SVA東京市民ネットワークNEWS LETTER「里程標」第7号

海から繋がるASIA

「東南アジア青年の船」に参加して

滝沢直子

第3回

この連載もとうとう3回目を迎えることとなりました。一方で月日は確実に過ぎ、私が船に乗ってから早くも1年が経とうとしています。今年もまた、晴海埠頭から「にっぽんまる」が東南アジアに向けて出航する予定です。
 
さて、がんばって話を進めましょう。インドネシア・スラバヤに着いた私たちがまず思ったことは、「うぎゃ、むちゃくちゃ暑い」ということだった。船が新しい港に着くと、まずウェルカム・セレモニーが行われる。私たちは制服に身を包み、国ごとに分かれて順番に港へ下りていく。セレモニーの間は国ごとに整列して、偉い?人たちのお話を聞かなければならない。だけどこの日の温度は暑いというよーな生易しいものではなかった。(熱いと言った方が近い)灼熱の太陽の下で、アスファルトの地面がじゅうじゅうと音を立てて、パンプスの底が溶けていった(大げさですが決して嘘ではありません。ホントに溶けちゃった)。

 しかしホームステイの間に、暑さよりもずっと私を悩ませたものは大量のモスキート(蚊)であった。おいしいんだか珍しいんだか何故か私ばかりを襲うので、しばらくあのぷゆーんという羽音でノイローゼになりそうだった。とかなんとかいいながら、夜はしっかりと眠った。

 今回のホームステイメイトはインドネシア人のヌンキーだ。年は同じくらい、大学で経済を学ぶ、美人でお金持ちの女の子である。一方ホームステイ先の家族は、お父さん、お母さんと高校生の娘が一人、という構成の中流家庭であった。

 お父さん、お母さんは英語が分からないため、コミュニケーションはヌンキーか娘のシンタ(アメリカで語学研修を受けた経験があるため英語はバッチリ)を介して、という形であった。だけど言葉は通じなくても、二人がとても穏やかで温かいひとだということは、私にも十分に伝わってきた。「ホームステイの受け入れは初めてだから、どういう風に振る舞ったらいいのか良く分からない、あなたたちへのおみやげも何も用意していなくて…。」日本から持ってきたおみやげを渡そうとした私に、お父さんは申し訳なさそうにそう言った。そしてその代わりに、と私たちをおみやげやさんに連れていってくれた。

 シルバーのアクセサリーやバティックのワンピースをどきどきしながら眺めていると、お父さんが言う。「どれでも好きなものを選んでいいよ。」ええーでもそんなーいいのかなーいや、やっぱりそれは悪いよ。そう思って自分でお金を支払おうとすると、ヌンキーやシンタにも説得されて、結局払ってもらうことになってしまった。「お父さんはホントに買ってあげたいの。それでお父さんもあなたも嬉しいんだから、気にしないでいいのよ。」シンタの言葉とお父さんのやさしい笑顔に、私も何だか嬉しくなって甘えてしまった。

 2泊3日の滞在はとても短い。2日目の夜は、参加青年たちがホストファミリーや地元の方々を招待して野外パーティーが行われた。各国それぞれ工夫を凝らした歌や踊りを披露し、日本人青年たちも日本語の歌を合唱した。「大地讃頌」という、母なる大地を褒め称える内容の美しい曲である。ご存じの方もいるかもしれないが、高校生の音楽の授業などでやることもあるこの曲は、実はかなり難しい。私たちはこの日のために、船の中で何度も練習を重ねてきた。船の内外でのこういったパーティーのために、私たちは何種類ものパフォーマンスを用意しなければならず、全員が参加し練習を必要とするこの合唱は、皆にとってかなりの負担でもあった。

 インドネシアに着く直前の練習では、仕上がり具合は今一つで、それよりも皆の練習に対する意欲が失われていることが大きな問題となっていた。パフォーマンスの責任者にとっては(私もその一人だった)最もつらい時期だった。疲れている皆(もちろん私だって疲れていた)にどうやって歌うことの楽しさを思い出してもらうか、忙しい船内のスケジュールの合間を縫って、どうやって練習時間を確保するか、そして「何のために歌うのか」ということをどうやって皆に分かってもらうか。対等な仲間との関係の中で、責任者として皆を引っ張っていくことは、本当に大変なことである。

 そのような経緯があり、インドネシアでのこの曲の発表は一つの賭でもあった。失敗するかもしれない。でもこれ以上練習を続けることは、時間的にも雰囲気的にも難しい。そう判断した上での決定だったのだ。ステージに上がる前、落ちついて楽譜を読み返している人もいれば、他の国のパフォーマンスをゆっくり見たいと文句を言う人もいて、全体の雰囲気がまとまっていないことに私は不安を覚えた。「がんばって練習してきたんだから、自信を持って、誇りを持って、楽しく歌おうよ。皆に私たちの歌を聞いてもらおう。」そう言うのが精いっぱいだった…。
さて、そして私たちの歌は…残念ながらスペースの関係で今回はお話できません。どうか次回を楽しみ?に…。

(つづく)


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