金の魚  孫が 小学校四年生の時に 三嶋祭りで【金の魚】を三匹買ってきた。 1年経たないうちに 一匹が朝起きて見ると 死んでいた。孫は 悲し そうな顔をして 小屋の前の花壇に小さな穴を掘って 丁重に埋葬した。  三匹の金魚は 三姉妹だったのか おとなしく 仲良く泳いでいたが 二匹になったら 大きめの金魚が どう気が狂ったのか 突然 小さい 方をイジメはじめた。それが毎日続いたのでイジメられた小さい金魚は ストレスが溜まったのだろう 間もなく死んだ。   ある日 学校から帰った孫が 一匹になった金魚に気づいて 悲しげ な顔をしていた。  イジメは人ばかりじゃない 鳥たちもイジメるし 金魚にもイジメが あるんだなぁ。  孫が お祭りで『金の魚』を買ってきてから かれこれ12年になる。   初めのうちは 自分で餌をやっていたが 中学校を終わる頃には 餌を やらない。多分 学校の部活動などで 餌をやる時間を取れなくなった のだろう。  それから 金魚は腹を空かすだろうから 仕方なく私が餌をやる。 私が餌をやると 孫は益々餌をやろうとしない。  以来,私は金魚に餌をやる役になって7年ほどになり 金魚鉢の淵を ポンポンと叩いてから餌をやるので この頃 鉢のふたを開けると 底 の方から上がって 口をパクパクさせて 餌をねだる。 そのしぐさが 面白く かわいいのだ。  少しイタズラをしてやろうと 鉢の淵をポンポンと叩くと上がってく るが 口をパクパクさせて 餌をくれないのに気づいて チェッと  不満そうに また潜る。  小さかった金魚は 時が経つと大きくなるかと思ったが 一向に大き くならない。   そうこうして12年が過ぎて 今年の春 孫は東京の学校へ行った。 休校日意外は 少なくて2年は帰ってこないし 卒業後は 東京で仕事 をするという。  孫に『金魚を 誰かに上げようか』というと「いや やらないよっ」 という。そう言っていながら 東京に行ってしまった。   しかたない,チェッと言われながら 私は また セッセと世話をし ている。あれは舌打ちではない 空気を口に含めて潜る音で 何とも  愉快な金魚である。  毎日の餌やりは 腹がへっていようがいまいが 朝一回である。 金魚は満足だろうか 不満だろうか 退屈だろうか 金魚の気持ちは 分からない。でも 毎日 餌をやりながら見ていると満足そうな顔で スイスイと泳いでいる。 『金魚は いつまで私と付き合うのだろうか キット満足なんだよ』 と思いつつ いつの日か 金魚のいなくなる日を思うと私は 悲しく 寂しい思いに捕らわれる・・・。               坂頂 睦水                                                 文頭へ 【むかしばなし】へ 【ホーム】へ