2000年度 採集記(単独新規開拓編:前偏)

2000.08.04 (Fri) 〜
2000.08.06 (Sun)

某県 某所
激走の果てに...編

● 現地入り

午前中に東京を発ち、昼過ぎには現地へ入ることができた。出発時、東京の天候はピーカン。途中まではその好天が続いており気分的にも昂揚していた。ところが、目的地へ差しかかかると同時に、徐々に雲が厚くなり今にも雨が降り出しそうな空模様となってしまった。

天気が保たれているうちに、とりあえずヤナギのルッキングをしておきたい。下見を予定している林道は2本。今日はそのうちの1本へ入ることにした。


● ヤナギのルッキング

樹液採集の場合、まずはホストとなる樹木を見付けなければならない。ヒメオオ・アカアシの場合は、ヤナギ、ダケカンバ、ブナなどに付くことが知られている。なかでもクワガタが多く付き、かつ探しやすいのは、やはりヤナギだ。とにかく、ヤナギを見付けだすことが最低条件となる。

舗装道路から林道の砂利道へと車は進む。しばらくヤナギはまったく見当たらない。曇っているので、林道は薄暗い。すれ違う車など皆無だ。車に乗っているとはいえ、たった一人で細い林道へ入ることは本当に心細い。ちょっとした物音でびびってしまう。

のろのろと低速で道沿いをルッキングしていくと、すらっと上方に延びる華麗なヤナギを発見した。いかにもクワガタが好みそうな生え方をしている。

車を降り、枝の分岐に沿って目線を移動させる。

そして、立ち位置を変えながら様々な角度から眺める。

枝に不自然な黒いコブがあればクワガタである可能性が高い。

経験上、ヒメオオは枝先の方に、アカアシは根元の方にしがみ付いていることが多い気がする。もちろん例外もかなり多いが...。

そんなことを思いながら、入念に見入る。気温は26度と十分であり、いるなら確実に登ってきているはずだ。しかし、いない。何度見てもクワガタの影は認められなかった。

ヤナギ採集の場合、一ヶ所に固執せず、次々とヤナギを探して回ったほうが効率がいい。というわけで、どんどん先に進む。

林道沿いには、カミキリ類がよく飛来する花も見られたが、ハチやアブさえ見当たらない。

なんとも虫のいない林道である。

完全に出鼻をくじかれた。


ただ、ミヤマカラスアゲハは乱舞しており、その姿は壮観である。

チョウには興味がないが、ついつい見入ってしまう。


途方に暮れながら奥の方まで入っていくと、そこそこヤナギが生えていた。

ただ、どのヤナギにもクワガタはついておらず、どうも駄目なようである。

結局、この林道は見切ってしまった。


● 材場を発見

林道を引き返し、場所を移動する。しばし道を走っていると、いい感じの材場を発見した。

これはカミキリ、タマムシなどが狙えそうである。

早速、降りてルッキングを開始した。

すぐにブナ材の木口にルリボシカミキリを発見した。

生きているルリボシは本当に美しい。

やっと生態写真を撮ることができた。


そして、すぐ横の材にはルリボシのペアがいた。

あっという間に5頭を採集できた。

ただ、他の種類はまったくと言っていいほど見当たらない。

やはり、天候がピーカンでないと厳しい。


● 雷雨...

材場をうろうろしている最中、みるみる雲行きが怪しくなってきた。稲光りもしている。そして湿気の多い冷たい風も吹いてきた。これは確実に降るだろう。

急いで車まで戻ると、案の定、ぽつぽつと雨が落ちてきた。その数分後、いきなりバケツをひっくり返したような豪雨となってしまった。

ああああ、完全にアウツだ...。

この土砂降りでは採集などできたものではない。とりあえず、駐車できるところを探し、雨宿りである。

待っても待っても雨は止まない。降り方からして一時的な通り雨なのだろうが、単身車内で待つ身にとっては1分1分が非常に長く感じるのだ。

しかし、1時間経っても一向に雨が上がる気配はない。だんだん、寂しくなってきた。なぜなら、何もやることがないからだ。仕方なくふて寝することに...。

約1時間ぐらい寝ただろうか、まだ降っている。あまりに虚しいので、採集仲間に電話を入れる。あ〜さんだ。

『今、現場に来てるんですけどすごい雨です、まったく止む気配がないです、今晩は駄目かも知れませんね』
「そんなことないでしょ、雨はチャンスかもしれないよ、気温は?」
『さっきまで26度ぐらいでしたけど、今は20度まで下がってます』
「じゃあ、大丈夫でしょう、きっと夜は蒸しますよ、いけるでしょう!」

そうなのか、経験豊かなあ〜さんが言うんだから間違いはなさそうだ。一気に沈んだ気分が持ち直した。こういうときの仲間のアドバイスは本当にありがたい。これがなければ、100%諦めていただろう。ありがとう、あ〜さん。


● 最初の衝撃

かろうじて雨が弱まってきた。このまま止んでほしい。まあ、いずれにしても今晩は予定通りに街灯回りを敢行するつもりだ。そろそろ街灯の下見へ行かなければならない。日没までそう時間が残されていない。

エリア内を一巡し、だいたい良さそうな街灯の見当がついた。これで、今晩は勝負できそうである。

さて、夜食を買っておかないと空腹感で気力が無くなってしまうので、ある商店に立ち寄った。実はそこで、衝撃的な『物証』と遭遇することになるのだ。

ジュースを買おうと、自販機へ歩み寄る。お金を入れ、そしてボタンを押し、普通にジュースを取り出そうとした際、ん!???

あああああ!

これは...。

オオクワの翅だ!、ちゃんとスジがある。

おそらく♀だろう。

大変なものを見付けてしまった。

これで、確実な証拠をつかんだことになる。まさに大進歩。この時点で新規開拓の9割が終わったと言っていいだろう。あとは生体を捕まえるだけだ。

この発見により、今晩は気力の続く限り頑張ろうという気になった。


● さあ、日没だ!

ようやく陽が山の稜線にかかり始め、辺りが黄昏れてきた。ここから暗くなるのは速い。どっぷりと日が暮れた時点で、いよいよ灯下採集のスタートである。

まずは、明るいうちに目をつけておいた街灯を順に回っていく。クワガタは日没からの1〜2時間によく飛来するため、いきなり勝負どころとなる。

看板の灯りに飛来した、今回第1号のアカアシ♀。

まさに飛来したての個体で、翅をせっせとしまうところ。

この1頭を皮切りに、次々とクワガタが飛来してきた。

飛来種の傾向としては、ミヤマの♀が圧倒的に多い。次にアカアシで、コは少ないといった感じだ。

水銀灯脇の樹には、ミヤマの♀がびっしりと付いていた。

そして、どんどん飛来してはしがみ付いていく状態である。

しかし、♂がいない...。

このエリアには、比較的多くの有望街灯があるのだが、そのいずれでも必ずクワガタが1〜2頭は転がっている。非常にクワガタが濃い場所であると実感した。

次のポイントでは、街灯の対面が壁になっており、灯火セットにおける幕面のような働きをしている。

実際に、壁には多数のクワガタが張り付いており、けっこう壮観な眺めだ。

それらのクワガタを網で1頭1頭採集していくのだ。すごく楽しい作業である。

この壁ポイントは、シチュエーションがかなり怪しい。非常に気になるポイントであった。

さて、今晩は自前の灯火セットを張らないため、とにかく街灯を回ることが中心となる。何度も同じ街灯を見ては、次へ走る。一体、何巡したのだろうか?

まるでジオラマの鉄道模型のように、何時間も延々と走り回り続けたのだ。

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