五徳のお話     むかーしむかし いろりに炭を入れて その火で煮たり焼いたりしたもので した。煮るには鍋を 焼くには あぶるご(網)を使いますが 火の上に直接は 置けませんから 支えになるものが必要です。それが 五徳(ごとく)です。  むかし五徳は 五本の足を持つ生き物でした。 その五徳の五本の足は 神様からさずかった 大事な大事な足でした。 五徳というのは 儒教(じゅきょう=孔子の教え)の五つの徳のことです。 五徳の五本の足には それぞれ名前があり意味を持っていました。 一の足に 温(おん)  穏やかで  二の足に 良(りょう)  素直に 三の足に 恭(きょう)   相手を敬い 四の足に 倹(けん)     つつしみ深く 五の足に 譲(じょう)     ひかえめに   五徳は 自分だけが五本の足で 他の生き物は四本足や二本足で生活してい ることに気づきました。 ★ 四本足には  牛や馬 山には熊や狸やキツネなどがいました。 ★ 二本足には  鳥とお人様がいました。  四本足の動物も 二本足の鳥も お人様も 不自由なく生活していました。  五徳は『自分だけが五本も足を持つのは欲張りだ 皆様に申し訳がたたない』 と思いました。  そこで 五本の足から一本の足を神様にお返しして 自分は四本の足になり ました。  しばらくして 三本足の動物がいることに気づきました。当時の犬は 三本 足だったのです。犬は三本の足で上手に歩き 不満はありませんでしたが 速 く走るのは苦手でした。  五徳は思いました。『二本足で暮らしている鳥や人様がいる 私に四本はも ったいない 三本足でも十分生活ができる 犬が思い切り走れるように 足を 一本犬にもらってもらおう』  五徳は 神様にお願いして 四本足の中から一本の足を犬にやり 犬は四本 に自分は三本の足になりました。五徳は満足でした。 五徳は犬に情けをかけたわけではありませんでしたが 世間では「五徳とい う名前を頂いているだけに 情け深く つつましく そしてたくましく 頼り になる」と感心し尊敬しました。  こうして 五本足だった五徳は 今では三本の足で火鉢の上に凛々(りりし) く立って 正月には紅白の祝い餅を焼いたり 寒い日には せんべい汁をぐつ ぐつ煮るのを手伝って 香りをプーンと立て,みんなに大層喜ばれているので す。鍋や鉄瓶が滑って火に落ちないよう三本足でしっかり支え 今まで一度も 転んだことはありません。             画像P1  一方 三本足だった犬は 今では四本足で早く走れるのがうれしくて いつ も走りたがります。五徳から大事な尊い一本の足をいただいて 感謝の気持ち を忘れてはいません。『いただいた足を粗末にできない 大切にしないと神様 のバチが当たる』  そう思って 犬はオシッコをする時は 五徳からいただいた大事な後足に, がかからないように いつも足を上に上げて オシッコの用を足すのです。    五徳のお話はこれでおしまーい。 ドットはれ。  画像P1 五徳の活躍は素晴らしいものでしたが いろりや火鉢が見られなくなって 今の 子供達は「五徳って どんな形をしてい るの 何に使うの」というので 五徳も びっくりしています。  台所のガスコンロやガスレンジにカレ ー鍋がぐつぐつしているとき 鍋は何に 支えられてますか? それが五徳です。 今でも 五徳の子孫が鍋やフライパ ンを支えているのです。でも今の五徳の 足は四本 五本 六本といろいろです。                                         坂頂 睦水 作                                                 文頭へ 【むかしばなし】へ 【ホーム】へ