パプキン雌上翅画像(走査型電子顕微鏡×100)
さて、遺伝基礎知識編ということで、基礎中の基礎を紹介してきました。あと少しだけ遺伝現象について話を進め、今回は締めくくろうと思いますが、いくら知識を身に付けたところで、解析すべきDataが残っていなければ意味がありません。ですので、このあたりにも触れて話しを進めてまいりましょう。
先に述べたように、パプキンの体色発現は、構造色よるものではないかと私は考ています。例えば薄膜干渉とするならば、ちょうどシャボン玉が大きく膨れるにつれて色が赤から青に変わるように(膜の厚さが変化するため)、様々なバリエーションの体色が得られると考えられます。しかし、その薄膜(膜の厚さ,膜の屈折率)を形成する遺伝子型は全く判っていないと言ってよいでしょう(※薄膜干渉と仮定した場合の話しです。)さらに言えば、体色発現は遺伝子型により一意に決定すると確定しているわけでもないのです。だからこそ目的を設定し、数々の交配を試すことによってDataを蓄積し、皆でこの謎解きをして遊んでみようではありませんか!!。

パプキンの体色発現を追いかけて遊ぼうと考える方は、ある程度の遺伝現象を知識として蓄える必要があると思いますが、先ずは難しい話しは後まわしにしても、交配時の考え方やその交配結果の扱い方については、確立されることをお勧めします。解析すべきDataさえ残しておけば、知識は後からでもついてきます。

4 交配と交配結果...考え方...扱い方...
Guppyで遊んでいた頃の経験をもとに、交配と交配結果の分析に関し、私なりの考え方を幾つかあげてみます。

@明確な目的を持った交配であること。
A雌は必ず処女雌を使用すること。
※雄親が明確であること(多数の雄と交配させないこと)。
B遺伝子型の固定を目的とするならば、交配に使用する雄雌の選定は同一兄弟中より行うこと。
※遺伝子型とその発現パターンの関係が解らない現在、新たな遺伝子を取り入れてしまう可能性は避けたほうが無難。可能であれば戻し交配(親雄×羽化した処女雌)が有効である。また、同じ目的(種親の選択基準)で、最低2世代(孫)迄は累代し羽化させ結果を考察すること。
C飼育可能ならできるだけ沢山の子供をとり羽化させること。
※1Prからの羽化数が多ければ多いほど、その解析Data(確立)の信頼性は向上する。
D両親が分かるよう管理(飼育・標本)すること。
E多様な形質の変異を全体として扱わないこと。パーツ化して対立形質に注目して分析すること。
F交配結果(雑種)は統計的に把握すること。
G遺伝子型を仮定して現象を分析してみること。

ざっとあげてみましたがいかがでしょう。「めんどくさいなぁー。」と考えられた方も多いかもしれませんが、遺伝の法則(遺伝子型)を追求するということは、沢山の時間と継続した努力が必要であり、好きじゃないと続かないかもしれません。
ですが、遺伝子型などに拘らず、赤系の強い個体にしたい。とか、青系の強い個体にしたい。等、自分の目標とする体色を決め、種親を選択・累代し続けて、その変化をみるだけでも面白いと思います。
実際のところ、私もこれらに視点をおいて先ずは交配を繰り返しDataを蓄積することからはじめようと考えています。そして、各種の体色発現の個体がどの程度固定できるのかを楽しみたいと思います。また、ある程度固定できるようであれば、これらを組合わせで交配するなども試してみたいと思います。

5.おまけ....遺伝現象....
5.1 伴性遺伝.....

性染色体上に位置する遺伝子の伝わりかたが、雄と雌とで異なってしまう特徴を示す遺伝現象を伴性遺伝と既に説明しましたが、ここではそれを、具体的に説明しましょう。
前ページにてホワイトアイ遺伝子を、劣性ホモで発現する遺伝子と仮定し、「優劣の法則」,「分離の法則」で使用しましたが、この際のホワイトアイ遺伝子は、常染色体上に位置している前提での説明でした。ですが、こんどはX染色体上に位置していると仮定して、伴性遺伝を説明してみようと思います。また、伴性遺伝の説明ですので、性型を特定する必要があるわけですが、ここではXY型と仮定して話しをすすめることにします。
ちなみに、ホワイトアイ遺伝子は、以下に説明する伴性遺伝のケースか或いは前ページに示したパターンのどちらかに当てはまると私は考えています。ですが、私はホワイトアイを所持しておりませんので勿論想像ではあります。ですが、難しい遺伝子型ではなでしょうから、もし両パターンに当てはまらなくとも、交配結果を考察すれば、誰にでも簡単に理解できる遺伝子型であると思います。また、固定もたやすいでしょう。ホワイトアイをお持ちの方がおりましたら、是非交配結果と各表を比較してみて下さい。また、こうのような結果になった等、公にして皆で楽しもうではありませんか。
表5.1−1 伴性遺伝(雌にホワイトアイを使用)
  Xw Xw
XwY(雄/ホワイトアイ) XwY(雄/ホワイトアイ)
XW XWXw(雌/黒目) XWXw(雌/黒目)


あくまでも仮にですが幾つかの前提条件を設けて伴性遺伝を説明しましょう。
(1)w:劣性ホモでホワイトアイを発現する遺伝子。
(2)W:普通(黒目)目を発現する遺伝子。
(3)Wはwに対して優性である。
(4)ホワイトアイ遺伝子は、X染色体上に座上している。Y染色体上の対立遺伝子は不活性である。
(5)交配した親の遺伝子型は、雄:XWY(黒目),雌:XwXw(ホワイトアイ)。
としましょう。
それでは、表5.1−1をご覧下さい。この表は、雌にホワイトアイを使用した時の、雑種第1代の遺伝子型を表しています。その結果として、雄は(Y染色体上のwの対立遺伝子が不活性のため)全てがホワイトアイに、雌は(Wがあるために)全てが黒目になることがわかるかと思います。伴性遺伝では、このようにその遺伝子が雌親にあるか雄親にあるかにより子供への遺伝子の伝わり方が異なり、また発現の仕方がその子供の性型によって異なるのです。

表5.1−2 伴性遺伝(雄にホワイトアイを使用)
  XW XW
XWY(雄/黒目) XWY(雄/黒目)
Xw XWXw(雌/黒目) XWXw(雌/黒目)


表5.1−2は、雄にホワイトアイを使用した時の、雑種第1代の遺伝子型を表しています。雌にホワイトアイを使用した場合に対して、雑種第1代ではホワイトアイは、雄雌共に発現しないことがお分かり頂けるかと思います。ここで重要なことは、表5.1−1と表5.1−2の雑種第1代の遺伝子型をwに注目して考えて欲しいことです。
雌がホワイトアイであった交配による雑種第1代はw遺伝子を雄も雌も持っています。ですが、雄がホワイトアイであった交配による雑種第1代は、雌はw遺伝子を持ちますが、雄は持たないということです。つまり、ホワイトアイの子供ということに価値を見出すならば、表5.1−2の交配による雑種第1代の雄はハズレ(wを持っていない)ということで、幾ら累代してもホワイトアイは出てこないわけです。だいたいご理解頂けたかと思いますが、パネットスクウェアを利用して、雑種第2代ではどういう遺伝子型の子供が、雄雌どのような割合で発生するか等、ご自分で落書きしてみると面白いかと思いますし、理解も深まると思います。

5.2 不完全優性

一対の対立形質(対立遺伝子)に優劣関係が存在せず、両親の中間的な発現をする場合、これを不完全優性といいます。

表5.2−1 不完全優性(雑種第1代)
  B(黒) B(黒)
b(白) Bb(グレー) Bb(グレー)
b(白) Bb(グレー) Bb(グレー)


仮にBBが黒、bbが白を発現するとします。この両親の雑種第1代は全てBbとなります。優劣の法則に従うのであれば、両親の黒か白のどちらか一方(優性形質の方)の発現になるわけですが、不完全優性の場合、中間的なグレーを発現します。

表5.2−2 不完全優性(雑種第2代)
  B(黒) b(白)
B(黒) BB(黒) Bb(グレー)
b(白) Bb(グレー) bb(白)


雑種第1代(グレー)同士の交配による雑種第2代の交配結果です。黒と白とグレーの分離比は、1:1:2となります。不完全優性によりその形質を発現している場合(この場合Bbのグレーを指しています)、幾ら両親にグレーを使用しても、その子供は100%グレーにはならないことが分かるかと思います。つまり、100%の固定はできない例といえます。しかし、すでに貴方は不完全優性を理解できたしょうから、100%グレーを出す術も、単に維持する術も身につけたことでしょう。



最後に.......

ちょっと力尽きて尻切れトンボになってしまった感がありますが、私のつたない落書きにお付き合い下さり、ありがとうございました。また機会があれば続編としてまとめてみようと思います。
パプキンは、赤でも緑でも金色でも、どれも綺麗で可愛い奴等です。これからも、クワ・カブを通じて知り合えた沢山の素晴らしい方々たちと同様に、この可愛い奴等ともずっと付き合って行きたいと思います。未だこの可愛い奴等とお付き合いが無い方がいらっしゃいましたら、是非飼育してみてはいかがでしょう。きっと楽しめると思いますよ。
それでは......みんなのクワ・カブ ライフに( ^)/□ ☆ □\(^ ) カンパーイ!!!


ご意見ご感想、情報交換等はお気軽にこちらまで:make@cherry.yyy.or.jp

(BACK) 秋号の目次へ