飼育の経過と結果 

1]3匹のコーカサスを、いずれも胴体長(ここでは頭部先端から腹端までの長さとします)65mm前後、頭角長さ(私は頭角先端から口先(頭循先端)までとしております)2cm以下の短角♂として羽化させました。 

これらはどれも70g以上になった後、3齢脱皮後8ヶ月位から容器内でマットの上を歩き回ってどんどん痩せてしまい、 

72g→56g、72g→58g、73g→59gと、8割程度の重さに縮んでしまいました。最後の個体は59gを記録してなおも3週間以上暴れ続け、最後に庭の赤土を底に入れたら、簡単に潜って行き、土を入れて後70日未満で羽化しました。普通前蛹期間が1ヶ月は続くのですが、この個体だけはすぐに蛹化したようです。 

表1.短角個体の幼虫時代の最大時の体重と最終測定時の体重、及び最大時と最終時の比
幼虫時代
最大
72g
72g
73g
最終
56g
58g
59g
最終/最大
0.78
0.81
0.81
羽化成虫
胴体長
66mm
65mm
65mm
頭角長
20mm
18mm
15mm

2]1匹、92gに大きくなったコーカサス幼虫がおりました。しかし、2度マットに水分を与え過ぎ、底から腐ってきて73gに縮んだのですが、1度目は戻りましたが、2度目は82gにしか戻りませんでした。2度目の時、3齢脱皮後8ヶ月でした。

それで、餌カブトをすれば大きくなったというのを思いだし、早速与えたのですが、見向きもされず、そればかりかまたも水分過剰でマットを腐らせてまた76gに痩せてしまいました。それで、「オオクワ♀の栄養補給に使うから成分も近いだろう」と思い、高タンパクゼリーを、幼虫を掘って顔を出した時、口元にゼリーを置くというのを繰り返しました。すると、幼虫が89gに戻りました。しかし、その後ゼリーを少々食べても体重が少しずつ減って86gで止まり、最後厚さ2cmの蛹室壁を持つ蛹室を作ったものの、中で病死してしまいました。中の幼虫の重さは71gでした。

この時、こんなに厚い蛹室壁を作らなければ、幼虫の中身が減らず、角が長くなるのではと考えてみたのです。

3]コーカサス、ツヤクワガタ、アルキデスなどは、同じ胴体の大きさで角(や大顎)の長さが違うものがいる事で知られていますが、それについて、「現地で旱魃の年は短角だった」と言う話が月刊むしにありました。環境が悪いと胴体ばかり大きな成虫になるのかと思ったのです。

ここで、

1)ゼリーを与え戻った位だから、老熟時に何か食べた方が、縮まず蛹化する。

2)旱魃の時は高温だから、低温で飼育する。

3)旱魃の時は周囲の気圧が高く、現地でも1000mの高原で生活するので、気圧を低くして飼育する。

と言う3つの説が、長角羽化の方法として出て来ました。

4]今年4月、まちかね掲示板にも良く書き込まれるキャスバルレムダイクン氏が、100gの幼虫が90gになった所で、大きめの容器でマットを菌糸ビン並に固められたところ、うまく蛹化して全長11cmの長角になったと報告されました。上の飼育例を見ても、どうも9割くらいの所に、老熟した幼虫がある程度体重を安定しておける所があるようです。92gの幼虫が82gや86gで安定するといった感じです。なおこの長角は、夏30℃、冬22℃くらいでの飼育で、3齢の期間が8ヶ月位だったそうです。飼育容器はQ BOX 60で、非常に大きめです。

5] 4]の結果から、蛹室さえ作るのが容易なら、体液を無駄に使わず、その分が角に回るのでは、と考えました。そして、こんな仮説を考えてみました。

「成虫の胴体部分は、幼虫の最大体重で決定され、その後の縮みが1割に留まれば長角、2割なら短角である」

6]これが本当なのかと思い、少し証拠となるデータを集めてみる事にしました。

月刊むし1991年8月号(No.246)9ページ「カブトムシの多型と交配戦略」に「成虫体重と頭角の重さのグラフ」と、「成虫胴体長と頭角長のグラフ」があります。その中から、大体3cmの角でこの重さ、4cmでこの重さ、5cmでこの重さと目星をつけ、長角と呼べる4〜5cmの角で、角1本で1g弱と推定しました。

表2.コーカサス成虫体重と頭角の重さ(単位g)
成虫体重
10
15
20
25
30
頭角重 (短角)
0.1
0.2
0.4
  (長角)
0.6
0.7
0.9

表3.コーカサス成虫胴体長と頭角長(単位mm)
成虫胴体長
 
50
55
60
65
70
75
80
成虫頭角長
(短角)
3〜7
4〜15
6〜20
13〜25
18〜28
  (長角)
32〜38
30〜40
34〜45
40〜48
50

グラフを貼りつけようかとも思いましたが、かえって見にくいかと思い表にいたしました。成虫胴体長と成虫体重の上限及び下限の範囲は、大体同じものと思われます。成虫体重25~30gに胴体長75mmなどが対応すると考えれば、角の長さ40~48mmに0.8g位の数値が来そうです。随分大雑把な考え方ですが、このようにいたしました。本当は私も角を切って重さの測定などすべきなのでしょうが、生体を何匹も集めるほどお金がありません。

角は3本ありますが、蛹の時は大体太さが倍で、直径が倍なら断面積は4倍ですから、1(g)×3(本)×4(断面積比)で、蛹の角の重さは高々12gと思いました。

実際には、胸角は余程大きな個体でなければ4cmほどで、頭角もマレー半島やスマトラの個体で5cmを超えるものがいるものの普通は4cm台です。

上の100gでマットを固めた長角個体が全長11cm、胴体長7.5cmの成虫になった事からしても、90g前後では全長105mm、胴体長7.2cm位の成虫になると考えられ、その位の長角個体を図鑑や標本で調べても、胸角4cm、頭角5cmが精一杯でした。これだと、幼虫時代90g程度の長角蛹の角の重さは、10g弱に抑えられそうです。

7]気温を低くして長角になるという説ですが、低温で飼育して幼虫が大きく育ったと言う話はあるものの、キャスバルレムダイクン氏は夏は最高30℃で飼育したとの事で、否定出来ます。32℃以上になると幼虫が暑がってマット上に出て来たりしますが、30℃までは大丈夫なようです。ただ、高温の方が成長、発育ともに早まります。

気圧ですが、これもキャスバルレムダイクン氏は決して1000m以上の高標高地で飼育された訳ではなく、否定出来ます。土中では、腐植質から出るガスの影響で、雨が降ったりするだけで周囲の気圧が一時的にであれ上下し、気圧で角の長さが決まるのは難しいのではとも思います。

8]以上の事から、「幼虫の胴体の大きさは最大体重時に決定され、その後の角の長さは、縮まず体重を維持したまま蛹化した物が長角になり、縮んだものは胴体はそのままで、角を伸ばすことが出来ず、短角になるのでは」という仮説がますます真実味を帯びてきました。

なお、カブトムシの角は、蛹化した後数日かけて伸びるのは良く知られておりますが、その際蛹が縮んでいなければ角を伸ばす体液が多く、少なければ伸ばす体液が不十分であろう、と考えると分かりやすいと思います。

9]そのような結果および考察から、子供の本にもある「底に赤土を固めて入れておくと蛹化しやすい」という方法で、大きくなり切った幼虫が蛹化場所探しで暴れて縮む前に蛹化してくれるなら、長角になるのではと考えました。

既にマットを固める事で長角になった例があり、ある程度は正しいのではと思っておりましたが、これ以外にも要因があるのではないかと内心恐れておりました。

10]北海道にお住まいの方で、コーカサスで長角を出されたと言う方を北海道の昆虫掲示板で2人拝見しました。失礼かもと思いつつ、御両人にメールを差し上げ、話を伺いました。

御二方のうち、M-zoo様はマレーコーカサスで12cmの成虫を羽化させられ、60cmの衣装ケースでまとめ飼いされたとの事でした。幼虫期間は1年半だったとの事です。

もう一方のけーじん様は、ジャワコーカサスと思われる10cmの成虫が羽化したとの事で、大ケースで飼育され、幼虫期間は2年で、マット上にドッグフードを時々撒かれたとの事です。