麦君と蕎麦君のお話              むかーしむかし ある所に 兄の麦君と弟の蕎麦(ソバ)君の兄弟がいました。  兄の麦君は生まれた時は一人っ子だったので お父さんお母さんに甘えて育ち ました。  しばらくして 弟の蕎麦君が生まれました。  二人は兄弟と言うのに 肌色も顔形も 性格も考え方も 全く違っていました。 兄の麦君は 肌色は人肌で 顔は面長で 短期で荒っぽい性格でした。 弟の蕎麦君は 肌色は薄黒く 頭は三角の形で おとなしく穏やかな性格でした。  麦君は 自分と全く違う弟の誕生に 今までの一人っ子から 弟に焼き餅をや いているのか「私が先に生まれたんだから 蕎麦君は私の言うなりにしろ!」と 蕎麦君につらく当たりました。  麦君は蕎麦君を 朝起きるといじめ 食事でいじめ 寝る時も いじめました。 蕎麦君は辛くてたまりませんでした。  麦君は弟が自分に似ていないから本当の兄弟じゃないと言っては またいじめ  ました。麦君は 蕎麦君に言いました。    「蕎麦君 お前は私と血統が違うんだ 私達には血統があって    一番目の血統は・米 の系統    二番目の血統は・麦 の系統で 私なんだ     三番目の血統は・粟(あわ)の系統     四番目の血統は・豆 の系統で     五番目の血統は・キビ の系統なんだよ    この 五系統のことを昔から『五穀』と言って人様が大事にしてきたんだ。   五穀は,人様には無くてはならない穀物なんだ。蕎麦君はこの五穀の血統   にはないんだよ。分かったか!」  米・麦・粟・豆・キビ・ヒエ・蕎麦・小豆等は 蕎麦君達の従兄弟でありま した。でも蕎麦君は 兄と同じ「麦」の字が付いているので 兄弟に違いなく 血統だって従兄弟より近いはずだと思い,兄の話を信じませんでした。そして 兄なら弟を可愛がってくれても良いはずだと思ったのです。  蕎麦君は弟で小さかったので 兄の麦君には手も足も出せませんでした。 蕎麦君は 兄のあまりのいじめに 従兄弟に相談しようと考えました。  初めに一番兄貴分に当たる米君の家に行きましたが 籾殻ばかりで米君は留 守でした。  もう十一月で 米君が家に居る時期は十月いっぱい 十一月になると 他県 などに出張したり 商店回りが忙しくなるのでした。  蕎麦君は困って 次に粟君の家の前に行きました。ところが イガイガの殻 ばかりで栗君も留守でした。粟君は夏の終わりまでしか家に居ないのでした。  しかたなく 次に豆君の家に行きました。ソーッと家の中をのぞいて見ました が 中にだーれも居ません。隣の家の人が「豆君は 来年三月の節分まで暇を 取って 家族みんなで外国旅行しているよ。」と教えてくれました。  蕎麦君は 豆君も居ないのにガッカリしましたが「そうだッ キビ君が居る かも知れない。」と気を取り直して キビ君の家に行きました。 「ごめんくださいッ キビ君居りますかア 居ませんかア 居なかったら居な いと言ってくださーい」 家の中は,しーんとして返事はありません。  隣の家に聞きに行くと「キビ君家族はネ 馬小屋廻りがあるからと言って  皆で出て行ったよ。何時も今頃の時期には 冬場を前にして毎年 馬小屋廻り があるんだそうですよ」  蕎麦君は ガッカリして泣きだしそうになりましたが「そうだッ ヒエ君を すっかり忘れていた。」これが最後の望みと蕎麦君はもう暗くなった道を急ぎ 足でヒエ君の家に行きました。 「ヒエ君 おりますかア ヒエくーん居ませんかア ヒーエークーン!」 ヒエ君は 家の中から目をこすりながら モソモソと出て来ました。 「何ですかぁ蕎麦君 こんな遅い時間に どうしたんですかぁ?」 「ごめんね ヒエ君。私の兄の麦君のことだけれど 何時も私を いじめるん です。朝起きて夜寝るまで いじめが続くんです。私は もう家に居ることが 限界なんです。苦痛なんです。どうすれば良いか ヒエ君に相談に来たんです。」 蕎麦君は 今までの麦君とのことを 全部話して相談しました。  ヒエ君は 蕎麦君の話を聞いた後で言いました。 「僕から麦君に話してもいいけど 兄弟の問題を他の人から言われたら麦君は 余計へそを曲げるのじゃないかな。実の兄弟なんだから いつか気持ちが通じ るのを待つより無いように思うんだけど。家出なんて考えないで 苦しくなっ たららまたおいでよ。」 「そうだね ヒエ君。ごめんね。麦君にはわかってもらえないと決め込んでい たのかもしれない。こんな夜遅くに ごめんね。皆さん これから寒くなるの でカゼをひかないでね。体には十分に気を付けてネ サヨウナラーーー」  蕎麦君はそう言って 誰も助けられない問題なのかと 暗い夜道をは涙なが ら一人トボトボと家に帰りました。  翌日 起きるといきなり 兄の麦君は蕎麦君に向かって言いました。 「なんだ家出したんじゃないのか まだこの家に居るつもりか! このごくつ ぶしめ!」注:【ごくつぶし】とは 食べるのだけは人一倍食べて 仕事も何 にもしないで ただゴロゴロしている怠け者のことを言うんじゃ。  蕎麦君は 何も家でゴロゴロしていた訳ではありませんでしたが いつもの ことと 聞き流していました。麦君は機嫌が悪いのか しつこく言いました。 「お前のような肌の黒い奴は 私の弟でも何でもない! この家からとっとと 出て行け! 」 こらえていた蕎麦君でしたが 肌の色や顔形までもブジョクされて 腹の中に ある【堪忍袋の緒】が とうとう切れてしまいました。  蕎麦君は 麦君につかみかかり 一発おもいっきりパンチしました。 麦君は 蕎麦君に 初めて なぐられたのでビックリして怖じ気づき「よせよ 蕎麦君! 暴力はいけないよ! 何をするんだ!」 「今までお兄さんだと思ってガマンして来たんだ 肌の色や顔まで差別された からには もう許さない!」 「何を生意気な」  とうとう 取っ組み合いのけんかになりました。上になったり下になったり 頭を叩いたり 突っついたりしているうちに 蕎麦君の頭の突起が麦君の顔に 当たり 縦に大きく傷をつけました。  麦君は 顔の傷の痛さに転がりながらわめきました。 「痛いよ!痛いよ! 顔に傷が付いたよー」エンエンと声高に泣きだしました。  蕎麦君は言いいました。 「お前が悪いんだ 毎日毎日 いじめてばかりで 今までどれだけガマンして きたか。私の腹の「堪忍袋」の緒が切れたんだー」  そんな兄弟げんかの一部始終を 神様は天からチャーンと見ていました。 「どうしようもない兄弟だ 仲良くなるのを待っていたが 喧嘩をして傷つけ 合うとは。もう黙って見ている訳にはいかない」神様はそう言って 麦君と蕎 麦君を呼び出して裁きをしました。  「けんか両成敗じゃ 二人に次のことを申し伝える。   おまえたち兄弟が一緒に居ると いじたり けんかになる。   よって いまから二人を別々に生活するようにする。   兄の麦君 お前は秋に畑へ行って 次の年の夏の初めに家へ帰るがよい。   弟の蕎麦君 兄が夏に畑から家に戻って来たら畑へ行って 秋に家に帰り   なさい。蕎麦君が帰って来たら 麦君は畑に行くのじゃ。   こうすれば おまえ達は常にすれ違いで 一緒にいなくて済むじゃろう。」  兄の麦君も 弟の蕎麦君も 神様の言うことに従わなければなりませんでした。    そうゆう訳で 麦と蕎麦は生育時期が 別々になりました。     画像P1  今でも 麦とソバの特徴はそのときのままです。    ○ 麦は 色は肌色 顔は面長です。     その顔には 蕎麦君に傷付けられた切り傷が縦に残っています。        ○ ソバは薄黒く 頭は三角の突起があります。     麦の顔を傷付けた剃刀のような突起です。    画像P1    画像P2  麦とソバは同じように 粉に引いて麺にして同じ汁で食べますね。  つまり 麦とソバは やっぱり兄弟なのです。          おしまーい ドットハライ        麦の穂          蕎麦の花                        画像P1    画像P2     粟の穂          キビの実                        画像P1    画像P2                        坂頂 睦水 作 文頭へ 【むかしばなし】へ 【ホーム】へ