちは 餌場に寄りつかない。  ある日 船で余った古米を しばらく振りに 与えた。  最初の内は スズメ一家は 仲良く食べていたが 新し い家族が出来る頃になると ボススズメなのか 喧嘩を始 めて 弱い者いじめして 餌を独り占めしようとする。 その上 餌を口につまんでは 外にはじき出して せっせ と捨てていた。  妻はまた怒る「高価な米を捨てている もう絶対やらな いからっ」。  スズメたち『餌をくれなかったら ここに来ないぞーっ』 と思っているのだろう。それ以来 どこで食事をしているの か スズメたちは姿を見せなくなった。  時おり 餌のない餌場に数羽来て 餌の無いのに『つまん なーいっ』といった顔で そそくさと 飛んで行ってしまう。 それを見た私は「可愛そうだ 少しは古米を分けてやろう」 と優しい気持ちになる。  スズメたちに怒っても 腹を立てても スズメたちには関 係なく 素知らぬ顔だ。スズメとケンカしても 私には何の 足しにもならないし しかたない また餌場に 古米やパン をやろう。そして たまには新米をやって ご機嫌をとって おこう。  餌をやると 群れを成して 喜んで食事しに来る 可愛い スズメたちである。  スズメたちと 仲良くしていると,気持ちも若返るこの頃 である。               坂頂 睦水                                                 文頭へ 【むかしばなし】へ 【ホーム】へ