NOBU、キャスバルレムダイクン、゜DrC 
(著者:DrC、写真:NOBU、キャスバルレムダイクン) 



要約

コーカサスオオカブトは、これまで長角になりにくいと言われて来ました。今回、私(著者DrC)は幼虫が3齢末期に必要以上に容器内、特にマットの上を歩き回り、最大時の8割ほどに縮んだ後短角の蛹として蛹化していること、及び非常に大きく、深い容器にマットをたくさん入れて、なるだけいじらず動かさずに飼育した場合に長角になっていることから、「蛹化しやすい環境の提供により、幼虫が縮む前に蛹化すれば、縮まなかった分が角に廻り、長角になる」と仮定し、子供の本にも書いてある「容器の底に土、特に赤土や黒土を深さ10cm固めて入れる」ことで長角が得られるのではとの予測から、共同研究者NOBU氏及びその御友人とそれを実験し、長角4、中角2を得られましたので、報告いたします。 



実験の動機

「1」コーカサス飼育のきっかけ

私は小学校時代の半分をバンコクで過ごしましたが、その国にいる最大のカブトムシがコーカサスオオカブトである事を図鑑で知っていたものの、その具体的な分布地を知らず、結局タイ在住時には見る事が出来ませんでした(タイでは南東部の、カンボジア国境近くの山地に分布します)。それで、いつかコーカサスオオカブトを採集したいと願いつつ、20歳を過ぎておりました。 

24歳の時、関西のとあるショップのホームページを見つけ、そこに「コーカサスオオカブト超特大成虫75000円」と書かれていたので、その年の夏西日本を旅行した時立ち寄りました。そして、幼虫ならほぼ1/10の値段で買えると知りました。 

そして、その2ヶ月後、その店から通販で、値下がりした状態で取り寄せ、飼育が始まったのです。 

「2」長角、短角に関心を持ったきっかけ

小学校6年で、本州から北海道に引っ越しましたが、カブトムシの幼虫を連れて行きました。学校の理科の時間に「上に容器やビニールをかぶせると温度が上がる」とあったので、本州にいた時期からそのように飼育し、5月末には全てマットから下の赤土に潜っておりました。 

それを札幌の野外で飼育しましたが、引っ越して1ヶ月を経た6月後半になって掘り出したら、まだ蛹化していなかったり、体の割に角の短いような蛹になったりしておりました。 

更に翌年、近所のスーパーでカブトムシが売られているのを見たら、胴体長5cmもあるのに角の長さが2cmもなく、2又しか枝分かれしていないカブトムシが多く売られていて、カブトムシの本来分布しない北海道では角が短くなるのかと思いました。しかし、その中に胴体長4cmと小さいのに角の長さは2.5cmほどとまあまあのカブトもいて、なぜこのように逆になってしまうのか、分かりませんでした。 

大学合格後、本屋で海野和男著「スーパースタービートルズ日本テレビ刊」を読みました。大学合格の4年も前に出た本でしたが、高校、予備校と昆虫に裂く時間を殆ど持てず(昆虫図鑑を開いたのも1回しかありませんでした)、やっと読めた本でした。 

そこに、フェモラリスの長歯と、それより胴体の遥かに大きな短歯が載っていました。私はこれを見て驚き、「地球がもっと寒冷だった氷河期にこれらの昆虫は最大になったので、より暖かい現在は、不適な気候下で育ったカブトムシの様に逆転するのか」等と考えました。 

「3」幼虫飼育経験と文献からのひらめき 

その4年半後、コーカサスの幼虫を上記の様に購入しましたが、その翌年見た月間むしの報告に、コーカサスも角の長さと胴体の大きさが1対1対応せず、どんなに大きくなっても短角になり得ると知りました。そしてそこには、旱魃など不適な環境で生き残れるのが短角であろうと書かれていました。 

それで、私の技術ではとても長角など無理と思っていましたが、少しでもそれに近づけるようなデータを提供できたらと思い、毎月重さなどを測定して来ました。 

その結果、3齢末期に極端な体重減少を見せ、さらにマット上を歩き回るなどの行動をとる事から、日本のカブトムシ飼育で良く行われる、底に土を入れる方法で長角になるのではと考え、それを試みるのに更に1年かかりました。 

「4」コーカサス長角が出来ない理由として考えられた数々の要因 

コーカサスが長角にならない事については、様々な説が考えられて来ました。以下に、主なものを列挙します。 

(1).原産地の熱帯高原では30度を超える日は殆どないが、国内では恒温室などでないとそれができないから。 

(2).飼育するとどうしても振動などを与えてしまい、それが刺激になってしまうから。 

(3).熱帯の高原は日本より気圧が低いので、それが刺激になるから。 

(4).長角は、他個体の幼虫などを捕食したものがなるものなので、マットのみを食べて出来るものではないから。 

(5).現地でエルニーニョ発生のとき、乾燥しているときに短角ばかりになる事から、 

なるだけマットの水分量を多くしないといけない。 

(6).なるだけ広い飼育環境で飼う事。 

(7).温度を低くして成長を遅らせ、2年1化にすると長角になる。 

これらは、いずれも一般家庭での実現が困難な飼育環境で、それゆえ普通の家では絶望かとまで言われました。(1)はクーラーを30℃にすれば暴れたりはしませんが、長角には現地の平均気温と思われる22℃にしなくてはならないとしたら、本州以南では膨大な電気代がかかります。(2)は、地面に飼育容器を埋め込んで飼育するなどせねばならず、これでは冬の加温まで大変です。 

(3)は、ビニール袋にエアーポンプをつけ、そのポンプを数分間働かせて気圧を標高1500m相当の800hpaまで下げ、ここでスイッチを切り、袋の隙間から空気が入って再び900hpaになったらエアーポンプを働かせ・・・とやり、その時間間隔が分かればタイマー式スイッチなどをつけ、一定時間置きにon-offになるスイッチで制御する事は出来ますが、価格が7000円はかかります(気圧計が高そうです)。第一これでは、エアーポンプの振動も、(2)の条件も関わった場合心配です。 

(4)は、共食いをさせた人が大きな幼虫を得られていた事に由来しますが、それが必ずしも長角に繋がっていたわけではないようです。(5)は、私もやりましたが、このお陰で何度マットを腐らせた事でしょうか。 

(6)は、これも一般家庭では、スペースの点で無理で、また餌が膨大に必要とされ、幼虫を羽化させるまでの価格より成虫を買って来た方が安くなります。 

(7)は、これは(1)と基本は同じですが、それまでの本に「カルコソマの幼虫期間は2〜3年かかる」とあったため、余計これを信頼される方が増えてしまいました。 

これとは別に、(6)の広い環境に関わるのですが、「古い15mくらいのプールいっぱいにおがくずを入れて、幼虫を飼育したら長角になった」とか、極めつけは「南の島を買って、そこに放し飼いにしたら長角が得られた」というのまでありました。 

また、河野和男氏が月刊むし1998年6月号13(No.208)ページに「カルコソマ、ツヤクワなどの長角、短角(歯)は遺伝的要素が大きい」と書かれたことから、「ショップが短角遺伝子を持つ個体だけ売っているのではないか」という話もありました(その後、遺伝子は「発生プログラム」を働かせるだけで、それに従って形成された個体の形が新たな遺伝子発現の場となるというより認められた考えに従い、周辺の環境による大きさの変化などが角などの形に影響するという考えに変わられたようです)。 

あと、G-pot4l型を数本使って長角を得た話がありましたが・・・これもお金がかかり過ぎます。 

その他、「稀に全長が18cmほどある幼虫が出来るので、この様な長い幼虫は蛹室を長く作れるので、蛹化の時角がつかえず長角になる」とか、「前蛹になった所で広く長い人工蛹室に移すと長角になる」というのもありました。 

しかし、「高栄養」「スペース」「温度」「湿度」「気圧」「刺激無し」というのがほぼキーワードです。これをどこまで省略出来るかというのが、解決すべき問題でした。