Lamprima adolphinae(Irian Jaya)

1.5章迄で、遺伝の仕組み,染色体の種類 及び その特徴を簡単にまとめてみましたが、如何でしたでしょうか。Guppyで遊んでいた頃に遺伝について少し勉強した程度ですので、その筋の専門の方から見れば、ご指摘を受ける内容があったかもしれませんが、そこは笑って許して下さいね。

それでは、パプキンの体色発現で遊ぶために、代表的な遺伝現象をいくつか紹介しましょう。
・・・・・と思いましたが、そろそろ飽きてきた方もいらっしゃるでしょうし、話題をちょっと変えて寄り道して参りましょう。


2 パプキンの体色のからくり...構造色...
宝石のように輝くパプキンの体色は、いったいどんなからくりによるものでしょう。
パプキンの遺伝子型を考えるにあたり、私は一つの壁にぶつかりました。って現在進行形ですが(^^;。それは、パプキンの体色は幾つかに大別はできるものの、さらに微妙に異なるあまりにも多くのバリエーションが存在していることでした。この微妙なバリエーションに対する遺伝子型を、どう仮定するばよいのだろう。また、どのような構造により、発現しているのだろう。 これらは、パプキンの体色発現に関する経験談を聴けば聴くほど深みに嵌まり、悩む日々が続きました。
そんなおり、私が出入りさせて頂いている まちかねBBS東京支部にて、パプキンの体色発現の構造についてご意見を頂く機会を得ることができました。流石といいますか、なるほどぉ〜とうなずいてしまうご意見が出てきます。概ねの見解(仮説)は以下のとうりです。

仮説1.
「パプキンの体色発現は構造色によるもので、翅の表面の微小な格子によって起こる光の回折・干渉によるものではないか。」.........回折格子と言われる光学現象

仮説2.
「パプキンの体色発現は構造色によるもので、二層(或いは幾層かの)の構造によって発色しているものではないか。」.........多層膜干渉と言われる光学現象

では、構造色について少しお話し致しましょう。
構造色とはそれ自体に色は無く、光の波長以下の微細な構造をもつことにより、色を持つ光学現象で、光の干渉や回折、散乱が関係しており、その色の特徴は輝くということです。

○回折格子.......規則的に並んだ物体により、波長に依存した方向性のある光の回折を行う。
○多層膜干渉.......多層膜による干渉は特定の入射・反射方向に対し決まった波長の光だけを強く反射する。

昆虫で代表的な構造色の持ち主としては、モルフォチョウ(コバルトブルーに輝く翅)や、タマムシ(緑を基調とする輝く翅)があげられます。
輝く特徴を持つ構造色
左の画像にある光輝く”タマムシ”は構造色によるものですが、パプキンの体色の輝きも、タマムシと酷似しいているように思えないでしょうか。私たちは波長の違いを色として感じとりますが、可視光線を波長の短い順に並べると、
紫 −> 藍−> 青 −> 緑 −> 黄色 −> オレンジ −> 赤の順
になります。前ページの画像下にある7色のバーで、既にお気づきの方もいらっしゃると思いますが、パプキンもこの7色に近い体色を持つ個体がおり、体色を観察するにあたり、ちょっと視線(角度)を変えてやると微妙に体色は変化して見えます。百聞は一見に・・・ということで、もう一度、前ページのパプキンの体色バリエーションとその並びみにご注目頂けないでしょうか。全ての体色バリエーションを揃えることは出来ませんでしたが、私はこれらの7色に近い個体がきっといると信じています。 前ページに戻る

パプキンの体色発現のからくりは、「回折格子」或いは「多層膜干渉」ではないかと考えてきましたが、たまたま趣味を同じとするくわかぶ仲間の中に、電子顕微鏡を扱える友人がいるという話しを受け、パプキンの体色発現の構造について、ご意見を伺う機会を得ることができました。そして、 第3番目の仮説が浮上してきました。

仮説3.
「パプキンの体色発現は構造色によるもので、薄膜による干渉によって発色しているものではないか。」.........薄膜干渉と言われる光学現象

○薄膜干渉.......薄い膜の表面と裏から反射された光は干渉して波長により強め合ったり弱めあったりする。

この第3番目の仮説は、電子顕微鏡撮影を実際に行っていらっしゃる方のご意見で、実際にパプキン雌を電子顕微鏡で観察された経験があり、「甲虫の色は表面構造によるものではない。」「クワガタやタマムシなどの干渉色は薄膜によるもの。」とその観察結果をご教授頂きました。
私は光学の知識にうといのですが、例えるなら、「水面に浮かんだ油膜」や「シャボン玉」に色がついて見える現象、身近な所では、「メガネの反射光の紫や緑がかった色」等と原理は同じだと思います。
ちょうどシャボン玉が大きく膨れるにつれて色が赤から青に変わるように(膜の厚さが変化するため)、様々な体色発現をしているのかもしれません。

さて、構造色ではないかという3つの仮説が出たわけですが、私がこの原稿を書いている現在、パプキンの体色発現の仕組みはこれだ!!。と皆さんに公開できる資料が残念ながら未だ手元にありません。また、これらを基に遺伝子型を結び付け仮説を立てるためには、「遺伝学」だけでなく「光学」の知識も必要となりそうです(^^;。
詳しいお話が出来る様であれば、またいつか機会をみてまとめたいと思いますが、パプキンはこのような光学現象により体色発現をしているようです。

ここで、興味深いパプキンの拡大画像を幾つかご紹介します(※電子顕微鏡写真ではありません)。全て、BAJA さんの御好意によるもので、この場をお借りしまして御礼申し上げます。
尚、私はこの手の画像に関する考察力に乏しいため、画像に対する解説はできませんが、このへんに長けた方がおられましたら、是非ご意見をお聞かせ頂きたいと存じます。
それでは肉眼では見られない神秘の世界へ.......どうぞ!!

<<パプキン拡大画像........画像ご提供:BAJA さん>>
NO.1 グリーンメタリックに薄く赤がのっている雌(薄く赤がのっている付近境目)x60
NO.2 グリーンメタリックに薄く赤がのっている雌(=NO.1)x200
NO.3 グリーンで前胸の一部がブルーの雄×60
NO.4 グリーンで前胸の一部がブルーの雄(=NO.3)×200
NO.5 金色(5円色)地に赤が全体的に薄くのる雄×60
NO.6 金色(5円色)地に赤が全体的に薄くのる雄(=NO.5)×200

3 代表的な遺伝現象....
1匹の雌から生まれ育てた子供達の体色が........何故か?
・「親雌とは違う体色になった。」
・「幾つかの体色に分かれた。」

という経験談を、パプキンを飼育していらっしゃる方々から聴くことがあります。 私自身はというと、パプキン飼育第1号は産卵してくれましたが、その後が悪く、子供を生ませてやることもできず☆にさせてしまうこと数回。色虫の飼育に長けていらっしゃる素晴らしいHPでご教授頂いたり、友人からこれなら生むよって産卵木を分けて頂いたりと、ご指導ご支援頂き、なんとか飼育が判りかけてきたばかりであり、第1号の子供達も羽化まではもう少しかかるかな?といった状況で、残念ながら経験がありません。
おっと話しを戻しまして.......。では何故、雌親と違う体色の子供が生まれることがあるのでしょう。
誰もが考える答えが「雄親の体色が雌親と違うから......。」ではないでしょうか。これはこれで、当たりだと思いますが、もう一歩踏み込んでみては如何でしょう。 幾つかの遺伝現象を理解することで、雌親と違う(或いは雄親とも違う)体色発現をすることに対する疑問が多少なんりとも解け、さらに、パプキンの体色発現を整理しながら飼育することで、パプキンの体色発現の規則性がやがて見えてくるかもしれません。
それでは、代表的な遺伝現象を幾つか紹介致しましょう。

3.1 Mendelの法則....
遺伝といえば先ずは、Mendelの法則ですね。これを正しく理解し基礎とすることで、他の遺伝現象もはじめて理解できるようになるかと思います。「なぁ〜んだMendelの法則なら知ってるよ!!」という方々も多いかと存じますが、まぁそう言わずにお付き合い頂ければ幸いです。私が感じているだけかもしれませんが、Mendelの法則を多少誤解して理解していらっしゃる方が幾分多いように思うからです。 また、誤解の無いように予めことわっておきますと、Mendelの法則に従わない遺伝現象も幾つかありますので、必ずMendelの法則に沿った結果が得られるということではありません

3.1.1 優劣の法則(.....雑種第1代(F1:first filial generation)、優性、劣性)

1対の形質をもつものを交配すると、雑種第1代(F1)では、その全てが両親のどちらか一方の形質を現し、他の親の形質は現われなくなります。このように、雑種第1代で現れる形質を「優性」といい、現れない形質を「劣性」といいます。雑種第1代(F1)では優性の形質のみ現われ、劣性の形質が現われない現象のことを「優劣の法則」といいます。
表3.1.1−1優劣の法則
  W(黒目) W(黒目)
w(ホワイトアイ) Ww(黒目) Ww(黒目)
w(ホワイトアイ) Ww(黒目) Ww(黒目)


あくまでも仮にですが幾つかの前提条件を設けて優劣の法則を説明しましょう。
(1)w:劣性ホモでホワイトアイを発現する遺伝子。
(2)W:普通(黒目)目を発現する遺伝子。
(3)Wはwに対して優性である。(一般に、優性形質を支配する遺伝子を大文字(ここではW)で表し、劣性形質を示す遺伝子を小文字(ここではw)で表します)
(4)交配した親の遺伝子型は、雄:WW(黒目),雌:ww(ホワイトアイ)。
と致しましょう。
それでは、表3.1.1−1をご覧下さい。この表は、優劣の法則をWWという遺伝子型を持った黒目の雄とwwという遺伝子型を持ったホワイトアイの雌を交配した雑種第1代の遺伝子型を表しています。1.2章「遺伝の仕組み」で書きましたように、体細胞では染色体が2本ずつペアで存在しており、減数分裂によりWWはWとWに(表中の上一行)、wwはwとw(表中の左一列)に分かれて生殖細胞に分配されます。つまり、卵細胞や精核では遺伝子がWやwのように1づつで存在しているわけです。この両親(黒目の雄×ホワイトアイの雌)の交配により生じる雑種第1代全ての遺伝子型は、Wwになることが表中よりご理解頂けるかと思います。
結果、雑種第1代(F1)では優性(W:黒目)の形質のみ現われ、劣性(w:ホワイトアイ)の形質は現われず、全て黒目(Ww)となります。これを「優劣の法則」といいます。また、Wとwの関係を対立遺伝子といいます。
3.1.2 分離の法則

上記3.1.1項を例にすると、雑種第1代(F1)の配偶子が形成されるときに、対立遺伝子であるWとwを持つものが1:1の分離比で生じることを、本当の意味での「分離の法則」といいます。
雑種第1代(Ww)で隠れていた劣性形質(=ホワイトアイ)が、雑種第1代どうしの交配により、雑種第2代(F2)で、3(優性形質=黒目):1(劣性の形質=ホワイトアイ)の比で分離し現れることを「分離の法則」と理解されている方が多いように思いますが、また、なかにはこれを分離の法則と定義している本もありますが、実はこの3:1の分離比は、分離の法則の結果をみているにすぎないわけです。

表3.1.2−1分離の法則
  W(黒目) w(ホワイトアイ)
W(黒目) WW(黒目) Ww(黒目)
w(ホワイトアイ) Ww(黒目) ww(ホワイトアイ)


WWという遺伝子型を持った黒目の雄とwwという遺伝子型を持ったホワイトアイの雌を交配した雑種第1代の遺伝子型は、全てWwとなりました(表3.1.1−1参照)。
左記の表は、この雑種第1代同士の交配結果であり、雑種第2代を表しています。 Wwの遺伝子型を持った両親の配偶子が形成されるとき、対立遺伝子であるWとwを持つものが1:1の分離比で生じることを「分離の法則」と先に述べましたが、ちょうど緑色の背景を持つ部分がそれにあたります(Ww−>Wとw=1:1に分離)。また、表中の水色の背景を持つ部分より、「分離の法則」の結果として、黒目に対して隠れていたホワイトアイの形質が、3:1の割合で再び出現することが理解できるかと思います。
3.1.3 独立の法則

2対以上の対立形質を示す遺伝子が、それぞれ独立して遺伝することを「独立の法則」といいます。遺伝子は染色体に座上しており、2対以上の遺伝子が、それぞれ別の染色体に座上していた場合、「優劣の法則」や「分離の法則」は、お互いまったく影響を受けることがなく、「独立の法則」が成りたつわけです。
言い換えれば、同一染色体上に2対以上の対立形質を示す遺伝子が存在していた場合、この2つの遺伝子は、染色体として行動を共にするわけですから、一緒になって遺伝することがご理解頂けるかと思います。勿論この場合は、「独立の法則」は成りたたないわけです。
パプキンの体色発現をパーツ化し、その組み合わせで遊ぼうとお考えの方もいらっしゃると思いますので、パネットスクエアを利用して、2対の対立遺伝子が「独立の法則に当てはまる例」と「独立の法則に当てはまらない例」を以下に示してみましょう。

表3.1.3−1独立の法則に当てはまる例
   
AA Aa BB Bb
Aa aa Bb bb


仮に同一染色体上に存在しない2つの対立遺伝子を定義します。
(1)a:劣性ホモで上翅を◎色に発現する遺伝子。
(2)A:上翅を○色に発現する遺伝子。Aはaに対して優性。
(3)b:劣性ホモで頭部を◎色に発現する遺伝子。
(4)B:頭部を○色に発現する遺伝子。Bはbに対して優性
(5)交配した親の遺伝子型は、雄:AABB(○○タイプ),雌:aabb(◎◎タイプ)
と致しましょう。
この両親の雑種第1代の遺伝子型は、全てAaBb(見かけ○○)となります。さらにこの雑種第1代同士を交配した雑種代2代の遺伝子型は、表3.1.3−1のように、 上翅と頭部の遺伝を独立して考え、その組合わせ(4×4=16)になるわけです。
このように2つの遺伝子型を別々に表現すると判りやすいと思いますが、普通これを、表3.1.3−2独立の法則に当てはまる例’の様に合せて表にします。
表3.1.3−2独立の法則に当てはまる例’
  AB Ab aB ab
AB AABB:○○ AABb:○○ AaBB:○○ AaBb:○○
Ab AABb:○○ AAbb:○◎ AaBb:○○ Aabb:○◎
aB AaBB:○○ AAbb:○◎ aaBB:◎○ aaBb:◎○
ab AaBb:○○ AaBb:○○ aaBb:◎○ aabb:◎◎
表3.1.3−3独立の法則に従わない例
(メンデルの法則番外編)
   AB ab
AB AABB:○○ AaBb:○○
ab AaBb:○○ aabb:◎◎


仮に同一染色体上に存在する2つの対立遺伝子を定義します。
その他条件は、上記(独立の法則に従う例)と同じとしましょう。
両親の雑種第1代の遺伝子型は、全てAaBb(見かけ○○)となり、さらにこの雑種第1代同士を交配した雑種代2代の遺伝子型は、表3.1.3−3のようになります。
ちょうど、表3.1.3−1の左(上翅)右(頭部)を重ねて考えて頂ければ分かりやすいと思います。

いかがでしょう。同一染色体上に遺伝子が座上しているか否かによって、独立の法則が成り立つか否か決まることがご理解できたかと思います。また、その結果として、親に無かったパターンの形質(◎○や○◎)が発現する可能性の有無もご理解できたかと思います。
貴方の羽化させたパプキン達を、頭部・上翅・脚部等、今一度パーツ化して観察されては如何でしょう。


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