パプアキンイロクワガタの体色発現で遊ぼう (〜遺伝基礎知識編〜)

by make


Lamprima adolphinae(Irian Jaya Arfac Mt.)

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<<はじめに>>
パプアキンイロクワガタ(以下パプキン)を飼育している人であれば、あの体色発現に興味 を持たれている方は多いと思います。では、交配上のアプローチはどうでしょう。
お気 に入りの体色発現に最も近い個体を雄雌共に選別し、交配を繰り返す順当な人。或いは、異 なった体色発現の雄雌を交配するチャレンジャー。 何れにしても、親となる雄雌の体色発現を要素に取り入れた交配を行っていることと思います。
パプキンの体色発現が、飼育プロセスに影響を受けず、両親から受け継いだ遺伝 子により一意に決定するのであれば、少しだけ遺伝の知識を理解する ことで、きっとパプキン飼育の面白さは倍増することと思います。
貴方もパプアキンイロクワガタの体色発現で遊んでみませんか。
そう、遊びは真剣な程面白い!!


1 遺伝とは...
人間の親子や兄弟は何となく顔かたちが似ています。これは疑う余地の無い事 実ですね。では、何故似るのでしょうか?
それは親から子へ代々受け継がれてゆく遺伝子 によるものです。 分かり易い例としては一卵性双生児がそれで、1個の受精卵が発生の初期の 段階に何らかの理由により2個に分離し別々に発育したもので、その遺伝的組 成は全て同一です。このため容姿がそっくりなわけです。
遺伝は人間に限った現象ではありません。勿論パプアキンイロクワガタにも適 用されるわけです。

1.2 遺伝の仕組み....
生物の表現型は遺伝子により決定します。では、遺伝子が親から子へどの ようにして受け継がれてゆくのか、その仕組みを簡単に説明しておきまし ょう。
遺伝子は細胞核の中にある染色体の中に存 在しています。さらに この染色体は、体を作っている体細胞では2 本づつペアで存在(この1組のペアの関係を相同染 色体という)しています。体細胞に対し生殖細 胞が作られる時は、2本づつペアで存在していた染色体が 減数分裂により、それぞれ分かれて生殖細胞に 入ります。この生殖細胞が受精することにより、再びペアの染色体に戻り、新 しい命が芽生えることになるわけです。このようにして、親から子へ遺伝子は 代々受け継がれてゆきます。

1.3 染色体の分類....
染色体は2つに大別でき、一つは性を決定する もので性染色体といい、多くの生物では 雄と雌とで性染色体の組み合わせが異なります (人とGuppyでは、雄:XY型,雌:XX型。※異数体を除く)。 また、染色体の数や形は生物種により異なりますが、性染色体は複数の染色 体のうち1ペアの染色体です。他の残りの染色体全てを 常染色体といい、雄も雌も同じ染色体が同じ数だけ 存在します。

パプアキンイロクワガタの体色発現で遊ぶうえで、 体色発現に関する遺伝子が、性染色体に位置しているか、常染色体に位置している か、或いは両方に位置しているかは、体色発現で遊ぶうえで、とても重要なこと だと思います。この両者(性染色体と常染色体)をごっちゃ に考えてしまっては、正しく遺伝を理解することは出来ないでしょう。 といいましても、パプアキンイロクワガタの体色発現に関する遺伝子が、 何処に位置しているのか、また、雄雌の性染色体の組合わせも判りませんので(私 が知らないだけかも(^^;)、何時かこれらが整理される時までに、正しく理解して いれば、遊びの幅がグンと広がることと思います。
無論、体色発現に関する遺 伝子を追求しようという方は、これらを意識して交配する必要がありますと考えます。

1.4 常染色体の遊び方....
1.3章で書いたように、常染色体の特徴は雄も雌 も同じ染色体が同じ数だけ存在することです。ということは、パ プアキンイロクワガタの体色発現に関わる遺伝子が常染色体上(だけ)にあるとす れば(多分そうだと思いますが、最近疑問に思うことがチラホラ)、こんな遊びがで きることになります。

常染色体上の遺伝子は、雄−>雄,雄−>雌,逆に雌−>雌,雌−>雄へと、 性に関係なく遺伝します。つまり、 ブルーの雌がいれば、交配させた雄がブルーでなくても、インブリードを繰り 返すことにより、ブルーの雄を創ることが可能です。勿論、 ブルーの雄からブルーの雌を創ることも可能です。さらに単色では満足できないという 方は、体の各部をパーツ化し、理想の体色発現の個体創りにチャレンジするのも面白い でしょう。常染色体に位置する遺伝子は、雄からも雌からも遺伝子 を取り入れることが可能なため、大変好都合な遺伝子なわけです。
ですがそ の反面、きっちり固定するためには、雄雌共に遺伝子を揃えてやる必要がありますので、 大変な作業でもあるわけです(※1)。また、各パーツがバラバラに遺伝せず、ある単位 で揃って遺伝する可能性もあります(これは常染色体に限ったものではありません。後半 で詳しく説明します。)が、交配を繰り返す過程で、その傾向は判ってくる筈ですので、注意深く幾つかのパーツ毎に観察することをお勧めします。

※1:後程詳しく記述しますが、雄雌遺伝子を揃えることで、その子供が100%親と同じ体色発現をするかというと、必ずしもそうではありません(要は遺伝子の特性によると いうことです)。例えば複対立遺伝子である人間のABO式血液型がそれで、両親が共にAB型(IAIB)であったとしても、その子供は必ずしもAB型になる訳ではなく、A(IAIA)型或いはB(IBIB)型になる可能性もあるわけです(表1.4−1参照)。これを逆手にとった交配テクニックとして、目的がAB型(IAIB)ならば、A型(IAIA)とB型(IBIB)を親として交配し、100%AB型(IAIB)を得るという方法もあります(表1.4−2参照)。勿論遺伝子の特性を把握して、且つ、外部からその遺伝子を持った親を判別する術があって、初めて可能となる交配テクニックです。
表1.4−1血液型の遺伝1
   IA IB
IA IAIA(A型) IAIB(AB型)
IB IAIB(AB型) IBIB(B型)


左記の表は「パネット・スクエア」といい、両親の遺伝子型を分離、縦軸横軸にあてはめて、その交配結果を現すものです。

@両親の遺伝子型であるAB型【IAIB】を分離−>【IA】と【IB】。これを縦軸横軸にそれぞれ記入する。
A縦横交差する枠に決定する遺伝子型を記入する。
●両親の遺伝子型がAB型である時、その交配結果はA型,B型,AB型の3通りの遺伝子型であることが判る。

表1.4−2血液型の遺伝2
   IA IA
IB IAIB(AB型) IAIB(AB型)
IB IAIB(AB型) IAIB(AB型)


@A型【IAIA】を分離−>【IA】と【IA】。これを横軸に記入する。
AB型【IBIB】を分離−>【IB】と【IB】。これを縦軸に記入する。
A縦横交差する枠に決定する遺伝子型を記入する。
●両親の遺伝子型がAA型とBB型である時、その交配結果は全てAB型の遺伝子型であることが判る。
※【IO】に対して【IA】及び【IB】は優性であり、【IAIO】もA型、【IBIO】もB型です。表1.4−2の様に100%AB型を得るためには、【IAIA】と【IAI0】、【IBIB】と【IBIO】の違いを見極めて交配する必要があるわけです。ちなみに【I0I0】がO型です。

1.5 性染色体の遊び方....
真核生物の性(雄か雌か)の決定に、ある特定の染色体が関与 している場合、この染色体を性染色体といいます。
クワガタは、XO型(雌:2A+XX,雄:2A+XO),XY型(雌:2A+XX,雄:2A+XY)という2通りの見解があるようですが、 実際のところどちらが正しいのか、或いは ZW型(雌:2A+ZW,雄:2A+ZZ), ZO型(雌:2A+ZO,雄:2A+ZZ)等の別の性型なのか?私には確証がありませんので、遊び方については今回割愛させて頂き、この4つの性型について簡単に説明いたしましょう。

この4つの性型の考え方ですが、性染色体の基本型はX染色体で、これに対となる遺伝的に不活性な部分をもつY染色体が存在します。雄ヘテロ接合体の場合はXXが雌,XYが雄となり(XY型)、Y染色体を欠く場合にはYの代わりにOをあてがい、XXが雌,XOが雄となります(XO型)。逆に雌がヘテロ接合体の場合には、X染色体をZ染色体に,Y染色体をW染色体に置き換えて表現し、ZWが雌、ZZが雄となり(ZW型)、W染色体を欠く場合にはWの代わりにOをあてがい、ZOが雌,ZZが雄となります(ZO型)(表1.5−1参照)

表1.5−1性型の分類と特徴
   不活性な部分をもつY,W染色体有り 不活性な部分をもつY,W染色体欠如
雄ヘテロ接合体 XY型(雌:2A+XX,雄:2A+XY) XO型(雌:2A+XX,雄:2A+XO)
雌ヘテロ接合体 ZW型(雌:2A+ZW,雄:2A+ZZ) ZO型(雌:2A+ZO,雄:2A+ZZ)

ここで思い出して欲しいのが常染色体です。常染色体の特徴は雄も雌も同じ染色体が同じ数だけ存在することでしたが、上記表に示すように性型を決定する性染色体は、雄と雌とで染色体が異なっています。これがどういう事かと言うと、性染色体上に位置する遺伝子の伝わりかたが、雄と雌とで異なってしまうということで、このような特徴を示す遺伝現象を伴性遺伝といいます。
クワガタの性型はいったい何処に属するのでしょう(^^;。体色発現の遺伝子が性染色体にも絡んでくるようであれば、遺伝子型を仮定するうえでも、是非明確にしておきたいことがお分かり頂けるかと思います。
クワガタの性型を記載した文献などご存知の方がおりましたら、是非ご一報お願い致します。

【備考1】”2A”・・・常染色体を表しています。つまり、常染色体+性染色体で雌・雄を表現しているだけですので、ここでは気にする必要はありません。
【備考2】ヘテロ・・・対立遺伝子の異なるものが対を成している状態。逆に同じものが対を成している状態を”ホモ”といいます。上記は遺伝子ではなく、染色体を単位として使っています。


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